ソードアート・オンライン〜青〜   作:月島 コウ

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メリ〜・クリスマ〜ス、です。

お久しぶりです。更新が遅くなり申し訳ございません。
それでまた暫く更新出来ないんですが、その話は後書きにでも。
先にもう一度言っておきますが、逃亡はしませんのでご安心を!

代わりと言ってはなんですが、今回は大分長くなっております。
逃亡しないという想いも込めて!(単に書いてたら長くなっただけです)
ですので、私からのささやかなクリスマスプレゼントとして、お楽しみ頂けたら幸いです。

では、どうぞ。


ビーター 8

ーーー二人を守るために戦う。

 

守る、と明確に口にした俺は、何だか心がとてもすっきりしていた。

収まるべきものが、収まるべきところに収まったような、そんな感じ。

だから結局、口に出したところで、俺のやることは初めから何も変わらない。

何故なら本当にただ、収まっただけなのだから。

 

背負いすぎるキリトの荷物を、少しでも減らしてやりたいと思った。

 

未来(さき)を諦めていたアスナに、希望を見せてやりたいと思った。

 

初めから何も変わらない。

ただ口に出して、明らかにしただけだ。

自分のすべきことを。

自分のしたいことを。

 

その為にもまずは、

 

「このボス戦、勝つぞ」

 

小さく口をついて出たその言葉に、両サイドからはっきりと肯定を示す頷きが返ってくる。

 

守るべき奴らだ。

守りたい奴らだ。

 

だけど今は、この凄腕の剣士達と共に戦えることが、何よりも心強い。

 

「それで、具体的には?」

 

鋭い視線をボスに向けながら、キリトが具体案を聞いてくる。

 

「そうだなーーー」

 

目の前には、唐突にリーダーを失い、右往左往するレイドメンバー。

このままでは、いつ次の犠牲者が出ても可笑しくはない。

だから、

 

「ーーーまずは、レイドの士気を取り戻す!!」

 

そう言うと同時、手に持っていた剣を力一杯に地面に突き刺した。

 

ギィィィィィン!

 

剣と石の床が激しくぶつかる音が部屋中に響き渡り、一瞬、空白の時間が訪れた。

そしてその隙を逃さず、

 

「全員、聞けーー!!」

 

一喝。

レイドメンバーの注目を集めることに成功する。

両手で耳を閉じているが間に合わなかったのか、両隣から不意打ちの大声に対し、咎めるような視線を感じるが、今は気にしていられない。

ここを逃せばもう二度とチャンスはない。

 

「俺は最期に、ディアベルからこの戦いを託された!」

 

嘘は言っていない。

ディアベルは確かにそう言った。

ただ、ここで言う託されたとは、

 

「俺がこのレイドの指揮を執る!」

 

こういう風に捉えられる。

隣で同じくディアベルの最期の瞬間に立ち会ったキリトが驚いた顔をしているが、無視して話を続ける。

 

「ディアベルは言った! ()()()()()と!」

 

その言葉に、レイドメンバーの顔つきが変わった。

勢いよく、俺は続ける。

 

「俺達は勝たなきゃならない! 勝利の報告を待っているみんなのためにも! そして何よりーーー」

 

一旦言葉を区切り、次の言葉を意識させ、そして、

 

「ーーーディアベルのために!」

 

ここに居る全員の心を、掴んだ。

 

「だからみんな、俺に力を貸してくれ!!」

 

ォォォオオオ!!!

 

心にこびり付いた恐怖を振るい落とすような雄叫びが、第一層ボス部屋を震わせた。

 

〜〜〜

 

「前衛部隊は一旦引いて回復! E隊は引き継ぎ取り巻きの相手! ボスの相手は、俺達が引き受ける!」

 

指示を出すと、先程までの慌てっぷりが嘘のように動き出すレイドメンバー。

それを見ながら、全員がちゃんと自分の指示を聞いてくれたことに安堵しつつ、もう一つの不安要素の確認をする。

 

「キリト、ボスの攻撃パターン、分かるか?」

 

キリトはそれに対し、ちらりと一度アスナを見てから、何かを振り払うように首を振って質問に答えた。

 

「……ああ、前に一度、()()()()()()()()

 

当然、この世界に現段階で、ボスと同じスキルを使う敵はいない。

つまりキリトは今、自分はベータテスターだと名乗ったようなものだ。

俺はともかく、アスナはそのことをまだ知らない。

キリトはそれを気にしていたようだが、当のアスナの反応は、

 

「……」

 

そんなことなど気にすることなく、早く続きを話せと目で訴えている。

それを見てからキリトは、顔に僅かな安堵を浮かばせながら続けた。

 

「あれは《刀スキル》だ。俺が相殺するから、ソウとアスナはその隙にダメージを与えてくれ。あと、囲むとさっきの範囲スキルが来るから注意してくれ」

 

「分かった」

 

「……分かった」

 

アスナは何か言いたげだったが結局言うことはせず、了承の意を示すだけだった。

そして三人で数メートル先のボスに向き合う。

もう既に前衛部隊は後方に下がっており、俺達が戦いの最前線だ。

 

「キリト」

 

集中を高めていたキリトに思わず声を掛けてしまった。

まだ何かあるのかと振り返るキリトに、多大な申し訳なさと、それ以上に信頼を乗せて一言告げる。

 

「悪い、任せる」

 

本当はキリトを矢面に立たせたくない。

出来ることなら自分がその役目をしたい。

でも出来ない。

俺はボスの使うスキルを知らない。

キリトは信頼している。

こいつならきっとやってくれる。

だが理屈ではなく感情が嫌なのだ。

つい先程守ると決心した相手を危険な目に遭わせるのが。

 

キリトが俺の言葉に、どれ程の思いを感じ取ったのかは分からない。

だがキリトははっきりと、

 

「ああ、任せろ」

 

そう言った。

 

「よし、じゃあ……行くぞ!」

 

俺のその言葉を皮切りに、キリトを先頭に俺達はたった三人でボスに立ち向かうのだった。

 

〜〜〜

 

最初の一撃は、キリトのソードスキルとボスの居合い系の技のぶつかり合いだった。

ボスが左の腰だめに野太刀を構えたかと思ったら、ぎらりと緑色に輝いた野太刀が不可視の速度で斬り払われていた。

見てからでは絶対に対処が間に合わない一閃。

しかしそれに対し、予め発動させていたキリトの《レイジスパイク》が真正面から迎え撃った。

結果は甲高い金属音と大量の火花、両者の二メートル近いノックバックだった。

一対一なら仕切り直しの場面。

しかしこちらには、あと二人残っている。

 

「……ッ! スイッチ!!」

 

「セアア!!」

 

無防備なコボルト王の右腹を、アスナの《リニアー》が深々と撃ち抜き、左腹を俺の《スラント》が深く切り裂く。

HPバーに目をやる。

キリトは無傷、コボルト王は数ドット減っていた。

削り切るにはあまりに僅かな、しかし確かな一撃。

気が遠くなる思いを押さえつけるため、俺とキリトは同時に叫んだ。

 

「「次!!」」

 

〜〜〜

 

十数度、同じことを繰り返した時、それは訪れた。

 

「……ッ! しまっ……!」

 

命の懸かった極限の集中状態。

一度のミスも許されず、高速で放たれるボスの攻撃に、それ相応の威力の乗った攻撃を当て続けなければならない状況。

その役割を一身に引き受けていたキリトの集中が遂に途切れた。

上段と読んだキリトの攻撃を嘲笑うように、コボルト王の刃は半円を描き真下に回った。

 

「あっ……!」

 

横でアスナが小さく叫ぶ。

このままではアスナが幻視した通り、コボルト王の刃はキリトの体を捉え、そのHPバーを大きく減らすことだろう。

 

そう、このままでは。

 

今日は調子が良かった。

それに加え、意志を固めたことで頭が更にクリアに、体はすっと軽くなっていた。

目の前ですでに数十度()繰り返された攻撃。

キリトが読み違えたことに、俺はキリトより先に気づいた。

気づいたと同時、体は勝手に動き出す。

攻撃が来る場所に、最速で、最高の一撃を放つ。

その為のラインが、俺にはもう()()()()()

その為の動きが、感覚で()()()

 

キィィィン!!

 

もう何度も聞いた、剣と剣とがぶつかる音。

しかし今回の音は誰の耳にもよく響いた。

そして目にした誰もが唖然とする。

 

スキルを無理矢理キャンセルし、動きの止まったキリト。

珍しく呆然と、追撃を入れることも忘れて立ち尽くすアスナ。

そしてノックバックしたボスに、その場で得物を降り抜いているソウ。

 

静寂が支配する空間でその言葉は明瞭に響いた。

 

「キリト、スイッチだ」

 

〜〜〜

 

それから何度か、キリトとソウの役割が入れ替わり、ソウが弾き、キリトとアスナが追撃するという形を取ったが、その安定感たるや。

 

危なげなく攻撃を相殺するソウ。

やってることはセンチネルの時と同じ。

相手の攻撃の威力が一番弱い時に、自分の攻撃の威力が一番強い時を持って来ているだけだ。

要はスキルの初動に対し、スキルのピークをぶつけることで、威力の差をカバーしているのだ。

勿論、口にするのは簡単でも失敗すれば空振りに終わり目も当てられない。

初めて相対するスキルに対しこんな事が出来るのは、ソウ本来の読みの良さに加えて、今日が飛び切り調子が良かったのが大きい。

 

そして追撃の二人。

誰よりも長い時間を掛け培った技術で、限界までスキルにブーストを掛け威力を上げた一撃を放つキリトに、その経験の差をセンスのみで埋め、同等の威力の《リニアー》を放つアスナ。

 

体力の回復した援軍が来るまでの間、全く危なげなくボスの攻撃を防ぎ、最上級のスキルを打ち続けた三人は、その場に居た多くの者の目を奪った。

 

〜〜〜

 

回復組が復活し、更に戦線は安定感を増した。

攻撃が分かる俺がタンク部隊の先頭で指示を出し、危ない橋は渡らず、確実に盾や大型の武器でボスの攻撃を防ぎ、その間に、キリトとアスナを中心とした攻撃部隊が着実にダメージを与えていく。

 

そして遂に、ボスのHPが三割を切り、バーの色を赤く染めた。

 

しかしそれが、僅かな気の緩みを呼んだのか、タンク部隊の一人が脚をふらつかせた。

ふらついた先は、ボスの真後ろ。

 

「早く動け!」

 

咄嗟に飛び出したキリトの叫び声は、しかし数秒遅かった。

囲まれた、と認識したボスがスキルを放とうと予備動作に入る。

ぐっ、とその巨体を沈め、そして全身のバネを使って高く垂直に跳躍した。

そしてその軌道上で、野太刀と体をゼンマイのように捻っていく。

 

ーーー範囲攻撃。

 

ボスと戦闘する前、キリトから注意されていた攻撃だ。

俺は、()()()()()その動作に対して、咄嗟に反応出来なかった。

しかし、頭の中であれはまずいと警鐘が鳴り響いている。

気づけば俺は、あるスキルの初動モーションを取っていた。

 

片手剣突進技、《ソニックリープ》。

 

キリトが好んで使う《レイジスパイク》より射的は短いが、この技には《レイジスパイク》にはないメリットがある。

剣を右肩に担ぐように構え、左足で思い切り床を蹴る。

そして俺の体は、弾丸のように空中に打ち出された。

《ソニックリープ》のメリット、それは、軌道を上空にも向けられることだ。

右手の剣は、鮮やかな黄緑色の光に包まれ、ジャンプの頂点に達したコボルト王の刀は、深紅の輝きを生もうとしている。

 

「うおおおおぉ!!」

 

叫びながら、必死で腕を伸ばし、剣を振るう。

すると剣は、空中に線を引きながら、吸い寄せられるようにスキル発動直前のコボルト王の左腰を捉え、そしていつも以上に派手なエフェクトをまき散らした。

 

クリティカル判定。

 

キリトが武器を、耐久の他に鋭さを強化していたのに対し、俺は耐久の他に正確さを強化していた。

これはクリティカル確率を上げるものらしいのだが、正直本当に上がっているのかよく分からないから辞めておけとキリトには止められたのだ。

実際、俺も体験するのはこれが初めてだ。

しかし、武器が吸い寄せられる感覚と、いつもより二割増ぐらいのエフェクト、何よりこの場面で出てくれたことに、どうしようもなく運命めいたものを感じた。

 

文字通り、俺の渾身の一撃を受けたコボルト王は、空中でその巨体をぐらりと崩し、そしてそのまま床へと叩きつけられた。

 

「ぐるぅっ!」

 

喚きながら、立ち上がろうと手足をばたつかせる。

 

ーーー人型モンスター特有のバッドステータス、《転倒》状態。

 

そう認識すると同時、俺は着地も早々に力一杯に叫んだ。

 

「全員、全力攻撃(フルアタック)!!」

 

「囲んでいい!!」

 

続いてキリトが囲みを許可する。

 

「おおぉぉぉ!!」

 

全員が、今までの鬱憤を晴らすように、各々の最高威力の攻撃を叩き込む。

これは賭けだ。

キリトは賭けに出た。

このまま削り切れば俺達の勝ち。

そうでなければまたあの範囲攻撃が来て、今度こそ俺達レイドは壊滅するだろう。

 

「……ちっ! 足りないか!」

 

一度目の技後硬直解け、次のスキルの予備動作に入った戦士達の中心で、もがくのを止め、立ち上がろうと上体を起こすコボルトの王。

俺はいつの間にか近くに来ていたキリトとアスナに声を掛けた。

 

「キリト、アスナ、最後、一緒に頼む!!」

 

「「了解!!」」

 

迷いなく返ってきた答えに思わず口角が僅かに上がる。

二度目のスキルをも、残りHPが僅かながらにも耐え切ったボスが、反撃せんと雄叫びと共に完全に体を起こす。

 

「行っ……けぇッ!!」

 

技後硬直で動けない人の間を抜け、まずはアスナが突っ込んだ。

しかしコボルト王もまた、自らを害する者を退けようと、上体だけを使ったスキルにもならない攻撃を繰り出す。

アスナは危なげなくそれを躱すが、しかし僅かに、着ていた赤い外套を野太刀が掠めた。

 

長くを共にし、既に限界に近かった耐久値がついにゼロになり、ガラス片を散らしながらその下に隠されていたものを今、解き放つ。

 

その瞬間、左右の壁に掛かる無数の松明の光が一点に凝縮したような錯覚に陥った。

後ろになびく長い栗色の髪は艶やかに輝き、飛び散ったガラス片が幻想的な光景を創り出す。

その中心で攻勢に出るため、踊るようにステップを踏む姿はまるで妖精のようだ。

その場にいた全員がその一瞬、見惚れ、息を飲んだ。

しかしアスナはそんな事などお構いなしに、その決意の篭った鋭い瞳に敵の姿のみを捉え、渾身の、あの流星を思わせるような《リニアー》を放った。

 

「「はああああッ!!」」

 

そしてその攻撃によって仰け反ったコボルト王を、左右から俺とキリトの剣が肩口から腹まで斬り裂く。

 

HPゲージ……残り一ドット。

 

王が、にやりと、嗤った気がした。

それに対し、俺とキリトもまた、獰猛に笑う。

 

と同時、素早く手首を返し、剣を跳ね上げさせる。

 

「「おおおおおッ!!」」

 

先の斬撃と合わせ、両肩からVの字を描き胸の中心から抜けた二つの斬撃は、併せてコボルト王の体にWを刻んだ。

 

片手剣二連撃技、《バーチカル・アーク》。

 

不意に、コボルト王の体が力を失い後方へとよろめく。

そしてついに、天井へ向け細く吠えたのを最期に、第一層フロアボス、《イルファング・ザ・コボルトロード》は、その体を大量の硝子片に変え、四散させた。

その光景に圧倒されていた俺の目の前には、【Congratulations】の文字が無機質に浮かんでいた。

 

〜〜〜

 

誰もが呆然と、まるでボスの消滅を疑うような静寂の中、コツコツと小気味よい音を立てながらこちらに歩いて来る者があった。

未だ最後の剣技の姿勢のままでいた俺とキリトのすぐ側で止まったその音の主、アスナは、疲れを一切感じさせない美しさを湛えたまま、大きくはなかったがはっきりと、全員の耳に届く声で一言、

 

「お疲れ様」

 

と、何の含みもなくそう言った。

それと同時、目の前に今回の戦いの報酬を示すウインドウが現れる。

そしてその意味を理解するために使われた数瞬後、わぁっ!! と、アスナの後ろから歓声が湧き上がり、そこでようやく実感を持てた俺とキリトは、上げていた手を下ろし、お互いに疲れがありありと表れた顔を見合わせ、笑い合うのだった。

 

そんな中、騒ぎの中からこちらに歩いてくる人物がいた。

がたいのいい、チョコレート色の肌とスキンヘッドが特徴な両手斧使い、エギルさんだ。

 

「……見事な指揮、そして見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたらのものだ」

 

見た目を裏切らない、素晴らしい発音で横文字を言い切って見せたエギルさんは、口元にニッと太い笑みを浮かべながら大きな右拳を突き出して来た。

それに応えて右拳合わせた俺、そしてキリトも同様にしようとした、その時。

 

「ーーーなんで()()!」

 

突然、そんな叫び声が後方から聞こえて来た。

悲痛な、叫び声だった。

目を向けると一人の男が俺達を、いや、キリトを睨めつけていた。

 

「ーーーなんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

 

そのすぐ後ろ、同じパーティーメンバーと思われる者達もやはり同じように、中には涙さえ見せながら、キリトを睨めつけている。

彼らはディアベルと同じC隊、ボス攻略の前からディアベルとパーティーを組んでいた者達だ。

そんな彼らに対し、キリトは殆ど反射的に問い返した。

 

「見殺し……?」

 

意味が解らないと、その掠れた声が物語っていた。

 

「そうだろ!! だって……だってアンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!! アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

 

その言葉にようやく、俺も彼らの言葉に合点がいく。

そしてそれが、あまりにも残酷な勘違いだということにも。

 

しかし俺と違い、事情を知らない周りは徐々にざわめき始める。

誰もが疑問を持ち、そして当然のように、誰もがあるひとつの推測を立てる。

 

ーーーキリトは元ベータテスターではないのか、と。

 

更にこの中には、その疑問を肯定出来る人物が俺とアスナの他にもう一人、いる。

 

「オレ、オレ知ってる!! こいつは、元ベータテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!! 知ってて隠してるんだ!!」

 

だが俺の予想に反し、声を上げたのは頭に思い浮かべた人物ではなく、その人物と同じE隊の別の人物だった。

 

ーーー誰だ、こいつは?

 

恐らくその場で、俺だけが抱いた疑問。

誰もが予想は出来る。

最初に、ディアベルがやられた時に、咄嗟にディアベルに指示を出したのはキリトだった。

だが確信は持てない、はずだ、彼以外。

現にそれを裏付けるように、C隊の面々を含めたレイドメンバーに驚きはないが、最初に声を上げたC隊の男はその目に浮かぶ憎しみを更に強固なものにした。

そんな中、今この場で確信のない()()を言って何になる。

 

分からない。

分からないが、キリトにとって状況が良くないのは火を見るより明らかだ。

エギルさんと同じタンク部隊だった人が擁護してくれているが、遂にはアルゴの攻略本さえも信用ならないと言い始めた。

 

まずい。

ここで、今最も力のある俺達が、元ベータテスターは受け入れないと結論づければ、それは両者の決定的な溝となる。

最悪、魔女狩りが行われるかもしれない。

それに遂に耐えかねたアスナとエギルさんが口を挟もうとするが、それを僅かな動きでキリトが止めた。

そのキリトの表情はふてぶてしく、しかしこの場で一番付き合いの長い俺には、あの時(クラインの時)と同じ、全てを一人で背負い込み、それを耐えるのにただただ必死な顔に見えた。

それはまた一つ決意をした、一人の男の顔だった。

 

「元ベータテスターだって? ……俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

「な……なんだと……?」

 

「いいか、よく思い出せよ。SAOのCBT(クローズドベータテスト)はとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。受かった千人のうち、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う。ほとんどはレベリングのやりかたも知らない初心者(ニュービー)だったよ。今のあんたらのほうがまだしもマシさ」

 

場に再び、肌を刺すような沈黙が訪れる。

キリトは続ける。

 

「ーーーでも、俺はあんな奴らとは違う」

 

キリトは、続ける。

 

「俺はベータテスト中に、他の誰も到達出来なかった層まで登った。ボスのカタナスキルを知ってたのは、ずっと上の層でカタナを使うMobと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ、アルゴなんか問題にならないくらいな」

 

「……なんだよ、それ……」

 

例のE隊の男が、掠れた声で言った。

 

「そんなの……ベータテスターどころじゃねえじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」

 

その言葉は再び周囲にざわめきを取り戻し、そして《ビーター》という奇妙な響きの単語を生み出した。

それを拾ったキリトは、続ける。

 

「……《ビーター》、いい呼び方だなそれ」

 

続ける。

 

「そうだ、俺は《ビーター》だ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」

 

キリトはC隊、E隊の男から視線を外し、メニューウインドウを操作した。

するとキリトの服装が、くたびれたダークグレーの革コートから、全てを包み隠そうとする艶のある漆黒のロングコートに変わる。

そして長いコートの裾をばさりと翻し、ボス部屋の奥の小さな扉へと向き直った。

 

そして、続けた。

 

「二層の転移門は、俺が有効化(アクティベート)しといてやる。この上の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のMobに殺される覚悟しとけよ」

 

歩きだそうとしたキリトは最後に俺を見て、()()()申し訳なさそうな笑みを浮かべ、第二層へと繋がっているであろう扉を押し開け、その向こうへと消えていった。

 

〜〜〜

 

キリトが扉の向こうへ消えた後、ボス部屋には再び静寂が訪れた。

しかしそれとは別に、キリトが話していた最中、俺はずっと視線を感じていた。

すぐ近く、というか隣から。

キリトが行ったことをきっかけに、俺は少し下から感じるその視線の主に目を向ける。

 

「それで……なんでしょうか、アスナさん」

 

あろうことか、あのキリトの大袈裟な迫真の演技そっちのけで、俺を見ていたアスナさん。

何だかキリトが不憫だった。

 

「お前ちゃんと見てやれよな。キリト、あんなに頑張ってたのに」

 

僅かながらのフォローのつもりで言った一言。

しかしそれは、意外な形で返された。

 

「見てたわ。……でもそれ以上に、隣でそんな顔をしてる人がいたら、見ないわけにはいかないでしょ」

 

俺は咄嗟に誤魔化せず、言葉に詰まった。

しかしそんな俺などお構いなしに、アスナは続ける。

 

「それ」

 

そう言って、その白く細い長い指で、俺が体の横に垂らしている手を指差す。

 

「そんなに強く握って、痛くないの?」

 

その指先にあったのは、何かを耐えるように、傍から見ても分かるほど強く握られた拳だった。

無意識の内に握っていた拳を見て、自分の表情に意識を向ける。

いつの間にか歯を強く噛み締めていて、話すために突然口を開いたために生まれた違和感に今気づいた。

きっと俺は今、というかずっと、酷い表情(かお)をしていたのだろう。

最後にキリトが、申し訳なさそうな顔をしたのも、きっとそれが原因に違いない。

 

ーーーはぁ、情けないない。本当に情けない。

 

彼らを守ると口にしながら、実際はこっちが気を使われる始末だ。

本当に、本っ当に! 情けない!!

……だがまあ、せっかく気づかせて貰えたのだから、気持ちを入れ替えよう。

 

「すぅ、はぁー」

 

一つ、深呼吸をして全身から力を抜く。

そして顔の横で開いた両の手をぶらぶらさせ、アスナに降参の意を示す。

 

「降参、降参。……だけど、もう大丈夫だ」

 

今度こそアスナにきっちり向き合い話をする。

改めて見るその顔は、やはりとても美しかった。

 

「そう。私は彼を追うけど、あなたは?」

 

「いや、俺はいいや。まだやる事があるから」

 

俺の返答を聞いたアスナは、そう、と言って、さっさとキリトの後を追おうとする。

 

「あ、やっぱちょっと待って」

 

それを寸手のところで呼び止めた俺に、アスナは顔で続きを促してくる。

 

「キリトに伝言。『第二層を案内させてやるから待っとけ』って伝えてくれる?」

 

それに対し、僅かな間を空けてくすりと笑うアスナ。

 

「いいわ、伝えてあげます」

 

「じゃあ俺もいいか」

 

そう言ったのは、最後までキリトの味方で居てくれたエギルさんだ。

 

「『二層のボス攻略も一緒にやろう』と伝えてくれ」

 

「分かりました」

 

アスナがきちんとエギルさんに向き直り了承する。

それで終わりかと思いきや、少し遠くから声が聞こえてきた。

 

「……『今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す』」

 

特徴的な関西弁。

それは、結局さっきは一度も口を開くことがなかった、この中で唯一、俺たち以外にキリトが元ベータテスターだと確信を持っている人物、キバオウだった。

そして暫くして、それがキリトへの伝言だと気づいた。

あまりにも唐突だったそれを、しかしアスナは、その優秀な頭できっちり一回で覚えたらしく、聞き返すこともなく一言、「承りました」と言った。

 

「……それじゃあ、行くね」

 

他に誰か伝言がないか少し待ったアスナだったが、暫くして俺に向き直り言った。

そしてそのまま半回転し、キリトが潜った扉の方へと歩いて行く。

 

「あ、そうだ」

 

扉を潜る寸前、そこで一度止まったアスナは思い出したように呟き、振り返ってもう一度俺の方を向いて言った。

 

「あなた戦闘中、今もだけど、私の名前読んだでしょ。どこで知ったか()で教えなさい。それとーーー」

 

そこで一瞬間を空け、それからアスナは続けた。

 

「ーーーあなたの名前も」

 

思わず見惚れるような、素敵な笑顔と一緒に。

それに対し俺は、どうでもいいと顔を逸らしながら、手をしっしっと振ることでアスナにはよ行けと促す。

きっと今もまた、別の意味で見せられないような顔をしてるだろうから。

そして俺の反応を見たアスナが扉を潜ったのを横目で確認してから、誰にでもなく独り言ちる。

 

「お前のその優秀な頭脳なら、どうせ俺とキリトのやり取りを聞いて知ってるでしょうが……」

 

〜〜〜

 

「……さてと」

 

二層へと続く階段を登るアスナの足音が完全に聞こえなくなったところで、俺は気持ちを完全に切り替える。

 

キリトは、最後までしっかり戦い抜いた。

もしかしたらあそこでキリトを止めることも出来たかもしれない。

いや、やろうと思えばきっと出来ただろう。

しかしそれは、キリトの決意にを無駄にすることになる。

何より俺は、それをしたくなかった。

だから俺はあの時、見守ることを選んだんだ。

そしてこれからすることは、もしかしたら結局、キリトの決意を無駄にすることになるかもしれない。

だがあれがキリトの決意で、キリトの戦いであったように。

これは俺の決意で、俺の戦いだ。

まあだから結局何が言いたいかと言うと、俺は止めなかったんだからお前も止めるなよ、ということである。

 

俺は誰にでもなく、それでいてこの場の全員に対して提案をする。

 

「ではレイドメンバーの皆さん、お疲れのところ申し訳ないのですが、少し()()をしましょうか」

 

無論拒否など許さない。

ここからは、俺の戦いだ。

 

〜〜〜

 

俺の呼びかけに、きちんとレイドメンバー全員が反応した。

俺とアスナのやり取りを見て一部弛緩した空気が流れている所もあるが、やはり未だ、C隊のメンバーの表情は優れず、その間に流れる空気は重い。

当然だろうと、そう思う。

それを確認してから、俺は話し始める。

それがたとえ、今彼らが必死に抑えているものを、爆発させると解っていても。

 

「話というのは私のパーティーメンバー、キリトについてです」

 

それを聞いて、一部で弛緩していた空気が再び張り詰めた。

そしてC隊の面々は、先程までじゃないにせよ、十分に憎しみの籠った目を俺に向けている。

今ならまだ間に合うと、引き返したくなる気持ちを何とか抑え、そして俺は、決定的な一言を告げる。

 

「先に断っておきます。ディアベルさんの死について、キリトには一切の責任もありません」

 

「ふざけるな!!」

 

言った瞬間、先程も最初に声を発したC隊の男が真っ先に声を上げた。

 

「あいつがちゃんと、最初から情報を開示しなかったから! だからディアベルさんは……!」

 

そう言った彼の顔は悲痛そうで、十分に周りの同情を誘うものだった。

もう触れてくれるなと、その顔が物語っていた。

しかしだからといって、俺にも譲れない理由がある。

だから、引かない。

 

「……さっき本人も言っていたように、最後にボスが使っていたカタナスキルはもっと上層、そこのMobが使っていたものです。ベータテスト時代、第一層のボスが持ち替える武器は曲刀だった。カタナじゃない」

 

「どうしてそんなことが分かるんだよ!! そうか! お前も元ベータテスターなんだろ! だから同じ元テスターのアイツのことを庇ってるんだ!!」

 

俺は淡々と話し続ける。

 

「私はベータテスターではありませんし、キリトとはサービス開始時からの、もちろんベータテストではない本サービスからの仲です。仲間を庇うのは当然です」

 

「じゃあなんで、ボスの情報がベータテストの時と違ってたって言い切れるんだよ!!」

 

事実だけを述べる。

 

「私も聞いていなかったからです。事前ミーティングで、キリトから。第一層のボスが、カタナスキルを使うなどと」

 

「それは……そうだ! お前もアイツに騙されてたんだ! アイツは確実に自分がLA(ラストアタックボーナス)を獲るために、お前のことも騙してたんだ!」

 

その言葉に思わず俺は押し黙る。

確かに、その可能性はある。

俺は微塵も疑っていないが、しかしそれを否定しきれる材料を俺は持っていない。

だから思ったことをそのまま口にする。

 

「……最も信頼してる人から騙される。その意味、分かってて言ってますか?」

 

「……っ!!」

 

俺にとってキリトがそうであるように、彼にとってはディアベルがそうなのだろう。

だから彼は、絶対に今の俺の言葉を否定しない。

 

「俺はキリトを信用しているし、信頼もしている。第一もしキリトが、本当にアンタの言うように利己的なヤツだとしたら、どうしてアイツは、自分の命張ってまで、最後まで前で戦い続けたんだ!!」

 

思わず口を衝いて出た感情的な言葉に驚きながら、逆にそれで冷静になり話を続ける。

 

「別に俺は、ディアベルさんの死を悼んでないわけじゃないんです。あの人は本当に最期まで、立派な騎士でした」

 

心からの言葉を、目の前の男に伝える。

 

「でもだからといって、俺の仲間が、必死に戦ったアイツが、不当な扱いを受けるのを許容できるわけがない! 俺と同じか、それ以上に! 仲間を想っているアンタなら分かるんじゃないのか? ディアベルのためにそんなにも泣ける、アンタなら!!」

 

仲間を想い、その死に黙って涙する、目の前の男に。

 

「だ、騙されるな!!」

 

やっと、動いたか。

そこで焦ったように声を荒らげたのはこの一件の元凶、例のE隊の男だった。

ヤツの一言から始まったこの諍いによって何を得るのかは知らないが、()に容赦するほど、俺はお人好しではない。

 

「そ、ソイツはボスの攻撃を見切ってた! やっぱりソイツも元ベータテスターで……」

 

「黙れよ、お前」

 

さっきまでとは打って変わり、口調も、態度も荒々しく、一切相手を思いやらない言い方に周りが静まる。

 

「お前はキリトが、元ベータテスターだと言っていたな」

 

「そ、それがどうした!」

 

一瞬怯んだような男だったが、すぐに勢いを取り戻し俺の言葉に同意する。

だが、それに同意するのは悪手でしかない。

 

「元テスターでないはずのお前が、どうしてそれを知っていた?」

 

「っ! そ、それは……そうだ! アイツがボスの攻撃パターンを……」

 

「それはこの戦いの中で分かった事だ。確かお前は言っていたな『知っている』と。それはボス戦が始まる前から『知っていた』ということなんじゃないのか?」

 

勢い余って言い募った根拠に対し、俺は予め予測して用意していた回答をぶつけることで、それを潰す。

これであの男の心象、発言は、他のメンバーの中で随分と不確かなものになったはずだ。

 

「ち、違う! 人から、人から聞いたんだ!」

 

「ほう、誰から」

 

必死に失言を取り戻そうと言葉を続けるが、もうほぼ詰みだ。

何を言われようと最早譲る気のない俺は、しかしだからこそ最大限の警戒を払いながら次の言葉を待った。

 

「情報屋だ! 《鼠》から大量のコルと引き換えに買ったんだ!」

 

意外にもしっかりしていたその発言を受けた俺は、しかし動揺することはなく、ちらっとだけキバオウに目を向けた。

ここで俺が一言、「《鼠》はベータテスターの情報は売らない」と言って否定するのは簡単だ。

だがそれは、キバオウが信じるディアベルを裏切ることになる。

そしてそんな事は誰も望んでいない。

俺も、それからキリトも。

だが、あくまで優先順位はキリトが上だ。

だから俺は、他に方法がなければ、なんの迷いもなくそれに手を伸ばす。

これ以上口を噤んだままでは状況を悪くする。

そう思い、残酷にも、しかしなんの躊躇いもなく、頭に浮かんだ言葉を口にしようとした、その時。

 

「それについては、オレっち自身から否定させて貰うゾ」

 

その声は後方、一番ボス部屋の入り口に近かったレイドメンバーの更に後ろから聞こえてきた。

 

「オレっちは、()()()にそんな情報売ってないヨ」

 

正に今、話題の中心にいた人物。

頬についた三本のペイント線が特徴的な情報屋、《鼠》のアルゴがそこにはいた。

更に知ってか知らずか、その台詞は、他に情報を買った者がいる可能性を残していた。

 

「嘘だ! 嘘をついてるんだ! こいつもグルで、我が身大事さに嘘を……」

 

「いい加減にしろよ、お前」

 

アルゴの登場に驚きはしたものの、せっかくアルゴが作ってくれたこの好機、逃す訳にはいかない。

 

「アルゴは情報屋だ。死んでも嘘の情報だけは口にしない。我が身大事さだと? 笑わせるなよ。情報(ボス戦の結果)欲しさにこんな所まで単身で乗り込むヤツのどこに、そんな要素があるんだ!」

 

ボス戦の結果を知るために、例えそれが望んだものではなかったとしても、それ(全滅)を街で待つ者達に伝えるために、アルゴはわざわざ危険を犯してこんな所まで来たのだろう。

それはきっと、アルゴなりの責任の取り方だ。

キリトが戦うことを選んだように。

ディアベルが嘘をついて騙して、その罪悪感を背負ってまでリーダーであることを選んだように。

アルゴはどこまでも情報を得て、伝えることを選んだんだ。

 

「くっ……!」

 

遂に沈黙したE隊の男から視線を外し、レイド全体に目を向ける。

もうすでに、場の空気は完全に俺のモノだ。

さっきとは違い、今回は周りを味方に付けることが重要だった。

さっきは、周りの気持ちが相手寄りだったこともあり、本人をどうにかする事が重要だった。

だが今回は、周りはどちらの味方でもなかった。

つまり勝者を決めるのもまた、周りだったのだ。

そしてその二つを何とか乗り越えた俺は、ようやく、自分の伝えたいことを口にする。

 

「別に許してくれとは言わない、元ベータテスター達が旨みを得ていたのも事実だ。それでもーーー」

 

そこで俺は全員に向けて深く、頭を下げた。

彼ら(ベータテスター)に代わり、少しでも、この想いが伝わることを祈って。

 

「ーーーアイツを、元テスター達を、どうか受け入れてやって下さい。彼らも、一杯一杯だったんだ……」

 

キリトの苦悩を傍で見てきたから。

アルゴが走り回っていたのを知っていたから。

ディアベルの覚悟を感じたから。

そんな俺だから言える、彼らの本心。

情報がなんだ、ベータテストの時とは違うじゃないか。

経験がなんだ、死の恐怖なんてみんな同じだ。

それでも、自分達が少し()にいるのは事実だから。

それが、狡いとも思うから。

だから、精一杯やってきたんだ。

 

「わいは」

 

そこで今まで一度も、さっきキリトが話していた時にさえ口を挟まなかった男、キバオウが、その口を開いた。

 

「わいは、さっきも言うたように、やっぱりアイツのことは認められん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す」

 

せやけど、とキバオウは続ける。

 

「互いにクリア目指す内は、戦力や思おてる」

 

認めたないけどな、と最後に愚痴りながら。

戦力ーーーつまり、一緒に戦ってもいいと言ってくれた。

他ならぬ、あのキバオウが。

正直、キバオウはあのC隊の男と同じ考えだと思っていた。

ディアベルのことを心底尊敬していた、キバオウは。

 

「そもそも」

 

と、キバオウは幾分か口調を軽くして続けた。

 

「わいは、アンタのことも気に食わんのや。色んなことを見透かしよってからに。それでも、一緒に戦わなあかんねんやったら、仕方ないやろが」

 

「ありがとう……ございます」

 

ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまうキバオウ。

……全く、男のツンデレなんて誰に需要があるのやら。

何だかキバオウに全部持っていかれた気がするが、まあそれもいいだろう。

 

「アンタも、それでどないや」

 

そう言った先は、さっきから黙りっぱなしだったC隊の男だ。

もう涙は止まっていて、憑き物が落ちたような、幾分かすっきりした顔をしている。

 

「……ソウさん、でしたよね」

 

「はい」

 

体を向けて背筋を伸ばし、真正面から彼の言葉に耳を傾ける。

 

「ディアベルは、最期に何か言っていましたか?」

 

「……後は頼んだ、と」

 

「!!」

 

最後まで聞いたわけではない。

でも、きっとこれで良かったんだと思う。

彼は俺の言葉、いや、ディアベルの言葉を、しっかりと自分の中で噛み砕いているようだった。

 

「そうですか……分かりました。ありがとうございます。まだ吹っ切れたわけでも、割り切れたわけでもありませんが……」

 

それに対し、俺は首を振ることで応じる。

 

「構いません。こちらこそ、切り捨てないでくれてありがとうございました」

 

それから俺は、また全員の方へ体を向ける。

 

「皆さんも。話を聞いて下さり、本当にありがとうございました」

 

そう言って、俺が心の底から頭を下げる中、その音は聞こえてきた。

 

ぱちぱちぱち。

 

突然背後で鳴ったその音に、思わず顔を上げ振り返る。

するとそこには、俺に向けて手を叩いているエギルさんの姿があった。

その事に俺が呆然とする中、音は更に増えていく。

 

ぱちぱちぱちぱち。

 

エギルさんに続き、エギルさんと同じタンク隊だった人達と、すぐ傍まで来ていたアルゴも手を叩き始めた。

音は更に膨れ上がる。

 

ぱちぱちぱちぱちぱち。

 

それは次第に広がり、遂にはE隊のあの男以外の全員が、俺に向けて手を叩いていた。

目の前にいるC隊の人も、他のC隊の人達も、あのキバオウさえもそっぽを向きながら、どこか眩しいものを見るような目で、俺に拍手を贈ってくれていた。

 

ぱちぱちぱちぱちぱち!!

 

「これはお前が、最後まで仲間のために戦ったからこそ起きた光景だ。誇っていい」

 

絶え間ない拍手の中でも、しっかりと耳に届いたエギルさんのその言葉に、俺は堪えきれず下を向く。

それには触れず、「不味そうなら口を挟もうかとも思ったが、余計なお世話だったな」とエギルさんは笑ったが、俺は、いえ、と返すのが精一杯だった。

それでもこれだけはと、何とか言葉を絞り出して、

 

「ありがとう……ございました……」

 

とだけ告げ、俺はそのまま頭を下げ続けた。

というより頭を上げることが出来なかった。

俺を中心にしたその温かい拍手の音は、俺が再び頭を上げるまで、ボス部屋に響き続けた。

 

こうして第一層のボス攻略は、一人とはいえ多大な犠牲を払いながらも、しかし確かに()に繋がる形で、終わりを迎えたのだった。

 

〜〜〜

 

「ソー坊、迷惑かけたナ」

 

他に誰も居ない静かなボス部屋で、アルゴが先に口を開いた。

あの後、緊張の糸が切れ地面にへたり込んだ俺と、何故かその場を動こうとしなかったアルゴを残し、ついさっきお疲れさんと言葉を残し去ったエギル(そう呼んでくれと言われた)を最後に全員がボス部屋を後にした。

つまり、今は俺とアルゴ、二人っきりである。

ただ問題なのは、相手が弱みを握られるのが誰よりも不味いアルゴという点と、俺が疲れ果ててそれどころじゃないという点。

 

「別に。俺はやりたい事をやっただけだよ」

 

「それでもソー坊はオレっちを、ベータテスターを守ってくれたダロ?」

 

それからアルゴが妙にしおらしいという点だ。

本当にどうしたのかと思うぐらいに。

 

「お礼になんでもひとつ、情報をタダで売るヨ」

 

さき断っておくが俺はこの時、本当に疲れていた。

思わず頭に浮かんだことを、そのまま口にする程に。

 

「じゃあ、そのおヒゲの理由を教えてくれよ」

 

そして言って不味いと思った。

アルゴはヒゲのことを話したがらない。

前に聞いた時は大金を吹っかけられて煙に巻かれた。

きっと、ヒゲをつけることによって《情報屋》の仮面を被っているのだろう。

だが同時に、アルゴは嘘はつかない、《情報屋》として。

だからなんでもと言ったからには、本当に­­なんでも(ヒゲでも)タダで情報を売ってくれるのだろう。

それに加え、今のこの変にセンチメンタルな空気はほんとにまずい。

 

「いいヨ、教えてあげル。でもちょっと待って、今ペイント取るカラ……」

 

そんなことを考えている内にも話はどんどん加速する。

ん? 今アルゴ、ペイントを取るって言わなかったか?

アルゴがペイントを取る……つまり情報屋である仮面が剥がれ……

 

「なし、 なーし! やっぱ今のなし! 情報はまた追ってお願いするから! とにかく今のはなし!」

 

そこまで考えたと同時、急いでアルゴを止めるため、咄嗟に、もうすでにウインドウを弄り始めていたアルゴの右手を取り上げようとした。

しかし俺は忘れていた、今自分の体が、もう限界であることを。

思い出してももう遅く、俺は予定調和の如くバランスを崩し、そしてそのまま、自分共アルゴを床に押し倒した。

何とか左手をついて体が密着することは避けられたものの、俺の右手は当初の目的であるアルゴの右手をしっかりと捉え、アルゴの頭の上で床に固定してしまっている。

そのせいでアルゴの顔が、息がかかるほど近くに現れた。

 

「っ!」

 

何とかまだペイントはしていたが、すでにその表情(かお)はいつも見る情報屋の顔ではなく。

 

紛うことなき、一人の少女の顔だった。

 

まずいと本能的に悟った俺は急いで飛び退き、アルゴから少し距離を取る。

それでも仮想の心臓は早鐘を打ち、未だ収まらない。

 

一方アルゴはというと、ゆっくりと体を起こしてからこちらを見た。

幸か不幸かその顔は、いつものふてぶてしい情報屋の顔だ。

そしてアルゴは、はぁ、とため息を一つ吐いて一言。

 

「ソー坊のいくじなし」

 

と、いつもよりも二割増ぐらいのジト目と共に言い放った。

俺も、ほっとけ、と口の中で転がすが口からは出さない。

だって反撃が怖いから。

 

……しかしそんな些細な我慢も虚しく、俺はアルゴに暫く、『珍しく感情的になって言った恥ずかしいこと』をネタに脅されるのだった。

 




まずはご読了、ありがとうございました。
勢いで書き上げてそのまま投稿したので、誤字脱字があったかも知れませんが、見つけたらご報告して頂けたら幸いです。
もちろん、後でちゃんと確認するつもりではありますが。

それはそうと本編ですが、突っ込みどころも多かったかと思います。
ですがそこはこう、勢いで。
E隊の男については特に伏線などではありません。
ただ、プログレッシブをお読みの方は解るかと思いますが、ソウくんがラフコフに目をつけられる原因ではあります。
それからキバオウが大分イイヤツでしたが、序盤のキバオウは実はあんな感じです。
アニメでは(尺の関係上)扱いがあまりにもあんまりだったので、書き始めた当初から書きたかったことの一つではありました。
そんなキバオウや可愛いアスナ、アルゴが見られるプログレッシブ、面白いので是非!
あとは是非とも、ソウくんの気持ちをトレースして読んで欲しい、ぐらいですかね。
最後のは完全におまけです♪
他にも色々語りたいのですが、今回はこの辺りで。
感想などで聞いて下されば、ネタバレにならない程度で答えさせて頂きたいです!

それからこれからの活動についてですが、前書きでも書いた通り逃亡はしません!(三度目しつこい)
ただ暫く忙しいので、具体的には三月、四月まで更新はしないと思います。
ご迷惑をお掛けしますが、気長に待っていてくれたら嬉しいです。

それから最後に、一番大事なことを。

今更ですが、感想、評価、本当にありがとうございます!
非常にモチベーションに繋がっています!
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!

では皆様、良いお年を〜。
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