本来なら4月中に投稿しなければならないところ、GW明け、平成明けの投稿になってしまい本当にすみません。
これからまたちまちま投稿していきますので、良ければまた暇な時にでも読んでやって下さいm(_ _)m
ではでは、早速本編の方をどうぞ!
2023年12月24日
雪がしんしんと降る、どこか神秘的な十二月の夜。
この世界に来てから二度目の冬を何とか迎えることができた俺達は現在、最前線を第四十九層まで押し上げていた。
第一層攻略から一年と少し、このペースなら上手くいけば来年……は無理でも再来年にはこのゲームをクリアすることも出来るだろう。
今は気が遠くなるような話ではあるが、まあそんな先のことを考えたって仕方がない。
雪だけじゃなく寒さまできっちり再現されている今日のアインクラッドの空の下、俺ことソウは、珍しく最前線の主街区である人物と待ち合わせをしていた。
最前線といっても今宵はぴりぴりとした攻略ムードなどはなく、むしろ
12月に訪れる一大イベント。
そう、クリスマスだ。
正確には今日はまだイヴだが、イヴの夜から25日に掛けてがクリスマスだったはずなので、既に夜を迎えた現在はクリスマスと言っても何ら差し支えないだろう。
現実世界なら何の関わりもないイベントではあるが、何を隠そうここはゲームの中なのである。
ゲームでクリスマスといえばもちろん、イベントだ。
去年は攻略が進んでおらずイベント自体が発生しなかったが、今年は違う。
12月25日、クリスマスの夜。
このアインクラッドのどこかでクリスマス限定Mobが出現するという噂が流れた。
そして限定Mobといえば、レアドロップと相場が決まっている。
つまりここ最近、その話を聞いた攻略組(最前線で戦う者達のことをそう呼ぶようになった)の主要ギルド(プレイヤー達のコミュニティ)がこれを狙っているため、攻略がしばらくお休みになったのである。
かく言う俺もギルドにこそ所属していないが攻略組の一人、しかもかなりの古参だ。
まぁ、第一層から参加しているので当然といえば当然なのだが。
なので普通なら、普段馬車馬の如く働かされてる分、この機にゆっくり休みを取っていたいのだが、今回ばかりはそうはいかない。
なにせ俺も狙っているからだ。
今日、このイベントMobを、キリトと共に。
しかしそうではない者達。
要はイベントMobを倒す気がない、または倒せない者達からすれば、今日は本当にただのクリスマスだ。
いくらこの世界に来ている人々のほとんどが根っからのゲーマーだと言っても、何もかも、死すらも現実世界と寸分違わないこの世界で
だからこそ最前線で戦う者たちが、攻略組などともてはやされるわけだが……
ともかく、変な話だがこんな世界でも普通に生きている人達がいる。
普通に、つまり現実世界と同じように。
それがつまり、今の俺の前の惨状を作り上げている訳なのだが。
今日の四十九層の主街区《ミュージェン》は雪で真っ白に彩られ、それはそれは幻想的な風景を創り出していた。
そうまるで、特別な人と、特別な時間を過ごすにぴったりな、といった。
つまりはそういうことである、大変居心地が悪い。
時折、「あ、あの人一人なんだ〜」という視線が向けられるのがさらに辛い。
そんな思いをしながら、寒さと二重で辛いこの空間から俺が逃げ出せないのは、先も言った通り一応俺にも待ち人がいるからだ、一応。
そいつが来れば仮とはいえ、少なくとも一方の問題は解決するというのに今日という日に限って中々姿を現さない。
場所も時間も指定したのは向こうの方、だと言うのに一向に来る気配がないというのは一体全体どういうことか。
そう、きっとこれはもう帰ってもいいということだ。
「悪い、待たせたナ」
そう心の中で言い訳をしつつ、ベンチから腰を浮かせたところで後ろから声が掛けられた。
「……遅い」
「そこは、俺も今来たとこ、って返すとこだロ?」
今更こいつに後ろから声を掛けられたところで驚きはない。
特徴的な語尾の話し方に、振り返ることで目に入った少し汚れたフード付きマント。
そしてその人物を象徴する、頬に付いた三対のヒゲのようなペイント。
俺の恨み言を軽く流しながら楽しそうに笑うそいつは間違いなく俺の待ち人、情報屋《鼠》のアルゴだった。
「というか、遅れたのは五分だけだロ?」
「バカお前。早い時は三十分前からいるくせに、今日に限って遅れやがって。こんな空間に一人でいた俺の気持ちが分かるか。死ぬかと思ったぞ、精神的に」
「まぁそんなソー坊を眺めてたから遅れたんだけどナ」
「おいこら」
「なはハ〜。そうだナ。とりあえずどっかの店に入るカ」
「はぁ、りょうかい」
経験則でこれ以上は無駄、どころか下手すればこっちが痛い目をみると分かっている俺は、やはり楽しそうに店を物色しながら前を歩くアルゴに黙って着いていくのだった。
〜〜〜
「それで、どうだった?」
二人で近場の、そこそこ値の張る店に入った俺たちは、なるべく人目につかない席に向かい合って腰掛けた。
クリスマスに待ち合わせ、と言っても、俺とアルゴの間にあるのは、先の街の人達のような甘いものではなく、いつもの通りの味気ない情報のやり取りだ。
NPCウェイターが運んできた暖かい飲み物に、猫舌なのか僅かに口をつけただけでソーサーに戻したアルゴは、店内に入りフードを取ってよく見えるようになった顔を向けてきた。
「ソー坊はせっかちだナー。せっかくクリスマスに、オネーサンと一緒に居られるっての二〜」
「ワーイ、ウレシーナー……それで?」
「もうちょっと心を込めてもバチは当たらないと思うけどナー…」
「安心しろ、十分すぎるほど込めた。あの中で俺を一人で待たせてた恨みとか。あまつさえそれを見て楽しんでたことに対する怒りとか」
「な、なはハ〜……うぅ、悪かったヨ」
ずっとジト目だった俺の視線に耐えかね、しゅんと机に項垂れるアルゴ。
綺麗な金髪の間から覗くつむじとこんにちは。
「……はぁ」
見るからに落ち込んでますのポーズを取るアルゴ。
それを見て、
「別に、もう怒ってないから」
その言葉を聞くと同時、パッと顔を上げるアルゴ。
「そうかそうカ。よかったよかっタ♪」
そしてその顔には、罪悪感の欠片もない笑みが。
「はぁ〜、もういいや……それで、本当にどうだった?」
アルゴには勝てない。
この一年で十分過ぎるほどそれを学んでいる俺は、早々に気持ちを切り替えて本題に入ろうとする。
「んー、ソー坊もあんまり相手にしなくなってきたナ。これは新たな方法を考えないト……」
何やら物騒なことが聞こえてきたが、それを追求する前にアルゴが話を進めた。
「……結論から言うと、やっぱりソー坊達の予想した
「やっぱそうか。それで、この情報は他に誰に売った?」
完全に情報屋の顔になったアルゴは、その言葉を聞いて意地の悪い顔で提案してくる。
「ンー。常連のよしみでここの店代でいいゾ」
「ほんと、いい性格してるよ…」
「まいド。いやこの場合、ごちそうさま、かナ」
了承の意を込めて両手を上げる。
最前線の街の店ということは値段も最前線レベル、端的に言って高い。
それが分かっていて、というか最初からそのつもりであんなにも楽しそうに店を物色していたのだろう。
本当にいい性格をしている。
「クライン達がソー坊達の情報を買っていったヨ」
「ああ、《風林火山》の連中か……」
風林火山とは、クラインが他のゲーム時代から一緒に遊んでいた仲間たちと立ち上げた、いわゆる身内のみのギルドだ。
しかしその実力は折り紙付きで、少人数ながら攻略組の一角を担うギルドでもある。
「……まあ何とかなるか」
今回のイベントの性質上、イベントMobは早い者勝ち、狙う者達の間での取り合いとなる。
今回は報酬、ようはボスドロップにある噂が立っているため狙う連中も必死だ。
最悪PK紛いのことをする奴らが現れないとも限らない。
しかし風林火山ならば、リーダーが
もし鉢合わせても、話し合いで解決出来るだろう。
俺が今回アルゴから買いたかった情報は、何処に現れるか分かっていないイベントMobの現れる場所の情報、そしてそれを狙う連中の情報だ。
前者については、俺たちはある程度目星を付けていたため確認程度のものだった。
クリスマスに現れるイベントMob《背教者ニコラス》。
NPCから得た情報によれば奴が現れるのは今夜零時、モミの木の下らしい。
そもそも誰がモミの木の見分けなんてつくんだよと思っていたが、なんとキリト、リアルの自宅の庭に生えているらしい、モミの木。
その時俺が、いやお前はどんな豪邸の子だ、と思ったのは余談だ。
そんな理由で俺たちは、ある一本のモミの木に目星を付けていたのだが、念の為、他にモミの木がないかを確認するためにアルゴに依頼していたのだ。
そして後者については、どこがどれだけ情報を掴んでるかを知る必要があった。
なるべく穏便に、ことを済ませるために。
「それにしても、やっぱりソー坊がこれに参加するなんて意外だナ」
今夜の想定に頭を巡らせていた俺の思考を引き戻したのは、アルゴのそんな一言だった。
「言ったろ、キリトに頼まれたって」
「それでもいつもなら断ってただロ。眠いダルいめんどくさい、とか言っテ」
「その通り過ぎて怒るに怒れねぇ」
「じゃあまた今回はどうしテ。……まさか、ソー坊もあの噂を信じてるのカ?」
あの噂。
攻略組が攻略そっちのけでこのイベントに参加している理由。
「蘇生アイテム、か」
無言で肯定を示すアルゴ。
俺を見るその瞳は真剣で、不安げで、そして俺を案じてるようだった。
それが嬉しくて笑顔が漏れる。
誰だろうと自分の身を真剣に案じてくれる人がいるのは有難い。
それが自分にとってもそういう人なら尚更。
だから安心させる為にも先に、大丈夫、と断ってから話を続ける。
「俺は半信半疑、ってとこかな」
「半信半疑?」
「そ、半信半疑。仮にもし噂が事実だとして、蘇生アイテムが本当にあったとしても、きっと何か条件付けがあると思う。そんなプレイヤーが思い描くような理想的なアイテムでは、絶対ない」
それだけは自信を持って言える。
「それまたどうしテ?」
「このゲームが、そういう風に出来てるから」
アルゴが珍しく説明を促すように黙ったままでいるので話を続ける。
「このゲームは基本的にフェアだ、良くも悪くも。だからこのゲームの根幹、死を揺るがすようなアイテムが現れるとは考えずらい。ただNPCがそういった話をしてるのもまた事実だ。だとしたら有り得ない、なんてことはない。少なくともそれは、蘇生アイテムではあるのだろう。ってとこでどう?」
アルゴが話を聞きながら次第に驚きの表情に変わってゆく。
そして最後には関心やら呆れやらが混ざった表情になった。
「なるほどナ〜」
そこで意味深に言葉を切ったアルゴは、嫌な予感のするいつもの悪い顔をしていた。
そしてその予感はずばり的中した。
「さすがは、攻略組の『参謀』殿、だナ」
「はぁーー……」
今度は俺がテーブルと仲良くする番だった。
俺の場合は本当に精神的にキタのだが。
「いいじゃないか、参謀。かっこいいと思うヨ」
顔だけ上げると満面の笑みのアルゴと目が合った。
本当にこういう時のアルゴはいい顔をする。
俺は意味がないと分かりつつも、自分の心を守るため悲しい弁解を始める。
「いいか、まず参謀なんて言い出したのは俺じゃない、他の攻略組の連中だ。俺がやってるのはせいぜい、毎回対立するヤツらの間を取り持ってるぐらいだよ」
「あとは作戦を立てて攻略中の指示出し、ぐらいカ」
確かにそんなこともしてた気がする、というかさせられてた気がする。
あっているのだが何となく言い返したくなった俺は、上体を起こして言い返してみた。
「……そもそも! お前も知っての通り最初は二つのギルドの分裂を抑えるために間を取ってただけだし! 今も頼まれてるから仕方なくだな……はぁ、なんでこんなことになったんだろう……」
しかし途中で虚しくなり、もう一度テーブルとこんにちは。
ディアベル亡き後、ディアベルの意志を継ぐ二人の新たなリーダーが現れた。
一人はキバオウ。
ディアベルの『皆のため』という意志を継いだリーダー。
そしてもう一人はリンドという男。
元ディアベルパーティーのメンバーで、ディアベルの『トッププレイヤー』としての意志を継いだリーダーだ。
お互いにお互いがそれぞれディアベルに惹かれ、しかし惹かれたところが違ったためについぞ一つになることがなかった二つのギルドのリーダーだ。
まあなんだかんだ、俺が第一層ボス戦で勢い任せに吐いた言葉のせいで、勝手にディアベルの後釜としていいように使われていたのだが、おもに二ギルドの緩衝材として。
「忙しいやつだナ。そもそもソー坊は色々と気を回しすぎなんだヨ。参謀じみたことしてるのはアーちゃんの負担を減らすたメ。今日だってキー坊のため、だロ」
「……あの二人に前線を抜けられると、俺がしんどいからだよ……」
横を向いてるため顔は見えないが、どうせアルゴなら今もニヤニヤしているのだろう。
「ほっといてもキー坊なら勝手に自分で何とかする、そんなことはソー坊も分かってるだろうニ」
急に声が真面目なトーンになったアルゴ。
こちらを気遣ってくれているのは長い付き合いなので分かってる。
俺がいなくてもキリトは大丈夫だ。
そんなことは分かってる、分かってるが今回に関しては俺にも言い分がある。
「成り行きだよ、成り行き。たまたまそこに居合わせたから、たまたま最後まで付き合うだけだ」
始まりは半年以上も前のことだった――
ご読了ありがとうございましたm(_ _)m
前までどのように書いていたのかさえ忘れていたので心機一転、今書けるものを書いてみました。
違和感などありましたら言って下さい。
それではまた次話で!