……特に他に書くこともないのでさっそく本編の方をどうぞ。
半年前、俺は一時期よく最前線を離れ、目的もなく下層に赴くことがあった。
まるで何かを確かめるかのように。
そんなある日だった、それを目撃したのは。
「あれは、キリトか?」
第20層《ひだまりの森》。
最前線から大分と離れたその場所で、見覚えのある顔を見つけた。
しかも一人じゃなかった。
他におそらく、一緒にパーティーを組んでいる思われるプレイヤーが五人いた。
五人の装備を見るからに、この辺りの層を中心に活動しているような、所謂中層プレイヤーと呼ばれているプレイヤー達だろう。
なぜそんなパーティーにキリトがいるのか。
護衛、だろうか。
死の危険と隣り合わせのこの世界において、高レベルプレイヤーに護衛を頼むプレイヤーは少なくない。
しかし様子を見るにそんな感じではない。
そういえばクラインやアスナが、最近昼間に最前線でキリトを見かけないと愚痴っていたことを思い出す。
つまりキリトは定期的、というよりほぼ毎日、このパーティーに加わっている可能性が高い。
「んー……よし。声掛けてみるか」
少し考えたが、これ以上は考えても埒が明かないと思った俺は意を決して彼らに声を掛けてみることにした。
すでに輪が完成し、楽しそうな雰囲気溢れるそのパーティーに。
……なんてハードルの高い。
高いが、仕方ない。
だって見てしまったのだから。
その輪に入り笑いつつも、どこか自虐の混じった表情を見せるキリトの顔を。
「よっ、キリト。久しぶり」
「っ! ソウ…」
俺が声を掛けると驚くキリト。
しかしその驚きは、急に声を掛けられたことに対するものでも、思わぬ場所で知り合いにあったためでもない。
見られたくないものを、見られたくない人物に見られたことに対する、焦りにも似た驚きだった。
瞬間、やはり何かあると確信する。
「えーっと、キリトの友達、でいいのかな?」
その何かを考える前に、五人の内の一人が前に出て声を掛けてきた。
こう言ってはなんだが、何とも平凡な少年、といった印象だった。
「俺、ケイタって言います。一応このパーティーのリーダーも務めています」
ケイタがそう言うと、キリトを除く後ろのメンバーから、一応ってなんだよ、と笑いが起こる。
「……ああ、合ってるよ。俺はソウ。お察しの通りキリトの仲間だ。それから敬語はやめてくれ。俺たち多分そんなに歳は変わらないだろ?」
するとケイタは驚いたような顔をした。
「やっぱりキリトの友達ですね、キリトと同じことを言ってる。――そういう事なら、分かったよ。よろしく、ソウ」
そう言って差し出してくるケイタの右手を迷わず掴み返す。
どうやら見かけ通り悪いヤツらじゃない、というよりむしろ人が良過ぎる、といったところか。
さて、さっきからずっと黙って何やら考え込んでいるキリトだが……少しカマをかけてみるか。
「それで、こんなところで何してたんだ?」
ケイタ達、というよりキリトに向けたその質問に、やはりいち早く反応したのはキリトだった。
すぐさま俺の側まで来ると腕を引き、ケイタ達に俺たちの話の聞こえない距離まで離れた。
「ソウ、お前なんでこんなところに……いや、今はそんなことはどうでもいい。後で事情は話す。今はとにかく話を合わせてくれ、頼む」
いやに必死なキリトを見て、自分の予想が大きくは外れてないことを確信する。
特に断る理由はないので頷くと、あからさまにほっとした様子のキリト。
最後にもう一度、頼むぞ、と念を押されてからケイタ達の元へ戻る。
「ごめん、ちょっとこいつと二人で話したくてさ」
「いや、全然構わないよ」
隠れて二人で内緒話をしていたというのに、本当に気にした風でもないケイタ達。
これならキリトが心を許すのも頷けると納得したが、なぜか少し、心が痛んだ。
「それよりキリト、出来れば僕達の紹介を頼めるかな?」
「あ、ああ」
ケイタに頼まれ一瞬縋るようにこっちを見たキリトだったが、すぐに諦めたように肩を落とし慣れない様子で紹介を始めた。
いや、橋渡し役がお前しかいないんだから諦めろ。
「えーと、さっき言ってた通りこいつがこのパーティー、というより、ギルド《
「改めてよろしく、ソウ」
「待て。え、ギルド?」
ケイタの挨拶を無視してキリトに聞き返す。
今聞き捨てならない、というかはっきり「ギルド」と言ったか?
ということはもしかして――
「……俺も、所属してる」
「マジかぁー……」
視線で問いかけるとその意を察したキリトから答えが返って来た。
俺の反応を見て何やら更にバツが悪そうな顔になったキリトだが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
ギルド、ギルドかぁ。まあ仕方ないよなぁー……
「ソウ? 大丈夫?」
「ん? ああ、大丈夫大丈夫……はぁー」
いつまでも落ち込んでいるわけにはいかないので、気を取り直してケイタに向き直る。
「悪い、ほんとに大丈夫だ。こちらこそよろしく、ケイタ」
「ああ、よろしく」
そう言ってもう一度、ケイタと握手を交わす。
「それから一番左にいるが、メイス使いのテツオ」
「よろしく」
「その隣にいる槍使いはササマル」
「よろしくです」
「短剣使いのダッカー」
「よろしくな」
「最後は、槍使いのサチだ」
「よろしくお願いします」
それぞれテツオは温和そうな、ササマルは真面目そうな、ダッカーは無邪気そうな少年達だった。
そして最後の一人、槍使いのサチはなんと――
「へぇ、女性プレイヤーか。珍しいな」
口をついて出たその言葉に、びくっと一歩引いて仲間の後ろに半身を隠してしまうサチ。
何となく傷つく。
いや、不用意な発言をした俺が悪いのだが。
「ああ悪い。別に女性だからどうこう言うつもりはないよ。戦ってるヤツらはみんな等しくすごいなと思うよ、ほんとに」
「……別に、私すごくない」
褒めたつもりだったのだが何やら地雷を踏んだらしい。
下を向き小声で自虐的なことを言うサチを見て、この子もこの子で何やら問題を抱えてるんだろうなーっと他人事のように思う。
いや、実際他人事なのだが。
「それでキリト、俺の紹介は?」
話を合わせろと言われても、合わせる話が分からなければどうしようもない。
さすがに短い付き合いじゃない。
視線で意思疎通できるくらいには、俺とキリトはこの半年を過ごしてきていた。
「ああ。……こいつはソウ。俺の――攻略仲間だ。実はこいつも俺と同じでソロプレイヤーなんだ。だからお互いに情報を交換したり、たまにパーティーを組んだりする仲だ」
微妙に嘘は言っていない。
多分事実と、彼らに伝わるニュアンスは大分違うだろうが。
「へぇー、ソウもソロプレイヤーなのか。キリトといい、すごいな。――なあソウ、良ければうちのギルドに入ってくれないか?」
「へ?」
思わず素で聞き返してしまった。
冗談かとも思ったが、ケイタの顔を見るにそういう訳でもないらしい。
「さっき二人が話してる時、俺たちも話し合ってみたんだ。キリトと同じレベルのプレイヤーが入ってくれるなら俺たちも安心だし、何より、キリトの友人なら大歓迎だよ」
……そうか、彼らの中で俺は
言った言葉も本心だろうが、きっと俺を気遣ってくれてもいるのだ。
キリトの時と同じように。
さっと、メンバーの顔を見渡す。
どいつもこいつもいいヤツそうだ。
きっと今から入っても、最初からいたかのように歓迎されるのだろう。
だけど――
「悪い、やめておくよ」
断固たる意志を込め、俺はその誘いを断った。
「――そうか、残念だけど仕方ないな。分かったよ、無理言ってごめん。でもよければ、これから俺たちとも仲良くしてくれると嬉しいな、友人として」
やはりいいヤツらだ。
こんな即断で断ったというのに、イヤな顔一つするどころか、こちらを気遣った言葉すら掛けてくれる。
だから次の申し出に対しても、俺は即答で返すことができた。
「それはもちろん。こちらこそよろしく」
〜〜〜
「それでぇー、どーゆーことか説明して貰おうかぁー? えぇ、キリトさんよぉ!」
「分かった分かったから! その妙な口調と顔をやめてくれ!」
現在場所は移動して、同じく第20層の主街区にあるとある店。
ケイタ達にはまたも席を外して貰い、今は俺とキリトの二人だけだ。
そして席に着くやいなや、先の問答が始まった。
軽く怒った風を出してみたが、長い付き合いだけにそれがウソなことはバレている。
だが空気が軽かったのはここまでだった。
「最初はほんとに、軽い手助けのつもりだったんだ」
そう言ってキリトは語り始めた。
一ヶ月ほど前、ここより下の迷宮区で苦戦していた《月夜の黒猫団》を助けたこと。
その流れで、彼らのアットホームな雰囲気を羨ましく思いギルドに加入したこと。
彼らが攻略組を目指していること。
彼らが攻略組に合流すれば、攻略組の空気が変わるんじゃないかと期待していること。
密かに彼らを旨い狩場に誘導し、レベリングを手助けしていること。
サチという少女が死の恐怖に怯えていること。
そして未だ、自分のレベルを誰にも明かせていないこと。
「俺はきっと、単に優越感に浸りたかっただけなんだ。自分より弱い彼らを守り、頼られ、それが気持ち良かっただけだ」
苦しそうに、キリトは続ける。
「俺はサチに、君は死なないと言いながら、
暫く、重い沈黙が場を支配した。
俺にはキリトの気持ちが分かるような気がした。
攻略組なんてものに属してる人間は、多かれ少なかれ人より強くあるために生きているところがある。
それが攻略のためか、使命感のためか、優越感のためか、恐怖のためか、はたまた誰かのためか、動機は人それぞれだろうが。
理由はどうあれ、この空に浮かぶ鉄の城で一番危険な場所に立っているのもまた、彼らのなのだ。
そんな中、キリトは常に一人で戦ってきた。
だからそんな彼が、人の温もりを感じ、それを失うことに恐怖するのは、当然だ。
だから俺は――
「いいんじゃねぇの?」
「へ?」
その恐怖を肯定する。
「いや、だから別にいいんじゃないの、怖くても」
「でもそれじゃあ…」
「お前は自分がしてしまってることに対して、ちゃんと罪悪感を感じれてる。だから大丈夫だよ。いつかその時がきたら、きっとお前は話せる」
曖昧な言葉だらけで申し訳ないが、俺にはそんな気がするのだ。
「それにアイツらだって、そんなことで一々怒るようなヤツらじゃない、だろ?」
「――ああ」
「だから、大丈夫だよ」
机の上に両肘をつき深刻そうな顔をしていたキリトだが、急に椅子の背もたれに体を預け天井を仰ぎ見たかと思うと、はぁーっとため息を一つ。
そして次にこちらに顔を向けた時にはもう、いつもの間の抜けた顔に戻っていた。
「……たく、ソウには敵わないな……」
「感謝してくれてもいいんだぜ?」
「あーはいはい。感謝してますよー。……ほんとに、おかげで少し気が楽になったよ」
「そりゃよかった」
完全にいつもの二人の雰囲気に戻った俺たちは、次の話題へと遷移した。
「そういや、ソウはなんでまたこんなとこにいたんだよ? 素材集めか何かか?」
キリトの話が終われば、当然次は俺の話だ。
ようはなんで
その質問に俺は非常に困った。
なぜなら、俺の理由はキリトに言えるわけがない。
いや、誰にも、言えるわけがないのだ。
「あー……いや、なんでもない」
だから誤魔化す。
生憎とそれは、俺の得意分野だった。
なんでだよー、と若干しつこく言い縋って来るキリトをのらりくらり躱し、最後には黒猫団のみんなを待たせてるんじゃないか? という俺の言葉でこの話は締め括られた。
「あー、ほんとにサンキューな、ソウ。このお礼はいつか精神的に」
「気にすんなよ。何かあったらまた、言ってこい」
長く椅子に座った体を伸ばしながら改めてお礼を言ってくるキリトに、俺はいつものようにいつでも頼れと言って返す。
その顔が僅かに陰っていたことは、キリトには気づかれなかっただろう。
「と言っても、お前は絶対に自分からは言ってこないんだけどなー」
キリトが伸び終わりこちらを向いた時にはもう、いつもの俺に戻れていたはずだから。
〜〜〜
「ソウさん、ちょっといいでしょうか?」
「ん? えーと君は確か……サチちゃん、だっけ?」
店を出て黒猫団のメンバーと合流したキリトを見送った後、これからどうしようかと転移門の周りをぐるぐるしていた俺に声を掛けてきたのは、なんと先程別れたばかりのギルド《月夜の黒猫団》の紅一点、サチちゃんだった。
「あ、はい。……えーと、ソウさん、この後何か予定とかありますか?」
んー、まだ距離を感じるなー。
今日あったばかりだし、仕方ないと言っちゃ仕方ないのだが。
他のメンバーがフレンドリー過ぎるせいで余計距離を感じる気がする。
普段なら気にしないどころか寧ろウェルカムなのだが、さすがにキリトが所属するギルドのメンバーとはそれなりに仲良くしておきたい。
「いや、特に何も。あとソウでいいよ。ついでに敬語もなしで。俺も
何を隠そう、ギルド《月夜の黒猫団》のメンバーは皆、同じ高校のパソコン研究会のメンバーらしいのだ。
いや、よく入ったなキリト。
俺なら絶対無理だわ、そんな完成されたグループに入るなんて。
実はあいつ、凄いコミュ力と心臓の持ち主なんじゃ……
「分かりま……分かった。じゃあソウも私のことはサチでいいよ」
「ん。りょーかい」
「それで本題なんだけど」
敬語を止めたおかげか、幾分か心の距離が縮まった気がする。
……気がする。
「この後ちょっと、私に付き合ってくれないかな?」
いやいや、幾ら何でもこれは近すぎるだろ。
「ちょっとソウに、聞きたいことがあって……キリトのことで」
……はぁー、何となく分かっていた事だが、これはふざけてられる雰囲気じゃないよなー。
「いいよ。じゃあさっきの店でもいい?」
こくりと控えめに頷くサチを後ろに引き連れ、これ傍から見たらそれっぽく見えないかなー見えないなーと余計なことを思いつつ、本日何度目かのシリアスモードに気持ちを切り替えながら街をなるべくゆっくりと歩くのだった。
ご読了ありがとうございましたm(_ _)m
この話では、何やら色々と伏線を張ったかのように思えます。
いやそもそも、ちゃんと伏線になっているのかも定かではない上、もしかしたら私の知らないところが伏線になっているかもしれない上、何なら作者が伏線の存在を忘れる、などということも考えられます。恐ろしい。
ようは、期待しないで下さいお願いします!! ということです。
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追記:誤字脱字報告、質問感想などよろしくお願いしますm(_ _)m
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