あれから、キリトさんは狂ったようにレベリングを続けていた。
攻略を目標としたレベリングとは思えない、まるで死に場所を探しているような無茶なレベリングを彼はしていた。
止めようとした人は何人もいたが、彼の瞳には誰も映り込むことはなかった。
「それで、私ですか?」
「あァ。あの分からず屋を止められる可能性があるのはローちゃんだけなんダ。アーちゃんたちにも頼んではいるだがナ……」
そこまで言ってアルゴさんは言い淀んだ。
キリトさんとの関係値は、私よりもパーティーを組んでいたアスナさんの方が圧倒的に高い。にも関わらず、彼のストッパーを私に頼むということは武力行使でもしなければ、彼は止まらないということだろう。
「……それで、キリトさんが狙っているものの情報はわかっているんですか?」
「いーヤ。全くダナ」
βテストにはなかった、蘇生アイテムを落とすというボスの情報。
クリスマスのイベントとして実装されるボスの情報はアルゴさんをもってしても、殆ど集まらなかった。
「そうですか……アルゴさんで無理なら仕方がないです」
「すまないナ。キー坊をこんなところで失うわけにもいかないからナ、後のことは頼むヨ」
アルゴさんの言う通り、キリトさんをここで失ってしまえば攻略の手が一気に止まるのは火を見るよりも明らか。
なにより、キリトさんの死はアスナさんたちトッププレイヤーに消えない傷を与えてしまう。
「……わかりました。頑張ってみます」
「あァ。ローちゃんも無理はするなヨ」
「はい。わかっています」
私はアルゴさんに背を向け、情報収集へと向かった。
私が真っ先に向かったのはキリトさんの元。
フレンド機能から追いかけた彼の居場所は、最前線の迷宮区から少し離れた場所にある狩場だった。
「キリトさん、皆さん心配してますよ」
私が見つけた彼は、私が知る彼とは別人のようだった。
アバターである以上、見た目というのは変わらないはずなのだが彼の瞳にはなにも映り込んでいなかった。
「……なんだ、ロニエか」
振り返ったキリトさんは私を見て、それだけ言った。
再び彼は前にに振り返り歩き出そうとした。私はそのまま立ち去ろうとする彼の手を無意識のうちに掴んでいた。
「……なんだ」
掴まれた自分の手を見ながらそう言った彼の瞳はとても冷たく、そして暗かった。彼は私の手など邪魔であるかのような表情はしているが、決して振り払おうとはしなかった。
私は再び彼の手を握る力を強めて、彼の目を見た。
「(……もう見送るだけなんて出来ない)蘇生アイテム、私も手伝います」
そう言った私に彼は一瞬目を見開いた。
「いや、いい。これは俺一人でやらなきゃいけないんだ。俺一人じゃなきゃ……」
そこまで聞いて、私は話し合いで止めるのは無理だと察して、彼の手を離した。
「……キリトさんに譲れないものがあるように、私にもあります。なので、キリトさんの言うことは聞けません」
ここでキリトさんを止めなければ私は後悔する。
あの時、止めることが出来なかった後悔を再びするわけにはいかなかった。
「そうか……今日はもう戻るよ。でも、俺は誰にも頼るつもりはない」
そう言うとキリトさんは入り口の方へと歩いて行った。
きっと彼は明日以降も同じことを続ける。それでも、今日伝えたことが無駄になることはないだろう。
日が暮れ私が街に戻ったころ、再び確認したフレンド欄からキリトさんの名前はなくなっていた。
今回は少し短めで申し訳ございません。
次回以降の更新もお楽しみに!
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