記憶をそのままに   作:雪楓❄️

7 / 10
SAOの映画三回見に行き、今とてもSAO欲が高いので少し更新頻度が上がりそうです


ビーター

「「よっしゃー」」

 

長い緊張感から解放され、全員安堵の表情を浮かべている。

ボス戦による経験値やアイテムなど気にする素振りも見せずただ喜びを噛みしめている。

 

「Congratulations。見事な剣技だった。この勝利はあんたらのもんだ」

 

「やったね!」

 

そう言いながらエギルと名乗っていた大柄な男性とフィリアさんはキリトさんたちを称賛していた。

私は少し離れたところでその様子を眺めていた。

勝利の余韻も少しずつ落ち着いてきた時、ボス部屋に怒鳴り声が響いた。

 

「ちゃうやろがいっ!」

 

そう言ったのはキバオウさんだった。

その声音は攻略会議の時と同じく誰かを攻撃するためのものだった。

彼らは未だに座り込んでいるディアベルさんの周りを囲い、守るように立っている。

 

「なんでっ、なんでディアベルさんを見殺しにしようとしたんやっ!!」

 

「…見殺し?」

 

キリトさんは訳が分からないという様子で聞き返した。

しかし、"見殺し"という明確で残酷な言葉に周りもザワつく。

 

「そうやろがい!ジブンはボスの使う技、知っとったやないか!あそこの嬢ちゃんが守ってくれへんかったら、ディアベルはんは死んどったやぞ!!」

 

キバオウさんがそう言ってる間、ディアベルさんは何も言わずただ俯いていた。

だが、キバオウさんが叫んだことにより一度はみんな納得していたβテスターへの不信感が徐々に高まっていく。

 

「きっとあいつ等、元ベータテスターだ!ボスの使う武器や技、知ってて隠してたんだ!他にもいるんだろ?元ベータテスターども、出て来いよ!!」

 

キバオウさんのパーティーメンバーの一人のその言葉により、βテスターへの不信感はレイド全体へと広がった。

周りからは「そう言われてみれば…」や、「攻略本に載ってなかったよな…」といった疑問が湧き、自分以外を疑い、βテスター=悪という空気が出来上がっていた。

 

(……どうにか止めないと)

 

もはや、βテスターへの不信感を拭いきれるような空気ではなかった。

なにより、その空気をキバオウさんのパーティーメンバー捲し立てていた。

私はどうにかこの空気を変えようとキリトさんたちの方へと向かおうとしたがその前に服を引っ張られ止められた。

 

「っ。なんですか、ディアベルさん」

 

急ぎたかった私は、思わず口調がきつくなってしまった。

 

「君はβテストのころ彼と一緒にいた子だろう?すまない、こんなことになって。君らのようにはいかなかった……」

 

そう言っている彼の表情はとても暗かった。

彼が言いたいのはラストアタックボーナスの事だろう。私とキリトさんはβテストのころ、ラストアタックボーナスを取り続けていた。

それはまだソードアートオンラインがゲームだったからであり、今はそんなことは考えてもいない。

 

「……あなたはこのレイドを引っ張っていく責任があると思います。私や彼には出来ない、あなたにしかできないことです」

 

私がディアベルさんの手を振り払い、キリトさんたちの方へと行こうとする前にキリトさんと目が合い、キリトさんはこちらを見て微笑んだ。

 

(……キリトさん)

 

その表情で私はある程度察することが出来た。

”なにもしないで”。キリトさんはそう言っているように感じた。

 

「ハハハッ」

 

周りの空気をぶち壊すようにキリトさんは高らかに笑った。

その笑い声にディアベルさんもキバオウさんたちも黙り込み、息を吞むしかなかった。

 

「…元、βテスターだって?」

 

そう言いながらキリトさんはキバオウさんたちに向かって歩き、ちょうど半分ほどのところ、私の真横で立ち止まった。

 

「……俺をあんな"素人連中"と一緒にしないで貰いたいな」

 

「な、なんやと」

 

キリトさんの台詞に、キバオウさんはなんとか言い返すがキリトさんは止めようとしなかった。

キリトさんは握っている手を微かに震わせていたがそれも止まった。

 

「よく思い出せよ。SAOのクローズドβテストはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ?その千人の中に本物のゲーマーが何人いたと思う?……βテストに当選した千人のうち、殆どはレベリングのやり方を知らないどころか満足に戦う事すらできない雑魚だったよ!そこの二人も、ただ俺の指示通りに動いていたにすぎない」

 

キリトさんはそう言い切った。

確かにβテスト中、攻略をメインにしている人は多くはなかった。

そして、キリトさんはβテスターへの不信感など吹き飛ばしてしまった。

 

「だが、俺は違う。俺はβテスト中、誰も到達出来なかった層までたどり着いた。ボスのソードスキルを知っていたのも上の層で刀を使う相手と散々戦ったからだ!…他にも色々知ってるぜ。情報屋なんか問題にならないぐらいな」

 

キリトさんのその言葉に再びレイド全員がざわついた。

キリトさんの言っていることは半分正しく、もう半分は嘘であるがそんなことは関係なかった。

何が真実なのか、そんなことは何かを糾弾したい人達には関係ないのだから。

 

「なん…なんなんやそれ。……そんなんもうβテスターどころや無いやん…もうチートや!チーターやんそんなんっ!!」

 

キバオウさんが掠れた声で叫んだの皮切りにして、キリトさんに飲まれていた人たちも声を上げた

 

「チーターだ!!」

 

「そうだ!ベータのチーター。だから、ビーターだ!」

 

”ビーター”。

その言葉は今の状況にとって、とても都合が良いものだった。

 

「…ビーターか。いい名前だな……そうだ、俺はビーターだ。これからは元テスター如きと一緒にしないでくれ!」

 

これにより、ビギナーとβテスター、そしてあくどいビーターという構図が出来た。

キリトさんが全てのヘイトを請け負うことでβテスターとビギナーの溝は浅く済む。

 

(……私が余計なことをしちゃいけない)

 

キリトさん一人に背負わせるわけにはいかないと心ではわかっているが、それがキリトさんの覚悟を邪魔してしまうということはわかりきっている。

それがわかっているからこそ、罵声を浴びせれているキリトさんをアスナさんたちもただ見ているしかなかった。

そして、その罵声を全て受けるように、キリトさんは漆黒のコートを装備した。

そのコートがラストアタックボーナスであることは誰の目にも明らかであり、彼をあくどいビーターと強く思わせるには十分な演出だった。

 

「次の層の転移門は俺がアクティベートしておいてやる。ついてきてもいいが、主街区まで少しあるから、初見のmobに殺される覚悟をしとくんだな!」

 

そう言うとキリトさんは一人次の層に向かう階段へと消えていった。その背中は先輩の背中によく似ていた。

キリトさんが居なくなったことにより、罵声の矛先を失ったレイドの人達はぞろぞろとトールバーナへと帰っていった。

ディアベルさんも、「頑張ってみるよ」と言い残し、彼らと共にトールバーナへと帰った。

 

「ロニエはどうするの?」

 

キリトさんを追ったアスナさんを見送ったフィリアさんがいつの間にか私の目の前にいた。

 

「……私はもう少しここにいます」

 

キリトさんたちを追ってもいいが、あそこでこそこそしている人物に要があったため残ろうと思った。

 

「そっか!それじゃあ一旦お別れだね、またねっ!」

 

フィリアさんはフレンド申請を私が受諾するのみて、笑顔でエギルさんたちを追いかけていった。

私はフィリアさんが完全に見えなくなったところで、隠れている人に声をかけた。

 

「もう出てきていいと思いますよ、アルゴさん」

 

「流石、ローちゃん。気づいてたのカ」

 

ボス部屋の隅からアルゴさんは歩いてきた。

情報屋である彼女がここにいる理由は、情報が正しかったかどうかというのを確かめるためのものだろう。

私はそれを察し、アルゴさんにボス戦の全てを伝えた。

 

「なるほどナ」

 

アルゴさんはディアベルさんの行動も、キバオウさんの糾弾もキリトさんの行動も驚くことなく納得していた。

私は説明しながら、情報屋として動いているアルゴさんにしかわからないことがあるのだと納得した。

 

「……ローちゃんには引き続き、βテスト時との違いについて調べて貰いたいんだが、いいカ?」

 

「えぇ、もちろんです」

 

断る理由もなかったため、私は快く受けた。

アルゴさんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた後、二層への階段の方へとかけていった。

 

(……私もそろそろ行こう)

 

誰もいなくなったことを確認し、私はスキルをいじり装備を変更してから二層へと続く階段へと向かった。

 




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