「……はぁ。何個あるのよ」
私とフィリアさんは、27層の迷宮区に潜っていた。
アルゴさんから依頼を受けて二週間。危険なトラップが追加されていないかと確認して回る作業は思いの外時間を要した。
攻略した際には存在していなかったと思われる脱出不可となる隠し部屋であったり、モンスタートラップ付きのトレジャーボックスなど、害悪と呼ばれるトラップが数多く追加されていた。
その分、レア装備など手に入りはしたが今のところ私たちが使えるものは一つもなかった。
「実入りもないし、早く終わりたい……」
「ですね……。でも、フィリアさんの熟練度でも回避出来ないトラップもありましたから」
シーフとしてのスキルに関して、このアインクラッドで右に出る人はいないと言われているフィリアさんの能力を持ってしても解除できず、無理矢理突破したトラップが幾つかあった。
その多くは隠し部屋の中にトレジャーボックスがあるタイプであり、この迷宮区の適正難易度を大きく超えるトラップが仕掛けられていた。
「そう言えば、ロニエの使ってる片手剣?って珍しいやつよね」
フィリアさんは私の腰に差してある片手剣に視線を移すとそう言った。
フィリアさんが片手剣かと疑問に思ったのは、形状のせいである。
「えぇ、一応モンスタードロップです」
私の腰に差してあるものはモンスタードロップなどではなく、いつからかストレージ内にあった、多分ユニーク装備と呼ばれる類のもの。
モンスタードロップ品と偽っているのは、このようなレア装備を持っていると知られた時の周りの反応が怖かったため。モンスタードロップ品の中にも一点物のレア装備もあり、現在も階層ボスのラストアタックボーナスによるレア装備というのは珍しくはないため、あまり詮索されずに済んではいる。
「いいなぁ。私も欲しい~」
フィリアさんは自分の短剣を回しながら、口を尖らせていた。
(……この剣は、私の物ではない。あの世界であの人と共に生きたこの剣は私に応えてくれるのかな)
なぜ、あの世界で私の相棒であった”月影の剣”ではなく、この剣が私の元に来たのかはわからないが、私の師匠でもあり姉のようであったあの人に少しでも近づける可能性であることには間違いなかった。
「……ロニエっ!あの人たち!!」
私が自分の世界に少し入りかけたところで、フィリアさんの声によって意識を引き戻された。
フィリアさんの視線の先では、一つのパーティーが丁度隠し部屋に入っていくとことだった。
そのパーティーメンバーの中に、見知った背中が一つあった。
「キリトさん!!」
目一杯の大声はキリトさんのいるパーティーメンバーにも聞こえたようだったが、振り返ったその視線は、壁に阻まれ。私たちに届くことはなかった。
「大丈夫ですかっ!!」
「返事して!」
彼らが入っていった部屋など最初から存在しなかったかのように、壁は固く閉ざされており、私たちはただその壁を叩くことしか出来なかった。
何十分か経ち、漸く開いた壁の中から出てきたのはキリトさんだけだった。
その瞳には光はなく、私たちのことも視界に入っていないようだった。
「っキリトさん……」
振り絞った声もキリトさんには届かず、彼はそのまま迷宮区を後にしてしまった。
「……私たちがもう少し早ければ」
「……そうかもしれないね。でも、あなたのせいではない…よ」
フィリアさんはそう言うとその部屋を軽く確認だけして、歩き出した。私も部屋に向かって手を合わせてから、フィリアさんの後を追った。
それから、私とフィリアさんはあまり言葉を交わすこともなく、アルゴさんからの依頼を淡々とこなした。
迷宮区の探索を終え、私たちはアルゴさんに全て報告した。トラップは全て解除したこと、そして犠牲者が出てしまったことも。
「そうカ。ありがとナ、これが約束の報酬ダ」
アルゴさんは私たちに報酬を支払うと、すぐにその場から居なくなってしまった。
「……あまり気にしちゃダメだよ。これから先、いつ誰が命を落とすかわからないからね」
フィリアさんは落ち込んだ表情を隠すようにそう言って、歩いていった。
(……もう二度と私の手の届く範囲で死なせはしない)
”これはゲームであっても遊びではない”
頭で分かったつもりでいた茅場昌彦のこの言葉を私は改めて心に刻んだ。
黒猫団生存を期待していた方々申し訳ないです。
生存ルートで考えていたのですが、その先の活躍や立ち位置に案が浮かばなかった僕の技量不足です……
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