オルガ細胞   作:T oga

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※本小説はニコニコ動画のMADのノベライズ化です。
動画を見ていること前提で話が進むので、先に動画を見ることをオススメします。

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm33705242




第5話 薬祭戦

ここは、鉄華団団長、オルガ・イツカの体の中。

 

人間の体の中には、約37兆2千億個もの細胞たちが毎日毎日、24時間365日元気に働いている。

 

タカキ・ウノに負けないくらい休まず働いている細胞たちが住むこの体内世界にとある危機が迫っていた。

 

「俺は止まんねぇからよ……」

 

外敵侵入の情報をまとめ、T細胞などのリンパ球に指示を出す司令室は突如として緊張に包まれた。

 

「目標接近中!」

「大きさ30ナノメートル!!」

 

ナノメートルは長さを表す単位で百万分の一メートルの事だ。

 

「皮膚接触まであと10秒!……9……8……」

 

その司令室でリンパ球たちに指示を出すヘルパー(マクギリス)T細胞はメガネを押し上げ、歯軋りしながらこう呟いた。

 

「来たか……。オルガ団長に繋げ」

《よお、マクギリス》

「それは……、()だな」

《ああ、何とか止めようとしたんだが、こいつは止まらねぇからよ……》

「そうか……来てしまったか……今年も……」

《う"う"っ!》

「スギ花粉アレルギーが!」

 

その時、鉄血球が溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

スギ花粉は二月になると風に飛ばされてやってきて、四月頃に蔓延する。

 

(まぶた)にある展望台にいたマクロファージが、黄色い凸凹(でこぼこ)した球体が目玉(眼球)の表面を覆う涙で出来た湖に落ちるのを目撃した。

 

そこに連続して球体が降り注ぐ(そして鉄血球も湖に落ちる)。

球体が涙の湖に落ちる衝撃で展望台の窓ガラスがびりびりと鳴く。

その球体は湖の中で割れ、中からぐにゃぐにゃした薄黄色い物質が出てくる。

そして、その物質は湖底にある「涙腺」という排水口から体内へと吸い込まれていった……。

 

展望台でそれを目撃したマクロファージは慌てて、他のマクロファージへこう言った。

 

「大変!あれは「アレルゲン」という外敵よ!大至急連絡を!」

 

スギ花粉のアレルゲン。アレルギーとは免疫反応が特定の原因物質に対して過剰に起こること。

 

展望台のマクロファージからそれを聞いた他のマクロファージがエプロンドレスのポケットから携帯型通信機を取り出し、ヘルパー(マクギリス)T細胞へこう連絡した。

 

「こちらマクロファージです~。左の眼球からスギ花粉のアレルゲンが体内に入りました~」

 

 

その連絡はすぐに司令室へと届く。

マクロファージからの抗原提示を聞いたヘルパー(マクギリス)T細胞は慌てて指示を出した。

 

「いかん!すぐ警報を流すんだ!鉄血球も遊走で現場に急行してくれ!!」

「ああ、分かったよ!」

 

鉄血球T0319番は鼻の奥にある動脈へ向けて駆け出した。

 

 

その鼻の奥の動脈では赤血球AE3803番が酸素を運んで歩いていた。

このあたりの細胞に酸素を届けるためだ。

 

細胞の住む街への連絡通路に入った時、天井から鉄血球T0319番が落ちてきた。

 

ヴァアアアアアア!!

 

「う"う"っ!」

 

その時、鉄血球が溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

「鉄血球さん!だ、大丈夫ですか!?」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。こんくらい、なんてこたぁねぇ!」

「な、ならいいんですけど……」

 

そんな時、体内アナウンスが流れた。

 

《眼球粘膜付近の職員の方々、お気をつけ下さいませ。繰り返します。排水口から外敵が侵入したため──》

 

「外敵……?もしかして、鉄血球さんがここに来たのって!?」

「あぁ、だが安心してくれ!お前を俺が護ってやるよぉ!」

「ありがとうございます!じゃあ私は早くこの仕事済ませちゃおっと!」

 

地図を広げて、宛先の場所を確かめる赤血球AE3803番と、周りを警戒する鉄血球T0319番。

 

その時、鉄血球T0319番の足元にある排水口の蓋が持ち上がり、スギ花粉のアレルゲンが顔を覗かせた。

 

ヴァアアアアアア!!

 

「こんなところじゃ、終われねぇ!」

「ええと。何なに?届け先の住所がここで……。現在地が……。えっと、あれが、目印で……」

 

ヴァアアアアアア!!

 

「回避だ!」

「で、こっちに……」

 

赤血球AE3803番がそう言って振り返るとそこには──

 

「ス~~ギ~~!!」

 

スギ花粉のアレルゲンが鳴いていた。

ぼてっとして、ぶよんぶよんの外見、目と口らしい深いくぼみが顔らしき場所に三つついている。

 

「ス~~~~ギ~~~~~~!!!!」

 

アレルゲンが鳴きながら、赤血球AE3803番を押しつぶしそうな勢いで巨大化する。

 

「ぎゃああああああっ!!」

 

突然、自分の五倍くらいまで膨らんだアレルゲンを目にして、赤血球AE3803番は大きな悲鳴をあげ、腰をぬかしてしまった。

 

「足を止めるなぁ!!」

 

鉄血球T0319番が赤血球AE3803番を護ろうと庇ったその時──

 

「抗原発見!」

 

ピンポーン、というお馴染みの音とともに、白い戦闘服の青年が飛び込んできて、スパーンッ、と一撃でアレルゲンを斬り裂いた。

どうっ、と(にぶ)い音を立てて、アレルゲンが床に倒れて動かなくなる。

 

「白血球さん!」

 

顔馴染みの白血球U1146番だ。

 

「お、よう!赤血球に鉄血球。また会ったな」

「は、はい!でも、それ、一体何なんですか?「スギ~」とか言ってましたけど……」

「こいつか?さあ?……とにかく、食えばわかる」

「あぁ、分かったよ!やるよ!」

 

鉄血球T0319番と白血球U1146番はしゃがみこみ、アレルゲンの死体にかぶりつく。

 

カブカブカブカブカブカブカブカブ

 

「おえぇぇぇ~!!」

 

その時、鉄血球が溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

嘔吐する鉄血球T0319番を余所に白血球U1146番はアレルゲンを一口かじりとって、むしゃむしゃと食べる。

 

食作用。食細胞と呼ばれる単球やマクロファージ、白血球(好中球)等が細菌や異物を細胞内に取り込むこと。貪食ともいう。

 

「ふむ、この味は……スギ花粉から出てきたアレルゲンだな」

「ああ、マクギリスの話だと、図体はでけぇが、病気の原因になったりはしねぇ。無害なやつらだそうだ」

「まっ、それでも何かしらのトラブルにはなるからな。殺すのが決まりなんだが……」

「そっか……ごめんねー」

 

食べられたアレルゲンは、しおしおと(しぼ)んで、ひからんでしまった。

 

そのひからんだアレルゲンを見て、とある男が大声をあげた。

 

「あー!!そいつは!?まさか、スギ花粉のアレルゲンじゃないか!!」

 

その声の主は黒いシャツにグレーのベスト、紫のネクタイをした青年だった。

 

その青年は頭を抱えて、こう言った。

 

「なんてこったぁ!粘膜の排水口から入り込んだってのはそいつだったのか!これじゃまるで言い伝えと……」

 

狼狽(うろた)える青年に鉄血球T0319番と白血球U1146番はこう聞く。

 

「誰なんだよ、こいつは」

「お前は……?」

「あ、失礼。俺は記憶細胞だ」

 

記憶細胞。抗原の免疫を記憶しているリンパ球。同じ細菌やウイルスの再度侵入に備えている。

 

「それで、記憶細胞。何を慌ててるんだ?スギアレルゲンは危険な抗原ではないだろう」

「あぁ!今はなぁ!……だが、俺たち記憶細胞に代々伝わる言い伝えがあるんだ」

 

記憶細胞は予言の書(いいつたえメモ)を開いて、そこに書いてある詩を詠んだ。

 

「宇宙より 災いの流星 飛来せし時 薬祭の天使 光を穿つ」

 

それを聞いた赤血球AE3803番と白血球U1146番、鉄血球T0319番は揃って首を(かし)げた。

 

「「「薬祭の天使?」」」

「今に分かるさ……」

 

やけに記憶細胞は深刻そうだ。そんな時、再び体内放送が響き渡った。

 

《緊急事態発生!緊急事態発生!異常な数のアレルゲンが体内に侵入しています。付近の方々は逃げられる人はすぐ逃げて下さい》

 

鼻の穴のトンネルの奥から、ずしんずしん、という地響きが聞こえてきた。

 

その直後、トンネルに続く通路を埋め尽くしたアレルゲンが鳴きながら押し寄せてくる。

 

「「「ス~~ギ~~!!」」」

「あれはっ!?」

「な、なんだ!?あの大量のスギアレルゲンは!?」

「き……来た……世界の終わりの始まりだ~~!!」

「と、とにかく赤血球は逃げろ!!」

「は、はい」

「ここは俺たちが時間を稼ぐからよ……。止まるんじゃねぇぞ……!」

 

パニックに陥る記憶細胞はとりあえず放置し、鉄血球T0319番と白血球U1146番は赤血球AE3803番を逃がして、アレルゲンへと斬りかかっていった。

 

 

その様子を司令室の大型モニターで眺めていたヘルパー(マクギリス)T細胞はため息混じりにこう呟いた。

 

「……なんかこいつら毎年来る数が増えていってない?まぁいいんだけどさ。こっちには秘密兵器があるし」

 

その呟きに制御性T細胞が答える。

 

「秘密兵器というと……」

「バエルッ!!」

「B細胞のことですね」

「そのとおり!B(バエル)細胞!!」

 

B細胞。抗体産生細胞とも呼ばれている。細菌やウイルスなどの抗原に対し、抗体という武器を作り、戦うリンパ球の一種。

 

 

そのB細胞が鉄血球T0319番や白血球たちがアレルゲンと戦っている現場へと到着した。

 

「おれに任せて下さい!」

 

青い戦闘服のB細胞は大きな銃──抗体を持ち、背中には薬のタンクを背負っている。

この抗体は薬の噴霧装置のようだ。

 

「こいつがあれば!」

「バエルだ!」

「アグニカ・カイエルの魂!」

 

逃げていた一般細胞たちから歓声があがる。

 

その歓声を受けたB細胞は武器の安全装置を外し、アレルゲンたちへ向けて構える。

 

「食らえ!IgE(アイジーイー)抗体!」

 

シュワワワワ~~~~!!!!

 

細かな薬の粒が噴霧されて、アレルゲンの頭上から降り注ぎ、真っ白な霧のように包み込んだ。するとアレルゲンたちがじゅわ~、っと溶けていく。

 

 

B細胞がIgE抗体でアレルゲンを退治している頃、武器『抗体』の使用量を調査・監視する監視塔では、グレーのブラウスを着たお姉さんが首を(かし)げていた。

 

彼女はマスト細胞。肥満細胞とも呼ばれている。過剰に作られたIgEの刺激に反応してヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質を分泌する。肥満細胞といっても肥満とは関係ない。

 

「えっ?何?この数値……?」

 

Ige抗体の使用量を表示するメーターを覗きこみ、過去の記録ファイルと見比べる。

 

「こんな数値、私初めてだわ。さっきの放送の通り、たくさんアレルゲンが入ってきたみたいね」

 

マスト細胞はIgE抗体の量に応じたヒスタミンをマニュアル通りに分泌し、アレルゲンを体外へ追い払うのが仕事だ。

 

ヒスタミン。異物や組織の損傷を認識したマスト細胞(肥満細胞)などから分泌される化学伝達物質。

 

「IgEがこの数値だから、ヒスタミンは…………このくらい、かなぁ?」

 

そう呟いたマスト細胞はヒスタミンの放出ノズルを開くダイヤルを目一杯まで回した。

普段の目盛りの数十倍の値だ。

 

 

それが──薬祭戦のはじまりだった。

 

 

IgE抗体でアレルゲンを退治したB細胞はこう言った。

 

「そろそろヒスタミンが出されますよ。あれで炎症を起こして、アレルゲンを排除するんです」

「正直、ピンときませんね……」

「「「へぇー」」」

「何っ!?」

「鉄血球、今の説明で分からなかったのか?」

「勘弁してくれよ……」

 

鉄血球T0319番や白血球U1146番、一般細胞たちにこの後のことを説明しながら、天井を指差すと、そこからノズルが出てきた。しかし──

 

「聖なる霧が 地上を包む されど それが 薬祭の天使を 呼び起こす 引き金となる」

「は?」

 

記憶細胞が予言の書(いいつたえメモ)に書いてある詩を詠んだのと同時に、天井からは巨大なノズルが出てきた。…………B細胞の知る大きさの五十倍くらいのサイズのノズルが……。

 

「は?」

「え?」

「ん?」

「あ、あぁ……」

「なんて声、出してやがる……」

 

見たことのない巨大なヒスタミンの放出ノズルに鉄血球T0319番と白血球U1146番、B細胞が顔を見合せ、記憶細胞が絶望の声を上げた時──

 

ドバシャアアァァァァァァ!!!!!!

 

まるでダムが決壊したかのように、大量のヒスタミンが通路に溢れ、洪水が襲ってきた。

 

その時、鉄血球が溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

ヒスタミンの働き。ヒスタミンは血管内皮細胞の間隔を広げ、白血球たちの遊走性を高める働きがある。

 

 

洪水に押し流されながら、誰かの叫びが耳に届く。

 

「ヤバい!ヒスタミンの洪水だ!!」

「止めるようマスト細胞に連絡しろ!」

「止めるんじゃねぇぞ……」

「ダメだ!アレルゲンを排除するため止める訳にはいかないって言ってる」

「俺は止まらねぇからよ」

「このままじゃ、出し過ぎでノズルが壊れるぞ!!」

「何っ!?……勘弁してくれよ」

 

案の定、その叫びの直後、かつてない大量放出の勢いに耐えられず、ドカーン、とノズルが爆発した。

 

その時、鉄血球が溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

その後、緊急警報が通路全体に鳴り響く。

 

「まずい!緊急用免疫システムが発動してしまった!」

「何なんだよ、そいつは?」

 

緊急用免疫システム=ヒスタミンによるアレルギー反応。ヒスタミンが活性化され過ぎると、発赤(はっせき)、かゆみ、浮腫(ふしゅ)、痛み、気管支収縮などのアレルギー反応を起こす。

 

そのアレルギー反応により、くしゃみのロケットミサイルが乱れ撃たれ、そのミサイルによる爆発の衝撃で鼻の穴のトンネルの壁が壊れ、その壊れた鼻の穴から鼻水が、そして目からは涙の洪水が襲う。

 

その間、鉄血球は数えきれないほど溶血を繰り返した(希望の花を咲かせ続けた)

 

 

くしゃみ。ヒスタミンが鼻の粘膜にある知覚神経を刺激する。このがくしゃみ中枢に達するとくしゃみが連発してしまう。鼻水も必要以上に出る。

 

「くしゃみや鼻水は止まらねぇからよ……」

 

鼻づまり。ヒスタミンが鼻の粘膜にある血管に作用して、炎症などを引き起こす。その結果、鼻の粘膜が腫れてむくみ、鼻づまりが起こる。

 

「鼻づまりも止まらねぇからよ……」

 

涙。ヒスタミンが目の知覚神経などを刺激して、充血やかゆみなどの炎症を引き起こす。涙も必要以上に出る。

 

「目のかゆみも涙も止まらねぇからよ……」

 

スギ花粉アレルギー。スギ花粉が抗原(アレルゲン)となって起きる「くしゃみ」「鼻水」「鼻づまり」「目のかゆみ」などのアレルギー症状。

 

「だからよ、スギ花粉アレルギー。なるんじゃねぇぞ……」

 

 

ヒスタミンと涙と鼻水の大洪水で酷い目にあった一般細胞たちが怒りを(あらわ)にする。

 

「あいつが原因だ……どうしてくれるんだ、B細胞!」

「そもそもお前が抗体をガバガバ使うから!」

「お、俺のせいじゃないよ!悪いのはヒスタミンだろ!」

「マスト細胞のせいかーっ!!」

 

暴動を起こした一般細胞たちが監視塔のマスト細胞のところへ押しかけていく。

 

マスト細胞は突然押しかけてきた一般細胞たちに悲鳴をあげた。

 

「うわぁぁぁぁ!!何よあんたらぁぁぁぁ!!」

 

マスト細胞は抵抗もむなしく、取り押さえられて、めちゃくちゃになった鼻の穴のトンネルまで引きずり下ろされる。

 

「うわっ!ちょ、何すんのよ!離して、触んないでよ!あたしのせいじゃないわ!IgEが原因よ!!」

「いーや!絶対ヒスタミンの出し過ぎが原因だね!!」

「あたし、マニュアル通りに仕事しただけだもん!!」

「お前ら、ケンカするんじゃねぇぞ……」

「「鉄血球は黙って()!!」」

 

B細胞とマスト細胞に殴られて、鉄血球が溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

「はぁ、ホント勘弁してくれよ……」

 

大喧嘩しているB細胞とマスト細胞、一般細胞たちから逃げてきた鉄血球T0319番と愕然としている記憶細胞に白血球U1146番はこう語りかけた。

 

「それぞれが自らの仕事を全うしただけなのに、こんな事になってしまうとは……。こうなる事がわかっていれば……いや、わかっていてもやるしかなかったが……。どんな事情があろうと職務放棄は許されない」

「あぁ、俺たちは止まんねぇからよ、ここで足を止めるわけにはいかねぇ。俺たちの仕事は終わらねぇからな」

「そうだな、それが俺たちの宿命……」

 

 

その時、背後から呼び掛けが届いた。

 

「鉄血球さーん!白血球さーん!!記憶細胞さーん!!!」

 

先ほど逃げたはずの赤血球AE3803番だ。

 

三人が後ろを振り向くと赤血球AE3803番は背丈ほども直径がある大きな黒い球体を転がしてくる。

 

鼻の穴のトンネルはゆるい坂道になっているため、坂の上からきた赤血球AE3803番とその黒い球体は勢いづいて止まらない。

 

「皆さーーん!!どいてくださーーい!!!!」

 

──しかし、遅かった。

 

その時、鉄血球たちが溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「「「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」」」

 

(もちろん白血球と記憶細胞は鉄血球と違って溶血はしない。ただ球体にはね飛ばされただけだ)

 

 

「よ、よう……赤血球……」

「何なんだよ、そいつは?」

「すすすす、すいません!これは……あの、私もよくわかんないんですけど、届け先がここになってて」

 

赤血球AE3803番はそう言いながら、後ろで言い合っているB細胞とマスト細胞たちの様子に気づく。

 

「っていうか、なんか大騒ぎになってますけど大丈夫ですか?」

「大丈夫……ではないが……」

「こんくらい、なんてこたぁねぇ」

「しかし、何だこれは?」

 

そう白血球U1146番が記憶細胞に聞くが、記憶細胞も首を捻るだけだった。

 

しかし、その黒い球体に書いてあった文字を見て、鉄血球がピンとくる。

 

そこに書いてあったのは──

 

「モビル、アーマー……っ!?」

 

その時、鉄血球は思い出した。記憶細胞の予言の書(いいつたえメモ)に書いてあった『薬祭の天使』という言葉を──

 

 

すると、黒い球体の内部から人工音声が聞こえてきた。

 

《ピピピ。目標地点・到着》

 

プシュー、という排気音を立てて、球体が真っ二つに割れ、左右に開いた。そして──

 

《目標・細胞・確認・排除・シマス》

 

キュイイイイィィィィィィン!!!!

 

耳障りな甲高い音を立てて、砲塔の内側に光り輝くエネルギー体が集まっていく。

 

「来週は午後5時30分からお送りします」というテロップが出るようなビームが発射される前振りだ。

 

ピキューーーーン!!!!という音とともに発射されたビームが、細胞たちを襲った。鉄血球T0319番は咄嗟に細胞たちを庇う。

 

その時、鉄血球が溶血した(希望の花を咲かせた)

 

「……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

《排除・シマス》

 

慌てて逃げ出す一般細胞たちに砲塔が向けられ、再びビームが射たれる。

 

白血球U1146番は赤血球AE3803番と記憶細胞を全身で庇い、床に伏せる。

 

「な、何だあいつ!なんで、俺たちを襲うんだ」

 

そこにヘルパー(マクギリス)T細胞の体内放送が流れる。

 

《聴け!ギャラルホルンの諸君!あれはモビルアーマー『ステロイド』。細胞を狩る()()()()使()。そしてその天使を狩るために天使を真似て造られた悪魔がモビルスーツである》

 

ステロイド。副腎皮質ホルモンとも呼ばれている。強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を持つ薬剤。ヒスタミンによって起こった諸症状やアレルギー反応そのものを強力に押さえる。

 

その体内放送を聞いた鉄血球T0319番はモビルアーマー『ステロイド』を撃退するためのモビルスーツ『獅電改』を起動する呪文を唱える。

 

「Ride on!」

 

鉄血球専用のモビルスーツ『獅電改』は格闘専用の槍『パルチザン』を構え、モビルアーマー『ステロイド』へと突撃する。

 

「俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!」

 

パルチザンの柄には伸縮機能が備わっており、状況に応じて破壊力を優先するか取り回しを優先するかを選択出来る。

 

鉄血球T0319番は限界まで伸ばして破壊力を優先させたパルチザンでモビルアーマー『ステロイド』を突き穿ち──

 

モビルアーマー『ステロイド』はその機能を停止させた。

 

ハァハァハァハァ……。

 

 

……確かにモビルアーマー『ステロイド』はその機能を停止させた。

 

だが、鼻の穴のトンネル付近の街は荒れ果て、瓦礫の山となってしまった……。

 

「なんだかんだでアレルゲンも自然消滅したし、アレルギー反応も落ち着いた……。皆も和解出来たし……いやぁ、良かった良かった」

 

そういう白血球U1146番の目は笑ってはいなかった……。他の皆もそうだ。

 

「ホント、良かったな」

「俺……今日のこと……しっかり記憶しておくよ……」

「あぁ、忘れるんじゃねぇぞ……」

 

 

 

ステロイドの副作用。ステロイドの長期投与や大量投与により、副作用が起こる場合もある。

 

みなさんも薬の用法・用量はしっかり守りましょう。

 

 




元動画とは?

鉄血球の溶血回数がめっちゃ多くなった気がするんですけど、多分気のせいですね(笑)

最後の思い出死はカットしました。最後は元アニメのはたらく細胞らしく真面目に締めたいなぁ……と思ったので。


ホント、薬の用量は守らないと大変なことになるので、必ず守って下さい。

早いと二月くらいから花粉も舞い始めるので、皆さんも花粉には十分お気をつけ下さいね。

それと今、インフルエンザも流行っているので、体調にはお気をつけて。


「だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

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