響オルタさんは怨讐の化身を呼んでしまったようです 作:まだお
あのやさぐれた感じがうまく表現できなくてすまない…
あと評価と誤字脱字報告ありがとうございます。
軽く逝きました。
戦国マリアさんのために私の諭吉さんも逝きました。
ある日突然現れた黒衣の外人さんは、身体の痛みから動くことの出来ないわたしの頭に手を乗せるとぼそぼそと何か呟いた。
なんて言ったのかは分からなかった、少なくと日本語じゃなさそう?
外人さんの手が急に光ったと思ったら体の痛みがなくなっていた。
ちがう、痛みだけじゃなくて体の怪我までなくなってる。
わたしが驚いて自分の体をあちこち確認しながら立ち上がると、外人さんはどこからか取り出したタバコに火をつけてひと息入れる。
…タバコ臭い…
「これは契約の前金というやつだ娘。少なくとも会話できる程度には立ち直っただろう?」
外人さんは煙を吐きながら不敵に笑った。
ノイズを消滅させたことといい、わたしの怪我を一瞬で治療したことといい一体何者なんだこの人。
何かを追ってきたと言っていたし目的があってここに来たのは間違いないんだろうけど…
「…怪我の件についてはお礼を言います。でも、仮初のマスターとか契約とかどういうことですか?」
わたしは警戒しながら外人さんの動向を探る。
多分、今の私よりこの人の方が強い。
無償で誰かを助ける人なんていない、少なくとも私に手を差し伸べてくれた人は今までいなかった。
きっとこの人も何か裏があるに決まっているんだ。
「ふむ、それを説明するならばどこか腰を落ち着ける場所が必要だろうな。娘、どこぞ話のしやすい場所へ案内するがいい。あぁ、それと俺は別に構わんが少なくとも人目にはつかない方が良かろう」
あんまり沢山の人には話を聞かれたくないということなのかな。
正体や目的の分からない人と行動することに抵抗はあるけどそれ以上にこの人には聞きたいこともある。
「分かりました。ついて来てください」
場所については少し悩んだけど結局わたしは自分の住む寮へと案内することにした。
ここなら他の人を気にする必要もないし、何かあっても巻き込まれるのはわたし1人だと思う。
言い訳が面倒くさいし途中警備員の人達に見つからないか心配だったけど、どういう訳かわたし以外の人がこの人に気づくことはなかった。
「本来であれば懇切丁寧説明などはしないが…今回は初回サァビスという奴だ。かのファリア神父、とまではいかずともお前を少しだけ導いてやろう」
部屋に着くなり遠慮もなし男の人はソファーに腰をおろす。
今までは一応年上みたいだから少しは気を使ってたけど、あんまりその必要はなさそうだ。
ソファーが気に入ったのだろうか、何だか上機嫌みたいだし。
「…まずはあんたについてから教えてよ。少なくとも唯の人間、じゃないよね」
「俺は英霊だ。もっとも本体という訳ではなく座に記録された分身のようなものだが。呼び名についてはアヴェンジャーと、そう呼ぶがいい」
それからこの人ーアヴェンジャーは自身のことや今回の彼の目的について語り始めた。
話を要約するとあのイカのようなノイズは元々、彼らが追いかけていた敵らしい、こことは違う世界で戦っていたら逃げられちゃったから追いかけて来たんだって。
その話の流れで英霊についても説明を受けたけど…正直言ってこれについてはよく分からない。
何となく過去に何か凄いことをした人の幽霊みたいなもの、と覚えたけどアヴェンジャー曰く厳密には違うらしい。
唯、今回は他の英霊が出張って来ることはないだろうから差し当たってそれでいいとのこと。
違う世界とか英霊とかとても信じられないようなことだけど、シンフォギアやノイズがいるんだしそういうのがあっても不思議じゃない、のかな?
考えても分からないことだしそういうものなんだろうと自分を納得させる。
それよりもわたしが気になったのは、サーヴァントとマスターの関係についてだ。
彼が戦ったり、行動するにはマスターからの魔力供給?が必要なんだけど今は本来のマスターとの契約がなくなってしまって満足に補給が出来ない状況らしい。
その代わりとしてわたし(装者)という仮初のマスターが必要になった、と。
なるほど、何でわたしを見ず知らずのこいつが助けたのか納得できた。
要は自分が行動するのに必要な駒(もの)を守っただけなんだと思う。
理解すると同時に少しだけ胸が痛んだ気がした。
結局こいつにとって大切な誰かの代わりが必要だっただけで、わたしじゃ無くても良かったんだ。
ただ都合が良かったから手を貸しただけ…と、そこまで考えてから自分に驚く。
まだ、他人に期待する心があったんだ。
あれだけ裏切られて、あれだけ絶望したのにまだそんな弱い心が!
わたしは一度だけ頭を振ってアヴェンジャーを見た。
「さっきの事についてはお礼を言う、ありがとう。でも仮初のマスターとか契約とかそう言うのは嫌。わたしは1人がいい、1人でいいの」
少しだけ罪悪感はあるものの、やっぱり他人と行動してまた裏切られるなんて事になるくらいだったら最初から1人の方がいい。
アヴェンジャーの話が本当なら彼の状況的にわたしを裏切って行動することにあんまりメリットはないような気がする。
ただそれでも今のわたしには誰かと行動を共にするというのは難しいものだった。
この人からすれば、お願いをはっきりと断られたんだから少しは怒っているかもと思ったんだけど特に気にした様子もない。
「ふむ、そうか…。しかし、今のお前だけで魔神柱、いやノイズと言ったか?アレを相手にするのは不可能だろう」
その言葉にわたしは口をきゅっと噛み締めた。
確かにアヴェンジャーの言う通りだ。
今までのノイズ相手なら負ける気はしないけど、今日初めて見たあのイカのようなノイズには…
「案ずるな、お前には幸いにして格闘の才がある。今はまだ経験が足りぬ故に不覚をとることもあろうが、いずれは1人で討ち果たすことも出来るようになるやもしれん」
「…」
「もっとも、それまで敵は待ってはくれぬだろうがな。お前が奴らを脅かす可能性を見せたならば必ずそれを摘み取りにくるだろう、アレは狡猾だ」
アヴェンジャーの言葉には…悔しいけど納得できた。
今日、戦ったノイズには他のノイズとは違い知性のようなものを感じた気がする。
もし、それが間違いじゃないなら優先的に未熟な装者を狙って来ても不思議じゃない。
わたしから全てを奪ったノイズ、あいつらにまた何かを奪われるのだけは死んでも嫌だ!
そう遠くないうちに訪れるであろう未来に悔しさをにじませるわたしを見てアヴェンジャーはまた、不敵な笑みを浮かべた。
「だから案ずるなと言っている。お前に足りぬ経験と時間、それを俺が埋めてやろう。初めから言っていただろうお前の怨讐に手を貸す、とな」
この人の言葉には不思議と嘘がないように感じる。
だからと言って正直者という訳じゃないのだろうけど。
わたしはあの時から今まで誰にも助けてもらえなかった。
だからいつしか誰かを信じることをやめた。
人を信じなければ、期待しなければ裏切られないから。
最初から1人でいれば1人になる辛さを知らないで済むから。
途中で1人にされるくらいなら最初から1人でいた方が良かった。
その思いは今も変わらない。
だけど、それでも、何も出来ないままノイズにやられるなんて嫌だった。
それにほんの少しだけ、他の人とは違うこの人(アヴェンジャー)をもっと見てみたいと知りたいと思った。
だから
「響、わたしの名前は立花響。…あんたがノイズを倒せるように手伝ってくれるって言うならマスターていうのになってもいい」
「クハハハ!歓迎するぞ、我が仮初のマスターよ!今宵は我らが怨讐の彼方へと至るための記念すべき一夜だ!」
アヴェンジャー(復讐者)を名乗る彼の手を取ろう。
うん、あんまりシリアスブレイク出来てないネ!
次こそは…