響オルタさんは怨讐の化身を呼んでしまったようです 作:まだお
私も触りたいです(真顔)
「L!O!V!E!マ・リ・ア!L!O!V!E!マ・リ・ア!」
私は計画遂行の一環として歌手として行動することになった。
それは概ね成功していると言っていいだろう。
「こら!会員ナンバー12番声が小さいぞ!もっと、もっと熱くなれよ!」
「Yes, Sir!」
私が歌姫なんて務まるのか不安だったけど、今もこうして大勢のファンの人達がライブを観に来てくれている。
「スパルタ式ブートキャンプを乗り切った君達ならもっとやれる!頑張れ、頑張れ!諦めんなよ、どうしてそこでやめるんだ!」
歌手というのはあくまで仮初の姿に過ぎない。
私達の本当の目的を達成するための言わば影のようなもの。
それでもこれだけ人が私の歌を聴きに来てくれるのは素直に嬉しかった。
「諦めなければ必ずできる!だからこそネヴァギブアップ!さぁ!皆んなで一緒に!」
「「「L!O!V!E!マ・リ・ア!」」」
…でもこの熱気は少し怖い。
何故かあの人はほぼ毎回、筋骨隆々な男性をまとめて最前列に陣取っている。
きっかけは最初のライブで思ったように人が集まらず、私が少しだけ落ち込んだことだったと思う。
彼は次のライブから数人の固定客を連れてくるようになった。
国籍も年齢もバラバラに見えるその人達をどうやって連れて来たのかは分からないが、私のためを思っての事ということだけは伝わって来てとても嬉しかった。
ただその人数は回を重ねるごとにどんどん増えていった。
いや、増えるだけなら単純に嬉しいのだけど…何故か彼が連れてくるファンの人達は日に日に逞しくなっていくのだ。
その変化は最初は病弱そうだった少年も今ではボディビルダーと見間違うほど。
一度彼にどうしたのかと聞いたら「マリアがメジャーになるに連れてライブも激しくなっていくからネ!俺達ファンクラブの人間もそれに応えれるように鍛えたんだ。こう見えてスパルタ式には一家言あるよ」といい笑顔で答えられてしまった。
その当時の私は彼があまりにもいい笑顔で返事をするものだから「そうなの、頑張って」としか言えなかったが…
今思えばどう見ても日本人の彼が、何で古代ギリシアに存在してたはずのスパルタについて精通しているのか疑問しか浮かばない。
というか彼は本当に日本の人なのだろうか?
見た目は日本の少年にしか見えないが、彼の口からはローマだったりギリシアだったりウルクだったりと土地も時代も離れているにもかかわらずそれらの名前がよく出てくる。
生前の縁と彼は言うが一体どんな人生を送ったのだろう。
彼のことについて考えていたら私がステージに出る時間が来てしまった。
いつも緊張してしまいそうになる時に限って、彼らファンクラブの人達の雄叫びが聞こえてくるのはわざとなのだろうか。
…わざと何でしょうね。
あの人はいつもふざけてるようだけど、支えてほしい時には必ず側にいてくれる。
だからこそわたしは彼に、いや彼らには最高のステージを見せてあげなければならない。
この姿が仮初で、いつの日か消えてしまう幻想なのだとしても、せめてその日まではわたしは歌姫として振る舞おう。
「お疲れ様、マリアさん。これタオルとドリンクだよ」
「ありがとう、ぐだお。でも次からはもう少し大人しくしててもらえると嬉しいわ」
わたしは彼からタオルとドリンクを受け取って喉を潤す。
程よく冷えたドリンクがライブで火照った体に染み渡り気持ちよかった。
「いつもぐだお達ばっかり最前列で見ててずるい」
「そうデスよ!偶には私と調にも席を譲るデース!」
今日のライブを終えた私達は、本当の関係者だけが立ち入るのことのできる部屋で寛いでいた。
ぐだおに対して口を尖らせながらつめ寄る2人を見ていると、何だか仲のいい兄妹を見ているようで微笑ましい。
「そうは言うけど、二人共まだ目立つ訳にはいかないだろう?なら必然的に計画にはいてもいなくても変わらない俺が盛り上げ役にはベストなんだよ」
そう言う彼の言葉に2人はぐっと言葉を詰まらせる。
たしかにぐだおのことは今後の戦力としてあまり考えていない。
というのも彼自身の戦闘能力は決して高くないからだ。
以前、マムが彼の力を見てみたいという事でたまたま出現したノイズ相手に戦ってもらったのだけど、結果はあまりいいものではなかった。
ぐだおは敵の動きを僅かに止めたり、味方の能力を上げたりするのは得意なようだけど、攻撃手段がとにかく乏しいみたい。
その時もノイズの動きを止めて高いところに登ってからのボディプレスで決着をつけたのだった。
普通の人間ならそれでも十分凄いと思うけど、彼自身から説明された英霊なる存在と比較すると少し物足りないように感じてしまう。
マムも最初は期待していたようだったけど段々と額に青筋が浮かんでいったのを覚えている。
ぐだおもぐだおで、無理をしないでねと言った私達に対して「別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」と言ってたのに帰ってきたら息も絶え絶えだったし。
ただ、それに反して娯楽の少ない施設で育った調や切歌は、初めて見るプロレス?に喜んでいた。
…その、私もあまりそういったものをテレビで見た事がなかったから少し、ほんの少しだけはしゃいでしまったわ。
それから仲良く4人でマムからお説教を受けたのだけども。
とにかくそういった経緯もあって、直接の戦闘が得意ではなく装者でもないぐだおの事は主戦力には数えていない。
ただ、ぐだおの使う不思議な技には味方の能力を上げる強力なものもあるため完全に戦力外というわけではないのだけど。
「うぅ〜、だいたいぐたおはいつもどうやって席を確保してるデス?」
「そうだね、ぐだお1人だけならチケットを手に入れるのも難しく無いと思うけどあの人達の分はどうしてるの?」
「ふっ、愚問だね2人共。彼らは俺のスパルタ式ブートキャンプを乗り切った猛者だよ?彼らにとって今では入手困難とされる最前列席を確保するのなんて朝飯前さ」
私が昔を思い出している間も3人はライブについての話を続けていたらしい。
「でも毎回毎回あんな人達が前にいるんじゃ他のお客さんも怖がるんじゃないデスか?」
「大丈夫だ、問題ない。彼らは何よりもマリアさんを優先するように考えてる。だからこそライブが始まれば静かに歌を聴くし、ライブの後もゴミ拾いや席の後片付けは積極的に行う。他の人達からはむしろ好評なんだよネ」
「たしかに…あの人達いつも最後まで残って忘れ物やゴミの確認してるね」
そう言えば彼らは確かにいつも遅くまで残っている。
脳みそまで筋肉になってしまったような人達の意外な一面を知った瞬間だわ。
今度からはもう少しだけ怖がらないように努力を…いや、無理、やっぱり無理。
いくら何でもアレに慣れるのは時間が必要よね…
「そう言えばマリアさん。当面の目標である風鳴翼さんとのコンサート、目処がつきそうなんだって?」
「ええ、この調子でいけば後一月もあれば叶うと思うわ。…時間がかかってしまったけど、これでようやく本来の目的へと進める」
ぐだおの言うとおり今の目標は風鳴翼との合同ライブを果たすこと。
それから私達は世界に対して宣戦布告を行う。
その為の下準備も水面下で進めてきた。
知らずみんなの体に力が入る、その時が来れば今までの生活は終わり戦いの日々が幕を開けるのだ、少しばかり緊張してしまっても仕方無いと思う。
「あはは、少しだけ…本当に少しだけですが今の日常が終わってしまうのは何だか寂しいデスね!マリアが歌って、私と調がそれを聞いて、ぐだおが応援する、それなりに楽しかったデスよ」
「切ちゃん…うん、そうだね」
悲しみを隠すように笑う切歌に調が寄り添う。
切歌の言っていることも分かる。
私自身、今の日常が終わってしまうのは寂しく思わなくもない。
それでも私達にはやるべき事がある。
そう…よね、セレナ。
「おやおやぁ?そんな覚悟では世界を守る事なんて出来やしませんよ。世界の求める英雄とはそんな脆弱なものではないのですから」
胸のガングニールに目を向けていた私は、部屋の入り口から聞こえてきた声に視線を向ける。
私達へと声を掛けてきたのは、計画遂行のために味方に引き入れた研究者ウェル博士だった。
「べ、別に少しくらい感傷に浸ってもいいじゃないデスか!私達だってその時が来れば覚悟を決めるデスよ!」
「その時がくれば、ですか。何とも安っぽい言葉ですねぇ。世界を救わんとする英雄ならば常にその覚悟をもって然るべきでしょう、そうこの僕のようにね」
ウェル博士の言葉に切歌が言葉を詰まらせる。
色々と言い返したいこともあるのだろうけど、弱音とも取れる言葉を聞かれた手前言い辛いみたいね。
よく見れば目元に少しだけ光るものが見える、後で慰めてあげないといけないわ。
その為には少しでも早くこの人から立ち去ってもらわないといけない。
そう思った私がウェル博士に用件を聞くより早く、調が右手を伸ばしてウェル博士を指差していた。
「ぐだお、ごーだよ」
「ヒャッハァァァ!素材をよこせバルバトスぅぅぅ!」
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?き、君は何でいつも僕を見ると襲いかかってくるんだ!や、やめろぉ!白衣を引っ張るんじゃない、マ、マリア!見てないで彼を止めてくれぇ!?」
まるで豹変したかの様にして博士に襲いかかるぐだおを見て呆気にとられた私は、彼の助けを求める声に暫く反応する事が出来なかった。
切歌も私同様に呆然としていて反応できておらず、調に至っては満足気に頷いている。
我に返った私がぐだおを止めたのは博士がボロボロになってしまってからだった。
ぐたおを羽交い締めにして何とか引き剥がすと博士はよろよろ立ち上がり、眼鏡をかけ直す。
「くっ、こんな野蛮な人間が名だたる英雄と肩を並べて戦ったとは実に信じ難い!しかし、彼の話に出てくる英雄達は神話や逸話と照らし合わせても矛盾しない、それどころか新たな解釈や発見もあり実に有意義なものではある…。と、とにかく、僕は一度自室に戻るからしばらくしたら、そこの男に部屋に来るように言っておいてくれたまえ!」
逃げるようにして部屋から出て言った博士を見て、ようやく落ち着いたのかぐだおが大人しくなる。
ぐだおったら、初めて博士に会った時もいきなり飛びかかったのよね…
その時は、「この声でこの風貌、間違いない。序章あたりで裏切らるネ、こいつは」なんて言ってたし、博士が英雄に憧れてるて知ったら「ガーチャーズアイ発動!…見えた!英雄ランクF」とか言って怒らせるし。
とにかくこの2人は一緒にすると危険なのだ。
ただ、ウェル博士はぐたおの生前の話に興味があるらしく、暇を見つけてはぐだおから英雄の話を聞こうとしてる。
ぐだおはぐだおで、博士に何かをお願いしてるようでしぶしぶだけどそれに付き合ってる事も多い。
まぁ、今回みたいに博士が切歌や調、それから…私を馬鹿にするとどこからか現れて襲いかかるのは変わらないんだけど。
調に至っては時々、自分からぐたおを仕掛けさせようとするし困ったものだわ。
…決して口には出さないけど、ぐだおが最近博士に噛み付くのは私達が馬鹿にされている時だけだから少しだけ嬉しくはあった。
「ふぅ…落ち着いた?あなたの気持ちは嬉しいけど、生身の人間なんだし無茶をしてはダメよ?」
「あぁ、分かったよマリアさん。ところでこのハグについて何だけど、マシュマロ的な何かが俺のビーストを目覚めさせそうなんでムーチョムーチョ」
「っ!」
「おー、切ちゃん見て、ぐだおのほっぺに綺麗な紅葉が出来たよ」
「デェス!これが侘び寂びというやつなんデスかね?」
ぐだおさんは基本性能底辺クラスのサーヴァントです。
普通に殴り合うなら装者の方が強いですし、運用方法としては作家系キャスターに近いかもですね。
CCCキアラよろしくマスターが闘ってサーヴァントがサポートするスタイル。