~ 凱斗 SIDE ~
「やっぱり無理ね」
「まいったな……」
俺、
俺と美波が態々来るまでの用事ではなかったのだが『孫の顔が見たくてな』という、爺さんのわがままが本当のところだ。
帰り際に『次は曾孫を……』とかいう戯言を言いかけたが、母さんたちが黙らせた。
そんなこんなで用事も済んだし、早々と帰国しようとしたのだが……
「大寒波にぶつかるとはね」
「飛行機が飛ばないと帰れないな」
何年に一度とかの規模の大寒波が直撃して足止めされている。
こっちに着いたときからこの時期にしては少し寒く、寒波の影響だとは聞いていた。
しかし、交通機能を麻痺させる規模の大寒波になるとは思わなかった。
「自然の力は恐ろしいな」
「感心している場合じゃないわよ。このままじゃ間に合わないわよ」
美波がイライラするのも仕方ない。
この大寒波が収まるのを待ってから帰国したのでは振り分け試験を受けることができず、俺と美波はFクラス決定だ。
それだけは回避したいところだが……
「よし、あの人に電話してみよう」
それ以外に手はないな。
『はい、藤堂です』
『ああ、婆さん。凱斗だ』
『どうしたんだい。そっちのジジィが何かやらかしたかい?』
『それは大丈夫だ。何かあっても母さんたちがどうにかしてくれるから』
『それもそうだね。それじゃ、ほかに何かあったのかい?』
『ああ、実は大寒波の影響で振り分け試験前に帰国できそうにないんだ』
『それは困ったね。でも、助けてあげることはできないよ。今回の件は私にも責任はあるが、
特別扱いはできないよ。すまないね』
やはりそうだよな。
これで俺と美波はFクラス決定か……あっ、そうだ!
『だったら婆さん、補充試験を受けさせてくれないか?』
『補充試験?それだったら問題ないよ』
『それじゃお願いするよ』
『目的はアレかい?』
『もちろん。アレ以外に理由はないよ』
『やれやれ、四月から忙しくなりそうだね』
『研究者冥利に尽きるだろ』
『そうだね。まずは無事に帰ってくるんだよ』
『ああ、帰ったら連絡するよ。それじゃ』
これでよし。あとはあいつに知らせればいいだけだな。
「美波。こっちにいる間は勉強するぞ」
「別にいいけど、なんだか楽しそうね」
楽しそうか……そうかもしれない。
最低クラスからの下剋上、悪くないな。
~ 重晴 SIDE ~
「今日はこれぐらいでいいでしょう」
「うーん、ガチガチだよ」
「そうじゃな。肩が固まってるの」
僕、
「でも、重晴に教えてもらってから勉強に集中できるようになったよ」
「以前はわからなかった授業にもついていけるのじゃ」
「僕なんか真面目に授業を受けていたら先生が驚いていたよ」
どうやら教えたことは身に付いてるようですし、これならば問題ないですね。
「この調子なら明日の振り分け試験は大丈夫そうだね」
「さすがにAクラスは難しいと思うけど、Fクラス直行だったことを思えばすごく楽しみだよ」
「うむ。ここまで楽しみな本番前は初めてじゃ」
楽しみか……それは二人の自信の現れですね。
こういった変化も含めて成果は上々、目的達成と言っていいでしょう。
明日の振り分け試験が楽しみですね。
☆ ☆ ☆
「気持ちのいい朝ですね」
春先のまだ冷たい空気が心地いいですね。
これなら試験に集中できそうです。
「今日は調子がよさそうね」
後ろからの声に振り返ると、秀吉の姉の木下優子が近づいてきました。
「おはよう、優子。今日は秀吉と一緒ではないんですね」
その一言で優子の表情が曇りました。
おやおや、また喧嘩ですかね。
「秀吉は風邪よ」
「風邪!?秀吉が!」
「ええ、どうしてもテストを受けに行くんだと言ってたけど説得して休ませたわ」
「そっか……」
「悪いわね。せっかく重晴が勉強を教えてくれたのにこんなことになって」
「優子が謝ることじゃないですよ。酷かもしれませんが、今は試験に集中しましょう。悪い結果になったら秀吉は余計に気落ちするでしょう」
「それもそうね。秀吉に余計な気を使わせたくないわ」
優子はうまく気持ちを切り替えられたようですね。
それじゃ、気持ちを入れなおして集中していきましょうか。
~ 明久 SIDE ~
今日の僕は人生で一番絶好調だと思う。
今までの勉強の成果を実感できるほどに解答欄はスラスラと埋まっていく。
これも重晴のおかげだ。
いつも助けてもらってばかりで感謝してもしきれないぐらいだ。
どこかで恩返ししたいけど、まずは試験の結果でこたえるとしよう。
そんなことを思っていると。
ガタン!
突然の大きな音に顔を向けると、幼馴染の姫路瑞希が倒れていた。
「瑞希さん!?」
駆け寄って顔を覗き込むと、顔がいつもより赤くて少し汗ばんでいた。
「姫路、途中退室は無得点扱いになるが保健室に行くか?」
「……はい」
「吉井、お前は席に戻れ。本来なら席を途中で立ったお前も無得点扱いだが多目に見よう」
見下しているように聞こえた。いや、見下しているのだろう。
僕は学園最低の観察処分者だから見下されてもしょうがない。そんな最低の人間でも今どうするべきかはわかる。
「わかりました。姫路さんを保健室に連れていきます」
「あ、明久君、私はだいじょ……」
「おっと、危ない」
無理に立とうとしてふらついた瑞希さんを受け止めた。
「いいから、一緒に行こう」
「……はい」
僕は瑞希さんを連れて教室を出た。
「おい、吉井!後悔しても知らんぞ!」
あんな教師の言葉なんて気にしない。
苦しんでいる幼馴染を見捨てること以上の後悔なんてあるはずがない。
ただ一つ、もう一人の幼馴染に対して謝らないといけない。
ごめんね、重晴。試験の結果ではこたえられなくなったよ。
ここでオリ主となる二人の簡単な紹介です
黒田凱斗(クロダカイト)
ドイツ人とのハーフで美波と幼馴染である。
竹中重晴(タケナカシゲハル)
明久と瑞希とは小学校からの付き合いで、木下姉弟とは親同士が親友で家族ぐるみの付き合いによりそれぞれと幼馴染である。
細かい設定は一応決めてありますが、読者の皆さんの先入観をなくし、私自身がその設定にとらわれないようにするため公開しないことにしました。
私の文章で二人の人物像がうまく伝えられるよう努力しますのでよろしくお願いします。