~ 重晴 SIDE ~
ここは本当に教室なんでしょうか?
教室の広さ、黒板ではなく巨大なディスプレイ、さりげなく飾られた絵画や観葉植物など高級ホテルのロビーと言われたほうが納得します。
世界中を探してもこれほど豪華な教室はないでしょうね。
少々圧倒されましたが、快適には過ごせそうです。
そして、2年生最初のHRが始まりました。
「皆さん進級おめでとうございます。私はこの二年A組の担任の高橋洋子です。よろしくお願いします」
教壇に立っていた高橋先生の名前と顔写真がディスプレイに表示されました。
その画面の鮮やかさからハイビジョン対応のLEDディスプレイだと推測されますが、あの大きさだといくらぐらいするのでしょうか?
「まずは設備の確認をします。ノートパソコン、個人エアコン、冷蔵庫、リクライニングシートなどの設備に不備のある人はいますか?」
一人の生徒への設備じゃないですね。
ノートパソコンを支給するところはあるかもしれないですけど、個人エアコンなんて初めて聞きました。
「教科書などの学習資料はもとより、冷蔵庫の中身に関してもすべて学園が支給いたします。他にも何か必要なものがあれば遠慮などせずに申し出てください」
至れり尽くせりですね。
しかし、この設備をきちんと使いこなせないと意味がないですね。それどころか堕落する可能性もあります。
使いこなしてこそのAクラスといったところですかね。
「では、はじめにクラス代表を紹介します。霧島翔子さん。前に来てください」
「……はい」
先生に呼ばれて前に出たのは長く艶やかな黒髪が特徴的な美少女。
「……霧島翔子です。よろしくお願いします」
彼女が霧島さんですか……意志の強い目をして、立ち振る舞いに品がありますね。
いろいろと噂はありますが、才媛であることは間違いないようですね。
「Aクラスの皆さん。これから一年間、霧島さんを代表にして協力し合い、研鑽を積み重ねてください。そして、これから始まる『戦争』でどこにも負けないように」
できれば穏やかに過ごしたいんですけど、Aクラスは常に狙われる立場ですから難しいでしょうね。
「それで廊下側の人から自己紹介をお願いします」
その時のためにどんな人がいるかを把握するとしましょう。
「文芸部に所属している
少々おとなしい感じですね。
「木下優子です。これからよろしくお願いします」
優子は真面目ですね。優子らしいですけど。
「一年生の終わりに転校してきた工藤愛子です。趣味は水泳と音楽鑑賞で、スリーサイズは上から78・56・79、特技はパンチラで好きな食べ物はシュークリームだよ。よろしくね」
元気があって好印象ですね。でも、その趣味は今すぐやめた方がいいですね。
「久保利光といいます。これからの一年よろしくお願いいます」
久保くんも真面目ですね。
☆ ☆ ☆
「……と言います。これからよろしくね」
さて、僕ですね。
「竹中重晴です。堅苦しいのは苦手なので気楽にお願いします」
優子が『挨拶ぐらいは真面目にやりなさい』と、言いたげな表情ですね。
でも、第一印象だからといって取り繕うのは何か嫌です。
いつでも自分らしく、自然体でいるのが僕ですから。
その後も自己紹介は続いていきました。
全体的に真面目な印象を受けましたが、あくまで第一印象です。
これから皆がどういった色を見せていき、クラス全体がどういった色になるのか、楽しみですね。
「全員の自己紹介が終わりましたので……失礼します」
突然、高橋先生の携帯電話が鳴り、先生は素早く画面を確認してポケットにしまった。
「FクラスがDクラスに宣戦布告をしましたので、午後の授業は自習にします」
速攻ですか……初手はそうなりますよね。
さて、どういった道で来ますかね。
~ 凱斗 SIDE ~
FクラスのHRが始まったが、まだ一人だけ来ていない。
その一人がいなくてもやりようはあるが……
「あの、遅れて、すいま、せん……」
やっと来たか。
「丁度よかったです。自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします」
「は、はい!姫路瑞希といいます。よろしくお願いします」
「はいっ!質問です」
「な、なんですか?」
「どうしてFクラスにいるんですか?」
常に学年一桁の順位の姫路は普通ならここにはいない。
「試験の最中に高熱で途中退室してしまったので……」
途中退室は0点になり、Fクラス決定ということだ。
姫路には悪いが、俺にはありがたい話だ。
『俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』
『俺は弟が事故にあったと聞いて動揺したから』
『前の晩、(画面の)彼女が寝かせてくれなくて』
このクラスが想像以上のバカばかりだということは不安だが、そういった人間のほうが動かしやすく、これはこれで良しとしよう。
「えー、皆さん静かにしてくださいね」
バキッ、バラバラバラ……
俺の目の前で教卓が文字通り崩壊した。
西村先生が叩いたなら納得したかもしれないが、叩いたのは福原先生だ。
いくらFクラスとはいえ、ボロボロ過ぎる。
「えー、替えを用意してきますので、少し待っていてください」
先生は足早に教室を出て行った。
「雄二、ちょっといい?」
それを見計らったかのように明久が雄二に声をかけた。
「ん?なんだ?」
「ここじゃ話にくいから、廊下で」
「別に構わんが……凱斗、お前も来い」
雄二は明久が何を話すかわかっているようだな。
「んで、話って?」
HR中の廊下に人影はなく、これからの話をするにはうってつけの場所だ。
「あのさ、試召戦争をやりたいんだ。それもAクラス相手に」
やはり、明久も試召戦争を望んでいたか。
「何が目的だ?」
「こんな設備じゃ体調を崩す人が出ちゃうよ。だから少しでもいい設備にしたいんだ」
なるほど……
「つまり、姫路のためだな」
「違うよ凱斗、僕は体調を崩す人を防ぐために……」
「それはつまり、振り分け試験を途中退室した姫路のためだ。目標をAクラスにしたのも、姫路の学力を考えたからだ。そうだろ?」
「……」
本当に明久は解りやすいな。
「まぁ、明久が言う前に俺と凱斗はAクラスを目標に試召戦争をやるつもりだけどな」
「えっ、そうなの?」
「ああ。最低クラスからの下剋上をしようと思っていたからな」
「まぁ、そういうことだ」
「それじゃ、僕が提案する意味はなかったんだ」
「そんなことはないぞ。お前のやる気を知れたからな」
どんな理由であったとしても、やる気があることはいいことだ。
「そろそろ先生が戻ってくるし、教室に入るぞ」
そして、先生が教室に戻り、自己紹介は続いた。
「最後に代表の坂本君、お願いします」
「了解」
ゆっくり、そして堂々と教壇に歩み寄るその姿は代表に相応しい雰囲気が出ていた。
そして教壇に上がり、こちらを見た表情は自信に満ちた強気な表情だった。
「坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも好きなように呼んでくれ。さて、皆に聞きたいことがある」
その言葉には普段の雄二からは感じられない重みがあった。
「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが……不満はないか?」
『『『『『大ありじゃぁっ!!』』』』』
こんな設備で満足できる奴はいない。
「俺も皆と同じく、この現状は大いに不満だ」
『そうだそうだ!』
『設備に差をつけるにしてもこれはやり過ぎだ』
不満の声が次々と上がっていく。
皆が思っていたことを聞いたのだから当たり前だ。
当たり前だからこそ、簡単に扇動できる。
「そこでだ!これは代表として提案なんだが――」
意思の方向性が統一ができれば――
「FクラスはAクラスに試験召喚戦争を仕掛けようと思う」
戦争の引き金を引くだけだ。