~ 凱斗 SIDE ~
普通に考えたらAクラスへの宣戦布告は現実味のない戯言だ。
『無理だ』
『勝てるわけがない』
『姫路さんがいるだけでいいじゃないか』
『島田さんに罵られたい』
変な奴も混じっているが最初から諦めモードだな。
さて、雄二はどうやるかな。
「いいかお前ら、このクラクスには試験召喚戦争で勝てる要素がそろっているんだ。それを今から説明する」
勝てる要素か……確かに揃いすぎてるな。
「おい、康太。畳に顔をつけて姫路のスカートを覗いてないで前に来い」
「……!(ブンブン)」
「は、はわっ」
あそこまで堂々とやっておきながら畳の跡を隠しながら否定する。
康太は相変わらずだな。
「まずは土屋康太。こいつがあの有名な、
「……!(ブンブン)」
ムッツリーニ。その名は男子生徒には畏怖と畏敬を、女子生徒には軽蔑を以て挙げられる。
『なん……だと……』
『実在したというのか!?』
『しかし、明らかな証拠を隠そうとしている……』
『ああ、その名に恥じない姿だ……』
そのムッツリーニとしての活動の産物である隠密性はいろんな局面で使える。
あの教科での勝負なら敵はいないし、本当に康太が味方でよかった。
「姫路のことは説明するまでないだろ」
「えっ?わ、私ですかっ?」
「ああ、このクラスの主戦力だ。期待している」
『そうだ。俺たちには姫路さんがいるんだ』
『姫路さんならAクラスとも戦える』
『姫路さんがいるだけで満足だな』
姫路をアイドルか何かと勘違いしてる奴がいるな。
「さらに黒田凱斗と島田美波は試験が受けられなかっただけで、この二人の実力もAクラスだ」
『おお、ドイツからの二人もか』
『Aクラス級が三人もいるということか』
『島田さんに踏まれたい』
美波に対して歪んだラブコールを送っている奴がいるが、そんな奴はツインドリルだけで勘弁してくれ。
「木下秀吉もいる」
『双子の姉は優等生だよな……』
『だったら弟も……』
秀吉の演技力はいろんな場面で使える。
でも、今の秀吉はそれだけではないんだよな。
「当然、俺も全力を尽くす」
『おお、なんだかやってくそうな気がしてきた』
『坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれていたはずだが?』
『マジかよ!?それじゃあ、実力はAクラスなんじゃないか』
『Aクラス級が四人もいるって、すごくねえか!』
ここまで士気を上げるとはとは流石だな。
「そして、吉井明久だ」
……シンッ――
まぁ、こうなるよな。
「ちょっと雄二!どうしてそのタイミングで僕の名前を呼ぶのさ!」
「皆が知らないようなら教えてやる。明久は観察処分者だ!」
『それってバカの代名詞だろ』
『俺たちの中で最低ということか?』
『観察処分者って、教師の雑用で物に触れるんだよな』
『でも、召喚獣で受けた苦しみは本人も受けるんだよな』
『ということは使えない奴が一人いるということだろ』
予想通り、ボロボロな言われようだな。
確かに観察処分者は教師の雑用をこなすために物に触れることができるが、痛みや疲れがある。
観察処分者の意味を考えれば当然の仕様だ。
だが、こいつらは明久のことを知らない。
そろそろいいよな?
俺が雄二に目配せをすると、雄二は静かに頷いた。
「静まれ!話は最後まで聞くものだ」
突然立ち上がって声を上げ、皆を黙らせると同時に注目させる。
「いいか。確かに明久はバカだが、皆の認識は間違っている」
そして、そのまま前に出て雄二の隣に並んだ。
「まず、明久の学力は最低でもCクラスレベルはある。因みに試験当日に休んだ秀吉も同じくらいだ」
『なん……だと……』
『吉井って、そこまでのレベルだったのか』
『木下も演劇だけじゃなかったんだ』
当然驚くよな。でも、これだけでは終わらない。
「そして観察処分者の利点として、この学年で召喚獣の扱いがトップクラスということだ。多少の点数差であれば逆転できるし、高得点で油断している奴のほうが好都合なぐらいだ」
『な、なるほど……』
『吉井って、凄い奴だったのか……』
先程の反応が嘘のように明久の株は上がっている。
よし、仕上げだ。
「そして、明久がFクラスに来た理由だ。明久は試験中に倒れた姫路を助けるため、途中退室して無得点になった。人を助けるためなら自分の身を犠牲にする。そんな明久こそ、男の中の男だ!」
『そんな奴だったとは……』
『俺たちの認識は間違っていた』
『こんなに大きな男がいたとは……』
こんなところだな。
(持ち上げすぎだ)
(まぁ、いいじゃないか)
あとはビシッとやってくれよ、代表さん。
「これだけの戦力が揃っているんだ。手始めにDクラスを落とす」
Dクラス、それは俺が事前に決めていたルートだ。
「全員筆を執れ!出陣の準備だ!」
『『『おおーーっ!』』』
「最低クラスからの下剋上、やってやるぞ!」
『『『『うおおーーっ!』』』』
やはり雄二は上に立つ器だな。
「須川、お前がDクラスへの宣戦布告の使者だ」
「坂本、下位クラスからの宣戦布告の使者は酷い目に合うよな」
「それは承知の上だ。だが、二年生最初の宣戦布告の大役を務めればお前の男が上がるだろ」
「須川、雄二の心意気だ。それに応えるべきだろ」
「ふっ、そこまで言われたら仕方ない」
「開戦は今日の午後だ。健闘を祈る」
「わかった。男須川亮、行ってくるぜ!」
俺と雄二に丸め込まれた須川は勢いよく飛び出していった。
「よし、凱斗たちは飯を食いながらミーティングだ。他の奴らも開戦前に飯を食っておけ」
そんな生贄を気にすることなく、俺たちは腹ごしらえをするのだった。
☆ ☆ ☆
屋上は雲一つない気持ちのいい青空で、幸いなことに誰もいなかった。
因みに雄二と康太は購買のパン、他は自分たちのお弁当だ。
「それで雄二、なんでDクラスが目標なの?」
「何やら凱斗と二人で決めているようじゃな」
そういや、この二人と姫路には説明してなかったな。
「凱斗はこのクラスの軍師だ。偶然が重なったとはいえ、この下剋上を実行できるのも凱斗のおかげだ」
「そいうことだ。それでDクラスに攻める意味はいくつかある。まずはFクラスを試験召喚戦争に慣れさせるためと、明久と秀吉と姫路に補充試験を受けてもらうためだ」
「ちょっと待って。凱斗と美波も試験は受けられなかったんだよね。補充試験が必要じゃないの?」
「俺と美波はすでに補充試験を済ませている」
「そういうことよ。ウチと凱斗が中心となって、Dクラス戦は戦うわ」
「用意周到じゃな」
戦争だから当然のことだ。
「まずは三人とも全科目の補充試験を受けてもらうんだが、姫路は終盤までに素早く、明久と秀吉は戦争を気にせずじっくりとやってくれ」
「それって、僕と秀吉はDクラス戦に参加しなくてもいいということ?」
「雄二よ。戦力は少しでも多いほうがいいはずじゃ」
戦力か……
「明久、秀吉。二人は各教科どれくらいの点数を自分が取ることができるのか、わかってるか?」
「「……」」
二人は勉強の成果を振り分け試験で発揮しようとしていたが、それはできなかった。
俺が最低でもCクラスレベルと言ったのは、明久たちの授業態度を雄二から聞いての推測だ。
「試験を受ければ今の学力が数字となって表示される」
「それはこのFクラスの戦力を俺たちが把握できるということだ」
己を知らなければ、適切な対処はできないからな。
「だから補充試験に集中してほしい」
「そういうことならわかったよ」
「うむ。試験で全力を出すのじゃ」
「二人の分は私が頑張ります」
「ありがとう、瑞希さん。無理はしないでね」
「心配いりませんよ」
姫路の体調は大丈夫みたいだし、問題ないな。
Dクラスに恨みはないが、勝たせてもらうぜ。