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結論から言うと、私たち双子は生まれた時から視覚と聴覚に異常があった。
私は目が。弟は耳が聞こえなかった。
…本来なら。
産まれてすぐ検査した時は、目が見えない、耳が聞こえないと診断されたにもかかわらず。私たちは、一度たりとも不自由だったことはなかった。
お互いが生きている。お互いが傍にいるというだけで、私たちは普通に生活できた。
私たちのタマシイが持つ性質が……欲望だったから。そのおかげというのも、あるのかもしれないけど。
私は目を閉じていても目が見えていたし、ソウマは何だったら耳がとっても良くて、いつだって音に人一倍敏感なのはあの子だった。
欲望のタマシイ。決意とよく似た性質。場合によってはいいものにも悪いものにもなる、発動条件が滅多に訪れないもの。
生きるための力。弱者にならないためには必要不可欠な力。…或いは、遠くて遠くて、自分の手で掴むにはあまりにも遠すぎる何か。そんなものを強く強く追い求める、何処までも本能的で原始的な欲。そんな欲にしか、このタマシイは反応しない。
だから、母さんの時も?
…でも、あのときはそんなことどうでもよくて。
私の腕の中であの子が赤黒く染まったあのときに。
黒も白も見えない、文字通り何も見えないあの視界になったときの感情は。
私は、今でもわからない。
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「さて。話し合いを始めようか、フラウィ。」
話し合いと言っても、落ちてからずっと話しかしてないんだけどね。
ニコッ!なんて擬音が付きそうなほど明るい笑みを浮かべた少女が、両手を合わせて顔の横に持ってきて首を傾げる。
可愛い子ぶったその仕草は、何も知らない人間。或いはモンスターの目には、あどけない少女のものに映るだろう。何分、彼女の顔は人間の美的感覚で言うと、大層な美人に部類されるものだから。
しかし彼にとって…鮮血のような目を伏せて笑う女は、得体のしれない化け物に思えた。
今見せるような、わざとらしく貼り付けたような笑みも。人のペースを乱すおちゃらけた態度も。時折表情を削ぎ落として言葉を吐き捨てる姿も。何もかもがどこか矛盾して見える。
話を聞くのは、遠いあの日に失った親友の手掛かりと、今まで通り好奇心のためだと彼は心の中で悪態をつく。
…だがその横顔が…地上のことを話す親友にそっくりだということを否めないフラウィは、確かにいたのだ。
…。
単刀直入に言おうか、と少女が笑う。それを眉間にシワを刻んだ花が黙って聞いている。
「私の共犯者になってほしいんだ。」
「…………はぁ?」
意味が分からない、と茎を揺らすフラウィにユウキがそれは当然だ、と笑いながら言葉を重ねる。
「何度も言った通り、この地下に存在する全てのモンスターを地上に出すことが私がここに来た目的なんだ。」
「それは、まぁ。…うん。」
「でも私別にそれが目的じゃない。」
「なんて?」
「ムカつくんだよ。ずっと。」
一瞬。ユウキからすとんと感情が抜け落ちた音がした。そんな気がした。
首を緩く傾けた彼女の髪がさらりと耳から落ちて、どこまでも無感情なその表情を、地上からの光が照らす。
「………まぁ。これが理不尽な怒りだっていうのは私もちゃんと理解してるからね。ここら辺でやめにしとくよ。君に言ってもどうにもなんないし。」
ふう。と一度目を伏せて、もう一度目を開いた彼女の目が正常…どこかに
あ、離れてたのか。とその様子を何となく感じ取ったユウキは苦笑しながら肩を竦めるも、すぐに咳払いをして続ける。
「私の目的は″復讐″だ。この地下に生きる全て…とまでは行かなくても、モンスターに復讐したい。
母さんは私たちの目の前で死んだ。日に日に痩せていって、ご飯を食べる量も減って、自分で歩けなくなって死んだ。美味しい美味しいって言って食べてくれてた私の手作り料理も戻すようになって、心から笑う回数も減っていって、眠る度に魘されて謝ってた。
…これで恨むなはさ。遺族として無理だろ。それで許せって、冗談キツいにも程があるよね~。」
へらへらと笑うユウキに何も返せず、フラウィはただバツが悪そうに目を逸らした。あんまりにも生々しいその言葉に、どことなく怒りを感じたからだろう。
「…まぁ、笑って言うべきことではないか。忘れていいよ。
私はモンスターひとりひとりの、失われたであろう『フリスクとの思い出』を戻して回る。手段はあるからね。そうして、地上に出す。
それが私にとっての、最高の復讐。
君には、それを見届けた上で、この世界をどうするかを決めてほしい。」
沈黙。長い沈黙が続く。夜が来たのか、地上から差す光がゆっくりと、消えていく。
花が口を開いて問いを投げかけ、人間の少女がそれに笑顔で答える。
「僕になんのメリットがあるの?」
「それは君が見つけること。このバグの裏に君の親友が絶対にいる。
君は親友に執着してるから、情報は喉から手が出るほど欲しいはず。いずれにせよ、地上に出てハッピーエンドを迎えたあと私は何も手出ししないから、この世界をどうしたいか決めればいいよ。」
「…ふうん。」
それならばと、フラウィが歪んだ笑みを見せてユウキを嘲笑う。
「なんでお前なんかに協力する必要がある?今ここでお前のタマシイを奪って神になれば、キャラに会いに行ける可能性だって今よりずっと上がる。キャラに会いに行って今すぐ事情を聴けば、お前についていく必要なんてなくなるだろ。」
暗闇の中で、花と少女が睨み合う。
というよりも、フラウィはユウキを一方的に睨んで、ユウキは笑顔でそれを黙って見つめているだけなのだが。
「そんなの、お前が一番わかってるだろ。
私のタマシイは不完全で、それもバグで出来たタマシイだ。仮に今私を殺して母さんのタマシイを奪ったとしても、何が起きるかわからない。お前は慎重で賢いやつだからなあ。リセットやロードが使えないこの状況で自分が死にかねない行動は取らないだろ。
それにさ。LVをジャンジャン上げてみたり仲良くなったりしてみたのって、結局のところ好奇心じゃんか。なら、退屈を感じてたお前がこの状況を楽しまないわけがない。
『先がどうなるかわからない物語』ほどわくわくするものって、ないだろ?」
…。
……。
………。
長い沈黙の末に、暗闇の中見つめ合うのにも疲れてきたのだろうか。押し黙っていたフラウィが大きなため息をついて、一言わかったよと呟いた。根比べはユウキの勝ちだったらしい。
彼女がいっちょあがりとガッツポーズをとっていると、最後にフラウィが尋ねる。
「お前の本当の目的って、何?」
ざあ、と風が通り過ぎる。闇の中で、ユウキの目が淡く青緑に光るのが見えた。
彼女から発せられた言葉を聞いて、絶句したまま沈黙を保っていた花がふと笑う。
「───ハハ。お前、イカれてるよ。」
「お互い様だろ?」
そうして二人は、共犯者となった。
オマケ
「そういえばあのいけ好かない兄骨を共犯者に選ぶ気とかなかったの?アイツの方が洞察力は上…」
「え純ッ粋にあのドグサレゴミ袋嫌いだから論外」
「ブッ、」
当然のように出てきた悪口と青筋を立てた笑顔がただただ愉快だった。フラウィが吹き出した。
「キャラクターとしては普通に好きだけどGルートで散々プレイヤーに向かってボロクソ言ってたのあれこの世界では母さんに悪口言ってたんだなって思うと前歯へし折って二度と笑えなくしてやろうかってくらい普通にムカつくから嫌い。」
「マジで取り繕わないとお前すごいな。」
「褒め言葉だよありがとう。あとアイツ無駄に話術上手いから何言ってもはぐらかされるだろうし不穏分子とみなされて殺されるとか嫌だし。それと、交渉の難易度としてはお前の方が楽だった。あとアイツHPクソザコじゃん。」
「シンプルに悪口でお腹痛くなるからやめてくれる?」
オマケのオマケの没文章↓
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