花と盲目のあんだーてーる   作:かげちゃん

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6.

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私たちが【ニンゲン】のような服装をしていた理由は…なんだっただろう。

母さんがいつもダサい横縞の服ばかり選んでいて…それをダサいと言った時の落ち込み顔に折れたのが、キッカケだった。気がする。

だって、ちっちゃい女の子みたいに俯いてしょんもりするんだもの。しょっちゅう、ソウマと「あれはずるい」と顔を見合わせて苦笑いしていた。

 

本当に、なんとなくとか、いつの間にかとか、そんなものだったと思う。

キャラと呼ばれる【最初のニンゲン】は母さんに何度も酷いことを言ったみたいだったし、私たちは正直嫌いだった。生前にアズリエルとやったことだって、ちょっと自分が賢いからって調子に乗った挙句自滅した、ただのクソガキにしか思えないんだもの。

「それでも、環境が違えば、きっと友達になれたと思うんだ」。私たちが彼女の膝の上で拗ねる度に、母さんはそう言って寂しそうに笑った。そうして、一人でまた静かに肩を落としていた。

その姿を見たくないのは、姉弟(きょうだい)揃って同じだった。

 

「私が【フリスク】でいいよね」

「じゃあ俺は【キャラ】」

 

「おしゃれはしたいよな」

「じゃあ横縞(よこじま)の色以外は自由にしよ」

 

「かみの毛はどれくらいがいいと思う?」

「かたにつかないならいいと思う」

 

「俺、ぜんぶ同じような緑と黄色はやだな」

「じゃあ、色のけいとうがあってればいいことにしちゃお」

 

小学校に入る年の冬。同じ布団の中で身を寄せ合い温もりを分かち合って、眠気が訪れるのを待ちながら手を繋いでいた夜。深夜になって目が覚めて、どちらからともなく話し出したのを、よく覚えてる。

髪形はどうしようか。可愛いものにしたいな。

明日のおやつはなんだろう。りんごが食べたいな。

今日は寒いね。雪は降ってるかな。

そうやって途中途中脱線しながらもいつの間にか眠りについた、平和な日を覚えてる。

 

それから、母さんはよく笑ってくれるようになって。

とっても嬉しくて、二人でハイタッチをしたのを、今でも覚えてる。

 

 

 

 

 

 

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私が地下に落ち、フラウィーと共犯関係を築いて二日が経過した。

本来であれば、【いせき(Ruins)】の管理人であるトリエルとさっさと接触を済ませて目的を遂行すればいい話だ。しかし私はこうやって、彼女が花の様子を見に来る度に古びた柱や岩の陰に隠れて息を潜めている。それはなぜか?

 

なんてことはない。単純に気まずいのだ。

この二日間、特に何をするわけでもなく、フラウィと雑談をしたりゲームしたりとぼーっとしていた。ソウマは少し呆れている様子だったけれど、不満とか、そういった悪感情はなさそうだった。

 

…別に、彼女が嫌いというわけじゃない。むしろキャラクターとしても好きだし、戦闘においても母さんを殺すつもりが欠片もないという点では、すごくいいヒトという認識が強い。

母さん本人の話を聞いてみても、案の定というか。彼女は母さんにとって母親のような存在で、私の祖母に近い立ち位置だ。

 

…。

 

私は、そんな彼女の心を、確実に折る。

 

大事な人(母さん)のため」、だとか。映画や漫画に出てくるつまらない悪役が言うような、くだらない言い訳はしない。するつもりもないし、正直気力もない。

自分の気持悪いエゴ(自己満足)のために復讐するのだと認めた上で、彼女の心をビリビリに破ってドブに投げ捨てるのだ。

変えようがない事実だ。やめるつもりだってないのだし。

 

しかし人間は昔から卑怯な生き物だ。それが悪いことだと自覚して罪を犯そうとすると、どうしても躊躇いを覚えてしまう。自分が悪者だと思いたくないからだ。

……そしてそれは、私も同じだ。

 

……。

…。

…………。

 

「ァ"~~~…ハハ。くそだり。」

 

右腕に巻き付いたフラウィが私の手の上でフリーのリズムゲームをするのをぼーっと眺めていたら、これからのことが一気に浮かんで…なんというか、憂鬱になってしまった。うわあ、と喚くフラウィを巻き込む形で花畑の上で大の字になり、ァ"~とおっさん臭い声を喉から絞り出す。

 

「あッ何すん、おいちょっと!?今いいとこだったのに!!」

「はァい、メンゴメンゴ。許して~…。……ところで、さっきはどこまで行ってたの。フルコン寸前とか?」

 

上手いこと蔦を巻き付けてスマホを投げ出さずに済んだらしい。猫がシャァーッと威嚇するような剣幕で叫ぶフラウィが顔を覗き込んできて影が差す。それに軽く空いた左手をひらひら振って、また目を閉じる。

ふと結果が気になって顔を傾けながら尋ねると、不機嫌そうな顔で五分ほど前に撮られたスクリーンショットを画面に映してフラウィがスマホを見せてくる。

難易度イージー、難しさ星1。曲の長さは3分34秒。HPバーはギリギリまで削れているが生き残ってる。

 

「え、ド下手じゃん。ウケる。」

「うるッッさいな、このゲーム判定ガバガバすぎない?押しても反応しないんだけど!!」

「ンー。ビートビートの音ゲー、程よく難しくて私は好きだけどレビュー最悪だもんね。

まぁ住めば都、地獄も住処って言うし、慣れるまで頑張りなよ。オススメはリンちゃんだよー、HP増やしてくれるから。」

「リンちゃん?」

「金髪ショートのカワイコちゃんな。しばらくは温室魔法で練習しときなよ。難易度一番低いから。」

 

地上の光が降り注ぐように差してくる天井に顔を向けてぐたぁ、と体を投げ出す。腕や足をぐっと伸ばしてしばらくして、フラウィが苛立ちを込めて唸り出す。

三分、五分もすぎれば「えー!」というゲームオーバーを知らせるバーチャルシンガーたちの声が耳に入ってきた。

 

「……。」

「…………。貸してみ。」

 

横を見るとフラウィが可愛らしい顔に青筋を浮かばせて『なかよしカプセル』をスマートフォンに向かって発射しそうだったので、体を軽く起こして交代してもらう。

 

難易度選択ボタンを2回押してHARDモードに切り替え、スタートを押す。

スタートを押して8秒が経過し、ノーツが画面に浮かび上がるのを待つ。

流れ出すピアノのような穏やかな曲のリズムに合わせてノーツが画面全体に浮かび上がり、すぐさま人差し指を画面に滑らせて、ステップを踏むようにノーツをタップしていく。

曲名と歌詞にマッチした、水彩タッチの美しい青と緑が流れるPVを眺める。もちろん指は止めずにコンボを繋いでHPを保つ。

歌姫の柔らかい歌声に耳を傾けて、まばたきをしないように、くッと舌を軽く噛みながらコンボを繋ぎ続ける。もう一度花畑の上で寝転びながら微睡んで、目を閉じたくなるような誘惑に耐えて画面を注意深く見つめる。

 

タップ、スライド、連打、長押し。

 

簡単な動作しかないはずなのに、如何せん画面全体を使う上に曲が普通のリズムゲームと比べると長い。

フルで遊べるゲームってそうそうないんじゃないの?と昔ソウマが言っていたことを思い出して、少し口角があがる。

 

そうこうしないうちに曲が終わり、ピィン、とカウンターベルを鳴らしたような音が鳴った。

536コンボ。

パーフェクト407。

グレート129。

その他三つの欄はオール0。

 

私はそのまま無言で口を横一文字に結んだフラウィと目を合わせ。

ぴきりと青筋を立てた彼を軽く鼻で笑い。

───渾身の煽り顔をしながら中指を立てた。

 

「わはははははははア"ーーーーーッッッッタンマタンマタンマ蔦で首絞めンのは無し無し死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!ギブ!!!ギブーーッッ!!」

「いっそそのまま窒息しろ。」

「え何フラウィちゃんフルコンできなかったのがそんなに悔しかっ、」

「死ね。」

「ぐぇッッ、ちょ、ぅ"ぐ、ガチじゃん!!?死ぬ死ぬ死ぬ!!ね"~~~ギーブー!!!」

 

花畑をゴロゴロ転げ回りながらバシバシと首に回された蔦を叩いて二人でケラケラと笑っていたら、突然耳に、女性の鋭い声が飛び込んだ。

 

「やめなさい!!!!」

 

「……………………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*だ~から声小さくしろって言ったのに.

*てか、姉ちゃん自分で静かにしなきゃって言ってたじゃん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定というべきか、大声で騒いでいた私たちはトリエルさんにすぐ見つかってしまった。

誤解を解くのにこれまたえらく時間がかかって、なんだかどっと疲れた。フラウィを狙ったであろう火の玉を避けるため、彼を庇いながら花畑をゴロゴロ転げまわった。おかげさまで服が土まみれだ。

…今考えると、あの首を背後から絞めたり汚い言葉使ってゲラゲラ笑ったりするタイプのじゃれ合いは、ティーンの子供を持ったことがないトリエルさんにしてみればやんちゃじゃ済まされないんだろうなあ。

 

閑話休題。

 

誤解を解いてから、(落ちてきた理由や母さんのことは伏せた上で)私が盲目故に白杖代わりの杖が必要云々の事情を話すと、過保護なことに戦闘のチュートリアルやお留守番イベント、ケータイイベント諸々を全てすっ飛ばしてすぐさま家に連れていかれ、そのまま部屋に案内された。フラウィは母親のことながら頭が痛そうな顔をして黙っていた。

 

何かあれば呼ぶように言われたし、取り合えずフラウィの寝床にちょうどいい鉢植えと服の洗濯を頼んで、パジャマを着てその日は眠った。ベッドは少し小さかったけれど、布団がふかふかでぐっすり眠れた。

 

寝る場所を分けたのは、仮にも性別が男子のフラウィと思春期のレディである私が一緒のベッドで寝るのはよろしくないだろうと判断したからだ。

もちろんソウマは例外である。世界一可愛い私の天使は弟だとしてもそれ以前に双子なので、別に片割れと同じ布団で寝てもいいのだ。いいったらいいのだ。私はブラコンなので。

 

 

───翌日。

人間の味覚にカタツムリパイはあまり合わないことを伝えると、朝から野菜たっぷりのミネストローネ…ウォーターソーセージ入り。意外にもウィンナーの味だった…とふわふわのパンをご馳走してもらった。

朝から豪華すぎないだろうか。パンとベーコンと卵でラピュタごはんできるのでは?とも思ったが、動物のモンスターならともかく、地下に豚や牛、(にわとり)といった、いわゆる食糧用の動物はいないようだし。…卵ってどこから来てるんだろう?テミーは固ゆでの卵持ってたし。

 

そも此処は英語圏だ。そら調味料なんかも限られてるに決まっとるわな、と思いつつ食事に手を付けたが、あんまりにも美味しくてびっくりした。完食どころかおかわりもした。

私はジューシーな野菜をじっくりコトコト煮込んだトマトスープにパンを浸して食べたが、なんと何もつけずにそのままかぶりついても美味しかった。パンは手作りらしく、焼き立てでふわっふわだった上に水も美味しかった。

デザートのパンプキンパイも絶品だった。食後ということで少し小さめにカットされた、砂糖をあぶってコーティングしたであろうパイが堪らなく美味しかった。フラウィの口にはあまり合わなかったらしく、彼はマシュマロ入りのココアを頼んでいた。

 

「…さて、トリエルさんから外出許可貰えたわけだし、いこっかー。」

「貰ったんじゃなくて、もぎ取ったの間違いだろ。なんだよフラウィが守ってくれます~って。僕この姿じゃ弱いから精々逃げるための足止めしかできないよ。」

「なかよしカプセル(笑)な。」

「あんまり生意気言ってると首絞められるより酷い目に合わせるからな。」

「はァい。」

 

食べてすぐ運動すると気持ち悪くなるから、消化を待つために与えられ部屋でゲームをしたり本を読んだりして時間を潰していたが、そろそろいいだろうということで部屋着を着替えることにした(一応フラウィには後ろを向いてもらったが、種族の違い故なのか微塵も興味を持っていなかった)。

 

今日はいせきの壁の色と同じパープルのチュニックに白のサブリナパンツを着ることにした。それに合わせて金の花を模したラメ入りのヘアゴム───母が一時期ハンドメイドにハマってレジンで大量に作っていた───で髪を適当にくくって、黒の質素な靴下を履いた。

鮮やかなビビットピンクに黒と蛍光ブルーを散らした最高にキュートなシューズは、誕生日に買ってもらった有名ブランドのスニーカー。履き心地が最高なのだ。

座ったまま行儀悪く足を上げて、靴紐を(ほど)けないよう思い切り引っ張りながら雑なリボン結びにする。

 

「うん、これでよし。フラウィ~、出かける準備できたよ~。」

「あのさぁ…遅い。」

「レディの身支度に文句つけるだなんて…男としては評価0点だよ?」

「お前はレディって言えるほど可愛くもお淑やかでもないだろ。」

「…アハ。言えてる。」

 

小さな可愛いベッドに両手をついて飛び降りて左手を差し出す。

走っても振り落とされないようにね、と言うと、言われずともと言わんばかりに二の腕でしっかり固定するように何重かに蔦が巻かれた。ちょっと痛い。

クローゼットに立てかけていた杖を手に取って、トリエルさんがナイフでしっかりと削ってくれた、ちょうどいい手触りの杖を撫でる(なんと掴みやすいように滑り止め用の取っ手までつけてくれてるのだ!)。

 

廊下に出て黒いキャップをラフに被り、トリエルさんに届くよう少し大きな声で「少しお散歩に出かけてきます、」と言う。

彼女の「気をつけるのよー!」という声に返事を返して、玄関のマットを踏む。

 

「それじゃあ、いってき、…、………、」

 

───いってきます、と言おうとした。でも、頭の中にノイズがかかって、息が詰まって。足が止まる。

フラウィが顔を覗き込んできて、何かを言ってる。聞こえない。

 

喉に錠剤やカプセルが詰まったような不快感に冷や汗が垂れる。

わかってる。なんでかなんて、ちゃんとわかってる。トリエルさんのやさしい声が、よく似てるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『いいにおいでしょ?』

『サプラーイズ!』

『バタースコッチシナモンパイを焼いたんだ。二人の誕生日と、ここに引っ越したお祝いにね。』

 

『これから大変なこともあるだろうけど…』

『ぼくたち三人なら、だいじょうぶ。きっと楽しく暮らしていけるよ。』

『お母さん、頑張るからね。』

 

『そうと決まれば、記念写真撮らなくちゃ!』

 

 

『今日からここが、ぼくたちのお家だよ!』

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母さんの、笑顔が。ソウマの、笑顔が。

今際の際の、二人の。あの笑顔が。

 

瞼の裏に焼き付いて、離れない。

 

「おい、……おい!………顔が青いよ。どうしたんだよ、急に。」

「……やなこと思い出しただけ。なんでもないフリしといて。」

 

顔を顰めているであろうフラウィを軽く宥めながら、片手で口を覆う。

浅く息を吸って、吐く。

……大丈夫。これくらいなら、まだ全然平気だ。こんなの、この1年で何度だって経験してるんだから。

 

「…………少し、出かけてきまあす。」

 

首を伝う冷や汗を乱暴に拭って、痛む口角を上げて。少し震えた明るい声を誤魔化すように、杖を掴む力を強めた。

 

───喋り方も声のトーンも、言葉のセレクトも似てるだなんて。

血は繋がってなくても、親子ってことなのかしら。

 

……吐き気がする。




遅れてしまいすみません!!
次回はモブモンスターとナプスタくん戦になります
その次がトリエル戦、骨兄との邂逅となります。

降原姉弟、オシャレ好きなのでこんな感じで服を着替えることがあります
イラストは描きます(固い決意)
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