仮面ライダービルド ~Stars and flowers~ 作:アルクトス
ゆゆのオリ主もの書いてたのに、こっちのアイデアばかり湯水のように湧いてくる……ということで、別シリーズ立てさせてもらいました。
「天才物理学者『桐生戦兎』のいる東都の街で、《スマッシュ》と呼ばれる謎の怪人が市民を脅かしていた。そこ現れたのが、我らがヒーロー《仮面ライダー……」
「自分で天才とかヒーローとか痛いんだよ、ただの記憶喪失のおっさんだろ?」
「うるさいよ! ……そう言うコイツは刑務所を脱走した殺人犯の『万丈龍我』」
「俺は殺しも脱走もしてねェ!」
「そう言ってワンワン泣いて縋るもんだから、心優し~い俺はなんと! 東都政府を敵に回して、コイツと逃げてしまったのでありました! どうなる第二話!?」
「泣いてねェし!」
「ツッコミ遅いんだよ……」
◆◆◆◆
「……結局、台本書いてたのに全然その通りに行かなかったじゃないのよ……」
録音機片手に、黒髪の男――桐生戦兎はため息を吐く。
「うるせェ! 俺は殺しも脱走もしてねェからな!!」
対し、隣の茶髪の男――万丈龍我は怒る。
「まだ引っ張ってんのかよ、流石バカ」
「あァん? せめて筋肉付けろよ!」
傍から聞けば、戦兎が万丈を罵ってるだけにしか見えないが、彼らにとっては日常を噛み締めることの出来る大事な会話だ。
実際、二人の口許には笑みが浮かんでいる。そのことを突っ込むつもりは互いに無いようだが、
「相変わらずツッコむとこがおかしいんだよ……さて、次は三話を」
再び物語を紡いでいこうと戦兎が録音機のスイッチを入れる。
――ぐぅ~
「…………」
録れた音は万丈の腹鳴りのみで、戦兎は無言で録音機のスイッチを切ると呆れたように隣の万丈を見る。
「おい、戦兎……腹減った」
万丈は流石というか、戦兎の視線に億尾も気付かずに自らの現状をそのまま伝えた。
思えば、エボルトとの最終決戦からなにも腹に入れていなかったので、それは必然か。
「はぁ……」
一度大きくため息を吐いた戦兎だが、ふとそこで重要な問題に気がついた。
「万丈、お前手持ち幾らある?」
「ん? えっと、二万と……七千ドルクだな」
いきなりそんなことを聞いてくることに不信を抱きつつも、万丈は素直に答える。
が、沈痛の面持ちでそれを聞いた戦兎は頭を抱えた。
「最っ悪だ……」
戦兎の言葉に、万丈は先のエボルト戦でのことを思い出すが、その時とはずいぶんと違ったニュアンスに疑問を抱く。
「おい……どうしたんだよ?」
「金が無いんだよ……」
「あ? んなもん、降ろせばいいだけじゃねーか」
至極当然と万丈は答えるが、戦兎はすぐにそれを否定する、
「だから、そのための口座とか戸籍とか……兎に角、諸々が新世界に移行すると同時に吹き飛んでんだよ」
「――は?」
聞かされた衝撃の事実に、万丈はそれを受け入れ難しと思考を停止するが、なんならエボルトと戦っている時よりも絶望に染まった顔をしている戦兎を見て、ゆっくりと思考を稼働させ状況を理解する。
「おい、戦兎……それってまさか」
「あぁ、俺たちはホームレスってことになるわけだ」
「マジかよ!? どーすんだよ、オイ!」
改めて言葉として出された事実に万丈は慌てふためく。
当然だ、今までも犯罪者として追われたりとまともな生活ではなかったが、最低限の衣食住は確保されていたのに、今度はそれすらない。
「とりあえず、俺たちが持ってる手持ちの合計が八万七千ドルクだ」
慌てる万丈に対し、戦兎はどうにか平静を保って冷静に状況の確認をしていく。
「……おう」
「カプセルホテル……いや、甘えたことは言ってられない。野宿で過ごすとしても、どう考えても一ヵ月は持たない」
が、冷静に状況を確認したところで導き出されるのはどうにも抗えない最悪の事実のみで、やはり戦兎は頭を抱えてしまう。
「どうすんだよ!? 世界救って、最期は野垂れ死ぬのかよ!!」
「二人して記憶喪失ってのもおかしい話だしな……手続きするにしたってだし」
言いながら、戦兎は約二年ほど前になる、自分がマスター……エボルトに拾われて以後のことを思い返す。
記憶喪失と判定を受けるには幾重にも検査が求められることなのだが、戦兎自身は誤魔化しが効いても、どう考えても万丈がボロを出さないようにすることなど不可能と、結局頭を抱える。
「どうすりャいいんだよォォォ!」
最悪の終わりを前に、万丈の叫びが周囲に木霊した。
――仮面ライダービルド Stars and flowers ~完~
「って、勝手に終わらすんじゃないよ!」
「誰に言ってるんだよ……」
唐突に叫んだ戦兎に、万丈は訝し気に視線を送る。
「メタいこと突っ込んでくるんじゃありません」
が、戦兎は訳の分から無いことを言うので、万丈の頭には目に見えて疑問符が浮かぶ。
「……あん?」
◆◆◆◆
「さて、俺たちの最重要課題はこれからどうするかについてだ」
訳の分からぬ発言から少しして、今度こそ平静を取り戻した戦兎が改めてこれからの課題を設定した。
「つっても、マジでどうすんだよ」
「だから、それを今から二人で考えんでしょーが」
突っ込んで、早速と二人して思考の海に沈む。
「…………」
「…………」
互いに無言の時間が続くが、先に口を開いたのは万丈。
「ぜんぜん浮かんでこねェ……」
万丈の発言に、何か案でもと期待していた戦兎は肩を落とした。
「……お前に訊いた俺がバカだったよ」
「…………」
いつもなら、ここで言い返すところだったが流石の万丈でもこの状況で戦兎に言い返すことはできなかった・
「少し考える。静かにしててくれ」
「……おう」
戦兎は目を閉じ、より深く思考の海に沈む。
「…………」
――これからどうするのか、平和になった世界でどう生きていくのか。
「……おい、戦兎!」
万丈の呼びかけが聞こえたが、考えが纏まるまでの間とこれを無視する。
「…………」
――第一の問題は衣食住。戸籍を持たない二人では働くことは可能だろうが、社会保障は得ることはできない。
「おい戦兎! 聞いてんのかよ!!」
再びの万丈の呼びかけ。今度は更に声の大きなものとなるが、これも無視。
「…………」
――無戸籍の人間として行政の力を借りて、新たに戸籍を得る……これが最善か。
「おい戦兎! やべェよ! 周り見てみろ!!」
再再度に渡る万丈の呼びかけ。流石の戦兎もこれは無視できずに、目を開き万丈の方を向いて抗議を入れようとするのだが、
「うるさいよ! 周りが何だって……」
万丈の方を見る一瞬に飛び込んできた景色。
先ほどまで見ていた、人々が穏やかに暮らす景色――などではなく、まるで太陽であるかのように灼熱の炎が視界の四方八方を埋め尽くす、正に地獄絵図。
「なんじゃこりゃあァァァ!!」
その驚きままに、戦兎の叫びが辺りに木霊した。
実際のところ、二人は新世界でどういう扱いになるのやら……?
FOREVERが楽しみですね(思考放棄)