仮面ライダービルド ~Stars and flowers~ 作:アルクトス
パラドファンさんの《仮面ライダーエグゼイド Fatal Death Game SAO》という作品です。
「あァ……腹減った……」
戦闘訓練終わり、万丈は自身の腹をさすりながら呻いた。
「お前はそれしかないないわけ?」
他にも感想はあるだろうと、戦兎は思う。
前回の戦闘を解析したデータを基に二人の訓練メニューは組まれたものだが、元格闘家の観点からの効率化などがないかと戦兎は微かに期待していたが、結果はこれである。
「でもよォ、腹が減ったらなんとやらっていうだろ?」
「はあ……戦は出来ぬ、な」
諺すら満足に覚えていない万丈に、改善案など求めたところでと諦める戦兎だった。
昼食は戦兎らの暮らす施設、ゴールドタワー内に設置された食堂にて摂る。メニューは様々で、その中から個人で選択する――要は学生食堂のようなものだ。
注文したのは二人ともにうどんで、選択理由はここが香川だからという単純明快なもの。
注文のうどんを受け取り、さて席に着こうというところで問題が生じる。
「おい、戦兎……席埋まってね?」
「だな」
テーブルはすべて埋まり、そこには防人の少女たちのグループが座っていた。一応、席こそ空いてはいるが、そこにずけずけと入り込むほど無神経ではない。
きょろきょろと右往左往する二人に、背後から声がかかる。
「あの~」
「はい?」
声に反応した戦兎が振り向くと、そこにいたのは防人……ではなく巫女の国土亜耶だった。
彼女はうどんの置かれたお盆を少し重そうに持ちながらも、にこりと二人に微笑みかけた。
「もしよろしければ、私たちと一緒に食べませんか?」
「いいのかい?」
亜耶の提案は、二人にとっては嬉しいものだ。
だが、中学生と片や二十を超えた――戦兎に至っては二十の半ばを過ぎたアラサーの大人である。思春期に近い少女たちは受け入れてくれるのだろうか。
「はい! 皆さんとてもいい人なので、大丈夫です!」
ならばと、戦兎は亜耶の提案を受け入れることにする。
「じゃあ、お願いするよ」
「では、こっちです」
気持ち、足取り軽く行く亜耶を先頭に向かうのは一つのテーブル。
座るのは、二年生で防人たちのリーダーである楠芽吹。同じく二年で怯えたような表情を見せる加賀城雀。また同じく二年の無表情である山伏しずく。そして、三年の先日問題に答えてくれた弥勒夕海子だ。
どうやら芽吹と夕海子が言い合いをしているようで、亜耶が苦笑しながら盆をテーブルに置く。
「仲良しなのはいいですが、ケンカはだめですよ、芽吹先輩、弥勒先輩」
軽く諫められ、口を窄めた夕海子は亜耶に堂々宣言する。
「わたくしと芽吹さんは好敵手、仲良しなどとは違いますわ!」
「ふふっ。そういうところが、仲良しに見えますよ?」
そんなことを言われてしまえば、夕海子の方は毒気が抜けてしまうといったもので、仕方なく食事に戻る。
そんな調子で、見事席に着くタイミングを見失った二人は立ち尽くす。
「おい、麺伸びちまうぞ」
空気を読まずか、万丈がそんなことを言う。
当然、皆の視線は二人に向くが、万丈はまるで気にした様子もなく、問いかける。
「ここ、いいか?」
「ええ、どうぞ」
特に気にしたげもなく、芽吹がさらりと答える。
言葉に甘えるように万丈が席に着き、次いで戦兎も席に着く。
「ごめんな、急に俺たちが入り込んで」
了承は得られたとはいえ、一応謝っておく。
「いえ、大丈夫です。機会を窺って、先生とは話したいと思っていたので」
先生? 戦兎の聞き慣れない単語が、芽吹から飛び出す。
「えっと……先生って呼ばれるのは慣れないから、できれば別な呼び方がいいんだけど……」
ぞわぞわする感じは、呼ばれていて心地よいものではない。
いきなり訂正を求めるのは変だが、こればかりは戦兎も看過できない。
「じゃあ、桐生さん?」
「……それはそれで別な人な気がするから、下の名前で気軽に読んで欲しいかな?」
「……戦兎さん?」
「あ、うん。それで頼むよ」
前々から、皆には下の名前で呼ばれ続けたので、やはり自分にはそっちが合っていると確信する戦兎。
と、目の前でうどんを啜っていた万丈が唐突に言った。
「あ、俺はどっちでもいいからな」
言い終えて、またうどんを啜り始める万丈、
お陰で微妙な空気の出来上がりである。
「……いただきます」
仕方がないので、戦兎もうどんを啜り始めることにした。
◆◆◆◆
「ところで、お二人はお昼にうどんを選ばれたのですね」
二人がうどんを半分ほど啜った頃、隣に座る亜耶がふとそんなことを言った。
「ああ、ここ香川だし……とりあえずうどんだろって、なあ万丈?」
「おう、なんかスッゲェもちもちしてんのな。食うの大変だわ」
うどん県とも名高い香川のうどん。
感想としては微妙だが、自らの生まれ故郷の味を褒められたことに、気を良くする芽吹。
「いいですよね、うどん。美味しいし、栄養もちゃんとあって……私は毎日食べてます」
意図せず饒舌に語るが、戦兎からの反応は微妙だった。
「うーん。毎日でも食べてると……結局小麦粉が元で炭水化物の塊だからな。糖尿病になるかもだから、控えた方がいいと思うんだけどな」
戦兎の発言に悪気はなく、単に体調を心配しての言葉なのは伝わるが、それを聞いた夕海子が張り合うように声を上げる。
「そうですわ! その点、カツオは高たんぱくで低肥質! おまけに高ビタミン! 更に青魚特有のEPAやDHAのお陰で健康にうってつけなんですのよ!」
だが、戦兎は夕海子の発言に対しても微妙な反応を見せる。
「いや、カツオって意外と尿酸の元になるプリン体が多く含まれてるから……気をつけないと尿管結石とか痛風に――」
「戦兎さんはどちらの味方ですの!」
戦兎が言い切るよりも、夕海子が声を荒げる方が早かった。
「いや、味方っていうか……科学者として健康科学についての知識も一応入れてるだけって言うか……」
「……そうですか」
どうにか夕海子を宥める戦兎。
すると、やり取りから雀が戦兎に質問する。
「へえ、戦兎さんは科学者なんですか~……?」
「一応な、だから装備も自分で作ったりしてる」
戦兎は簡潔に答えるが、更に雀は質問を重ねる。
「……装備って、あの仮面ライダー?」
「そう、仮面ライダー。俺がビルドで、万丈が――」
「クローズだ」
言いながら、箸でうどんを持ち上げる万丈。
すぐさま「行儀悪いぞ」と戦兎からの突っ込みが入り、持ち上げたうどんを啜る万丈。
「その、仮面ライダーって何なんですか? 私たち……聞いたこともない」
「確かに、新戦力と聞かされましたが、事前に何の通知もなかったのは気になりますわね……」
芽吹と夕海子が揃って疑問の声を上げる。
「……言って、いいのかな? 俺たちは、俗にいう異世界から来たんだ」
「「え!?」」
「異世界……?」
異世界――聞き慣れない単語だ。皆に衝撃が走る。
「そう、異世界。俺たちの世界は炎に包まれちゃいない、平和な世界だ……」
「…………」
戦兎が話す中、万丈は一瞬微妙な顔をするが、すぐに飲み下したのかまたちゅるちゅるとうどんを啜り始める。
対し、芽吹は数上がる疑問のうちから最も気になる一つを戦兎にぶつける。
「平和なら……なんで、仮面ライダーなんて力が……?」
「……色々あったんだよ、世界すら創り変えなきゃならないほどのことが」
「「……?」」
戦兎の答えに、万丈を除く全員が首を傾げる。
どういう意味かと問うても、それ以上の答えはなかった。
「そういえば、お二人はご出身はどちらなのですか?」
皆が食事を終える頃、そんなことを聞くのはまたしても亜耶だった。
「ん、俺は横浜だな」
「……俺は、東京だな」
当たり前だが、世界が違えば出身も芽吹らには馴染みない場所となる。
しかも、場所が四国にしか馴染みのない芽吹達でも知っているような大都会となれば、興味の話題は全てそちらに行く。
「東京……横浜、凄い大都会じゃないですか!?」
「東京といえば原宿、横浜といえばハマトラ……どれも若者たちのファッションの聖地ではありませんか!」
夕海子が叫ぶ。
その迫力に皆からも思わず「おお……!」と感嘆の声が漏れる。が、二人の方の反応は芳しくない。
「なあ、戦兎……ハマトラってなんだ?」
耳打ちするように、万丈が戦兎に問いかけるのだが、声が大きく漏れ聞こえる。
「確か、横浜トラディショナルの和製英語で1970年代後半から80年代の前半の、ごくわずかな期間流行したファッションのスタイルだ。詳しくは知らない」
「ずいぶん前だな……」
この時点で、流行遅れを知った夕海子の耳は赤い。
「ああ、でもこの子たちからしたら、300年前も330年前もそう変わらないんだろ」
「そういうもんか?」
「俺たちだって、1600年と1700年で何が違うかって言われたら答え辛いだろ……多分、そんな感じだ」
「そういうもんか」
万丈が納得した頃、誤った知識を堂々宣言した夕海子はというと……穴があったら入りたいという諺をご存じだろうか?
「そ、そう言えば、皆さんはご出身はどちらでしょうか?」
取り繕うように、問いかけてくる夕海子。
流石に可哀想なので、芽吹は夕海子の問いかけに答えてやることにする
「えっと……私と亜耶ちゃんが香川出身で、弥勒さんは高知、雀は愛媛だったわね?」
確認するように芽吹が問えば、雀はデザートのミカンを摘まみながら答える。
「そうそう、私の地元のオレンジジュース、おいしいから皆に飲ませてあげたいよ」
「あら、わたくしの地元のカツオも負けませんわよ」
「香川だって負けませんよ、うどんはもちろん、高級砂糖『和三盆』や骨付鶏が有名ですね」
そうして、各々が自身のご当地自慢をする中、戦兎はふと首を傾げた。
「えっと……東京のご当地って、何だ?」
「なんか色々なんでもあるよな」
「だよなぁ……横浜は?」
「中華街だろ」
「あ、そっか」
二人のやり取りを聞き、亜耶が憧憬のように言う。
「いいですね、中華……お役目が落ち着いたら、皆で食べてみたいです」
「それは名案ですわね、国土さん。高知に弥勒家行きつけの店がありますから、いつか皆さんで行きましょう」
賛成するように夕海子が言う。
だが、亜耶は巫女だ。巫女は大赦の厳しい管理下に置かれるという。一般人との接触は固く禁じられ、家族と会うことすらも制限される。神樹の信託を受けるという世界の存続に関わる役目を持つが故に、必然的に世界の真実を知ってしまうためだ。
「……いいですね、楽しそうです」
微笑む亜耶の表情が硬いのは、気のせいではないだろう。
誰しもがそれに気づき、言葉を詰まらせる。
そんな空気を払拭すべく、夕海子は今までだんまりだったしずくに声を掛けた。
「――ところで、山伏しずくさん! あなたのご出身は?」
訊かれたしずくは首を傾げる。どうやら自分に話しかけられたと理解するのに時間を使っているようだ。
やがて、処理が終わったようで、ぽつりと囁くように答えた。
「……徳島」
答えに、夕海子はさらに質問をする。
「ずっと徳島に?」
質問にしずくはふるふると首を横に振る。
「小学校は神樹館」
それを聞い亜耶が目を丸くする。
「神樹館ですか! ……確か、二年前には神樹館の生徒の中に先代の勇者様がいたはずです。しずく先輩は勇者様と年も一緒ですし……もしかして知り合いだったんじゃないですか」
今度は、しずくは首を縦に振る。
「隣のクラス。だったから」
へえ……と皆が溢す中、万丈が声を上げる。
「……なあ、勇者って何なんだ? 防人とは違うのか」
その問いに、固まる空気。
主にその発生源は芽吹だが、本人は自覚なく、だが確実に硬い声で答えを返す。
「違います」
答える中で芽吹は自身の中の怒りの感情を自覚する。
「勇者は、私たち防人とは格が違う。勇者は強くて、防人は弱い。力の質が違うんです」
なぜ選ばれなかった。なぜ自分ではないのか。
努力も鍛錬も、人一倍にしてきた。いや、今もしている。周囲を斬り捨て、甘さを捨て、己を磨き続けているというのに。
だから、認めさせる大人たちに――大赦に。自分という存在の価値を。
「…………」
そんな芽吹を、万丈は痛ましげに見る。
「力、か……」
そして戦兎は、芽吹の中の怒りを見透かすかのようにそう漏らした。
「……なにか?」
芽吹は問う。
――彼ら、仮面ライダーの力は凄まじい。そんな力を持つ二人の答えが聞きたかったのだ。
「力は人に認めてもらうために求めるものじゃない」
芽吹を優しく見つめ、語る戦兎の声音は優しかった。
かつ、絶対的な揺らがぬ意思をもつ声でもあった。
「力ってのは、ラブ&ピースの為にあるべきなんだ」
――その言葉の意味は、芽吹にはわからなかった。
わかりずらい感じに剣ネタを交える作者であった……
あ、次回は真面目に戦闘シーン書きます(予定)