バブールレーン   作:ペニーボイス

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いつも以上に設定ガバらせてしまった気が…



鴨がKANSEN背負って来る

 

 

 

 九九式艦上爆撃機のパイロットの練度は相当に高いもので、栄えある一航戦のパイロットとして十分に誇れるものであった。

 

 しかし、このパイロットは戦艦や空母を標的とした急降下爆撃・機銃掃射の訓練は積んでいても、高速で巡行し続ける高速艇を標的とした訓練を行った事はない。

 だから戦果を挙げられなくとも責められるべきではないし、誰も彼を責めなくても当然なのだ。

 

 ただ、赤城から発進した九九式艦上爆撃機は、そのせいで限定的な効果しかもたらせられなかった。

 航空爆弾は標的から外れ、機銃掃射でどうにか一隻を沈めるのが精一杯。

 予測不能の機動を繰り広げる高速艇相手に機銃掃射を当てて撃沈したのだからそれだけでも大きな戦果とも言えるが、高速艇はあと3隻も残っているのである。

 

 

 高速艇は決して広くはない範囲を高速で這い回るように機動し続けている。

 

 船に慣れていない連中がこれをやれば間違いなく船酔いを起こすかもしれないが、どうやら高速艇の連中は慣れきっていた。

 赤城も加賀も、この高速艇のウザったらしい機動により航空援護の活動を制限され、相当にストレスを溜めている。

 これだけ標的同士が近いと航空機同士が空中接触する可能性があり、せいぜい一機二機しか飛び立てない。

 故に有効な航空援護が出来ているとは言えないのだ。

 なんだかハエ相手に大剣を振り回しているようで、かなり歯がゆい。

 天城に搭載された主砲も、高速艇の機動と貨物船の近さにより発砲を控えざるを得ないかった。

 

 

 

 前衛艦隊の方もまさにモグラ叩きでもやっているかのような感覚に陥っている。

 ただ、貨物船には近づけさせていないという点では現在まで防衛に成功していると言えるだろう。

 貨物船『びすまるく』が北方向へ向け順調に回避行動を取り続けている以上、ギュンター・マンリッヘル指揮下のこの船が海賊に乗り込まれる事はないのだから。

 

 

 

 私はというと、これまでの状況を整理すればするほど、わけがわからなくなっている。

 海賊の高速艇が、KANSEN相手にはあまりに非力である57mm無反動砲や66mmバズーカ砲で無謀とも言える攻撃を仕掛けてきた。

 お世辞にも良く照準されているとは言えない上に、聞く限りは高速で機動し続けているようだ。

 

 貨物船への破れかぶれの突破を試みるわけでも、考えを改めて離脱するわけでもない。

 ただ貨物船とその護衛から一定の距離を保ちつつ、脅威を与えているだけなのである。

 

 連中の目的はなんなのか、皆目見当もつかない。

 既に4隻の内の1隻が沈んだというのに、連中は未だに命懸けの挑発行為を続けていた。

 その間に、彼らの目的である貨物船は北へ北へと退避して遠ざかっていく一方なのに…。

 

 

 

 ん?

 

 

 待て。

 待て待て待て待て。

 

 私はもう一度、海図と貨物船の周辺海域の情報を見直した。

 ひょっとすると、連中は貨物船を北に向かわせて何かしらの罠を仕掛けているのではないかと思ったのだ。

 だとすると大変危険な状況にある。

 ベルマッマ達とマンリッヘル艦長の身が危ない!!

 

 

 私はルイスマッマと共に資料と海図をもう一度精査する。

 過去の戦闘記録、事象、異常等々。

 スペシャルインテリ女史セントルイスと共に大急ぎで精査した結果、ある重大な事実が浮かび上がってきた!

 

 

『何も異常ありません』

 

 

 ないんかいっ!と思われた方、申し訳ありません。

 少なくとも、過去1年間にそこで戦闘が行われた形跡はない。

 幾度となく船が通ったし、そのどれもが何一つの異常を感じていなかった。

 そもそも、この海域自体、海賊行為が頻発していた海域からは遠い位置にある。

 

 

 正直言えば、何か異変があってくれた方が都合がよかった。

 原因が分かれば対処の方法はあみ出せるのである。

 ところが原因も分からず、何かの不安に苛まれ続けるとなるとこれほど嫌な事はない。

 ましてや、今の状況はまるで辻褄が合っていないのだ。

 

 

 

「坊や…あと少しで"マンハッタン"が到着するはず。それまで貨物船が守られれば私達の勝ちよ?ベルファストならよく統率をするはずだし、それはあなただってよく分かっているハズ。」

 

 なら、あの高速艇共が未だにベルを挑発している理由は?

 

「そ、それは…………」

 

 ピッピ。

 これは絶対に何かおかしいよ。

 連中は4隻も高速艇を使ってきたけど、4方向から回り込んできたわけじゃない。

 イチかバチかの大勝負を掛けたなら、絶対にそうしたハズだ。

 でもそうじゃない。

 連中は2隻ずつまとまってやってきて、いずれも南側からやってきた。

 北側に連中の待つ何かがあるんだ…

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 ロバート・フォン・ピッピベルケルク=セントルイスファミリア1世の読みは半分当たっていたが、もう半分を当てろというのは酷な話だろう。

 

 なにせ、そのもう半分とは経験則の領域になる話だからだ。

 

 ジョン・"ジャック"・フォースターは自身に厳しい経済的制約を設けながらも、海軍の任務はキッチリとこなしてきた。

 それも戦闘の多い最前線で、KANSEN達の損害をできる限り発生させずに、下衆の極み海軍中将が文句を言えないレベルでの話だ。

 いつかのブラック鎮守府のように、KANSENを使い捨てにしているわけでもない。

 もしそうならカーリューとララ●ンドごっこなんてできなかった事だろう。

 

 

 "フォン"付きの赤ん坊に比べれば、この大佐は階級でも、財産でも、名声でも、或いは経歴でも劣っていたかもしれない。

 だが、艦隊運用の経験値で言えば格段の差があったのだ。

 軍隊において稀に「ベテラン曹長からすれば新任少尉はまるで赤子」と言われることがあるが、これはまさにそれ。

 ましてやフォースターは現場で這い上がった男である。

 ピッピベルケルク=セントルイスファミリアは内部の敵か、MI5時代の諜報戦の経験こそあれ、本格的な外敵……つまりセイレーンとの戦闘経験は少ない。

 そしてこの経験値の差は、両者の知らぬまま対面する事になったこの戦場で徐々に威力を発揮しつつあったのだ。

 

 

 

 

 

 

『ポール!いつまでやらせる気なんだ!?いい加減こちらも持たんぞ!?』

 

「ビッグレッド、本当にすまない!あともう少し耐えてくれ!」

 

『………5分!あと5分だ!それであんのクソ大佐の言う通りにならなかったら引き揚げてやる!覚悟してろこの野郎!』

 

 

 無線はブチ切られ、ビッグレッドの怒りがフォースターに伝えられたが、彼としては全く悪い気がしない。

 あと5分だと?

 ()()()()()()()()()()()()

 

 フォースターは自身で気づかぬうちに不敵な笑みを浮かべていた。

 これなら"イケる"。

 彼自身の経験と勘が、作戦の成功は限りなく近いものだと判断していた。

 

 目の前にはヘスティングス兄妹がいる。

 兄のポールは厳しい顔つきで無線に向かい、妹のユスティアは祈りを捧げていた。

 この悪魔のような双子は、内心ではビッグレッド達の事などどうとも思ってはいない。

 しかし、目の前にいるただでさえ騙されやすい純粋無垢な元海軍大佐殿をさらに騙しやすくする為にもそうしているのである。

 

 

「上手くいきそうですか、大佐?」

 

「ああ、ポール!貨物船への乗り込みは、成功を保障しよう。だが、まだ油断はできない。全員が生きて帰ってこれるようにしなければ。」

 

「あぁ!…私も行くべきでした!皆んなだけを危険な目に遭わせるなんて…ッ!」

 

「すまない、ユスティア。この作戦は体力に余裕のある男達でしか務まらない。君は今できる事に最善を尽くすんだ。」

 

「今できる事………はいっ!」

 

 

 ヘスティングス兄妹は派遣した6隻の高速艇の内、1隻が撃沈された事には敢えて触れなかった。

 ここで豆腐メンタルの大佐が引け腰になってしまっては困るのだ。

 だからポールは接敵のタイミングで無線機から大佐を引き離したし、ユスティアは指揮に専念するように説得した。

 ここまで気を使うのは正直面倒だったのだが、大佐の浮かべる笑みを見る限りは上手くいったようだ。

 

 

 フォースターは自身の左腕に巻かれた古い腕時計に目を向ける。

 本当に年季の入ったものだったが、それは彼がまだスラム街で靴磨きをして生計を立てていた頃に手に入れたものだ。

 ある酔っ払いの小金持ちが彼の仕事中にゲロを吐き、小金持ちは酔いの勢いで使っていたその腕時計を彼に渡したのだ…詫びの印として。

 

 年季の入った腕時計が、フォースターのアドレナリン分泌を加速させる。

 

 

(フォースター、お前はあの街の人々を救うんだ!お前は人々の助けになりたくて海軍への道を選んだのだろう!ようやく目指していた者になれた!そうだ!やってやれ、フォースター!お前の力が皆んなを救うんだ!)

 

 

 

 実際に救われるのは…6割がヘスティングス兄妹の懐、4割がスラム街の可哀想な住人といったところなのだが。

 自身の正義を盲信し、双子の悪魔に煽られて暴走するフォースターは、その過剰な正義心をれっきとした違法行為に注ぐ事に何一つの疑問すら持てないほどには、どうかしていた。

 

 

 

 暴走する元海軍将校に双子の兄妹が嘲笑の視線を密かに浴びせていた時、無線機からビッグレッドの一際甲高い声が聞こえる。

 

 普段から声を張り上げまくるビッグレッドが、さらに興奮して大声を張り上げているので、無線機の受話器に耳を当てていたポールは難聴になるのではないかと思った。

 

 キーンという耳鳴りが十分に収まるまで間を空けて、ポールはもう一度ビッグレッドに再送を依頼する。

 もちろん、落ち着いて、ゆっくり喋るように言い添えて。

 

 

『んだからよぉ!あのクッソ大佐の言う通りだ!アイツら本当に来やがった!ションベンちびっちまったぜこのやろう!!!』

 

「何が来たんだ、ビッグレッド!?」

 

『大佐の言う通りだっつったろおおお!!セイレーンだ!!セイレーンの艦隊が出やがった!!!

 

 

 ポールが大きく目を見開き、驚きの目で大佐の方を見る。

 反対にポールの顔を見た大佐は、達成感丸出しの表情を浮かべていた。

 

 正直、ヘスティングス兄妹は大佐のトンデモ仮説を半信半疑のまま実行に移させていたのだ。

 だがしかし、その仮説はたった今を持って正しかった事が証明された。

 兄妹は少し気味が悪くなって顔を見合わせる。

 その様子を見てとったジョン・"ジャック"・フォースターはご丁寧に解説を始めた。

 

 

「俺は海軍にいる間に、最前線でセイレーンと戦っていた。何度も何度も、毎日毎日。だから…連中の行動パターンもどことなく読めてたんだ。」

 

 

 フォースターはもう一枚、自身で用意した海図を取り出した。

 付属の資料も何もなし。

 ただ、目の前にある海図と同じ海図にいくつかバツ印が書き込まれているのみである。

 これでは何の海図か皆目分からない。

 だが、フォースター自身には分かっていた。

 

 

「先々週、こことここの二箇所でセイレーンと海軍の戦闘が生起していた。連中は損害を受け撤退、海軍の損害は軽微。完全勝利だな。」

 

「それが、今回の襲撃とどう関係するのですか?」

 

「ポール、奴らは損害を受けた後どうすると思う?」

 

「…………補充、でしょうか?」

 

「そいつは二番目の段階だ。損害を受けた部隊が2つ以上あれば、奴らはまず合流する。」

 

「なぜですか、大佐?」

 

「それはな、ユスティア。その方が素早く攻撃行動を続けられるし、セイレーンは補充にそこまで事欠くわけでもないからだろう。まあ…結局は俺の経験則だな。」

 

「でも、二箇所とも貨物船のコースから北に外れています…なぜ合流した艦隊が南下すると思ったのですか?」

 

「いいや、ポール。南下はしていない。…忘れてるかもしれないが、その為にビッグレッドには命懸けの挑発行為をしてもらったんだ」

 

「「あ………」」

 

「あの貨物船の航路は、セイレーンの合流予想地点の南側を通っていた。だから北へ北へと誘導させる必要があった。彼らの奮闘が功を奏して何よりだよ。おかげで貨物船とその護衛艦隊は随分と北に退避したようだから。」

 

 

 兄妹はまた顔を見合わせる。

 この大佐は騙しやすいただの鴨などではなかったのだ。

 騙しやすい、()()()()()()()鴨なのだ。

 思わぬ拾い物には2人とも喜んだが、間違っても表にその笑みを出さないほどには気を遣っていた。

 

 

「これで、連中の護衛艦隊はセイレーンにかかりっきりになる。増援部隊が到着するまでの時間差で、奪えるだけ奪うんだ。ビッグレッド達の負担は大きいかもしれないが、とにかくスピード勝負になる。」

 

「分かりました、大佐!ビッグレッドには20分以内に終了せよと伝えます!」

 

「いや、ポール!15分だ!それまでに完了させろ!」

 

「はい!」

 

 

 

 ポールはそう返事をしたが、ビッグレッドには20分と伝える事にした。

 あの大佐は見積もりに余裕があり過ぎるように思えてきたのだ。

 そしてそのツケを払うにしても、払うのは彼ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カレー建造、私はクリーヴニキでした
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