ピッピ・ダンケ・ベル・ルイス
「私達はどんな時であれ、我が子を愛し、あやし、あやし、あやし、あやし、あやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやしあやし…(中略)、あやし続ける事を誓います。例え、何があっても、どんな時でも。」
「TPOはわきまえて?」
5隻の高速艇の内、一隻はボーイズ対戦車ライフルを装備していた。
だから海賊の内の何人かは、大型のドラッヘ・ヘリコプターが貨物船の直上へやってきた時、巨大な銃身を持ち上げて対空射撃の姿勢を取ろうと試みた。
ドラッヘ・ヘリコプターは本来強力なヘリコプターではない。
最も初期のヘリコプターの内の一つであり、現用のヘリコプターに比べればパワー・防御力・武装共に随分と見劣りする事だろう。
それはそれで仕方のないことにしろ、しかし、M&M社によって運用されているこのドラッヘは例外だった。
概ねの外観と名称以外、このドラッヘの元の機体との類似点を探す方が難しい。
馬力のあるエンジンと基本構造の強化が、このヘリコプターの性能を現代のヘリコプターと同等の物まで引き上げている。
故に、1人のSBS隊員が長大な対物ライフル・PzB39を用いて、ボーイズの射手を射抜く事も出来た。
元々対戦車用として設計されたこの大型の対物ライフル銃は、口径こそ7.92mmながら長大な薬莢により並々ならぬ射程と威力を手に入れている。
ボーイズ対戦車ライフルの可哀想な射手は射撃姿勢を取る前に頭の上半分を失くし、もんどりうって海へと転落していった。
もちろん、海賊船団の重火器はボーイズライフルのみではない。
だが、各艇につき2挺設置されている重機関銃も、ドラッヘに3挺ずつ搭載されたMG42の凄まじいまでの制圧射撃の前にはどうする事も出来なかった。
3機のドラッヘは予定通り悠々と貨物船の直上へ至ると、眼下の甲板に2本のロープを垂らす。
貨物船へ乗り込む一番手はSBSの隊長で、体躯のしっかりした大男である。
大男はその見た目に反してスムーズに船の甲板へと降り立った。
続いて降りるのは今回が初任務になる若者で、少々オドオドした様子でロープに手をかける。
「エィィイゼィィイ!!エィィイゼィィイ!!」
独特のロイヤル発音で落ち着けと口にしていたものの、若者の様子はまるで落ち着いているとは思えない。
そして、どうにか甲板には降り立ったものの、鉄血船籍の商船の甲板をさっそく吐瀉物で汚してしまうほどには緊張をしていた。
大男は手にするステンガンの調子を確かめると、若者をチラリと見やって呆れたように鼻を鳴らし、そして構わず進み始める。
「待ってくれ!ゲロを撒き散らしながら歩きたくない!」
「俺はお前のパパでもママでもない。
「………ギブソンのクソ野郎め…」
どっからどう見ても北アフリカの沿岸でスツーカの発進基地に破壊工作を仕掛けたりはしない2人組を始め、合計15名のSBS隊員が貨物船の甲板に降り立った。
彼らは装備の異常の有無を確かめると、一ヶ所に集まって行動を再確認する。
そして、その後は元から決めていた計画を実行するために分散し始めた。
例の大男・ギブソンは若者であるブリッチャーと共に船内へと進む。
2人ともブラックユーモアに溢れる人間のようで、ぶっちゃけた話をすればギブソンがこの相棒を選んだ理由はそれである。
「この船の見取図は信用できるのか?迷わずに辿り着ける?」
「ああ、ブリッチャー。女房との散歩コースみたいなもんだ。」
「よくわかった!つまり奥さんとくっちゃべってる内に自分がどこにいるか分からなく」
「あのな、ブリッチャー!忘れるなよ!俺たちは常に判断しながら動く必要があるんだ!」
…………………………………………
ギブソンがブリッチャー相手に声を張り上げた頃、私はといえばダンケ相手に声を張り上げていた。
なんたってあのフランスマッマはこんなリアルタイムで推移するクライムサスペンスな状況下でとんでもない要求をしてきたのだから。
「Mon chou?今日はホワイトデーよ?お返しは?お返しは?お返しは?お返しお返しお返しお返しお返しお返しお返しお返し」
バグんじゃねえええよおおお!!!
つーか本気で言ってんの?
この…ベルが真面目にクライシスなこんな時に!?
「何言ってるの?ライバルが減っている今こそがチャンスじゃない。」
ダンケ、いつからそんなPSYCHO-PAS●になったんだ、お前は。
あるいは手段を選ぶという行為を知らないマキャベリストか。
いつだったか目の前でブリオッシュ作りながら18世紀欧州の血みどろ☆マキャベリズムを語ってくれた時があったけど、何も実践する必要まではないのでは?
今ダンケマッマは私をルイスから奪って豊満なフレンチ・アルプスに迎え入れ、ボディソープ由来と思わしきフレンチローズ臭を余す事なく味わせているところだ。
私としては一刻も早くルイスマッマの谷間へ戻りたい。
ルイスに依怙贔屓しているわけではなく、作戦の進行状況を把握するには彼女の谷間がベストポジションなのである。
対してダンケはソファに座っていた。
これじゃあ作戦がどうなっているかまるで分かりゃしない。
「スペシャル・ボーヤ・サーヴィスが貨物船に降下したわ!まもなく貨物船内で戦闘員達と合流する予定!勝ったわね、坊や!」
ルイスとは別の机でピッピが無線機から顔を上げ、私に報告をする。
あの、いやね、ピッピ?
まだSBS隊員が乗り込んだってだけで勝ってはいないし、ベルもベルで中々に危ないんだよ?
勝ったっていうのは早計過ぎるっつーか負けフラグだから自重してつかぁさい。
「って事で私もホワイトデーのお返しをもらわなきゃ!」
人の話聞いてた?
「ねえ、ミニ・ルー?」
なんだよルイス今忙しいんだよつーかそこで見てないでさっさと私をその机の位置に戻しにきてくれないかい?
「私はさっき輪になってラッキールーしたから、ここはティルピッツとダンケルクに譲るわ。作戦の指揮は私に任せておいて?」
やめてルイス。
そんな事したら私の存在価値は何なのって話になるじゃん本格的に。
そりゃ2ページくらい前に「頼りなさい!」って言われたけどよぉ、頼れってそこまで頼らないとダメなの?
そういうルールなの、ねえ?
そもそも、そんな「私はいいから、2人とも存分に楽しんで」感覚で指揮権を委譲させんじゃねえ!!
私のだからね!?分かってる!?
それ私の指揮権だからね!?
「じゃあこうしましょうか、ミニ・ルー。私のホワイトデーは…あなたの指揮権で手を打つわ♪」
ミリタリー・ポリスが聞いたら卒倒間違いなしの暴言が飛び出てしまった。
ねえ、セントルイス、ラッキールー、ルイスマッマ、お前は指揮権を何だと思ってんだこのやろう。
そんなギフト感覚でポンポン取引できるもんじゃねえんだよ。
いいかい、ルイス?
アイビーリーグ出身のあなたならよおうくご存知だろうと思うけど、軍隊の命令ってのはまずきそふゲェッ!?
「は〜い、Mon chouの指揮官タイムしゅ〜りょ♪今日はホワイトデーなんでちゅよぉ〜?」
「ホワイトデーなのにホワイトデーのギフトが勝手にホワイトデーをサボったらホワイトデーの意味がないじゃない。坊や、ママの身体でゆっくり休みなさい。それがギフトたる貴方の義務。」
分かった、分かった分かった。
諦める。
もう諦める。
嫁艦の1人がクライシスだってのに指揮を諦めるのは職務放棄以前に倫理的な問題からしてクソ野郎でしかないけど仕方ないじゃん!!
他の嫁艦3人がトチ狂ってて此の期に及んで私のことをホワイトデーのギフト扱いしてんだからさ!!
全てはルイスに委ねられた。
あのインテリハイパースペックマッマなら大丈夫そうな気しかしないからたぶん大丈夫でしょう。
私がダンケとピッピにサンドウィッチされた瞬間には、ルイスがさっそく指揮権委譲後第一号の良いニュースを持ってきたから尚のこと大丈夫だと思われる。
「ミニ!SBSが海賊の背後に回った!これから包囲撃滅に移るわ!」
ベルマッマ達の状況は!?
「そこまで深刻じゃなさそうよ?相手は量産型しかいないみたいだし。ただ、引き続き貨物船の援護は難しい状況みたい。」
…SBSが上手くやってくれる事を祈ろう。
「ええ、そうね。それと、"マンハッタン"は予定より早く到着しそう!」
おお、本当か!
なら
「はい、ストップ。これから先は私が考えるわ。大丈夫、ミニ・ルーに不利益な結果にはしないと約束する!だから…今は安心して2人にあやされていて?」
全てが恐ろしく順調に進めそうで、特に恐ろしいのはルイスが優秀な指揮官としても振る舞える事が分かった事だった。
その内指揮官ですらいられなくなりそうで、私は暖かなダンケ&ピッピ'sオッパァの間で軽く身震いをする。
「Mon chou!?」
「坊や!?」
「「風邪?風邪?風邪?風邪?風邪?」」
だ〜か〜ら〜、バグんなっての!!