バブールレーン   作:ペニーボイス

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ここから出してくれ!俺は病気なんだ!

 

 

 

 

 

「くっ!中々数が減りませんね…」

 

 

 ベルファストは沈めても沈めても湧いてくるセイレーンの艦隊を見て、額の汗を拭った。

 彼女が対峙することになったセイレーン艦隊は、エリート艦こそいなかったものの、量産型の中でも中々の強度を誇るロック級戦艦を主体として構成されていたためにかなり手強い敵だった。

 何よりの問題は数である。

 2つの艦隊が何かしらの理由で合流したらしく、一艦隊ではありえない数の敵艦が現れていたのだ。

 

 

 対処できない問題ではない。

 ベルファストは自分にそう言い聞かせて砲弾を再装填する。

 残りの砲弾も段々と少なくなっていて、彼女達自身の疲労度もかなり高まってはいるが、それでもこのセイレーン艦隊の相手ならまだまだ勤めることができるだろう。

 どうにか時間を稼ぎ、増援である"マンハッタン"の到着まで持ちこたえる事なら自信を持って『YES』と言える。

 

 

 だが、貨物船の護衛の方はというと、それは不可能でしかない。

 

 指揮官は恐らく…彼女達の置かれている状況を十分に考慮したはずだ。

 でなければ貨物船よりセイレーンを優先しろなんて言わない事だろう。

 もし指揮官が私利私欲のみで動く人間であるならば、彼女達の安全は決して優先されない。

 

 更にいえば、指揮官は予備の手段まで整えていた。

 ベルファストの指揮下にある艦隊が貨物船の護衛を放棄せざるを得なくなった場合の予備手段はしっかりと用意され、そしてそのおかげでベルファストはセイレーンとの戦闘に集中できている。

 鬼の母性モードを発揮させても既に肉体的な限界は近いが、増援艦隊の到着までに精神的な限界を迎える事はなさそうだ。

 

 

 

 プラチナブロンドの美しいメイドは、彼女の左右で息を切らしている重桜美人の顔を見る。

 彼女達も限界が近く、息を切らしている様子が十分に伺い知れた。

 

 あと少し。

 あと少し持ちこたえれば、増援は確実にやってくる。

 増援がやってくるまで、貨物船をセイレーンから守るにはあともう一踏ん張り頑張ればいい。

 言うは易し行うは難しだが、溢れ出る母性とアドレナリンがどうにかしてくれそうだった。

 

 あともう一踏ん張り。

 その事を強調する為にも、ベルファストは左右の重桜美人達にこう呼びかけた。

 

 

「皆様、メインディッシュはこれからです!」

 

 

 ただ、せっかくのスキル発動決め台詞は、ユニオン出身の陽気な戦艦の一言によって掻き消されてしまった。

 無線機から聞こえてくる少しぶっきらぼうな物言いが、あと3分前に聞こえていたらベルファストが赤面する事もなかったろう。

 もちろん、彼女の指揮下にあるKANSEN達は、同情はするとも嘲笑をするようなKANSEN達ではなかった。

 だから"マンハッタン"旗艦・ワシントンの声を無線越しに聞いた時には誰もがベルファストの発言をなかった事にしたのだ。

 

 

『頭下げて耳塞いでろ!今から支援砲撃を見舞ってやるからよ!!!』

 

 

 ワシントンの底抜けに明るい声が終わるか終わらない内に、三隻の戦艦による怒涛の支援砲撃が始まる。

 後衛艦隊が戦艦のみというイカレっぷりの威力はしっかりと発揮され、ベルファストの直近にいたセイレーン艦隊の殆どが吹き飛ばされた。

 脳筋壊したがりチーム・ユニオン(の内の3名)の砲撃は、装填補助装置によりあまりにも間隙を削られている。

 直径38cmやら41cmの巨大なSHS弾が次々に空を切り裂いて降ってきて、セイレーン側の戦艦や重巡、空母を食いちぎっていく。

 そしてトドメと言わんばかりに、"マンハッタン"の前衛艦隊が前に進み出て砲弾を撃ち込んで行った。

 ヘレナ、ホノルル、フォルバンの全くもって統一性のない前衛艦隊は、仕上げと言わんばかりに魚雷と砲弾の嵐を巻き起こす。

 

 

 前衛艦隊のトドメをマトモにくらったセイレーン艦隊は北へ向かって敗走を始めた。

 ヘレナが後を追おうとするが、ベルファストがそれを止める。

 

 

「ヘレナ、深追いはやめましょう。まずは貨物船の安全を確保すべきです。」

 

「………ええ。」

 

「ベルファスト!貴女達には指揮官から後退命令が出ているわ!あとは私達に任せて、後退なさい。」

 

「恩に着ます、ホノルル。」

 

 

 ベルファストは"フジヤマ"艦隊の他のKANSENに指示して後退を始めた。

 天城が駄々をこねる加賀に圧力をかけていたし、重巡2人も多少なりとも不満なようだった。

 だが、砲弾も体力も消耗している以上、継戦を行うのは望ましくない。

 

 それに、ベルファストの息子は"マンハッタン"を援護する艦隊をも準備させているはずだ。

 万事抜かりはなく、ローテーションを組んでいる事だろう。

 貨物船を含めて、"マンハッタン"に任せておくのがベストな選択に思える。

 

 

 "マンハッタン"が"フジヤマ"と交代して、まだ3分も経たない内に、無線機の別の周波数が機能した。

 それは貨物船の艦長が携行している無線機の周波数で、呼びかけは"マンハッタン"へ向け行われている。

 

 

『おい!おい!聞こえるか!?こちらギュンター・マンリッヘル!貨物船内であんたらの部隊が合流した!どうやら助かりそうだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 

「お前の手榴弾は()()()だと言ったな、ブリッチャー?」

 

「あー…どうにも初期不良が」

 

「初期不良!?初期不良だとくそったれめ!あれじゃあ、そよ風の方が有効だぞ!」

 

「じゃあアンタがやりゃ良かったろ!」

 

「俺がやったとこは全部上手くいっただろうが!だいたい、お前の…」

 

 

 何発もの拳銃弾が飛んできて、2人の口喧嘩を一時的に止める。

 SBSベテランのギブソンと、新人のブリッチャーは貨物船内の廊下で一悶着起こしていた。

 

 廊下の曲がり角の先に海賊共が築いたと思わしきバリケードがあり、ブリッチャーがそこへ手榴弾を投げ込んだのだが、見事に不発に終わったのである。

 

 案の定相手から撃ち返され、2人は廊下の曲がり角のこちら側へと身を引っ込めた。

 そして口喧嘩が再開される。

 

 

「ほら見ろブリッチャー!お前のせいであわや蜂の巣だぞ!?」

 

「じゃあなんでこんなクソに巻き込んだんだよ!俺は自分の意思で入ったわけじゃない!」

 

「お前を見込んだんだ!だがどうにも見込み違」

 

『誰だ!?』

 

 

 唐突に鉄血語が聞こえてきて、2人は顔を見合わせる。

 SBSは海賊がロイヤル人の集団で、保護すべき貨物船の乗組員は鉄血人の集団だと聞いていた。

 だから、もしバリケードの向こうにいる人間が海賊共なら、そちら側から鉄血語が聞こえてくるはずはないのである。

 

 

「撃つな!撃つな!SBS…スペシャル・ボーヤ・サーヴィスだ!」

 

「……よ、よしゅ(よし)しょのまま(そのまま)両手をだしゅて(出して)、ゆっくりと姿をみしぇろ(見せろ)!!」

 

 

 鉄血語訛りの酷すぎるロイヤル語が、バリケードの向こう側から返ってくる。

 まずギブソンがステンを脇に抱え、何も持っていない両手を出してからバリケードの相手に正対した。

 バリケードの向こうにいたのはシュタールヘルムを被り、軍曹の階級章を付けた男で、どうやら貨物船の護衛のようだ。

 続いてブリッチャーも姿を見せると、シュタールヘルムは安心した様子で、構えていたMP40の銃口を下に下ろす。

 

 

「あんたらもスペシャル・ボーヤ・サーヴィシュ()か!?」

 

「そうだ!その言い方だと…他のメンツもここに来たのか!?」

 

ムシェン(無線)で聞いてないのか?」

 

「ここへ来る前に何人かの海賊と撃ち合ってぶっ壊れちまった。」

 

「合計で7人ほどがここへ来たが…全員が掃討シェン()に移行した。……手榴弾投げる前に確認しといてくれても良かったろ!?」

 

「すまん、撃ち合いのせいで神経が過敏になっててな。ブリッチャーの手榴弾が特別製で良かった。」

 

「軍曹、どうかこの老人を責めないでやってくれ。角があったら手榴弾投げなきゃ気が済まなくなる病気なんだよ。」

 

「後で覚えてろよブリッチャー。」

 

「まぁまぁ、2人とも。今回の事は大目に見るとしょう(しよう)。バリケードの中へ来いよ。紅茶があるぜ。ティーバッグじゃないぜ。」

 

 

 

 源●マガジンにしか見えない会話をしながらも、ギブソンとブリッチャーは軍曹のご好意に甘える事にした。

 ここに来るまで3回海賊と撃ち合って10人ほど倒している。

 緊張というものを長続きさせていると、いつか必ず途切れ目というものがやってくるのだ。

 その途切れ目が戦闘の最中にやってこないよう、2人はバリケードの中に入って紅茶にありついた。

 

 

「セーフティ・ルームはどこなんだ、軍曹?」

 

 

 ギブソンが紅茶に口をつけながら軍曹に聞く。

 紅茶は品の良い香りからして、かなりの高級品だろう。

 だが、軍曹は高級品の紅茶よりもコーヒーの方が好みのようだった。

 

「あんたらの後ろにあるやつがそれさ。俺たちが海賊共に乗り込まれてから守ってる。」

 

「負傷者は?」

 

「3名。肩、腹、足をそれぞれやられた。幸運にも急所は外しているよ。あんたらが来るのがもう少し遅かったら我々も死んでたろうな。海賊共はあんたらのおかげで分散したし、そのおかげでまだこのバリケードがある。…ほら、予備のムシェン(無線)だ。戦局は中々優位らしい。」

 

「ご丁寧にどうも。」

 

 

 ギブソンは紅茶片手に無線機を操作して、各班と連絡を取る。

 鉄血の軍曹が言ったように戦局はこちらに有利らしく、それぞれの班が負傷者もなく順調に海賊を掃討しているようだ。

 

 SBSの作戦は、分散と機動戦だった。

 海賊の人数が多く見込まれた事から、少人数ずつ船内を移動させて敵を分離・各個撃破する作戦方針が採られたのである。

 結果として概ね上手くいっているようで、各班の殺害人数を足すと、その数が30を超えていた。

 

 

「…もうひと押しってとこか。行くぞ、ブリッチャー。」

 

 

 ギブソンは軍曹に紅茶の礼を言ってバリケードから立ち去った。

 乗り込んだと思われる海賊の数はそう多くはないはずで、それはつまりより掃討に手こずるという事を意味する。

 

 ただ、ギブソンは自身が死ぬ事は決してないと断言できるほどには自信と楽観を持てたし、そしてそれは間違いではなかった。

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