おかえり、ベルファスト。
私は酷く疲れた様子の彼女に、そう声を掛ける。
ベルファスト。
最初に我が鎮守府に来たSSR艦であり、そもそもアズールレーンを始めたきっかけ。
そしてなにより…私のミス・ロイヤルにして、私の主たるマッマの1人。
彼女は…間違いなく疲れていた。
口では大したことはない、なんて言ってたが、あれだけのことをやってのけて疲れないなんて事があるはずもなく。
ベルの並々ならぬ功績………彼女に指揮された第四艦隊は高速艇のみならずセイレーンからも貨物船を守っていた………に対して、何の褒賞もなく終わらせるほど、私は気の利かない男(赤ん坊)ではない。
さあ、ベル。
今日は君の日なんだ。
………ああ、いや、"フジヤマ"の他のメンバーにも後で褒賞を渡す気でいるが。
まずは君からだ、何なりと言ってほしい。
ベルファスト…いや、ベルマッマは実際にも疲れているに違いない。
品の良い笑顔を浮かべていたが、欲望を隠す余裕などどこにもありはしなかった。
彼女の白い口元は、僅かに動いて、たった一言を絞り出すように放つ。
「………それでは…あやさせていただきますね」
30分後。
私はベルマッマと2人きりで入浴していた。
もちろん、私もベルも水着を着けているが、抱き抱えるベルの香りと体温と柔らかさはしっかりと感じる事ができる。
彼女が一周遅れのホワイトデーと今回の功績を合算し、望んだものがこれ。
『一日中ご主人様あやせる券』
こんな肩たたき券より価値のなさそうなものでも、ベルマッマにとってはかけがえのないものらしい。
間違ってもその気持ちはわからんし、分かりたくもないが。
まずもって、いつでもあやしてるじゃんって言いたい。
ただ、マッマ達の中では『あやし占有率』と呼ばれるグラフが出来上がっているらしく、それによればベルは最近負けが込んでいるらしいのだ。
うん、あれだね。
訳がわからん。
「ご主人様、ベル加減はいかがでしょうか?」
ベルに聞かれたけど、どうしよう。
何も答えたくない。
なんなの、ベル加減って?
一瞬お湯加減かと思って返事しかけたけど、よくぞここまで耐えてくれた、私の理性よ。
「ご主人様。ファスト、してますか?」
………ベル疲れ過ぎてんだよね、たぶん。
いつもの数倍は意味わからない発言…というよりもう何言ってんのかわかんない。
何なの?ファストするって何なの?
そんなセ●ムしてますか感覚で来られても閉口する以外に選択肢がなさ過ぎるっつーか、ない。
「あやしにベファリン♪」
ベルマッマはどうやら暴走したいようなので、もうこの際暴走させまくることにする。
なんたって私に出来る事といえば何もないのだ。
しゃーねえじゃん。
私を豊満なボデーで抱えて、ロイヤルで1.2を争うダイナマイトスタイルを駆使したがってそうなんだからさ。
そりゃあね、ベルの事心配になるくらいには暴走されてるよ?
でもね、こういう時はこういう時に日頃の疲れを出し切ってもらうのが良いんだよきっと。
毎日毎日キャラ崩壊と理性のメルトダウンを小出しにされるよかよっぽど良かろう。
長々としたお風呂が終わると、今度は2人きりでの夕食になる。
驚くべきは作戦に参加した重桜マッマズ含めて、他のマッマ達が揃いも揃って律儀に取り決めを守っている事だろう。
ピッピも、ダンケも、ルイスも「最近のベルは疲れてるから」とか言ってベルによる私の占有を許しているのである。
自分で言うのもアレだが、信じられん。
ただ、最近のベルの事を考えれば…他のマッマ達が彼女を心配する程には心身共に大きな負荷を強いられている事を、確かに容易に想像できる。
親友のカーリューとその夫は闇落ちした可能性が高いし、海賊といえどロイヤルの人間に武器を向けていいものか考えた事だろう。
そう思うと、"フジヤマ"の指揮官に彼女を選んだのは失敗だったかもしれない。
ベルはロイヤル生まれロイヤル育ちのKANSENなのだ。
少しぐらい気を使うべきだったなぁ。
私自身にも反省の念がないわけではないので、あと20時間近く彼女と色々色々色々色々する事に異議はない。
ただ、願わくば過剰に抱きしめたりとかはしないでほしいかな。
ガチで窒息するから。
さて、ベルマッマとのロイヤルディナー。
目の前には柔らかそうなローストビーフ。
ベルマッマは私を抱えたまま、ローストビーフを一片切り取って、それを更に細かく刻む。
赤ん坊がそのまま飲み込んでも窒息する事はない程度に切り刻むと、ベルは私にその肉片を食べさせてくれた。
うん、美味しい。
少なくとも、ロイヤル料理は不味いという伝統が嘘に思える程度には。
「かつてロイヤル貴族は、日曜日に牛を丸々一頭屠って大きなローストビーフを焼いたそうです。」
へえ〜。
「我がロイヤルの料理の評判が落ちたのは、残りの曜日でローストビーフの残りを消費する習慣が原因だとか。」
貴族かぁ〜。
「もっと元を辿れば、地主と農奴の時代に遡ります。地主が1週間の働きを労い、ローストビーフの肉を与えていたようです。」
………ベル?
つまり…ベルは…私に何か伝えたいのかな?
「うふふ、さすがご主人様です。"ロバート・フォン・ピッピベルケルク=セントルイスファミリア"…このご家名にはちゃんとした意味がございます。」
意味…
「ええ、その通り。特に"フォン"には…荘園の領主という意味があります。つまり、ご主人様も立派な貴族であるという事です。」
………ベル、分かってる、分かってるんだ。
仮にもロイヤル海軍の高官が、鉄血の実業家に肩入れなんかするなんて許される事じゃないかもしれない。
でも…ベルマッマ…分かってくれるでしょう?
「ご主人様、何か勘違いをされているようですね。このベルファスト、ご主人様の行為を責めるつもりは毛頭ございません。」
ならなんで…
ベルファスト、いやベルマッマは私を高々と抱え上げる。
わ〜い、たかいたか〜い!
じゃねえ、ベルマッマ!?
こちとら一応まだ食事中なんだけど、一体何をしでかす気なの!?
ベルは私を抱えあげると、椅子から立ち上がり、彼女が先ほどまで座っていた座席に私を座らせる。
そして彼女自身は床に跪き、赤ん坊相手にまるで騎士のような姿勢を取った。
おいおい、どうしたどうした。
「古来より貴族には、領民を守る義務がございます。」
は、はあ。
「ご主人様も重々ご承知であると思いますが、ロイヤルは島国で、外洋の流通を遮断されては滅んでしまいます。差し出がましい事を言ってしまいますが…ご主人様がもしこのご依頼に応える事がご自身の品位を損ねないかとお悩みであるならば…こう申し上げましょう、そのような事は全くございません。」
ベルファスト………
「流通を守る事は国民を守る事に直結致します。ご主人様はその第一線で奮闘されていらっしゃる…これだけでも、ベルファストとしてはとても誇らしい事なのです。」
でも…ベル?
すごく言いにくいんだけど、ベルの親友夫妻が私の所業を耳にした場合、彼らは我々が不正を働いていると思う事だろうから…
今回の作戦で気づいたかもしれないけど、海賊どもはセイレーンが現れる事を知っていた。
職業軍人を顧問にしているとしか思えないんだ。
こんなこと言うのも心苦しいけど、ついこの間夫妻が拉致された事を鑑みれば………
「お気遣い感謝致します。ですが、ご心配には及びません。例え友といえど…いいえ、友であるからこそ、誤った道へ進んでしまったのなら、私にこそ彼女を引き戻す義務がございます!」
素晴らしい給仕と言うのは主人の内心まで察してしまうらしい。
もし、それが素晴らしい給仕の定義なのであるとすれば、ベルマッマは間違いなく完璧な給仕であろう。
彼女は私の心配事を丸々読み取ってしまったのだ。
即ち…ベルが親友と剣を交える事になりかねないのではないか、という心配事を。
返答はこうだ。
"心配ご無用"
彼女の口からそう言ってもらえるのは、とても心強く、そして本当にありがたい事でもある。
「ご主人様が領主なら、ベルファストはご主人様に仕える騎士と言えます。そして…私はどんな時であれご主人様のご命令を優先致します。」
……ありがとう、ベルマッマ。
「書類の際は誠に申し訳ありませんでした…カーリューの鎮守府であると知り、つい私情を挟んでしまい…」
あー、大丈夫大丈夫!
全くもって気にしなくていいから!
「…相変わらず、お優しいご主人様です。さて、お食事の途中でしたね。失礼致しました。それでは、あと19時間54分33秒21、このベルファストをお楽しみ下さい!」
ベルマッマとローストビーフを食べ終わり、私はビス叔母さんが贈ってくれた電動歯ブラシで歯を磨いてから寝る事になった。
いつもと違い、今日はベルマッマオンリーとおネンネである。
私は彼女の素晴らしき双丘に挟まれて、ベルの香りを囲まれながら、その温もりをとことん味わって寝た。
ただの変態になりかけてるけど、一つ言える事がある。
マッマって、やっぱり最高!