"ベルの日"の2日後
「ここは好きになれないわ。暑さと砂しかない…」
青少年育成条例違反になりかねない薄着をしたピッピが、脇の汗をタオルで拭きながらそう零す。
彼女と私はロイヤル南部の港町、ポーツマスを目指す列車に乗っていた。
そこには1世紀近い歴史を誇る海軍基地があり、そして海兵隊の司令部がある。
私は今回、ピッピとルイスを引き連れて、海軍のお偉方に通商保護の具体案を提出しに行くのだ。
事前に取ったアポイントメントでは、待ってましたとばかりに賛意を示してくれたものの、実際はどうなってるのかわからない。
海軍は歓迎していても、海兵隊は歓迎してくれているかもわからない。
そもそも制服を着た赤ん坊をマトモに相手にしてくれるかどうかも、わからない。
とにかくわからない事だらけで、私がパニクってフリーズしても大丈夫なように、ピッピとルイスには着いてきてもらったのだ。
ロイヤル南部なら季節の変わり目なこの時期、鬱陶しいほどジメジメとした雨が降っていても良いハズだった。
だが、どういうわけか今日は雨どころか真っ青な空の見える快晴で、昨日降った雨が水蒸気となってしまい、中々に蒸し暑い一日となっている。
ピッピは早々と制服を脱いでシャツ一枚になっていたし、ルイスに至っては下着になろうとしてたから大慌てで止めた。
これから大事なプレゼンが控えてるって言うのに、道中で公然猥褻なんか食らったらとんでもない事になる。
本当ならピッピのシャツ一枚も諌めたいところだが、止めようとしたら本気の涙目になったからやめといた。
ピッピは長く北欧にいたから、制服も厚手なのだろう。
長い間寒い所での勤務が多かった影響か、春を迎えた雪だるまのように大量の汗をかいている。
慣れない環境の中で、厚手の制服を着続けろというのも酷な話に思えたのだ。
………ルイスはたぶん便乗しようとしただけ。
ただ、言うまでもなく、ピッピの胸は馬鹿デカい。
そんな胸の谷間が惜しげもなくシャツの間から"
本来なら私も大喜びする光景なのだが、決して公衆の面前で見せられたいものではない。
ピッピはそんな状態で、私を抱き抱えていた。
勿論私もシャツ一枚にされている。
よってピッピの汗が自然に私のシャツにも染み込み、なんとも言えない不快感というか何かを私にもたらしていた。
「ねえ、坊や?暑いでしょう?ルイスが塩飴とミネラルウォーターを買ってきてくれるから、それまでは我慢しててね?」
うん、ピッピママ。
ついでに言うとピッピが汗をかき過ぎなだけだと思うし、ピッピの高すぎる体温で私まで熱くなってるから少しだけ離してもらえると…
「よちよち、私の坊や♪可愛い坊や♪ママがずっと一緒にいてあげますからねぇ〜♪」
あー、ダメだこりゃ。
完全に母性暴走特急になっちゃってるよピッピママ。
「それともぉ〜…私のナチュラルミネラルウォーター…飲んでみたい?」
!?
「遠慮はいらないわ。あなたは私の大切な坊やなんだから。はい、あ〜ん♡」
あ〜ん♡じゃねえよ、あーんじゃ。
それただの脇汗でしょうが。
やめて、ピッピママ?
誰が中世貴族のラブアップルみたいな習慣しなさいとか言ったのよ。
「………坊やの汗がっ!すごい汗っ!こんなに汗をかいたら脱水症状で倒れちゃうかもしれないじゃない!」
頑張って理由を作ろうとするな。
そもそもピッピの汗が乗り移ってるだけだから大丈夫だよ?
「いいえ!大丈夫なんかじゃない!…坊や、私だって嫌なの、坊やにこんな物飲ませたくない!でも、非常時だから仕方ないじゃない!」
暑さでおかしくなってるよ、ピッピ。
そもそも、そんな非常時でもねえから。
ピッピの脇汗飲まなきゃ死ぬような状況じゃないし、むしろ飲んじゃった方が有害だと思うなぁ〜。
「ルイスが塩飴とミネラルウォーターを買えなかったら!?こんな状況なのよ、坊や!?」
いやだからどんな状況やねん。
…もしかしてアレか?
急に暖かくなり過ぎて頭トチ狂った結果、メ●ロの女の人になっちゃった感じ?
電車乗ってるし、もしかして最初のセリフから伏線だった感じ?
………あのね、ピッピママ。
少し落ち着こうぜ?
いくら中の人が同じだからと言って、無理矢理にでもその世界観に突っ込んでいく必要性は皆無だと思うよ?
まず持ってね、メ●ロでもなかったじゃん。
脇汗飲ますシーンとかは。
「バブチョム!生きるためよ!飲んで!」
「……ティルピッツ、ミニ・ルーに変なもの飲ませようとしないで?はい、ミニ・ルー、ミネラルウォーターと塩飴。今年は暖かいわね〜。」
いやあ、ルイスが間に合って良かった。
さもなきゃ危うくアン●と化したピッピに脇汗飲まされるところだったから。
どんなド変態プレイさせる気なんだアイツは。
私は無事にルイスから水と塩飴を受け取ってそれらを摂取する。
ピッピが小声で「チッ!空気読んでよ、セントルイス」とか言ってたけど気にしない気にしない。
しかしまあ、それにしても季節外れ程度には、いささか暖か過ぎる気がしないでもないなぁ。
普通にしてればジワリと汗が出る程度には暖かい。
まあ、昨日まで寒かったのもあるのかな。
そんなこんな考えながら、私は列車の窓の外を見る。
ポーツマス行きの列車から見えるロイヤル南岸の風景は、晴天の援護もあって非常に美しく見えた。
なだらかな海、白い砂浜、漁をする漁船、中でパーリィーしてそうな個人所有のクルーザー、空を飛ぶカモメ………どれも良くある港町の…光景?
あれ?
普通、港町にはなさそうなものがあったような気がするぞ。
まだ昼なのにネオンでビッカビカだった気もするが…
気のせいかな?
うん、気のせいだな。
いいや、気のせいじゃない。
しかもあのビッカビカしたクルーザー、着実に列車の方向に近づいて来てやがる!
やがてクルーザーの甲板に1人のスキンヘッドがいるのが見えた。
こちらに何か話しかけているようなので、私はルイスに窓を開けてもらう。
「お〜〜〜い!!バブチョム!!俺のこと覚えてるよなぁ!!」
あー…これはこれは海軍参謀長殿!
ご無沙汰しております!
ところで…何してんすか?
「何って?迎えに来たんだよ、迎えに!」
それはどうもご丁寧に。
ありがとうございます。
「次の駅で列車を降りてこちらと合流しろ!ポーツマスまでパーリィーだ!FoooOOOO↑↑↑」
誰だこのオッさんと思われた方々、この人実はロイヤル海軍の参謀長であらせられます。
見た目が100%ピット●ルですし、中身も7割がピット●ルです。
分かっていただけますでしょうか、私の気持ち。
やっべえ奴に捕まっちまったような気しかしません。
つーかね、バブチョムって何?
そんなメ●ロ エクソ●スみたいな名前はもう固定なんですかね?
私の困惑具合は棚に上げられ、私とピッピ及びルイスは次の駅で列車から降りてクルーザーに乗ることになった。
もうね、なんつーかね、メ●ロ。
カザフスタンの奴隷商人の本拠地かってくらいに水着のKANSENがクネクネ踊ってるし、そもそも大音量でメ●ロのストリップクラブのBGM流れてるし。
今からヴォルガ川でも渡河するんでしょうかね?
そしてその後はヤマンタウにでも行くのかな?
………頼むよ?
たしかに、これから軍の上層部と面会するんだけどさ。
まさかとは思うけど、カニバリズムとかおっぱじめてないだろうね?
頼むよ?本当にさ?
そこまであの作品に寄り添う必要性はないって分かってるよね?
ピット●ル海軍参謀長閣下は素晴らしいお方で、汗だくの我々を見るなりクルーザー内のシャワーを使わせて下さった。
私とピッピとルイスはお言葉に甘えて身なりを整え、そして甲板で涼む事にする。
心地の良い潮風を浴びながら涼むこと1時間。
とうとう、ポーツマスの巨大な軍港が見えてきた。
「バブチョム、そう緊張することはない。幕僚達には俺からも話を通してるからな!」
海軍参謀長がそう言ってくれたが、私は不安しか浮かべる事が出来ずにいる。
理由は主に二つ。
一つは、私が元MI5だという事。
経歴的に、軍一筋の純粋な海軍軍人ではないというのは、ダートマス出身の彼らエリートからすれば鼻に付くものかもしれない。
もう一つは………呼ばれ方。
核戦争後の世界で安住の血を求める北方連合横断の旅とかしてそうな新しい渾名で呼ばれているのがとてつもなく不安。
………大丈夫だよね?
本当に大丈夫だよね?
本当の本当にヤマンタウみたくなってないよね?
せめて人間らしくクタバッててくれよ?
あとピッピもピッピで、変なガスとか吸ってたりしないよね?
ドクターに肺がボロボロだとか言われたりしてないよね???
ピッピがメト● エク●ダスしだしたせいで余計な心配ばかり浮かんでくる。
しゃあねえじゃん!
フラグにしか思えないんだからさあ!
「バブチョム?落ち着いて?ママがいつでも側にいるじゃない!何を心配する事があるの?」
あのね、ピッピ。
お前がその名前で呼び始めたからだよおおお!!!