バブールレーン   作:ペニーボイス

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ちいさな独裁官

 

 

 

 

 

海軍幕僚達がヤマンタウの人食いになっていなかったのは確かに安心できる点ではあったものの、私は相変わらず青い顔をして、冷汗をタラタラと流しながらピッピの谷間で震えている。

 もう、ここまで来たらヤマンタウに挨拶しに行った方が良かったかもしれない。

 

 目の前にいるのは、ロイヤル海軍の黒や白の制服を着た人々だけではなかった。

 カーキ色もいたし、オリーブドラブもいる。

 伊達なアル●ー二のスーツや、ナポレオンの時代から飛び出してきたかのような軍服もいた。

 

 

 

 これは私の推測の範疇に過ぎないが、私の目の前にいる人々が幾つか電話を掛けるだけで、今すぐにでも第三次世界大戦が始まる事だろう。

 

 正面のウィン●ーズ総督が…ロイヤルの全軍の司令官が…まるで添え物のコロッケのように見えたのはこれが初めてだ。

 

 その両脇に居並ぶ方々といったら、それほどのご威光を放っていらっしゃる。

 

 

 

 鉄血公国大使がいたと思ったら、アイリス統一政府の大使がいる。

 反対側を見れば北方連合大使館の駐在武官が私を睨んでいるし、その隣のユニオン駐在武官がそれ以上に北連軍人を睨んでいた。

 我がロイヤルからは…私の少し昔の上司であるMI5長官が、頭を抱え込んで座っている。

 その他、各国の外交・情報機関のお偉いさん達が一堂に会していて、それはそれは大掛かりな光景だった。

 

 ここは国連安保理かな?

 …じゃ、なくてね………

 

 

 …

 ……

 ………

 

 

 こ、こんな話聞いてないんだけどおおおおおおお!?

 

 海軍幕僚は!?

 海軍幕僚どこ行った!?

 海軍と海兵隊のお偉いさん方に私の提案するハズだったよね!?

 何で人事が差し代わってんの!?

 何で国の代表団な方々がいらっしゃるの!?

 そもそもの話なんだけどさあ!?

 何で何一つの通告もないわけよ!!!

 

 

 

「…セントルイスファミリア少将。」

 

 

 すんげえくらい珍しく、ウィン●ーズ総督がかなり緊張した様子で私の事を呼ぶ。

 

 

「状況は理解したか?君の関わっている案件は、もはや国際問題になりつつある。」

 

 

 おおっと、不穏な感じがして参りました。

 ひょっとして…アレかな?

 私がビス叔母さんの依頼に応じて護衛部隊派遣したの、リークされちゃった感じかな?

 ビス叔母さんからたんまりと報酬受け取った証拠とか、握ってる感じかな?

 ………やっべえええぇぇぇ…

 

 

「…海賊行為の頻発は、もはや我がロイヤルのみの問題には留まらない。ユニオン、北方連合、アイリス、鉄血、いずれの国も海賊の許されざる蛮行によってもたらされる被害を心配しているのだ。」

 

 

 あぁ、よかった。

 口調からしてバレてるかもしれないけど、そんなに気にはしてないみたい。

 ふぅ〜。

 しかし、まあ、今ので段々と話が見えてきた。

 海軍幕僚向けのプレゼンが各国代表へのプレゼンに変更された理由は、それぞれの国家が北海での海賊行為の件を嗅ぎつけたからだろう。

 集められたメンツからしても…特にMI5長官がこの場にいる事からして…彼らは私が鉄血船籍貨物船を保護した事を知っているはず。

 その上で断罪する雰囲気で迎えなかったという事は…真に通商保護の対策をどこかの誰かが打ち出してくれないかと期待しているに違いない。

 

 

「さて、セントルイスファミリア少将。君はこの間、偶然にも鉄血公国の貨物船を海賊から保護したわけだが…」

 

 

 はい、ウィン●ーズ総督にしっかりバレてました。

 見るからに呆れ顔だし、「はぁ〜。お前までそんなヤツになるとは…」的な失望感漂っておりますごめんなさいウィン●ーズ総督だって叔母さんきっての頼みだったんだもん〜!

 

 

「そんな君だからこそ、海軍幕僚に提案を行うことにしたんだね?愛国心旺盛な君は、北海での海賊行為が、我が国の安全保障上の脅威になりかねないと判断したわけだ。」

 

 はい、その通りです総督!!(半分は嘘)

 

「では、その具体案とやらを我々に説明して欲しい。もし有効であると認められた場合には、海軍幕僚に手を回しておこう。」

 

 ありがとうございます!

 …私と致しましては、海軍規則に則り、商戦に対する護衛を配下の鎮守府に任務として付与したいと思う次第であります。

 公認していただければ…

 

「それでは根本的解決にはならん!」

 

 

 唐突に、野太い声がしたと思う。

 "思う"というのは、恰幅の良い北連軍人が口を開いた瞬間にピッピが私を谷間の奥へと押し込めて私の聴覚を保護してくれたからだ。

 ありがとう、ピッピ。

 でもね、北連軍人がひっくり返るくらいの怒号で「バブチョム相手に怒鳴るなんて許せない!」とかやめてもらえる?

 この場は決して過保護を披露すべき場所ではないと思うんだ、僕ぁ。

 柔らかなツークシュピッツェがマグニチュード8ぐらいで揺れてたし。

 

 ツークシュピッツェと張り合える双丘を持つルイスママが、怒り狂わんとするピッピの肩をポンポンと叩きながら前に出る。

 有り難い事にルイスの方はすごく落ち着いていた。

 

 

「まあまあ、ティルピッツ。落ち着いて。確かに、その人の言う通りかもしれないわ。護衛を付ければ確かに貨物船は守られるかもしれないけど、決して効率的ではない。」

 

「…ええ、そうね。そもそも海軍の任務は商船の護衛だけではない…だから、出来る事なら根源である海賊の巣を叩いてしまいたい。」

 

「でも、どうするつもり?マッコール、MI5時代の手腕は見事な物だった。そんな貴方の事だから、次の手は考えてあるんでしょう?」

 

 

 私の事を旧名で呼ぶ白髪交じりのN長官が、ルイスとピッピのやり取りに口を挟む。

 

 確かに、次の一手は考えてある。

 だが、それは海軍と海兵隊のタカ派相手にでも渡したいようなシロモノだった。

 私自身、こんな案を発案してる時点で自分の事をトチ狂っているとは思うし、実行に移すかどうかの前に軍のお偉方の視点からしてGOサインを出せるのか評定してもらいたかったのだ。

 

 

「勿体ぶるな、セントルイスファミリア。この場の誰もが、お前のような人間を待っていた。とんでもない劇薬になるくらいの想像はついている。」

 

 ………総督、劇薬なんてモノじゃないかもしれません。

 

「…司法省が、海賊をテロリストとして定義できるか検討中だ。そして、それは恐らく認定される事だろう。意味は分かるな?これは戦争なんだ。どんな手段であろうと、聞く覚悟はある。」

 

 …仕方ありません。

 本来であれば、まず軍の高官にご検討いただきたかったのですが……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マッコール!!マッコール!!」

 

 

 プレゼンが終わった後、MI5時代の上司が声を荒げながら、いざ帰らんとする私を呼び止めた。

 正確には呼び止まったのはピッピなのだが、長官はそんな事気にも止めずに、見た目赤ん坊の私に迫ってくる。

 …てか今更だけど、各国の高官揃いも揃って赤ん坊が軍服着てる事にはノータッチなのね。

 

 

「マッコール!貴方どうかしてるんじゃないの!?あんな案を出すなんて!?」

 

 長官、これは戦争です。

 躊躇はしていられない。

 

「戦争!?これが戦争!?…貴方、気は確か?貴方のやろうとしていることは、戦争なんかじゃない!」

 

 ………

 

「どういうつもりなの!?スラム街を更地にするなんて!!」

 

 語弊があります、長官。

 更地になるかどうかは連中の出方次第です。

 司法省はほぼ確実に海賊をテロリストとして認定する。

 …考え方を変えてください。

 これはテロとの戦いになるのです。

 我々は国民に銃を向けるのではなく、テロリストに銃口を押し付けるのです。

 

「巻き込まれる市民の事を少しでも考えたの!?」

 

 ええ、勿論!

 ですからMI5の協力が不可欠だとも説明させていただきました!

 そちらの工作員が調査をし、敵の根拠地を見つけた場合には私の艦隊が砲撃をします!

 "本土への攻撃"には該当しません、なんたってテロリストの根拠地なんですから!!!

 

「あんな建物の密集した地区に380mm砲なんて撃ち込んで、周囲の被害が出ないとでも」

 

 周囲の被害が!?

 だから何ですか!?

 …もう、この際ハッキリと申し上げましょう。

 あの地区は犯罪の温床です。

 まとめてデリートしなければ跡が絶ちませんよ!?

 彼らに同情する心がないわけじゃないが、ハエを叩くなら根絶やしにしないと!!!

 

「……マッコール……貴方、変わったわよ?」

 

 

 MI5長官はそう言葉を残して立ち去った。

 

 

 

 …変わった………

 

 変わったのだろうか?

 

 私は上を見上げて、ピッピの表情を見る。

 彼女は私に気づいて微笑んでくれたが、その笑みには若干の悲しみが含まれている気がしなくもない。

 ピッピもルイスも、最初私が発案した時には反対していたが、しかし、最後には同意してくれた。

 だから今日、発表相手が海軍高官から各国高官に変わった後も何も変更せずにそれを伝えたのだ。

 

 

「ねえ…バブチョム?」

 

 どうしたの、アンナッピ?

 

「もう少し…別の方法も探りましょう。総督も審議すると言っていたし…やっぱり、そこまでする必要は…」

 

 ………海賊はスラムから人的資源を調達してるし、連中は海岸の活動根拠地とは別にスラムにも根拠地を置いているはず。

 あの地区もあのままにしておけば、いずれ周囲の治安まで害し続ける。

 

「そうね…そうするしか、ないのかしら。」

 

 

 双丘が左右から圧迫され、私はアンナッピと化したティルピッピマッマの温もりと香りに埋められた。

 

 あの、ピッピママ?

 

 感情の起伏を胸で示す習慣、もうそろそろやめにしないかい?

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