バブールレーン   作:ペニーボイス

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Ⅳ章 誰が為にベルは泣く
PDStB 赤ん坊の頭脳、即ちマッマ


 

 

 

 

 赤ん坊はベッドの上で眠っていて、母親達はちゃんと彼の周りにいた。

 ただし…メンツは普段と少々異なっている。

 いつもこの時間帯、健やかな寝顔を見守りつつ一緒に寝るのは4人の女性の習慣だったのだが。

 今夜はその習慣を中断し、赤ん坊を4()()()()()()()に任せ、彼女達自身はリビングでテーブルを囲んでいる。

 

 

 テーブルを囲む顔は、その全てが暗い表情を隠そうともしていなかった。

 

 ティルピッツ、ダンケルク、セントルイス、ベルファスト。

 

 赤ん坊の母親たるこの4人の女性達は、非常に悩ましい決断を下そうとしていたし、そしてその決断の内容は、決して赤ん坊の耳には入れたくないものだったのだ。

 

 

 赤ん坊と一緒に寝ていた4人の内の1人が彼女達の元へ来て、一度だけ頷いて戻っていく。

 セントルイス(E)から、「ミニ・ルーはちゃんと眠っているわ」という意味の合図を受け取った彼女達は、今4人のセントルイスに囲まれて寝ている息子の為の話し合いを始めることにした。

 

 

 

「最初に確認しておくけど…坊やに罪を被らせない。例え何があっても、何が起ころうと………何が代償であっても。それだけは、いいわね?」

 

 

 最初に口を開いたのはティルピッツ。

 そして、彼女の発言は他の3人の頷きを持って迎えられる。

 

 

「ミニ・ルーは正しい事をするの。私たちも母親なら…いいえ、母親だからこそ息子の理解者であるべきよ。」

 

「Mon chou…。あの案を実行するのは…正直少し悲しいけど…そうね、分かってあげないと…」

 

「ええ、その通り。だから、私たちがすべきは、坊やの提案に賛意を示してサポートする事。………でも、ニュースは見たでしょう?」

 

「はい…今度の総選挙、チェイブル首相は劣勢のようです。野党のマクドネルは過激なまでのリベラル派。ご主人様の作戦の実行時期によっては、マクドネルの攻撃対象となりかねません。」

 

「首相はMon chouにストップをかけた。あの人なら自身の選挙よりも公務を優先しそうだけど…でもストップをかけた。つまり、それだけ劣勢だという事…」

 

「マクドネルの勝利はほぼ確実でしょうね。あの大衆迎合主義者なら、スラムの破壊を提案しただけでもサタン扱いしてきそう。ミニ・ルーの意見に耳を貸そうとはしないでしょうね。」

 

「マニュフェストは矛盾だらけ。海賊対策を低予算でやり通し、スラムの復興なんて掲げているのよ?あんなヤツに坊やの思考を理解できるとは思えない!」

 

「恐らく、チャンスは一度だけ。チェイブル首相なら、()()()()()()()()()()()()でご主人様の作戦にGOを出す事でしょう。あのお方ならタダで引き下がるようなマネは致しません。」

 

「まさに"往生際の悪い"首相ね。Mon chouが尊敬するのも分かるかも。」

 

「ただ、そうなると…確かに責任の追及はチェイブル首相に向かうだろうけど…ミニ・ルーに余波がないとは思えない。」

 

 

 意見を交わしていた母親達はそこで黙り込んでしまう。

 

 そう。

 これこそ、テーブルを囲む4人の母親を悩ませる問題なのだ。

 

 

「嗚呼…坊やの応援をしてあげたい…でも、実行に移せば、坊やは到底無傷では済まない…!」

 

「マクドネルのような男なら、ミニ・ルーも断罪の対象にするわ。だから…」

 

「………なんでぇ…?…Mon chouはロイヤルを守ろうと頑張っているのに…なんでそんな酷い目に遭わなくちゃいけないのぉ………」

 

「ダンケルク、落ち着きましょう。…例えばの話ですが、作戦の立案が我々KANSENの独断で進められたとすれば、指揮官の責任はいかような物になるでしょうか?」

 

「………何が言いたいかは分かるわ、ベルファスト。その場合、坊やは監督責任のみで済むはず。」

 

「でも、ベルファスト。それをするという事は…海軍規則によれば………」

 

「このベルファスト!ご主人様の為に全てを捧げると誓いました!」

 

「しっ!ベルファスト?Mon chouが起きちゃうわよ」

 

「貴女の心意気は立派だけど、ここはやはり…坊やの真の母親である私が罪を被るわ

 

 

「「「…………………………………………」」」

 

 

「「「はぁ?」」」

 

 

「何言ってんのティルピッツ?Mon chouが誰のお腹から先に出てきたか分かってる?」

 

「そんな戯論を言うようなら、法を悪用して貴女の親権を失くしてしまうわよ?」

 

「ご主人様が真に頼っているのはこのベルファストです」

 

「ベルファスト?頭を打ったのかしら?ミニ・ルーは赤ん坊に戻って以来、基本的には私の胸の谷間でルールールールー」

 

「何度も言わせないで、貴女達。Mon chouを最初に身篭ったのは私なのよ?」

 

「Nein!!Nein!!Nein!!Nein!!坊やの真の母親は私!!いい加減に認めなさい貴女達ィ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は4人のセントルイスの谷間の間から、リビングで始まった第三次世界大戦の様子を伺っている。

 

 あんたらさぁ、せっかく小声でヒソヒソやってたの台無しじゃん。

 なんで普通に艤装で撃ちあったりとかしてんの?

 私が起きないとでも思ってんの?

 

 

 まあ、私といえば最初から起きていて、寝たフリをずっと続けていただけなのだが。

 つまり、マッマ達が何を相談していたかも、何をしようとしているのかも聞いている。

 本当に良いマッマ達だ。

 

 だけど、残念ながらそうはさせない。

 私はその為の策をいくつか練っている。

 作戦の全責任が、私を指向するような証拠品を手配するつもりでさえいるのだ。

 

 

 ありがとう、マッマ。

 

 情勢から鑑みると、私は失脚してしまうかもしれないが。

 しかし、マッマ達が刑罰を受けるよりかはなんぼかマシに思えるのだ。

 彼女達が罪を被ってしまい、一生後ろめたさと後悔に苦しめられるよりは。

 

 

 彼女達は、ここまでずっと、私を支え続けてくれている。

 だから、彼女達にはそれを継続してもらう。

 責任を取るのは指揮官の私の仕事。

 例え私の提示した『スラムに対する最終的解決』が原因で槍玉に挙げられたとしても。

 

 悪いが、マッマ達。

 それだけは絶対に譲らん。

 何があるにせよ、責任を取るのは私でなければならないのだ。

 

 

 

 リビングから聞こえてくる怒号と砲声を聞きながら、私は現段階での状況を整理する。

 

 ピッピの言う通り、来月実施予定の総選挙は作戦の実行に大きな影を落としていた。

 私と言う人間はつくづく空気の読めないもので、超リベラルを自称するガッチガチのハト派が勢いを増している中で、あんなタカ派の権化みたいな案を出してしまったのだ。

 

 どこの世界にもああいう似非人道主義者は転がっている。

 私も転生前の世界でそういう人間を目の当たりにもしていた。

 大衆迎合主義者というのは胡散臭い連中で、民衆の耳障りにいい事を吹き散らす割には責任という物を取ろうとはしない。

 ベネズエラではチャ●スやマドゥ●と言った人物がそれに当たり、そして、ベネズエラの経済は今日危機的な状況にある。

 

 

 ロイヤルの人々がそんな胡散臭い人間を選ぼうとしている理由が想像できないわけではない。

 

 戦争は長期化、国防予算は増大、重税が民生を圧迫。

 そんな状態では理性が削れてきてしまう。

 だからこそ、何か新しい変化を期待して絵空事に期待をかけてしまうのだろう。

 確かに国防予算は年々増加傾向にあるものの、しかし、それは必要によるものでしか無い。

 マクドネルとかいうペテン師は高過ぎるだのと吠えているが、軍の機能が予算不足に損なわれる方が結果的に高い損失をもたらすことに気づいてないらしい。

 セイレーンに対抗する海軍の機能が低下すれば流通の安全性も低下する。

 正に数年前のハイパーインフレーションの危機が再来しかねないだろう。

 低予算で高パフォーマンスの戦果を得るだのという主張は正に絵空事でしかない。

 予算を減じられた軍事組織に、従来の機能の維持などできはしないのだから。

 

 あのペテン師は恐らくその辺は何も考えていないが、いわゆる衆愚政治が幅を利かせつつあるのが現状である。

 

 

 

 さて、チェイブル首相が『待て』を掛けたのは選挙を考慮した結果というだけではないだろう。

 

 司法省がまだ結論を渋っているのも手伝っているのだろうか、恐らくいくら犯罪の温床とはいえ、ロイヤル海軍の砲弾をロイヤル本土に向けて撃つことに抵抗を感じている。

 

 

 

 私はあの人物なら即断すると思っていただけに、もどかしいような気持ちにすらなっていた。

 だが、まあ、今はまだ待っていても良いだろう。

 転生を果たしてからというもの、私の神経は少しずつ図太くなっている気がする。

 少なくとも…リビングでKANSEN達のスキルが発動されまくってても動じない程度には。

 

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