バブールレーン   作:ペニーボイス

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令和最初の投稿が重すぎる件


アトランティック・ウォー

 

 

 

 

 

 マーク・マクドネルは数いる候補者の中でも若く、活動的で、そしてクリーンなイメージを持たれた男だった。

 背の高いハンサムな首相選挙候補者は、同年代の女性だけでなく年配の男達さえ魅了していたが、誰もが外見のみで判断を行ったわけではない。

 彼は言うまでもなく、政治の名手だったのだ。

 

 

 …あぁ…言い忘れていたが、ここで言う政治とはいわゆる衆愚政治の事である。

 ありとあらゆる事を民衆の耳障りに良いように歪曲・曲解或いはすり替えを行なって、まことしやかに流布をする。

 それによって、政敵を貶め、相対的に自身をよく見せるのだ。

 

 マクドネルは典型的な大衆迎合主義者であり、そしてその他は大して考えてすらいなかった。

 つまり、彼にとっての最終目標は政権奪取のみであり、その後の運営については考えちゃいないのである。

 え?何?7,8年前に似たような集団を見た事がある?

 ………気のせい気のせい。

 

 

 

 とにかく、こういう類の勢い任せが本当に勢い付いている時ほど厄介なものはない。

 私の目の前に座るロイヤル首相ウィリントン・チェイブルはつい1時間前にその死ぬほど厄介な連中の相手をしてきたばかりで、ゆえに疲れている様子だった。

 多分気のせいだと思うけど、刺激的なクロステディのビキニ姿なピッピママの谷間に挟まれる私を見た瞬間に更に疲れてしまったようにも見える。

 気のせいだと思うけど。

 

 

 ピッピママは最終的には私の提案に完全に賛同してくれた。

 それは良しとして、何故クロステディのビキニ姿なのかは全く分からん。

 いや、「決意の証」じゃなくてね。

 鉄血から戻るなり

 

 

「あ、これからは私が坊やをホールドする係になるから。譲ることはないから。法律がどう言おうと、この関係はどうにもならないから。今までご苦労様、ルイス。」

 

 

 とか宣言して無制限潜水艦作戦おっ始めてんじゃねえ。

 

 

 ルイス激おこだったじゃん?

 瞬間湯沸し器ばりの激おこだったじゃん?

 激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーマーだったじゃん?

 ルシタニア号撃沈のニュース聞いたアメリカ人そのものだったじゃん?

 合計10名のルイス総出で襲いかかってきたじゃん?

 どこからか連れてきたお馬さんに跨りながらアキンボスタイルでリボルバー乱射するという、お前どこのレッド・デッド・リデン●ションなんですかってぐらいの襲撃してきたじゃん?

 そんなアングリアン・ユニアンズを一蹴するピッピは本当になんなんだろうか。

「究極の母性」とかなんとかで解決しようとするんじゃねえよ。

 

 

 チェイブル首相は葉巻を吸いながら、もうどうにでもなっちまえと言わんばかりの態度で私を見ている。

 まあ、おそらくロイヤルで今一番疲れている人物と言えば彼だろうから、そうなるのもしかたないというかなんというか。

 とにかく、首相は一刻も早くどうしようもないくらい複雑な関係を持つこの親子との会談を切り上げたそうになされているご様子だった。

 だから、もう短刀直入に要件に入ろうと思っていたのだが、最初に口を開いたのは首相の方だった。

 

 

「君の案はベルファストから受け取った。…全く信じられん!事もあろうかロイヤルの、それも海軍軍人がとんでもないことを考える!」

 

 首相、スラム街はもう手の施しようがありません。

 歴代のどの首相も、あの地区をどうにもできなかった。

 今ならできるのです、それも誰の手も汚さずに。

 

「いいや、君の手が血塗れになる。君の事だからキチンと手を洗い、何事もなかったように振る舞うだろうが…いいか、若いの。一度手についた血の匂いは中々に取れんぞ?」

 

 それは…失礼ながら…"ガリポリ"での経験談ですか?

 

「ハハハハハッ!…痛いところを突かれたな。だが…まあ、その…その通りだ。今でも悪夢に悩まされる。わしは大勢の若者を置き去りにしてしまった。」

 

 ………

 

「…君の案では大勢が死ぬ。"ガリポリ"の比ではないだろう。それも、死ぬのは若い兵士だけではない。老人、女性、子供…無防備な大勢が死ぬ。"死神になる覚悟"はあるのかね?」

 

 …あると言えば嘘になるかもしれません。

 ですが…いずれは誰かがやらなければなりません。

 

「私も全力でこの子をサポートします!おはようからおやすみ、おやすみからおはようまで!母親として!家族として!!」

 

 

 

 ピッピがいきなり立ち上がりながらそう宣言する。

 私にとってこの手の宣言はこれが初めてではないが、チェイブル首相からすれば初めての事だろう。

 故に首相はひっくり返る一歩手前の状態になった。

 

 

「勘弁してくれ、お嬢さん!わしはもうそんなに若くはないんだ!ふぅぅ…現職の首相が心臓発作で倒れちゃ洒落にもならん。しかもこの大事な時に。」

 

 マクドネルはただの偽善者でしょう。

 首相の足元にも及ばない人間です。

 なんなら、"始末"しますか?

 

「…MI5に長く居過ぎたな、若いの。今の君は…海軍軍人というよりはまるで諜報員だ。」

 

 悪巧みは昔から得意ですよ。

 

「かもしれんな。君がわざわざ、わしの所にあんな機密文書を送りつけてきた理由も想像がつく。…統合参謀本部議長が心配なんだろう?」

 

 その通りです。

 私の計画を実行するとすれば、ウィン●ーズ総督は責務を問われる事でしょう。

 

「間違いなく問われるな。」

 

 …現在、総督の次席はマクドネルに乗っかろうとしている空軍の大馬鹿野郎です。

 今の内に奴を追い出していただきたい。

 

「ほう、ウィン●ーズ君を守ってくれと言われるかと思っていたが。」

 

 残念ながら、その分水嶺は過ぎてしまっています。

 例え今、統合参謀本部議長の人事を変えたとして、あの大馬鹿野郎なら前任者に罪をなすりつけるでしょう。

 

「なるほど…だ、そうだウィン●ーズ君。」

 

 

 Oh,CRAP!!

 居たのかよ!?

 しかも机の下とか隠れ場所の選定が小学生かよ!?

 

 

「ええ、首相。お話はよく聞かせていただきました。"恩師想いの良い生徒"を持ちましたよ、本当に。」

 

 …………

 

「まあ、そう責めてやるな、ウィン●ーズ君。君の発案よりは…君自身の名誉を保てるやもしれん。」

 

 …総督が何か発案を?

 

「ああ。自殺行為だ、あんな案。"統合参謀本部議長が暴走してスラムの破壊を命じる"なんて物、実行すればわしまで巻き添えを食らうわい。」

 

(石原莞爾かお前は)

 

「…はぁ。セントルイスファミリア、お前の案は俺も読ませてもらった。かなり合理的だな…血も涙もないほどには。」

 

 おぅふ…すいません、総督。

 

「謝る必要はない。これで俺も自爆せずに国家の流通を守れるわけだからな。誰も泥を被らない、結構な事じゃないか。…後任は…空軍の馬鹿は繋ぎ役で、本命は海軍参謀長にする。俺もちょうどこの役職から降りたいと思っていたところだしな。いい加減疲れたよ。」

 

「君が思っているほど、わしらは無神経ではない。事前に総督と協議は済ませている。…Goサインを出そう。勿論、極秘だがな。」

 

 ありがとうございます。

 

「くれぐれもわしの任期が有効な内にやってくれ。次の選挙では、わしはきっと勝てん。マクドネルなら魔女狩りを始める事だろう。…しかし…はぁぁぁ…任期の終わりにこんな悪魔の所業に許可を出す事になるとは。」

 

「ははっ、首相。ホルタ会談では"悪魔とでも手を結ぶ"とおっしゃっていたでしょう?」

 

「ウィン●ーズ君、それはそうだが。まさか自身で悪魔になるとは思わんかったのだよ。」

 

 

 

 厳密に言えば、この場合、悪魔というのは私の事になるだろう。

 私はそれを発案しただけでなく、実行まで行うのだから。

 

 

 首相と総督に見送られ、私は自身の鎮守府へと戻ってきた。

 ルイスとベルが連合を組み、ピッピがダンケにあやし占有率の共有をチラつかせて味方に引き込むという、お前らは一体いつまで18世紀なんだと言いたくなるような争いを続けている間に、私はフリッツX-Ⅱの投下案をほぼほぼ纏め上げてしまった。

 フリッツX-Ⅱ自体は週末には届くとの事で、今は我が第六艦隊に守られながら北海の洋上にある。

 民間商船に偽装した鉄血海軍所属の輸送艦に積まれており、最終的には当鎮守府の海域近くで離脱する第六艦隊所属のアヴローラによって運ばれるのだ。

 投下に用いる航空機…これはドルニエ爆撃機をセイレーンの爆撃機に偽装させている…はグローセ叔母さんが自ら届けてくれるらしい。

 

 着々と準備は進み、あとは私がボタンを押せばいい。

 

 

 さあ、私は虐殺者だ。

 もう二度と迷うこともない。

 そこに誰が住んでいようと、もう考えない事にする。

 

 ヨシフ・スターリンは言っていた。

「1人の死は悲劇だが、100万人の死は統計だ。」

 これから私が目にする惨劇は、きっと"統計"になるハズだ。

 そして、それは…幾ばくかは私の助けになってくれる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 カーリューは自身の目を疑った。

 

 今朝、ユスティア・ヘスティングスに渡された文書は彼女にとって信じがたく、そして同時に憤怒を誘発させるには十分なものだった。

 

 あろう事か海軍が、守るべき国民を虐殺しかねない判断を下そうとしている?

 スラム街のど真ん中に380mm砲弾を撃ち込むなんて頭がどうかしてしまったのだろうか?

 彼らとて知っているハズだ。

 この街に住む大勢の罪のない、可哀想な人々のことを。

 彼女の夫が守り通そうとしている、本当に大勢の人々を。

 

 

 カーリューは怒りと悲しみをコントロールする術を失いつつあった。

 誇り高いメイドが残忍なテロリストになるまで、そう時間はかからない事だろう。

 側から見るユスティアは、自身の詐欺の出来栄えには、とても満足していた。

 

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