バブールレーン   作:ペニーボイス

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キッズの日

 

 

 

 

 

『…じゃあ、来週には届きそうね?』

 

 はい、おそらくは。

 

『本当にありがとう。なんてお礼を言うべきかしら。』

 

 お礼を言いたいのはこちらの方です、ビス叔母さん。

 "あんな物"でよろしければいくらでもお送りするのに。

 

『ロブ君、気づいてないんでしょうけど、あの装置は私達の希望と言えるものなの。』

 

 そこまで!?

 

『ええ、そこまで。』

 

 

 

 ビス叔母さんに何の装置送ったかって?

 私を赤ん坊に退行させた、あのクソ忌々しい装置だよ!

 

 鉄血重工業の新鋭技術を持ってしても、あの装置の開発は困難を極めたらしい。

 よって、私は未だにアウン・●ウン・スー●ーさんみたく軟禁されている明石と夕張に、特赦を見返りとしてコピー品の製造を命じたのだ。

 大量生産品の幾つかがそうであるように、基礎理論が出来上がっていれば、後は資源と資金を投入して量産への道を目指せる。

 

 ビス叔母さんは最新鋭兵器であるフリッツX-Ⅱを私にタダで譲ってくれた。

 いくらリアルに血の繋がってしまった家族とはいえ、何のお礼もなしにするのは気が引ける。

 なので、栄えある第2号機を製造させて叔母さんに引き渡すぐらいの経費を惜しむわけもない。

 どこに需要があるんだ?って本気で言いたくなる変な機械と、核兵器(放射能抜き)は等価交換とは言い難いだろうが、それでも叔母さんは喜んでくれた。

 

 

『最高の報酬よ、ロブ君!…ラインハルトは今のままでも可愛いんだけど…やっぱり知的な彼にも戻ってきて欲しい…できれば身体はそのままで…』

 

 …………すいません、コメントは控えますね。

 

『…本当のこと言うとね…ロブ君、私達はもう莫大な報酬を貴方から受け取っているの。』

 

 ………はっはぁ!

 スラムの土地はもう抑えてるんですね。

 さすが叔母さん。皮肉なしにさすがです。

 

『その通り。既に大部分は抑えてるわ…貴方に疑いの目が向かないように、複数のペーパーカンパニーを通してアイリスの企業に買わせたから大丈夫よ。』

 

 お気遣いありがとうございます。

 

『このくらいやって当然!あの土地は都市部の再開発にもってこい。邪魔なスラム街が更地になれば、地価の上昇は間違いないわ。』

 

 作戦決行日は先程お伝えした通りです。

 それまでに残りの土地を抑えるべきかと。

 

『分かったわ、ありがとう。…貴方も貴方でさすがよ。私が土地を抑えるという予測ができたからこそ…電話をくれたんでしょう?』

 

 ええ、まあ。

 叔母さんは私の大切な"家族"です。

 それくらいの気は回します。

 

『本当に助かるわ。報酬はいくら欲しい?』

 

 報酬の為にお電話したわけでは…

 

『ロブ君。私、嘘は嫌いって言ったはずよね?恥ずかしがることないわ。私が"待ち望んでいたこと"をしてくれるのだもの。…知らないでしょうけど、不動産業への参入とグループ傘下企業のロイヤルでの本格的な展開は、中々見通しがつかなかった。』

 

 そういうことであれば…叔母さんにお任せします。

 こちらから提示するにも目安がない。

 

『なら、こういうのはどう?ティルの会社も不動産業に参入させる…スラムの30%を渡しましょう。建設費用はこちら持ち、収益はそちら持ち。これから更地になるスラムをベッドタウンにすれば、恒久的に高額の収入を望めるわ。それと…最新鋭の物も含めて、必要な兵器類は恒久的に提供する…それも費用はこちら持ちで。』

 

 最高です、叔母さん。

 ありがとうございます。

 

『ふふっ、ティルも貴方を良く育てているのね。…それじゃあ、幸運を祈ってるわ♪』

 

 叔母さんも幸運を!

 

 

 

 

 私は鉄血28号の後部座席で電話を切って"もらった"。

『歩ける君MK.Ⅳ』を被り、車に搭載された人工知能・プリンに頼んで電話を繋いでもらっていたわけだが。

 この姿では電話を切るのにも他人の補助がいる。

 

 

『執務室から電話できなかったの?』

 

 

 電子音を纏ったプリンツェフの声が私に問いかける。

 人工知能の言う通り、普段なら執務室から電話をしているはずなのだ。

 なぜわざわざマッマ達の体臭の塊である『歩ける君』なんか被って車から電話をかけたかといえば、マッマ達にはあまり聞かれたくない話だったからだ。

 

 なんたって、街を丸ごと一つ、それも老若男女問わず消し去ろうという時に、それを利用して金儲けをしようというのだから。

 ピッピママは鉄血でフリッツX-Ⅱ絡みの話があった際に卵を温める親鶏みたくなっていた…ほかのマッマにそんな話を聞かれちゃ何をされるか分かったもんじゃない。

 マッマ達はたしかに、最終的に大量破壊兵器の使用に全員同意はしてくれたものの、その様子は快諾とは程遠いものだったのだ。

 にもかかわらず、その上から更に金儲けまで目論まんというのである。

 よって私は、マッマ達が無駄に私を心配しないよう、こういうお話はコソコソ隠れてやりたいと思うようになっていた。

 しなきゃいいじゃん?

 その選択肢あると思う?

 

 

『なるほど、貴方なりの気づかいなのね。』

 

 まあね。

 

『でも残念ながら…』

 

 ガバッ!

 

「全部、最初から聞いてたわ、坊や。」

 

 ぬおおおおおおおおおおお!?

 ピッピィィィイイイ!?!?!?

 

 

 バックシートのサイドドアが開かれ、ピッピママが突入してきた。

 反対側のドアからはダンケ、運転席からはベル、助手席からはルイスが突入している。

 あんたらいつからそこでステンバーイしてたのよ!?

 1人寂しく電話してた意味ないじゃん!!

 

 

「Mon chou!」

 

 はい、ダンケママ。

 

「うぅッ、ぐすッ、そんな風に育てた覚えはないのにッ…」

 

 泣かないでルイスママ?

 

「ご主人様の御心が荒んでしまっているようですね…憂うべき事態です。」

 

 ベルマッマ、そんな重く考える必要は…

 

「あるわ、坊や!やっぱり貴方この間からおかしい!姉さんも姉さんだけど…」

 

「明石と夕立が"あの装置"の2号機を作ってたのは、そういうわけね。まるで闇取引じゃない、Mon chou.」

 

「10人で囲む10人で囲む10人で囲む10人で人で囲む10人で囲む10人で囲む10人で囲む10人で」

 

「ご覧ください、ご主人様!ルイスがショックで壊れてしまいました!」

 

 それ私のせい?

 ルイスって元からそんなんじゃなかったっけ?

 

うわ、ひっど。ご主人様、流石に今の発言は酷すぎます。ですので、これよりご主人様の御心を治療致します。」

 

 カウンセリングか?

 また胸の谷間に挟んで色々すんのか?

 あぁん?

 もう慣れちまったよ。

 

「うふふ。ご主人様、今日のベルファストは一味違います。荒んだご主人様の御心に必要なのは…あやしよりも癒し。」

 

 もっと早くその事実に気づいて欲しかったなあ。

 

「では、皆様。ベルファストの提案に賛同していただけますね?」

 

「はぁぁぁ。そうね、坊やにも癒しが必要。姉さんとの裏取引に何の抵抗感も感じなくなってしまったのなら尚更ね。」

 

「ビスマルクとの取引はもう取り消せないけど…少しは元のステキなMon chouに戻って欲しいわ。」

 

「10人で囲む10人で囲む10人で囲む10人で人で囲む10人で囲む10人で囲む10人で囲む10人で」

 

「それでは、『癒しン坊作戦』決行します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど〜。しきかんもきっとつかれてるのね!じゃあ、わたしたちがあそんであげよぉー!」

 

 あ、ありがとう、ピッピちゃん。

 

「ピッピちゃんじゃなくて、ピッピおねえさんってよびなさい!」

 

「こらピッピ!しきかんはあなただけのおとーとじゃないのよ!」

 

「しきかんくんはわたしたちみんなのおとーと!」

 

「ひとりじめはよくありません!」

 

 

 

 マジでどうにかしちまったなぁ、ベルファスト。

 癒す方法が私を『鎮守府立ピッピベルゲルク=セントルイスファミリア幼稚園』にぶっ込む事っておかしくない?

 ねえ?

 そこでちょこんと座って、にこやかな笑顔でこっち見てるだけで全てが解決するみたいな雰囲気纏ってんじゃねえよ。

 

 もしかしてさ、私のことをどこかの航空母艦と間違えてない?

 駆逐艦より小さな子達と過ごせばはつじょっするとか思ってない?

 何度でもいうけどそっち方面の趣味はないからね、私。

 分かってる?ねえ?分かってやってる?

 

 

「は〜い、みんな♪アイスクリームの時間よ〜♪」

 

「「「「わ〜い!アイスクリームだぁ〜!!」」」」

 

 

 アイスクリームはいいんだけどね。

 うん、ありがとうルイス。

 でもねルイス。

 青い不織布マスクつけてアイスクリーム配りにくるのはやめてほしいかな〜。

 ネイビー●ールズって見たことある?

 あれの最初の方の斬新な爆破テロのシーンみたいな絵面になってるから。

 不必要に不穏な再現しないで?

 

 

「はい、しきかん!アイスクリームたべさせてあげるね!あ〜」

 

 ベチャッ

 

 

 ルイスはアイスクリームをコーンにのせて配っていて、ピッピちゃんは受け取ったアイスクリームを私の口元まで運んで来てくれた。

 ただ、アイスクリームを保持する角度が浅すぎて…つまり、地面と平行になり過ぎて、アイスクリームは床に落ちてしまう。

 

 コーンを握ったまま微動だにしないピッピちゃん。

 口を半開きにしたまま凍りつく私。

 せっかく「何かお姉ちゃんっぽいことしたい」と思ったのであろうピッピちゃんのご厚意は哀れ床の上。

 素敵な笑顔が阿鼻叫喚の号泣に変わるまで、おそらく…3.2.1…

 

 

「びえええええええええええええ!!」

 

「あ〜↑ほらほら、泣かないの!ミニ・ルーに食べさせてあげようとしたのね、偉い偉い!まだアイスクリームは沢山あるから!泣かないで!」

 

「でッ、でも、ゆがをよごじぢゃっだじッ、ぜっがぐのアイジュグリーム」

 

「お掃除はこのベルファストにお任せください!ピッピちゃんのお志はとても…」

 

「おそーじはわたくしにおまかせください!めいどちょーですので!」

 

 

 ベルちゃんがどこからか布巾を片手に持ってくる。

 あ、やめて、ベルちゃん。

 それ布巾やない、私の着替え。

 そんなもんでアイスクリーム拭いたら汚れが広がっ…あーあー、やっちゃったよ。

 ベルマッマのお仕事増えちゃったよ。

 おそーじプラスお洗濯になっちゃったよ。

 

 

「ベルちゃん、お志は立派ですが…その、困ります。」

 

 

 ベルファストが珍しく困り顔で苦言を呈す。

 たぶん、ガチ困りしてたからついこぼしちゃった感じだけど、ベルちゃんが泣き始める理由としては十分なものじゃった。

 わんわん泣いてるピッピちゃんにベルちゃんが加わり、ルイスちゃんとダンケちゃんが特に理由もないのに泣き始める。

 

 

「そんなつもりでは…あぁ、ごめんなさい、ベルちゃん!お志は本当に立派なんですよ!ただ…」

 

「みんな、泣かないで?ほ、ほら、ラッキールーのラッキーアイスを食べて元気出して?」

 

 

 見事にオロオロしてるベルマッマとルイスマッマ。

 私も何か彼女達を手伝えればいいのだが…いや、やめとこう。

 赤ん坊が手伝おうとすると返って迷惑にしかならん気がする。

 

 しかしまあ…

 私は断じてロリータコンプレックスなるものを患ってはいないものの、なんというか…そう、癒される。

 年下(に見える)存在がいるからかどうかは分からんが、お姉さんっぽく振る舞おうとして失敗していくミニマッマ達の姿がとてもとても微笑ましい。

 

 はぁぁぁ。

 よく考えれば、最近はビス叔母さんとダーティ・ビジネスに手を染めまくってたから、こういう純粋な子供のような心を忘れていたのかもしれない。

 そうか…ピッピは気づいて欲しかっ

 

 

「あははははッ!!ちびっ子達ぃ〜!!逃げる必要はないんだぞおおおおお」

 

「く、来るな!これでも喰らえッ!」

 

「ぐはッ!!!…はは、ははははは!!これしきでこのアークロイヤルの意思を止められるとでも思ったか!!」

 

 

 感傷的な気分を台無しにされた。

 見れば、当鎮守府ダントツの犯罪者予備軍・アークロイヤルが、いつのまにか当然のように我が鎮守府へ入り込んでいるツェッペリンちゃんを追い回していた。

 赤ん坊になっていなければ、私は今すぐにでも鎮守府警備隊に電話を掛けてつまみ出していたことだろう。

 アークロイヤルの方を。

 

 

「でゅふふふふふッ!いい加減に観念し…!?」

 

 おい、どうしたアークロイヤル。

 何故私を見つけた瞬間に立ち止まる何故ガン見する。

 おい、おい、やめろよ。

 お前それもはやストライクゾーンとかそういうレヴェルの話じゃねえよ。

 こっち見んな、ニヤつくな、ヨダレ垂らすな。

 やめろ、おい、やめろ。

 

「ぬふふほおおおおおお!?閣下あああああああ!?」

 

 こっち来んな来んな来んな来んな!!

 マジで来んなああああああああ!!!!

 

 

 ドカドカッ!!

 

「グフオッ!!!」

 

 

 ルイスマッマが躊躇いなく45口径でアークロイヤルを撃ってくれたおかげで助かった。

 腹部から血を流しながらもこちらへ這い寄ってくるアークロイヤルはゾンビそのものだが、じきにイラストリアスがやってきて医務室へ運んでいく。

 

 ふああ。

 マジで助かった…。

 アークロイヤルはしばらく地下牢行きだな………冗談抜きで。

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