バブールレーン   作:ペニーボイス

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そんなもん、ただの風邪ひいた赤ん坊だろうが。

--------------------ジャン・パール(アイリス戦艦)


ベイビィッシュ・ペイシェント

 

 

 

 

 

イィィッキシィッッッ!!!!!!!

(注:くしゃみ)

 

チンピラみたいなアホタレ指揮官を相手にした翌朝、私は風邪をひいた。

 

スペイン風邪みたいな重病じゃなかったのがせめてもの救いっつーか、マッコールって名乗っておきながら何なんだお前はと思われたそこの貴方、貴方の仰る通りです申し訳ありません。

 

まあ秋の朝の冷える事。

ピッピママと一緒におネンネして、そのまま一緒に風邪をひいたんだから冗談にもならない。

そういうわけで、心地よい秋風を窓から感じながら今日は一日ピッピママとおネンネでございます。

 

 

いつものダンケママ、ベルママ、ルイスママが物凄い嫉妬と怒りの表情を向けて迫ってきたけど、これで風邪が蔓延してもそれこそ冗談じゃないのでご退室いただく。

 

 

「覚えてなさい、ティルピッツ。いつか私も指揮官と風邪を…」

 

あのさ、風邪ってそんなにロマンティックなもんじゃねえハズなんだが。

貴方と一緒に何もかも分かち合いたいって病原体まで分かち合う必要はないんだからね?

 

どうか貴女達は万全な体制でいてください。

第一線級の戦艦が1人体調不良なのよ。

それだけでも大打撃だし、私が不在の間の業務ができるのは貴女達しかいないわけですよ。

お願いします、どうかご退室してください業務に戻ってください。

 

 

「指揮官がそう言うなら……仕方ないわね。何か甘いものでも持ってくるわ。」

 

「ご主人様、何かご用がございましたらいつでもお呼びください。」

 

「指揮官君、お薬持ってきたから毎食後にちゃんと飲むのよ?」

 

 

みんなありがとう。

今はその気持ちだけでも本当に嬉しいよ。

 

セントルイスに至っては薬まで…ちょっと待ってセントルイス。

この薬は…なんというかすっごくアメリカンな見た目してんだけど私が飲んでも大丈夫なものなのかな?

ペンキで塗られたような毒毒しいまでに青いカプセル錠って、映画の中で見たことはあっても実際飲むのは初めてなわけよ。

 

セントルイス?大丈夫だよね?

お〜い、セントルイス?何で振り返りもせずに出て行った?何かマズイ物とか入ってないよね?飲んだら「俺の体は子供になっていた!」とかそういう類の物じゃないよね?

黒の組織とか関係ないよね?

体はおっさん頭脳はビースト(赤ん坊)の私が体まで子供になったらあんな長編テレビアニメシリーズにはなりもしないし、それどころか放送禁止だよ?

信じてるからね?頼むよ?

 

 

 

さて、私の寝室からダンケママ達が出て行った途端、ピッピママがこちらに物凄いドヤ顔を向けてきた。

 

「私としたことが、指揮官と共に風邪をひいてしまうとはね」

 

そうだね、手洗いうがいちゃんとしなきゃね。

 

「でも、きっとこれは…運命…そう!運命よ!」

 

騒ぐな。

 

「私は指揮官と共に風邪に倒れた!これは天よりの使命に違いない!きっとそうよ!ハレルヤ!私はこのまま坊やと命運を共にするッゲホッゲホッゲホッ!!!」

 

ほらもう!大丈夫?

少しは落ち着いててくださいませんか、マッマ。

病室では静粛に。

淑女の、というより善良な人々の間では一般的な常識なんですよ?

 

 

「そうね…早く回復するためにも安静にしないと。」

 

そうそう、安静にね安静に。

安らぐに静かと書いて安静。

静かにしましょう、そして寝ましょう。

 

「…!指揮官がよく眠るためには、子守唄が必要なハズ!!!」

 

人の話聞いてた?

 

「坊やがよく眠れるようにママが歌ってあげるわ!」

 

どうやら話が通じてないようだ。

 

 

そして子守唄と言う名のオペラが始まる。

体調が万全の日に、オーストリアにでも旅行して、ホテル・ザッハーでフルコースと赤ワインを楽しんだ後に聞きたくなるようなソロ オペラが。

 

ただお互い風邪ひいてる状況でピッピママにこれをやられると、キツい。

歌ってるピッピママが一番キツいんだろうけど、同じベッドの中いる以上すごい熱が伝わってくるのは避けられないんだ。

たしかに田中●子ボイスのソプラノが聞けんだから文句言うなよってんならその通りなんだけど、体調不良の日にむせながら歌って欲しくはないかな。

静かに寝てて欲しいし、こっちも寝たいし。

 

 

あと、選曲ね。

よく眠れるようにって言ってたのにプッチーニを選んじゃうの?

確かに有名な曲なんだけど、曲名は知ってるのかな?

"誰も寝てはならぬ"だよ!

寝れねえじゃねえかよおおおお!!!

 

 

「ヴィンツェロオオオ、ゲホゲホゲホホオオオオオオオオオッ」

 

ほらほら、もう安静にしてくださいマッマ。

貴女怪我してる上に風邪までひいて満身創痍じゃん?

僕ちんもう一人で寝れまちゅから。

無理しないでくだちゃい。

 

 

 

 

「うるさいと思ったら、やっばり貴女ねティルピッツ。」

 

ピッピママの熱唱をどうにか止めた時、くぐもった声が扉の方から聞こえた。

 

 

なんてこった、シュトュルム・トルッペンじゃねえか。

フリッツヘルメットにガスマスクして黒い軍服着てんだ間違いねえぜ。

 

「連中は突撃歩兵と言うらしい。塹壕を飛び出て、俺たちを制圧するように命令を受けてる」「それがなんだ!こっちには銃剣がある。奴らの胸にまっすぐ突き込んでやれ。一人残らずだ!」とか言いたい衝動に駆られるくらい立派なシュトュルム・トルッペンだ。

 

シュトュルム・トルッペンは私の側まで来ると、コーフォーコーフォーとべ●ダー卿みたいな呼吸音を発しながら体温計と何かの書類を取り出す。

 

 

すいません、あなたはべ●ダー卿で間違い無いですか?

 

「何を言ってるの?」

 

べ●ダー卿もしくはシュトュルム・トルッペンはそう言うと、現時点で最大の特徴であるガスマスクを脱ぎ始めた。

 

 

やあ、こんにちはプリンツ・オイゲン!

君だったのか!

ところで何をしに来たんだい?

 

「ん?検査。Vielen dank?」

 

意味わかって使ってる?

そのドイツ語は"ありがとうございます"の意味だったと思うんだが。

そんなアンダースタンド?的な使い方をするようなもんじゃないと思うぞ。

いくらボイスの台詞だからといって、何でもかんでも使う必要はないと思うぞ?

 

「冗談よ?今のでドキッとした?」

 

いや、全然。

 

「とりあえず、体温を測って、採血をするわね。」

 

 

体温計を咥えながら、そう言えばプリンツ・オイゲンともケッコンしてたなあと思い出す。

別名"ログイン8日目の女"

彼女ともログインボーナスで受け取って以来の長い付き合いだ。

まあ、たまには話したりするのも痛ええええええええええ!!!

 

「言い忘れてたけど、すこしチクっとするわね?」

 

無警告で採血取るナースがどこにいるんだ!

せめて刺す前に警告はしてよ!

ドSかおまえは!?

新手の拷問だよこれは!!!

 

「ふふっ。」

 

笑うんじゃないっ!

 

ところで、ヴェスタルさんは?

普段、こういう時の対応はヴェスタルさんの仕事じゃなかったかと思うんだが。

 

「ヴェスタルなら、昨日あなたが保護した重桜艦の治療で手一杯よ。私じゃ不満?」

 

いや、そう言うわけじゃないんだけどね。

 

唐突にプリンツ・オイゲンが私の耳元に迫ってきた。

何事だろうか?

耳元でボソッと囁かれた時、私は凍りつく。

 

 

「他の女の話をするなら、締め上げるわよ子豚ちゃん。」

 

………病んではないね。

でも病んでるのと同じくらい危ない道を歩もうとしてないかい?

引き返すなら今だよつーか引き返してくださいお願いします。

私はSMプレイ大好きな子豚ちゃんではないし、むしろSMは嫌いなんじゃぞ?

頼むからそっち方面だけは攻めないで?

お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします!!!

 

 

「ふふっ、冗談よ。今のでドキッとした?」

 

うん、ドキッとした。

冗談が冗談と思えなくなりつつあるからマジでやめてくれ頼んます。

 

「熱は38度、採血も完了。くれぐれも騒がないようにね、指揮官。安静にしてセントルイスの薬でも飲んで寝なさい。」

 

 

ああ、それなんだけど、この薬飲んでも大丈夫なの?

見た目アメリカンドーピングドラッグっぼくて若干の恐怖なんだけどさ。

 

「ええ、私も使った事があるわ。良く効く薬よ。ただ…」

 

ただ?

 

 

「中身の原料はセントルイスの≪ピーーーー≫よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

マジかよ、セントルイス。

 

 

 

 

 

 

 


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