首都近郊
ロイヤル海軍第5兵器倉庫
警備兵達は既に眠らされていて、もうカーリューの邪魔をする者はいなかった。
彼女は事務室から鍵と目録を盗み、この巨大な倉庫へ忍び込んだ本来の目的を果たさんとしている。
その目的とは"艤装の回収"。
セントルイスファミリアの艦隊と戦うためにも、彼女達は武器を必要としていた。
彼女は例の対魔忍のような衣装の上から、更にパーカーのようなものを被っている。
フードを被り、顔をマスクで隠しているのだから、まかり間違っても正体が露見する事はないだろう。
この計画では、それは何よりも大切な要素だった。
たしかに艤装の回収も重要な目的だが、この作戦にはそれとは別に重要な目的も存在し、そしてそれは…もうまもなく達成される。
屋根の排気口から侵入したカーリューが倉庫正面のシャッターの前に到着した時、唐突に複数のエンジン音が聞こえてきた。
続けて車が急停止する音が聞こえ、最後には拡声器特有の「キーン」という甲高い電子音もやってくる。
どうやら、時間通りに"連中"はやってきたようだ。
"神は細部にまで拘る"
考え抜かれた作戦ほど、完璧な物は存在し得ない事だろう。
やがて倉庫正面のシャッターが遠隔操作によって強制的に開けられ、拡声器の声が後を追うように聞こえた。
『両手を上げて降伏しろ!そちらは包囲されている!』
シャッターの向こうには複数の車両に乗った男達がいた。
皆ステンガンやSMLEをカーリューに向け、ある者はスタッフカーのヴィッカース重機関銃を、またある者はハンバー装甲車のブレンガンをカーリューに指向している。
そして、車列の先頭のジープから1人の男が降りてきて、得意満面顔でカーリューに話しかけてきた。
「我々は間に合わないものとタカをくくっていたのかね、"ジェンキンス"?」
カーリューは男の間違いを指摘する事なく、黙って両腕を上げる。
そして、上げきった瞬間に右手を握りしめた。
得意満面男の部下達は、それを合図とした銃撃を受けて次々に殺されていく。
合図を受け取った銃撃者達は、予め周囲の建物の屋上にいたのである。
ある者はライフル、ある者はサブマシンガン、またある者は装甲車ごとM9バズーカで、男の部下達は生き絶えた。
先ほどの態度はどこへやら、例の男はただただ困惑するばかりだ。
「いいや、好都合だった。」
困惑する男を他所に、ジェンキンスご本人が
カーリューの脇から姿を現した。
カーリュー自身はここで初めてフードを外し、正体を露見する。
得意面男は今では「バカな」と言わんばかりに口をパクパクさせていた。
「…久しぶりだね、ビクター。」
「くそッ、形成逆転というわけか」
「そのようだ。…君にはタップリと喋ってもらう。MI5は僕の事なんか綺麗サッパリ忘れてると思っていたけど、憲兵軍曹や君を見る限りそうじゃないらしいから。ぜひ、その理由が知りたいんだ。」
…………………………………
私はきっと、悪い夢を見ているに違いない。
目の前で行われている謎すぎる儀式を見ながら、私は今見ているものが眠りの浅さに原因する夢だと信じたくなっている。
その光景はあまりにも残酷で、残虐で…私の精神を本当に参らせた。
「ミニ・ルーを讃えよ!」
「「「ルー!ルー!ルー!」」」
「ルー♪」
「…る、ルー…」
「るー!」
アーーーーーー、もうやだ。
もう嫌だ。
なんなんだよ、コレ。
なんの儀式なんだよコレ。
暗い密室の中で、私はルイスマッマァの谷間に挟まり、信仰の対象のような扱いを受けている。
ルイスママは黒いローブのようなモノを着ていたが、他の9人のセントルイスや、セントルイスの妹のヘレナちゃん、巻き込まれた感満載のホノルル、そして八重歯の可愛いルイスちゃんは頭からすっぽりと全身を覆う白いローブを着ていた。
彼女達は全員円陣を組むようにして立っており、その円陣の中心には魔法陣と燃え盛る十字架のようなものがある。
時刻は朝の10時頃。
今日は日曜日で、午後からはピッピやビス叔母さんと鉄血☆鉄血あやしんぐパーリーという謎イベントに参加する予定だった。
だが、朝起きてピッピと朝シャンした直後にルイスママに捕まえられてこの部屋に連れてこられたのだ。
何する気かと思えば、他のセントルイス達やヘレナやホノルルやルイスちゃん呼び出してこんな儀式をおっ始めてやがる。
「ミニ・ルーはルーの一員!つまりセントルイス級!ミニのファミリーネームには私達フリーアヤソンを示す偉大なる文字が刻まれているわ!」
もう帰りたい…
「モオオオオオオオオッ」
うおっ!?牛さんまで連れ込んだのかよ!?
うへっ、ぐへっ、舐めるんじゃない!
「指揮官もルーだから、この子も喜んでるみたいね」
「ヘレナ…ルーって何?…そもそもルイスに何があったの?こんな…トチ狂ってた記憶はないんだけど」
「るー!るー!るー!るー!」
ルー以前にフリーアヤソンとはなんなのだろうか。
そもそもお前らはこの儀式によって何を得ようとしているんだ?
何をしたいの?させたいの?
おっちゃん分からないから、一旦落ち着いて解説して?
「そこまでよ!ルイス!」
「こッ!この儀式は!?」
「やはり、思ってた通りだ…これがフリーアヤソンの儀式です。」
突然に部屋のドアが蹴破られ、ダンケママとジャンパール、それにロバート・ラン●ドンっぽい人が入ってくる。
うわぁ、なんか余計にややこしそうな人々が来たぁ。
ユニオンの大学で宗教象徴学を教えてそうな教授っぽい人は、鋭い視線をフリーアヤソンのメンバー達に投げかけながら解説を始めた。
「フリーアヤソン…起源はカール五世によるローマ略奪です。」
ウソつけ。
「鉄血の新教徒を味方つけたカール五世は次々に教皇の軍勢を打ち破り、ローマの陥落は時間の問題でした。そこで、クレメンス7世は新教徒を落ち着かせるためにあるモノを提案したのです。」
「それは?」
「それが"あやしの権利"」
やめろ。
クレメンス7世はそんな提案していない。
「自分があやしたい人間をあやす…これは中世の人々にとっては長年の夢でした。」
中世の人々全員に謝れ。
「教皇庁がそれに認可を与えることは、異例かつ禁忌でしたが、カール五世の軍を止めるためには有効だと思われた。」
「だがカール五世は止まらなかった…」
「そうです、ジャンパール。新教徒には免罪符の繰り返しだと受け取られ、逆にローマへの進撃を早める結果になった。」
マジで何がしたいの教皇庁。
「ですが、全ての人々が"あやしの権利"に魅了されなかったわけではない。ローマ陥落の寸前に、発行されたばかりの"あやしの権利"を手に入れて脱出した人々もいます。」
「…それがフリーアヤソンなのね?」
「ダンケルクの想像通り、彼らはまず欧州中を逃げ回り、新大陸が発見されるとそちらへと向かった。…もちろん、教皇お墨付きの"あやしの権利"を手にして。」
そもそも、あやすのって許可いるの?
信仰に反するサムシングなの??
「頭から全身を覆う白いローブ、中央に置かれた魔法陣と十字架、そして、指導者の黒いローブ…間違いない、彼女達こそフリーアヤソンの末裔です!」
「…気づかれてしまったのなら仕方ないわね。」
「ルイス!なんでこんな事を!」
「科学の力は信仰を凌駕しつつあるわ。貴女だって気づいているでしょう、ダンケ?だから、ミニ・ルーを唯一無二のセントルイス級にする事で…信仰の力を取り戻すのよ!」
…ん?なんて?
もう話の次元が無茶苦茶過ぎておっちゃんついてけないや。
「Mon chuを道具みたいに扱って…それでも貴女は母親なの!?」
「誤解よ、ダンケ。私はミニ・ルーを道具のように扱ったりはしないわ!」
ルイスママはそういうと、燃え盛る十字架に手を伸ばし、火炎の中で熱せられた鉄の棒を手に取った。
おいおいおい、ルイスママ。
まさか焼印じゃないよね、ルイス?
頼むよ?
天●と悪●しないでよ?
「これがッ、私たちの答え!」
ルイスはまだ熱せられて赤々としている鉄の棒を指向してダンケ、ジャンパール、ラン●ドン教授を下がらせる。
ルイス!?
焼印じゃないよね!?
そのまま自分自身の胸元に押し付けようとかしてないよね!?
ルイスママ火傷するの嫌だけど、そもそも私も貴女の胸元にいるからね!?
忘れてないよね!?ね!?
ルイスは意を決したように目を瞑ると、赤々とした鉄の棒を振り回す!
ガラガラガラ〜♪
ガラガラかいっ!?
ハンドメイドのガラガラかいっ!?
マジでいい加減にしてよルイスママ!?
んな禍々しいガラガラ作らないでよ、めっさ焦るじゃんかよ!?
「ルイス…貴女は母親としての自分を辞めようとしているのよ!?いい加減に気づいて!?」
「残念だけど、私はもう気づいているの。この子をセントルイス級にする…邪魔をする気なら」
そこからはもう、御察しの通りです。
艤装の撃ち合いです。
午後の鉄血☆パーリーには遅れました。
もう勘弁してください。