バブールレーン   作:ペニーボイス

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メルティー冷戦

 

 

 

 

「やあ、ウクラニアと北方連合の紳士諸君。私はユニオン合衆国大統領、ハリー・トゥーマンだ。君達と直に話せる事を光栄に思うよ。」

 

 

 ウクラニア側にも、北連側にも新たなスクリーンが用意され、そしてそのスクリーンにはクリ●ト・イース●ウッドならぬハリー・トゥーマン大統領がデカデカと映っている。

 正直言って、"コレを仕掛けた"私からしても、この大統領の登場は場違いも甚だしく思えてしまう。

 

 ウクラニアと北連の間の、欧州へ向かうパイプラインに関する問題が、ユニオンの国益に直接影響するとは考えにくい。

 プーシロフからしてもウクラニア人からしても、大統領閣下の華々しい登場は全くもって面白くはない事だろう。

 彼らからすればユニオンの大統領など部外者でしかないのだから。

 正に、"招かれざる客"。

 

 

 だが、私からすれば大統領こそ招くべき客であったし、大統領も大統領で招かれていようがいまいが来る必要があった。

 そして、それは私の予備手段の成功を示す予兆ですらあったのだ。

 まあ、そんな事などカケラも知るわけがないウクラニア首相は、イース●ウッドの挨拶が終わるなり口火を切る。

 

 

「ユニオンがいったいいつこの問題に口出しできる権利を得たと言うのですか!?干渉行為も甚だしい!!」

 

「我々ユニオンは東欧の安定化を望んでいる。君達の急速な軍事行動のせいで、東欧のユニオンの同盟諸国は多大なストレスを受けているからだ。」

 

「私たちウクラニアもその"同盟諸国"のハズです!お忘れなきよう、大統領閣下!!」

 

「確かにその通りだが…その同盟のど真ん中にいる私の気持ちにもなってくれないか?親しい間柄とはいえ、私に何の断りもなく暴走なぞされたら、"()()()()()()()()()()()()()()?"」

 

「…ッ!」

 

「よく考える事だ、首相。君らが画面の向こう側にいるロシア熊と対等に渡り合えるのは、ユニオンの後ろ盾があっての事だ。我々の地中海艦隊に援護を頼みたいのなら、応えてやろう。…だが、そのかわり、言うことは聞いてもらう。いいね?」

 

「…………はい。」

 

「それでは君は席を外したまえ。ガスプロム社の売却も取りやめろ。」

 

「しかしッ、それは内政干」

 

「まだ分からないのか、小僧!…私の右手にある電話機がどこに繋がってるかぐらいなら分かるだろう。地中海艦隊が消えれば、北連の黒海艦隊と地上軍に対する抑止力は消えるぞ。」

 

「………分かりました、大統領。手を引きます。」

 

「それで良い。それではまたな。」

 

 

 ウクラニア首相は自身に割り当てられた画面の中から消え去り、そしてその画面自体も黒に染まる。

 後に残ったのは北方連合とユニオンという2つの超大国の指導者だけで、プーシロフは形容しがたい感情を表情に託してイース●ウッドの方へ向けた。

 

 

 

「…礼を言わせてくれ大統領。まさかユニオンが介入するとは思っていなかったが…」

 

「プーシロフ書記長、まさかユニオンが本当に世界平和を望んで介入したと思っているわけではあるまい?」

 

「やはりそうか。要求はなんだ、言ってみろ。」

 

「チェフメ油田開発競合に、重桜を参加させるな。」

 

 

 プーシロフは驚いた顔をしていた。

 恐らく、彼は今の今まで重桜が油田開発に乗り出そうとしていることは耳にしていなかったし、ユニオンの要求がその妨害"程度"のモノである事にも驚いたハズだ。

 書記長の表情が語っているのは、このプーシロフという強欲な男がユニオンの足元を見てこちらの要求を上乗せできないか思案しているという事だったが…どうやら、プーシロフはそれを諦めたらしい。

 スタルノフ前書記長と違い、プーシロフには分別というモノがある。そして、プーシロフの後身には分別はない。

 この事実はユニオンによる介入の側面を担っていたと言っても過言ではないだろう。

 

 分別のある男・プーシロフは恐らくとびきりの笑顔をユニオン大統領に向ける。

 

 

「ありがとう、ユニオンの同志よ。君からの要求には誠意をもって答えよう。今後チェフメ油田開発競合に重桜が入り込める余地はない。…来週から始まる重桜北方軍地上演習は我が国に対する示威行動だからだ!」

 

「分かってもらえて助かる。我々はスタルノフよりかは君が好きだよ。…ただ、一つ間違いを正さねばならない。()()()()()()()()()()()。内輪でやりたまえ、そういうのは。」

 

 

 

 ユニオン大統領が電話会談を切り上げ、彼のスクリーンが消えた頃には、私のいるKGV本部地下施設は歓声に包まれていた。

 北方連合の国家生命であるパイプラインは守られたのである。

 そう遠くない内に北方連合はウクラニア・ガスプロム社を強引にでも買い取る事だろうし、下手をすればユニオンが裏から手を回す事だろう。

 ウクラニア人には悪いが、あのパイプラインは東欧どころか世界を火の海にする可能性すらあるのだ。

 地域の安定化の為には北方連合がパイプラインを握る必要がある。

 

 

「いったいどんなマジックを使ったんですか、ミーシャ?」

 

 

 アヴマッマがコサックダンスを踊りながら訪ねてきたが、私自身は彼女の谷間で震度6くらいの大地震に見舞われた為それどころじゃなかった。

 もうね、気持ち悪い。

 ぐわんぐわんして、気持ち悪い。

 

 

「あ!ごめんなさい、ミーシャ!つい嬉しくて…」

 

 いいんだよ、アヴマッマ。

 種明かしをすると…重桜マッマズのおかげだよ。

 

「え?天城達ですか?」

 

 その通り。

 

 

 

 

 ウクラニア首相との会談を提案する前には、私は鉄血・ウクラニア間の国境封鎖を諦めていた。

 鉄血財界の重鎮であるビス叔母さんの要請さえ渋っているのであれば、鉄血政府は本当に動く気がないと踏んだからだ。

 そして国境が封鎖されないのであれば、ウクラニアはガスプロム社の売却へと歩を進める事だろう。

 

 …問題に行き詰まった時は、その問題を更に大きな枠で捉える事もまた有効な解決法になる。

 私はこの問題にユニオンを巻き込む事にした。

 ユニオンはウクラニアの同盟国であり、地中海の沿岸に大規模な艦隊を持っている。

 ウクラニアが北方連合相手にここまで強気な態度をとれる理由はおそらく二つ。

 ロルトシート家との関係と、ユニオンの後ろ盾だ。

 ウクラニアはまるで竹馬のように、この二つの"援護"を用いていた。

 だから、竹馬の片方を引き抜く事にした。

 

 

 ユニオンに直接連絡を取るのも良かったが、会談までに間に合うか怪しいモノがある。

 彼らの関心を集めるには…何か差し迫った脅威を与えれば、それ以上のものはないだろう。

 だから天城マッマの協力を取り付けた。

 重桜が油田を手に入れるとなれば、ユニオンとしては放っておくわけにはいかない。

 冷戦以前のパワーバランスに戻ることはユニオンにとっては悪夢でしかないのだから。

 早急に重桜の企みを破る必要がある、ちょうど北方連合がウクラニアと揉めている、ウクラニアを黙らせる代わりに北方連合へ要求する、そして円満解決!

 

 

 あーーー、完璧だよ、天城マッマ。

 ユニオンは私の思った通りに動いてくれた。

 ここだけの話賭けに近いっつーか賭けでしかなかったけど天城マッマがかなり上手いことやってくれたに違いない。

 彼女に連絡を取った時、私の要求……ユニオンの目につくような感じでチェフメ油田狙っちゃって?といういい加減極まりない要求……を一も二もなく受け付けてくれたあたりもう母上。マジ母上。マジ卍母上。

 

 

「何はともあれ、無事解決できたのはミーシャのおかげです!」

 

 いや、重桜マッ

 

「ミーシャのおかげです!」

 

 あ、ハイ。

 

「お礼にモスクワ市内の観光をしましょう!ミーシャ♪ミーシャ♪ミーシャと観光♪」

 

 

 30分後には、私はKGV本部地下施設を"最初に"生きて出てきた外国人となった。

 どうか、これが"唯一"になりませんように。

 内心そう願う私の事を知ってか知らずか、たぶん知らずに、アヴマッマはKGV本部前で列をなす高級車の内の1両に乗り込んだ。

 …勿論、超絶ルンルン気分のまま。

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

『"ジュピター11"、こちら"ジュピター12"、ターゲットは4両目の車両に乗った。』

 

「"ジュピター12"了解。これより追跡する。」

 

 

 高性能な望遠鏡を覗く一人の男は、仲間からの報告をKGV本部近くのホテルの一室で受け取った。

 仲間だけでなく、その男も手に持つ望遠鏡でターゲットを確認していたし、だからこそ捉えてから直ぐに動き出した。

 彼はホテルの窓を開け、26階からロープ降下でスルスルと地上まで降りる。

 降りた先には一台のバイクがあり、彼はそれに跨るとアクセルを踏んでエンジンを唸らせた。

 

 

『…なあ、ジュピター。あんな親子を殺るのはアンタの主義に反するだろう。』

 

「仕事中はコールサインで呼べ。…僕の主義がどうだろうと、仕事は仕事だ。」

 

『でも…アンタ昔言ってたじゃないか…』

 

 

 男は跨るバイクの上で少しの間だけ天を仰いだ。

 

「ああ、そうだ。僕はね、正義の味方になりたかっ【検閲により削除】

 

 

 

 男の乗るバイクには、細長いケースが括り付けられていた。

 中身は7×57モーゼル弾を使用するモンドラゴン自動小銃で、ゼロインその他必要な調整は済ませてある。

 彼は少し振り向いて、そのケースを見やった。

 

 

「………前にロイヤルでやった時はしくじった。今度はしくじらない。」

 

 

 男は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、バイクの速度を上げていった。

 

 

 

 

 

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