「例え部屋の上じゃなく、崖の上だったとしても、それは自業自得だろうが。」
----------ジャン・パール(アイリス戦艦)
ポーカーなら何度もやったことはあるが、未だに一度も勝てた事はない。
私の向かいの席には過去に何人もの友人達が座ったが、彼らは示し合わせたかのように私に毎度こう言うのだ。
「ダメだダメだ。お前はすぐに顔に出る。ポーカーには向いてないよ。」
おそらく、この悪癖はこっちの世界に来てからも変わってはいないのだろう。
薬の原材料を聞いた私の顔を見た瞬間、プリンツ・オイゲンは歪な笑みを浮かべて私に青い錠剤を飲ませにかかってきた。
「そうね、飲ませてあげましょう!ほら、あーん!ほら!!!」
ちょっ!ちょちょちょちょ!ちょい待ち!ちょい待ち!ま、まだ心の準備というものがッ!!!
「問答無用♪飲みなさいッ!!!」
ひいいいいいいいいいいいいい!!!!!
セントルイスありがとう。
熱は無事に下がりつつある。
薬が良く効いてるんだ。
ただ、あの薬の原材料が≪ピーーーー≫ってのはあまり考えたくない。
ク●スのエロ本を見つけたステュー●ィー君の気分になる。
彼がM3グリースガンでエロ本を滅多撃ちにした理由も、今なら共感できる気がするんだ。
人間と艦娘では効果のある薬用成分も異なるようで、ピッピは粉薬を飲んで寝ていた。
彼女も熱が引いているようで、汗ひとつかくことなくぐっすりと眠っていたが、時折聴こえてくる寝言が少し気になる。
「………指揮官…ダメよ、無理しないで……やめて…お願いよ…そんな事のために……」
何かの夢を見ているに違いないが、普段のピッピからは考えられないほど苦悩した様子が見て取れる。
夢を見ているのだろうか?
少なくとも良い夢ではなさそうだな。
私が何か間違いを犯そうとしているのだろうか?
私が一体何をした?
彼女の頭の中で、私は彼女に何を止められているのだろうか?
私は上半身を起こして、軽く背を伸ばす。
汗と熱は引いているものの、暖かいオフトゥンから出ると少し身震いした。
のどが渇く。
ベッド脇の小テーブルに置いてある水差しの中身は既に空だ。
手間をかけさせてしまうが仕方あるまい。
私は水差しと同じテーブルにある受話器を手に取り、ダイヤルを静かに回す。
掛けた相手はすぐに出て、私の言葉を待った。
彼女は恐ろしく気が回る。
たぶん、私がいつも通りに「ベル?セイロンの何か頭の冴えるヤツ持ってきてくれないかな?」とか明るい調子でまくし立てない事からして、私が睡眠中のピッピを起こしたくない状況であると判断したのだろう。
もう怖いくらいに気が利くのね、ホント。
あぁ、ベル、紅茶を頼むよ。
ルイボス、いつものバニラ。
「かしこまりました、お一つですね?」
あー、うーん、ピッピがいつ起きても良いように一応2つ。
「すぐにお持ちします。」
ベルにかなり気を使わせてしまってる…
申し訳ないけど、外をほっつき歩く元気もないし、後で彼女にはお礼
「私の分も頼んでくれたのね」
をおおおおおおお!?
いつから起きてたのピッピママ?
もうなんかキリッとした表情でこっち見てるけど貴女さっきまで悪夢にうなされてたでしょうがどんだけ切り替え早いのよびっくりするじゃない全くも
「ルイボスをお持ちしました、ご主人様」
ベル?早すぎないかい幾らなんでも。
マク●ナルド顔負けの早さだよ。
紅茶を頼んで3分経たずにお部屋にお届けって…50歳手前のミキサーのセールスマンが黙っちゃいねえぜ。
気をつけろ、ベルファスト。
『綺麗事では夢は叶わない』を常日頃から実践してくる奴が、そのシステムを買いに来るかも知れん。
まあ少なくとも、『ファウ●ダー 紅茶帝国のヒミツ』なんて映画化してもハンバーガー以上には面白くなる事はないだろうね。
…いや、ちょっと待って。そんな訳はない。
紅茶を電話で頼んで、届くまで僅か2分。
ワープでもしない限り執務室からここには来れないし、君にワープ能力はないよね、ベルファスト。
どこにいたんだ、お前は。
こら、目を背けるな。
先生怒らないから正直に言いなさい。
いくらベルでも執務室からここまで2分以内にルイボスティー2セット用意して来れるわけがないでしょ!
どこにいたんですか!白状なさい!
まもなく、ベルファストがため息をついて、私の寝室の天井を指差した。
そら早えわ。
お前はいつから必殺仕●人か何かになったんだ?
いつからそんな技覚えるようになったんだ?
何か期待してたのかい?
「どうぞ、指揮官。マッマの生肌よ?」「ぐへへへへへ、ピッピ、お主も悪よのぉ」「うふふふふ、指揮官ほどではありませぬ」的なサムシングを期待してたのか?ん?
てか何か軋むような音がしてないかい?
ミシミシって音がするんだ、幻聴じゃない。
音に気づいた3秒後に、天井からダンケルクと赤城と高雄が"降ってきた"。
いいかい、これは比喩表現ではない。
文字通りに、降ってきた。
お前らさあ、一応ここは私のプライベートルームなわけですよ。
何で揃いも揃って人の私室の直上から、ドーントレス急降下爆撃機みたいに人のプライバシー狙ってんのよ、何で人のデリカシーの真上で惣寄合みたいな事してんのよ。
「我が子の容体を見守るのは母親たる者の務め。当然であろう。」
お前もか、高雄。
何だってお前らは毎回毎回友達とか恋人とかそういう通常のステップには進まずに、奇抜なステップを率先して選んでくるんだよ。
お付き合いとかケッコンとかすっ飛ばして皆して直で母親になりにくる必要はないんだぞ?
確かにビースト(赤ん坊)にもなったし、皆の可愛い(?)赤ん坊とも言ったけど、他所の鎮守府所属の君達まで郷に入っては郷に従う必要は微塵もないんだぞ?
もうこんなどうしようもない指揮官ほっといてどっか行ってもわたしゃ止めやしませんから。
「我が子の胸の中、我が子の表情、我が子の匂い…全て赤城の物に…」
赤城、それ以上はやめとけ。
ヤンデレから別のよりヤバいジャンルに片足突っ込んでんだぞ、お前は。
そこから先にあるのはスペイン・ハプスブルク家だ。
フェリペ3世を迎えたらよく考えるんだ。
ブルボン家に王位取られちまうぞ。
「Mon chou?お腹も空いたでしょう?ブリオッシュでパン・デ・ベルデュを作ってきたから、良かったら食べて?」
わあああい、ありがとう、ダンケルク!
パン・デ・ベルデュ(別名フレンチトースト)大好きなんだあ。
これからも作って欲しいなあ。
ここの天井じゃなくて執務室でな!!!
誰が執務室で仕事しとんねん。
誰が私の代行やっとんねん。
セントルイスか?
「呼んだぁ?」
セントルイスゥゥゥゥゥウウウウウ!?
お前奇抜な登場しないといけない義務か何かに取り憑かれてでもいるのか!?
毎回毎回私の心臓を止めにかからないといけない病気か何かなのか!?
もういい加減にしてくれ!!
マットレスの側面ビリビリ破きながら出てくんな!!
お前いつのまにそんなところ入ってんのよ!!
蝋●形の館かもしくはメデジン・カルテルの抗争かよ!?
C●I:マイアミとかで死体隠すのに使われそうな手法だよ!?
重くなかった!?ピッピと私の体重で重くなかった!?ねえ!?大丈夫!?
…ふぅ、びっくりした。
しかしながらセントルイスでもないとなると誰なんだ?
イラストリアスか?
「指揮官様、お呼びになりましたか?」
際どい下着姿のシャ●ン・ストーンがいたけど、何も見なかった事にしよう。
…イラストリアスじゃないなら、プリンツ・オイゲン?
「コー、ホー、コー、ホー(呼吸音)」
いつまでシュトルムトルッペンやっとんねん。
…ひょっとして、エンタープライズ?
「お呼びになりましたでしょうか、お客様?」
やあ、ヴァイ●レット。
…ちょっと待って、ひょっとして誰もが執務室業務を破棄してるのかな?
誰もが私のプライベートルームの直上で惣寄合してたのかな?
「「「「「……………」」」」」
頼むよ。
惣寄合してる場合じゃないよ。
風邪で寝込んでる私をネタに厚生活動してる場合じゃないよ。
確かに普段から過酷な業務に従事していただいている事に関して、これはもう感謝以外何物の気持ちもないんだけどさ。
でも、頼むよ。
風邪なんかひいた私が一番不甲斐ないんだけどさあ。
執務室に誰もいなくちゃあ、海軍参謀長とかに怒られちゃうじゃん?
ピッ●ブルから怒りのリリック叩き込まれちゃうじゃん。
「ご主人様、それについてなのですが…」
おう、どうしたカイテル元帥もといベルファスト。
シュタイナー師団は消耗しきったのかな?
師団はベルリンに来れないのかな?
ねえ、どうなのダンケルク?
「今日は管区の代休取得奨励日で、殆どの鎮守府が休日体制よ?」
こっちに来てからというもの、休日というものの存在を忘れてた。
そりゃあ、毎日魅力的な艦娘に囲まれてんだから毎日お休みみたいなもんかもしれないけどさ。
今日は金曜日で、偉大なるピッ●ブル閣下は労働者の権利と希望を尊重して三連休をこしらえてくださったらしい。
でも、そういうことは先に言ってください。
心配して損した。。。