ロイヤル
ピッピベルケルク=セントルイスファミリア鎮守府
「ベルファスト、ASSO(オセアニア植民地の情報局)から情報提供です。一昨日の夜に"ジュピター"と呼ばれる暗殺者が北方連合に渡ったとのことです。」
「ご苦労様、オーファスト。…カナファストの情報とも一致しますね。」
「はい、ベルファスト。ONSET(ユニオン大陸北部の情報局)も"ジュピター"とご主人様の同行の一致を心配していました。」
側から見れば3人のベルファストが話し合っているだけに見えるが…実は違う。
何が違うかと言えば、それぞれ勤務していた鎮守府が違うのだ。
今セントルイスファミリア鎮守府にいるベルファストは5人だが、全てロイヤルに常駐していたわけではない。
彼女達の指揮官は雑にナンバーを振って満足してしまったが、彼女達は元々、世界のあちらこちらで別々に勤務していたのだ。
まず、その昔からロイヤル・セントルイスファミリア鎮守府で勤務していたベルマッマことベルファスト。
過去にオセアニアの植民地で勤務し、重桜にプレッシャーをかけるという任務に従事していたオーファスト。
そしてユニオンの北側でCIUの同行観察を主として活動していたカナファスト。
この3人のエディンバラ級ベルファストオーファストカナファストは、それぞれのコネクションを持ち合わせた結果、彼女達の指揮官に大きな危険が迫っている事を感じ取っていた。
"ジュピター"と呼ばれる暗殺者が別名"デューク・エ●ヤ"と呼ばれているあたりからも、彼女達は特別にこの情報を不安視している。
諜報界隈でも有名なこの暗殺者が、7mmモーゼル弾仕様のモンドラゴン自動小銃をよく使用し、そしてその自動小銃が数ヶ月前に指揮官への暗殺未遂に使われた銃と同一であると知れたならば、心配の度が過ぎるのも無理はない。
彼女達としては、指揮官に危険の及ぶ前に処理したかった案件だが、肝心の"危険"は既に海を越え、北方連合に入国していた。
これでは到底間に合いそうもない。
せめて地理的に北方連合と国境の隣接する鉄血公国を頼りたいところだが………
「あ〜〜〜↑↑↑よちよちよちよちよちよちよちよちラインハルトォ〜〜〜↑↑↑」
「ぶへっ!ビスマッマ!やめて!脇汗飲ませようとしないで!やめて!」
「ボーヤボーヤボーヤボーヤボーヤボーヤボーヤボーヤボーヤ、わーたーしーのーボーヤボーヤボーヤボーヤボーヤ」
肝心の鉄血担当者達はご覧の有様である。
財界の威信をかけ、ウクラニア政府への圧がけを試みたにも関わらず失敗してしまったビスマルクは、ショックのあまり鉄血情報部長でもある息子のラインハルト・フォン・ビスマルクをあやす事で全力現実逃避中。
こうなってしまっては誰も何もできやしない。
それに加えて、ベルファスト達の同僚であるティルピッツすら3日間に渡る深刻な指揮官あやし量不足により施設療養中の薬物依存症患者と成り果てていた。
他にも鉄血公国関係者がいないわけではないが…いずれもビスマルク、ラインハルト、ティルピッツほどの影響力はもっていない。
「困りました…ご主人様には危険が迫っているというのに…」
「もしご主人様に危害が及んで、これ以上お帰りが遅くなるのであれば…事態はご主人様自身の安否よりもかなり深刻です、ベルファスト。」
「………どういう意味でしょう、オーファスト?」
「ティルピッツは3日ご主人様をあやしていないだけであの体たらく。ダンケルクは脇汗を蒸留・ろ過して『夏本番に向けて、Mon chouの為にロ●ーヌ岩塩を精製するの』などと意味不明な供述をしています。」
「ベルファスト、オーファスト…ティルピッツやダンケルクよりもセントルイスの方が重大です。…彼女達全員で昨日から『ミニ・ルー生誕の儀』なるモノを始めていますし、そのせいでジャン・パールやグラーフが殺気立っています。…このままでは2度目の宗教戦争です。」
「…っ!……つまり、ご主人様の安否はこの鎮守府の機能自体がかかった案件であるという事ですね…。…しかし、歯がゆい思いですが、私達にはどうにもできません。ここはアヴローラに任せるしかないでしょう。」
…………………………………
北方連合
首都モスクワ
もし、今あなたがこの世界線でモスクワ市内を観光していたら、あなたはとてつもない恐怖を感じて凍りつく事だろう。
あの悪名高いKGV所属のバイカー2名が先導する車列には、私の乗るリムジンと全く同じ色形をした高級車が他に14両、更にBA64装甲車が6両、T70軽戦車が4両随伴し、車列の前後はそれぞれ2両のIS-2重戦車によって守られている。
広いハズのメインストリートはその軍事パレードのせいで非常に狭苦しく見えるし、IS重戦車は路肩の違法駐車車両を躊躇なく踏み潰しながら走行していた。
おいおい、勘弁してくれよ。
これじゃまるで、私が悪の親玉みたいじゃないか。
私は今、15両あるリムジンの内の一両の、あまりにも広々とした後部座席で、アヴマッマの谷間に載っていた。
ウクラニア・ガスプロムの問題が片付いた後、もうそれはそれはハイテンション上機嫌となったアヴマッマから市内観光を申し出られたのだ。
厳密に言えば…申し出られたのではなく、スム〜ズに連れ出されたのだが。
アヴマッマがおもむろに無線機を口元へと運ぶ。
「ステパン大将、こちら"ツァーリ"。その先のデパートの前に止めなさい。」
『イエス、ユアマジェスティ!』
アヴマッマが北方連合陸軍大将に向かって"ツァーリ"と名乗り、まるで使い走りでもさせるかのように扱う。
一国の総司令官レベルの軍人を護衛に使うとか…
お前は一体誰なんだ、アヴマッマ?
どういうマジックを使ったら陸軍大将をアゴで使えるようになるんだ?
外国人一人に市内の案内をさせるためだけに一々物々しすぎないかい?
つーかさ、大将の返事。
返事、返事。
何で一々コードギ●スみたいな返事すんの?
何で一々著作権アウトローな返事すんの?
何なの、本当にもう。
叛逆か?叛逆なのか?
著作権に対する叛逆のルシアンR2なのか?
「車両、停車します。」
「ご苦労、大佐。ミーシャと私が戻るまで待っていてください。」
「イエス、ユアマジェスティ!」
リムジンの運転手は陸軍大佐で、大佐に運転手とかさせるなやという突っ込みを全力でしたかったが黙っておくことにした。
アヴマッマがリムジンの後部座席からデパートの入り口へと降り立つと、他のリムジンから制服制帽且つピッカピカした長靴を履いたKGV保安要員達が駆け下りてきて私とアヴマッマを取り囲む。
ザッと見ただけで30人。
屈強な男達がPPSH41サブマシンガンを両手に、デパートの入り口でスクラムを組んでいる様子は圧巻である。
この移動する肉壁が、アヴマッマの歩調に合わせてデパート内部へと向かっていく。
やがて先頭の保安要員が長靴を鳴らしながらデパート入り口すぐのサーヴィスカウンターへと到達し、そして、サーヴィスカウンターの前で鳴り響く長靴の数はどんどん増えていった。
まあ、だれが1番かわいそうかって…偶然入り口に居合わせてたこのデパートの責任者かな。
白昼堂々KGVの小隊がザックザック長靴鳴らしながら来てんだよ?
もうおっかなくて逃げたくなるわそら。
相当な肝っ玉の持ち主なのか、デパートの責任者はKGVの大群を見てもキチッと気をつけの姿勢をしていたし、それを崩してはいなかった…いや、崩せなかったのかもしれないが。
とにかく、KGVの大群は責任者を取り囲んだし、いつもの白い服に白い防寒帽のアヴマッマはにこやかに責任者の元へと歩んでいった。
「ど、同志アヴローラ!わ、わ、私めが何か不手際を致しましたでしょうか?」
「いいえ〜?何か不手際をしたのですか?」
「しておりません!わ、わ、私達は、ほ、北方連合の全人民の為に全力を尽くしております!」
「…ええ、知っています。」
「………」
「それで…一つお願いしてもいいですかぁ?」
「ひぃっ………は、はい!同志アヴローラ!」
「アイスクリームを2つ…私とこの子の分を。」
「はぃ!同志アヴローラ!今すぐに!!!」
何の罪もないデパートの責任者は、屈強なKGV保安要員を引き連れたアヴマッマが、胸の谷間に挟む赤ん坊の為にアイスクリームなんか買いにきたが為に、胃潰瘍になったに違いなかった。
嗚呼、なんて可哀想なんだろう。
間違っても口に出す事は出来ないが、しかし、私は内心思う。
アヴマッマがアイスクリームを買いに来なければ、あの責任者は在庫の心配をしているだけで今日一日終わった事だろうに。
…アヴマッマ、貴女はそろそろ気づいた方が良い。
周囲に不必要な圧をバラ撒きすぎじゃないかな、いい加減。
責任者は飛ぶようにして戻ってきて、見るからに乳脂肪分に溢れた立派なアイスクリームを2つ持ってくる。
アヴマッマは笑顔でそれを受け取り、次いで脇に控えるKGV大尉の方へ顔を向けた。
なんということか!
大尉が彼女の顔を捉える頃には、彼女の顔は
見るんじゃなかった!
つーか、一挙動一挙動がマジで怖えよアヴマッマ!!!
「大尉、支払いを。」
「イエス、ユアマジェスティ!!」
大尉が大袈裟なスチールのアタッシュケースから小さな小銭をいくらか取り出してデパートの責任者に渡す頃には、アヴマッマはにこにこ笑顔でアイスクリームを舐めながら出口の方へと向かう…もちろん、私にもアイスクリームを舐めさせながら。
「ミーシャ♪北方連合のアイスクリームは高品質なんですよ♪美味しいでしょう♪…次はお昼ご飯です!うーん…ミーシャはペリメニが好きしょうか?それともボルシチでしょうか?」
どうやら次はペリメニかボルシチが美味しいレストランの店主がハゲ頭或いは白髪或いは胃潰瘍になる番らしい。
私はその責任を取りたくないので、アヴマッマの谷間に少し深く入り込んで知らんぷりをした。
…………………………………
暗殺者"ジュピター"は鉄血公国製高性能スコープの向こう側に、ターゲットと思わしき人物を捉えていた。
標的からはかなり距離があり、そもそも標的の周りに大勢のKGV保安要員がいるせいでターゲットを100%断定できたわけではない。
KGV本部から発進した車列の目的地に検討をつけ、先回りをして、工事中のマンションの一角からのぞいている間、彼は"確証"こそ得る事は出来なかった。
だが、彼は多数の男たちのグレーの制服の間から、白い服の、赤ん坊を胸の谷間に挟んだ女がデパートに入っていくのを確かに見届けていた。
クライアントから提供された情報と照らし合わせた結果、ジュピターはこの女と赤ん坊こそ標的だと結論づけた。
ならば、彼がすべき行動は概ね1つしかない。
「悪く思わないでくれ…これも仕事なんだ。」
彼は工事中のマンションの5階にいたが、1階のほぼ完成した駐車場では仲間の車が待っている。
その車の運転手は女性だが、運転その他諸々の技量においても彼に引けを取らない。
ジュピターの算段は簡単で、且つ効果的。
"1発だけ撃って、赤ん坊を葬り、車で逃走、祝杯をあげる"
車列の周囲には重戦車もいる。
122ミリ砲に捉えられる前に、逃げた方が賢明だろう。
ジュピターはグレーの制服の男達の合間から、白い服の見えるポイントを探し出した。
正面から狙撃したいとは考えていたものの、ターゲットの向きからして、彼女の豊満な胸を側面から撃ち抜くしかない。
距離は決して近くはないが、特別な強化を施した7mmモーゼル弾なら女も赤ん坊も葬ることが出来るだろう。
彼はもう一度風向きと強さを確かめ、そしてもう一度射撃姿勢を取り直す。
そして、息を軽く止めてから、1発だけライフル弾を放った。
スコープの向こう側では、白い胸が赤く染まり、ターゲットが倒れる頃には、赤ん坊は恐らく絶命した。
女はしばらく自らの血の海でもがいた後、胸の谷間に挟んでいた大切なナニカに手を伸ばす。
しかしそれは既に元のカタチを失っていた。
彼女は絶望したようにナニカを手放すと、ピクリとも動かなくなる。
ジュピターは仕事の成功を確信した。