「目が覚めましたか、ミーシャ?」
明らかに1km以上離れた距離からやってきた銃声が耳に入った時、私は確かに意識を失った。
そして次に目を覚ました時には、アヴマッマに抱き抱えられた状態だった。
周りは…朗らかな農村地帯で、アヴマッマと私以外には人っ子ひとりいない。
「ふふっ、ミーシャったら♪そんなに周りをキョロキョロしなくても大丈夫ですよ♪私が付いています♪」
いや、アヴマッマ?
ここどこなの?
「………」
アヴマッマが少しだけ暗い顔をする。
何か後悔するような…何か後ろめたい物があるかのような…何か寂しいような…
私も私で、どことなく悪い状況を想像せざるを得ない。
何せさっきまでモスクワのど真ん中にいたのに、今では絵に描いたような農村にいるのだ。
あれ、これひょっとして私とアヴマッマ天に召さr
「…ミーシャ♪これからはずっと一緒ですよ♪」
え、ちょ、ちょ、アヴマッマ?
立ち直んの早くない?ねえ?
ぶっ殺されてんのになんでそんな穏便なスタイル保てんの?なんでそんな平常心なの?ねえ?
「ママはミーシャと一緒に死ねました…それだけでも…救われた気がするんです…」
アヴマッマ?
少なくとも私は救われた気はしてないよ?
ピッピとかダンケとかルイスとかベルとか置いてきちゃってんじゃん?
「もう、ミーシャ!ママの事、嫌いなんですか?」
いや、そうじゃないけど置いてきちゃったマッマァ達もマッマァ達なんだから…
「ボォォォヤぁぁぁぁあああ!!」
突如として頭上からこの世のものとは思えない咆哮が聞こえてくる。
(まあ、実際もうすでに"この世"にはいないわけだし)とか思いながら空を見上げた私が見たのは、凄まじい光景だった。
なんたって…『氷溶ける夏』スタイルのピッピマッマがフリーフォールしてきのだから。
私は唖然としていたが、もちろん、アヴマッマも唖然としていた。
だから私を保持する力は弱っていたし、ピッピマッマは
合計72時間あまり。
私をあやせていなかったピッピマッマは私を確保するなり、『氷溶ける夏』ビキニに包まれた豊満な爆乳に私を思い切り挟み込む。
「ああ!坊や!坊や坊や坊や!坊や?坊や坊や?坊や〜。坊や坊や、坊や坊や坊や坊や!」
3日間あやしてないだけで言語は完全に崩壊しているものの、挟まれた感触とピッピマッマァの濃い匂いのお陰で、私自身はどうやら天に召されたわけではないと確信を持てた。
ただそれは…もしかするとあと数秒だけの話かもしれない。
もしピッピがこのままの腕力で私を締め付け続けたのなら、私は本当に天に召されてしまうだろうから。
「アヴローラ!!あなた私達を騙したわね!!!」
「べ、別に騙してなんかイマセンヨウ」
アヴマッマ、とりあえず何がどうなってるのか説明してもらえる?
「嫌です!」
彼女にも何かしらの計画があり、それが途中で上手くいかなくなった事に不満を覚えているのだろう。
だから真っ白な頰を紅潮させ、これほどにまでないほど可愛らしい膨れっ面を披露している。
それはそれは可愛いらしいのだが、私やピッピとしては現状を把握したい。
「ぷんぷん!嫌です!教えません!」
………はぁ、仕方ねえ、最終手段か…
「最終手段?…どういう事ですか、ミーシャ?」
アヴマッマなんか大嫌い!
「!?」
アヴマッマは僕ちんのマッマじゃないもん!
もうちやない!ちやない!
「!?」
哀れアヴマッマは相当ショックだったのか、メドューサの目を見てしまったんじゃないかと言うほどに凍りつく…ピッピママ、このタイミングでニタァって笑うのはさすがにやめたげて?
「そんな!嘘ですよね、ミーシャ!」
ちゃんと教えてくれないと、僕ちんアヴマッマのこと嫌いになっちゃうもん!
「!?…お、お、教えます!ちゃんと教えてあげますから!だから、そ、そんな事言わないで…」
じゃあ、おちえて?
「………仕方ありません。ごめんなさい、ティルピッツ、ミーシャ。嘘を、つきました。」
…………………………………
KGVは、いわゆるホルタ会談側の情報組織よりよっぽど早く暗殺者の情報を得ていたし、それは当然アヴマッマにも伝えられていた。
普通ならそこで考えるべき事柄は…それでも私を北方連合へ連れて行くべきかどうか的なサムシングじゃないかと思う。
ところがどっこい。
アヴマッマは全くベクトルの違う方向を向いていたのだ。
暗殺者が建設中のアパートから私を狙っていた時、私とアヴマッマはアイスクリームを食べていた。
そして、私のアイスクリームには睡眠薬が盛られていたのだ。
アヴマッマは頭脳明晰で、冷静で、非道なまでに周到で、スナイパーが待ち構えそうな地点を予測し、いくつかの経路を封鎖し、暗殺者をあの狙撃ポイントへ誘導したらしい。
デパートから出る手前で銃声が聞こえるであろう時間までに、アイスクリームを買う時間、私が催眠薬入りアイスクリームを食べて、即効性の薬物が効く時間を綿密に計算して行動していたのだ。
話は変わるが、あの暗殺者にも家族というものがいて、それはそれは綺麗な奥様と娘さんがいたそうな。
KGV重桜支部はわざわざアヴマッマの為にリスクを犯してその母娘を拉致。
プラチナブロンドの母は有無を言わせず髪をショートカットと三つ編みにされ、防寒帽を被せられ、あのデパートに連れていかれていたらしい…まだ幼い娘と共に。
もうお分かりの方もいるかもしれないが、とんでもない謀略である。
暗殺者はデパートに入って行く私とアヴマッマを、ハッキリとは捉えていなかったはずだ。
何せ戦勝パレード並みの警護要員に囲まれていたのだから。
アヴマッマと私がアイスクリームを買って出てくる少し前に、可哀想な母娘はアヴマッマ及び私と同じ服装をさせられて、アヴマッマの3m前を歩かされた。
暗殺者は白い服に防寒帽のプラチナブロンドを見て引き金を引いたのだろう。
それが実はターゲットではなく、自身の妻と大切な娘だと思うはずもない。
何せ母娘も警護要員に囲まれていたはずだし、あの距離では尚更識別なぞできないはず。
アヴローラによると暗殺者はKGVに囲まれて、事実を伝えられ、まるで顔芸のような凄惨な表情して、拳銃で自身の頭をぶち抜いたらしい。なーむーん。
まあ、これだけでも十二分に恐ろしい話だが、これが始まりに過ぎないあたりがマジ卍。
マジアヴマッマ。
あろうことかアヴマッマはこの暗殺計画を自身の利益に繋げようとしたのである。
私が睡眠薬で意識を失っている間に、KGVとアヴマッマはのどかな農村へと移動した。
その後KGVは立ち去り、アヴマッマと私だけになり、そしてこのページの一番最初へと至るわけである。
つまるところ、アヴマッマは、『2人揃って死んだ事にすることで、私の独占を狙った』のだ。
…………………………………
こえええよ!!
マジこええよアヴマッマ!!!
アヴマッマの発想もこええけど、こんな計画を寸分の狂いもなくやり遂げるKGVもこええよ!!!
なんなのよ、一体!?
こんなクソみたいな事やり遂げられるならウクラニア・ガスプロムぐらいあんたら自身で何とか出来たんじゃないの!?
力注ぐベクトルが絶対におかしいからね、断言するよ!?
つーか、ピッピもピッピでどうやって知ったのよ?
「………母子の絆♡」
おい。
「じょ、冗談よ。ベルファストの情報源がたまたまKGVのそれと被っただけ。…危なかったわ、本当に坊やとお別れになっちゃうところだった…慌ててきたのよ?ジェットママライカー使って。」
「ちぇ〜、最後の最後までは完璧だったのに」
ちぇ〜じゃないよ、ちぇ〜じゃ。
欲望に忠実すぎるでしょ幾ら何でも。
「アヴローラは当分、坊やあやすの禁止ね。」
「なっ!酷いですよー!これぐらいで!」
ごめん、アヴマッマ。
今回ばかりは適正な罰に感じる。
「そんなぁ〜!」
「さて、坊やも無事回収出来た事だし…ロイヤルへ帰りましょう。」
………ちょっと待って、ピッピママ?
ビス叔母さんと同じで、ピッピも北方連合に来たら鉄血公国とのつながりを疑われるんじゃないの?
よく北方連合が領空通過を許可したよね?
「…………」
おい。
「それはもちろん………領空侵犯☆」
しばらくして、KGVと思わしき車列が数十台はこちらへ向かってくるのが見えた。
行きはファーストクラスだったけど、帰りは囚人輸送機になりそうだな、これは。
アヴマッマの計画はガバらせすぎだなぁとは思ったっすけどあの女にらやりかねねえと思いました(出自不明な風評被害