バブールレーン   作:ペニーボイス

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Ⅱ章 仁義なきハイハイ
カチコミのクチコミ


 

 

 

 

 

『主は世界地図がより多く大英帝国の版図に塗り替えられる事を望まれている。出来ることなら私は、夜空に浮かぶ星々さえも併合したい。』

 ------------セシル・ローズ(イギリスの植民地政治家)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒸し暑い東南アジアの気候は、かつて多くの西洋人を疲弊させたどころか死に追いやりもした。

 それでも多くの西洋人がこの地域の植民地化を推し進めたのには勿論理由がある。

 この地域の"クソ"蒸し暑い気候は、この地域にゴムや香辛料といった他の地域にはない恩恵を与えてもいたからだ。

 

 

 19世紀にロイヤルはこの地域の内、マラヤン半島を完全に手に入れた。

 この頃欧州でロイヤルと覇権を争っていたアイリスも、マラヤン半島から東を進んだ『大越国』と呼ばれる地域を手に入れている。

 帝国主義が列強の行動原理であったこの時代、技術の革新による距離の消滅が地図を次々と塗り替えていたのだ。

 

 

 当時、欧州どころか世界最強格だったこの二大国は、互いに植民地を欲しながらも、しかし決して"頂上決戦"を欲していたわけではない。

 ロイヤルにもアイリスにも、お互いより警戒すべき相手がいたし、常に漁夫の利を狙っている"欧州の憲兵"は事あるごとに野心を隠そうともしなかった(不凍港を狙っていた)

 

 鉄血公国の勃興と北方()()の南下政策は、思わぬところに平和をもたらす事になる。

 ロイヤルとアイリスは緩衝地帯を必要とし、そして『シャム王国』が選ばれた。

 しかし、無論、この国の国王はロイヤルとアイリスの"ノーマンズランド(緩衝地帯)"という扱いに安心できたわけではない。

 国王は国の近代化を望んだが、それには支援が必要だった。

 そしてその支援は、国王と同じ色の肌をした人々に求められた………()()()()()()()()()()()()()()()()である重桜に。

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 東南アジア

 

 シャム王国とマラヤン半島の国境付近

 夕刻近く

 

 

 

 

 

 

 その重桜陸軍の大尉は、この国のスコールというものには散々嫌気がさしていたし、自身の出身である瀬戸内の気候を思い出すと尚更帰郷願望に取り憑かれる。

 

 だが、祖国は彼に任務を与え、そしてその遂行を望んでいた。

 シャム王国と重桜の友好関係はセイレーンの出没する以前から存在する。

 彼の任務はその伝統的友好国の支援であり、具体的に言うのであれば軍事顧問であった。

 

 

「カブラギ大尉!現在警備状況に異常はありません。」

 

「敬語を使う必要はない、トンチャイ大尉。我々は同級だ。」

 

「しかし、同級といえども…」

 

「トンチャイ、我々の間に格差はない。君も私の事はカブラギと呼べ。」

 

「は、はぁ…では、カブラギさん。現状、国境地帯では目立った動きはない。正直なところ、あなた達重桜軍事顧問がもたらした情報がどの程度正確なものなのか疑う声もある。」

 

「まあな。実際に何も起きなければ、そう言われても仕方あるまい。我々の情報能力に対してどれだけの陰口が叩かれようと、それはそれで一向に構わない…わけにもいかんが。ただ、情報が正確だった時に何もしないよりかは断然良い。違うか?」

 

「…たしかにそうだが……マラヤンの独立派ゲリラが越境攻撃を仕掛けてくる理由が分からない。連中攻撃する相手を間違えてないか?」

 

「どういうつもりかは私にも分からんが、情報によれば背後にいるのは…」

 

「敵襲!!!敵襲ぅぅぅううう!!!」

 

 

 

 2人の大尉の会話は、突然の警告に遮られる。

 照明弾が打ち上げられ、重桜製の九二式重機関銃が独特の発射音を奏でると、そこに九九式短小銃の銃声が加わった。

 やがてはゲリラ側のものと思わしき、ルイス軽機関銃やエンフィールド小銃の銃声が応酬を繰り広げる。

 あっという間に戦場と化した国境地帯を見て取ったカブラギ大尉は、トンチャイを指差して指示を出す。

 

 

 

「ボケっとするな、トンチャイ!砲兵隊に砲撃を要請しろ!それから戦車隊と航空隊にも連絡を取れ!陸と空の3次元で敵を叩くんだ!」

 

「わ、わ、分かった!!」

 

「トンチャイ!」

 

「なんだ、カブラギ」

 

「"備えあれば憂いなし"だったろ?」

 

「おっしゃる通りで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 ロイヤル

 

 ロバート・フォン・ピッピベルケルク=セントルイスファミリア鎮守府

 

 

 

 

 

 

 

 

 KGVはピッピの領空侵犯を見逃したばかりか、帰りのファーストクラスを用意してくれ、挙げ句の果てには「またいつでもおいで下さい」とまで言い放った。

やさしい世界…。

 

 私自身と北方連合の危機は無事回避されたわけだが、どういうわけか、私の方はまた新たな危機に直面していた。

 ピッピと私が鎮守府司令室に戻った時、そこではまさに"パールハーバー"が巻き起こっていたのである。

 …パールハーバーの方がまだいいかも。

 

 

「カチコミじゃゴラァァァ!!(高雄)」

 

「とっとと我が子ぉウチらに渡さんかい!!(加賀)」

 

「お前ら姐さんに恩あるんちゃうんかぁあああ!!姐さんの頼み聞かれへんちゅうのはどういうこっちゃゴラァァア!!(赤城)」

 

「ほ〜ら、愛宕お母さんの元にいらっしゃ〜い♪(愛宕)」

 

 

 

「おどりゃあ勝手に人のシマ入ってなに晒しとんじゃボケェ!!!(ダンケルク)」

 

「ウチらの大事な大事なミニ・ルーのガラをポンポン渡してたまるかいぃ!!シノギ持ってくるか指詰めんかいぃ!!!(セントルイス)」

 

「この際さっさと指詰めんかぃぃい!!(ベルファスト)」

 

「ほ〜ら、坊や。マッマと一緒にお風呂しましょうね〜♪(ティルピッツ)」

 

 

 

 

 あのよぉ、お前ら。

 広島ヤクザじゃないんだから一回落ち着け。

 淑女としてお話していただけませんかね?

 

 こちとら今北方連合から帰って来たばかりなのよ。

 もう、疲れに疲れてるのよ。

 なのに帰ってみたら仁義なきサムシングが始まってんのよ。

 どんだけ落ち込むか分かる?ねえ、分かる?

 

 頼むから、何が何で何なのか最初っから教えて?

 落ち着いて、淑女として品位を保った言葉の数々で。

 ホント頼むわ。

 心から頼むわ。

 

 

 

「では、私の方から説明させていただきます。」

 

 おお、天城さん。

 いたんですか、居ながらにしてなぜコイツらを止メナカッタンデスカネー?

 

「あなたには重桜へ来ていただきたいのです。」

 

 え?なんでまた?

 

「理由は着いてからご説明致します。重桜は今、少々困った問題を抱えてまして…あなたには是非ご助力いただきたいのです。」

 

 …嫌だと言ったら?

 

「…今回の協力は高くつきましたよ?」

 

 はい、行きます。

 

「ちょっと!Mon chou!いきなり過ぎないかしら!?」

 

「そうよ、ミニ・ルー!疲れてるんでしょう!私たちの谷間でラッキールーしてからでも」

 

「ベル☆ベルあやしんぐ/ザ・ワールドワイド☆してからでも遅くはないかと」

 

 勝手に謎イベント作んなや。

 …いやね、マッマ達。

 申し訳ないけど、北方連合の件は天城マッマの協力無しじゃマジでヤバニスタン共和国だったから。

 マジで欧州危機一髪になりかねなかったから。

 

「ごめんなさい、ロブ君…私が国境を封鎖できなかったばかりに…」

 

「やめてビスマッマ!脇の下に挟もうとしないでグヘグヘグホォ」

 

 ビス叔母さんを責めてるわけじゃないです、ラインハルト君離してあげて下さい窒息しますよその子。

 …と、言うわけで重桜に行かないという選択肢を取ると相応の対価を請求されても何も言えません。

 

「坊やがそういうなら…仕方ないわね。…私も重桜は初めてだし。」

 

 …………ん?

 ちょっと待て、何でナチュラルに一緒に行く気してんのピッピママ?

 たぶん僕ちん天城マッマ達と一緒に…

 おいちょっと待てピッピママ。

 その鋼鉄製のブラジャーいったいどこから入手したんだおい。

 さも何事もなかったかのように私を拘束しやがったな、この野郎。

 

「夏だから…致し方がないの。」

 

 ふざけんじゃねえ。

 

 

 

 

「カチコミじゃあゴラァァア!!(ダンケルク)」

 

「ミニ・ルーに何かあったらユニオンが黙ってへんでオラァ!!(セントルイス)」

 

「指詰めんかぃぃい!!(ベルファスト)」

 

 

「ええからとっととガラ渡さんかい!!(赤城)」

 

「おどりゃあ何勝手に人のシマ入っとんじゃボケがァァア!!(加賀)」

 

「指詰めんかぃぃい!!(高雄)」

 

 

 

 ………もうやだ。

 誰か助けて。

 

 

 

 

 

 

 


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