バブールレーン   作:ペニーボイス

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長門う門

 

 

 

 

 

 

 鏑木大尉は自身の目を疑った。

 "何なんだ、これは"

 

 彼は今、念願とも言える東南アジア一斉蜂起の最終会議場へ来ている。

 少なくとも彼の予定では、この会場でアジアの諸民族による自立と相互扶助が約束され、重桜がその盟主として迎えられるハズだった。

 そう、西洋文明圏へ対抗する東洋文明圏の盟主としての重桜が、ここに誕生する()()()()()()()

 

 だが、会場に足を踏み入れた瞬間。

 諸勢力のリーダー達の冷めきった視線をモロに受けた瞬間。

 誰も彼もが早く帰りたいと言わんばかりのタバコの煙に塗れた空気を嗅いだ瞬間。

 

 

 

 彼は、その後ろに控える重桜美人達の裏切りを確信した。

 

 

 

「皆様、ご足労ありがとうございます。私は重桜情報局の天城と申します。既にお見知り置きいただいている方も多いでしょうが…」

 

「前置きはいい、大越はいつ落ちる?」

 

 

 どこかのゲンブ●マガジンで同志将軍に胃潰瘍を強いてそうな人物が、天城の挨拶に水を差す。

 だが、その隣に座っていた男が、金正日風の男に噛み付いた。

 

 

「ちょっと待て、大越はウチの管轄だ!」

 

「貴様らじゃあ拉致があかんだろうが!ウチに任せて、とっとと出てけ!」

 

「テメェらで勝手に決めてんじゃねえ!元はといえばウチの祖先が取り仕切ってた場所だぞ!」

 

「あ〜〜〜はいはい、出ましたよこのクソ爺!いつまでそんな大昔の事引きずって…」

 

 

 各勢力はここまで、紆余曲折を経ながらも団結を積み上げてきた。

 "少なくとも、独立までは"

 彼らは重桜と力を合わせ、当面の協力をお互いに約束していたハズなのだ。

 そしてそこまで骨を折ったのは、他でもない鏑木大尉である。

 重桜を中心に団結する事で植民地の独立は確固なる物になると説き伏せ、武器・装備・軍事顧問の支援をチラつかせながらこの利己主義者共を説き伏せてきたのだ。

「独立後、真っ先に利益を得るのは重桜への協力者です」と。

 

 ところが。

 このクソアマ共は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 情報局随一の頭脳派である天城が、些細な単純ミスでこんな事をするわけがないのだから。

 あのアマは確信を持ってやったに違いない!あのアマは諸勢力の団結の、根本的な弱さを知っていてやったに違いない!元々の団結の弱い諸勢力が、再びバラける事を目論んでいたに違いないのだ!

 セントルイスファミリアを裏切ったからといって、あのアマを信じたのが失敗だった。

 失敗どころじゃない、大失敗だ。

 まんまと騙された!!

 

 

 鏑木大尉は腰に差す14年式拳銃を素早く引き抜き、同じくらい早く振り返る。

 そこには嘲笑の笑みを浮かべる天城・赤城・加賀の三空母がいた。

 こんなことになるハズではなかった。

 本来なら、この会議は東南アジア地域の自立へ向かう、その最初の一歩になるハズだったのだ!

 この会議には一斉蜂起自体よりも重要な議題が隠されていた。

 それは前途した通り、重桜の旗の下に諸民族を団結させると言うモノだ。

 ところが、この女狐共はそれをぶち壊しにしやがった!!

 

 

 

「あら、鏑木大尉〜。怖いじゃないですか〜。女性にしていい表情ではありませんよ?」

 

「天城、赤城、加賀!貴様ら何をした!?」

 

「私達は別に何かしてはいませんよ?ねえ、加賀?」

 

「ええ、姉様。私にも何の話だかさっぱり。」

 

「………天城ぃ、貴様!!」

 

「その娘達が言っていることは本当ですもの。私からも重ねて説明すべき事はありません。ただ…言うべき事を言っただけ。」

 

「何だ!?何を言いやがった!?」

 

「本当の事です。…"これからの東南アジアは貴方達の内の、誰かの手の中にある"と。」

 

「SL班!!戦闘用意!!!!」

 

 

 

 大尉の咆哮と共に、何人もの覆面が会議場へと入ってくる。

 典型的なカーキ色軍服に身を包んだ彼らは…違和感しかないのだが…両手に軍刀を持ち、天城達との距離をジワジワと詰めていく。

 その光景はまるで……どこかのニン●ャ・スレイヤー感が半端ない…フシギ!

 

 ただ、見た目がニン●ャ・スレイヤーだったとしても、この連中が"その手の"プロ集団だと言う事は天城にも分かった。

 会議場内でお互いの刃渡りが触れないよう、且つ彼女達を完全に包囲できるよう立ち回っている。

 ついでに言えば、ここ数年の間にロイヤルやアイリスの植民地省要人が何人か日本刀で惨殺されているのだ。

 

 

「ではあれも…やはり貴方達の仕業でしたのね、大尉。」

 

「情報局の腰抜け共め!祖国は今、ユニオンの傀儡共に操られんとしている!この危機に貴様らは何も感じていないどころか気づいてすらいない!」

 

「何も気づいていないのは貴方ではありませんか?確かに太平洋での戦は重桜のチカラを示したかもしれません。ですが、ユニオンは力量に確信を持ったハズです。重桜を太平洋から締め出す事ができると言う、確信を

 

「………」

 

「大尉。貴方は祖国の荒廃した姿を見たいのですか?東南アジアを手中に納めたとしても、ユニオンと戦って無事で済むハズはありません。更に言えば、前と違って同盟勢力もいない…ユニオンは太平洋に全力を投入できるのです。」

 

 

 あまりに知性的な天城に、鏑木大尉は何も言い返す事ができない。

 

 

「…………クッ!黙れこの女狐!!」

 

「いや、女狐って言われても私達九尾」

 

しっ!加賀!空気を読みなさい、天城姉様と大尉のシリアスが壊れます」

 

「でも赤城姉様…」

 

「そんなのだからKYって言われるんですよ、加賀!」

 

「クソ、貴様揃いも揃って馬鹿にしやがって!3人揃ってやってしまえ!!」

 

「「「「「ははっ!!」」」」」

 

 

 

 ニン●ャ…ああ、いや、SL班が軍刀を手に天城達に迫る。

 当然天城達は身構えるが、いくらKANSENとはいえ、今の彼女達には艤装がない。

 SL班との人数差を覆せるかは………。

 

 と、その時。

 

 

「そこまでじゃ!!」

 

 

 

 ♪デェェェエエエン

 ………カァアアァァァ…

 

 パンパパパパンパパパパン

 

 

 

 唐突なBGMと共に会議場の電源が落ちる。

 鏑木大尉とSL班、それに天城達が何事かと辺りを見回すと…幼い女の子の声が聞こえてきた。

 

 

「お主らの行為は民への裏切りとも取れる!それでも蛮行を続けると申すなら、看過するわけにはいかぬ!………タカさん、アタさん、懲らしめてやりなさい!!

 

「「はっ!」」

 

 

 会議場の電源が復旧すると、そこには軍刀を持つ高雄と愛宕が。

 2人は急激な照明変化に目が追いつかないSL班に向かって突進。

 不意を突かれたSL班も我に返ると、愛宕・高雄との斬り合いに突入した。

 

 

 

 

 

「こ、こいつらいかれてやがる!!」

 

 

 それまで茫然としながら会議場にいた諸勢力の長達は一目散に外へと逃げ出した。

 こんなところで重桜の内乱に巻き込まれて死んでしまっては元も子もないではないか。

 だが、息を切らして走ったその先には彼らの天敵がいたのである。

 ………とびきり笑顔のダンケルクとベルファストが。

 

 

「皆様、ご機嫌麗しゅうございます。」

 

「ヒエエッ!!ベ、ベルファスト!?しょうがない、一度中に」

 

 

 踵を返そうと試みた彼らだったが、その退路には既にアイリス外人部隊が回り込んでいた。

 外人部隊は…恐らくダンケお手製のシュークリームを頬張っているが、銃はしっかりと彼らに向けてある。

 囲まれた彼らの様子を見て、笑顔のダンケはこう言った。

 

「はい、た〜いほ☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議場内では、大方の勝敗が決まっていた。

 SL班の戦闘員達は皆高雄と愛宕の"峰打ち"で伸びているか戦闘不能の状態に陥っている。

 ショッギョムッギョな斬り合いにも関わらず……特に愛宕が「峰撃ち」とか言いながらC96自動拳銃を至近距離からバンバン撃っていたが……誰一人として死傷者はいなかった、フシギ!

 

 やがて頃合いを見計ったかのように、先程の幼い女の子の声がまた発せられる。

 

 

「もういいでしょう、タカさん、アタさん」

 

 

 その言葉に続いて、会議室の通気口から一人の幼女が飛び降りてきた。

 どうやらその幼女は、その見た目にも関わらず重桜でかなりの畏敬の念を集めているらしい。

 その姿を目にした鏑木大尉と、SL班の戦闘員の内まだ意識のあった者…そして天城・赤城・加賀の3人は皆その場にひれ伏したのだから。

 やがて高雄と愛宕がその幼女の両脇まで来て、高雄が声を張り上げた。

 

 

 

「この紋所が目に入らぬかぁ!この御方をどなたと心得るッ!前連合艦隊旗艦・長門様であるぞ!!控えぇ!!控えぇ!!」

 

「「「「「は、ははぁっ!!」」」」」

 

 

 

 室内の誰も彼もが、長門と呼ばれる少女に平伏を重ねる。

 彼女は少し目を閉じて、そして連合艦隊の元旗艦として充分な威厳を放ちながら口を開いた。

 

 

「天城、赤城、加賀。顔を上げよ。此度はご苦労であった。そなたらの献身には、礼を言わせてもらいたい。」

 

「み、身に余る光栄にございます。」

 

「…さて、鏑木。」

 

「は、はっ!」

 

「重桜は民あっての国家!民は戦を望んではおらぬと言うのに、そなたらはまたもユニオンとの戦を起こそうと申すか!」

 

「し、しかし…」

 

「黙れぃ!此度の件、追って然るべき沙汰が来るであろう。甘んじて罰を受けよ」

 

「…はっ」

 

「…案ずるな。余とて、祖国の為祖国の為と長年異国の地で働いてきたお主らの忠義がわからぬわけではない。……本当にご苦労であった」

 

「…!……うっ、ウゥッ…長門様ッ」

 

 

 突如かけられた労いの言葉に、鏑木やSL班の戦闘員達は涙を堪えきれないようだった。

 彼らには処罰こそ下るものの、情状酌量の余地は充分に考慮される事だろう。

 そんな彼らの様子を見た愛宕が、微笑みを浮かべて長門に話しかける。

 

 

「うふふ。何はともあれ、此度も無事に一件落着のようですね、ご老公。」

 

「こ、これ愛宕!連合艦隊旗艦の座こそ大和に譲ったが、そんなに艦歴を重ねたわけではないぞ!」

 

「それでは何とお呼びしましょうか…ご幼公?」

 

「なっ!高雄までッ!それでは余の威厳が保てんではないか!」

 

「ご安心ください。どうであれ威厳に変わりはありませんよ、ご幼公♪」

 

「「「あははははははははっ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「え?何?え?え?え?え?も、も、も、もしかして、あいつら…私の坊やを………」

 

「ミニ・ルーを利用しただけ?………はぁ?

 

 あ、あの…ピッピ?ルイス?お願いだからこのまま"一件落着"させてあげて?

 もういろいろ限界だから。

 ほら見て?

 ダンケとベルは「ちっ!しょーがねーな」的雰囲気じゃん?

 このまま温和に済ませる雰囲気じゃん?

 

「……ダンケとベルは今度こそ植民地の不満分子を一網打尽にできたじゃない。で、私達は?私達は何を得たっていうの?ねえ?坊や傷ついたの見て凹んだ私達の取り分は?」

 

 あ、あのね、ピッピ。

 そこは寛容な心で

 

 

「おどりゃあああ!!ミニに何してくれとんじゃい!!指詰めんかいぃぃぃいいい!!!」(ルイス)

 

 

 あー…また始まった。

 

 


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