それじゃあ、つまり。
天城さんはかなり壮大な計画を練ってたわけだね?
SL班が抱えている野望が米粒に見えるほどの
計画を。
「ええ。SL班は情報局との連絡すら途絶させ、完全な単独行動へ走っていました。ロルトシート家から資金を供給された彼らは、最早祖国からの支援すら必要していなかったのです。」
彼らは軍事顧問という触れ込みでシャム王国に侵入し、王国軍の内部に絡みついた。
「鏑木大尉はそこで班を率いて独自のネットワークを構築しました…各植民地の不満分子の生き残りと」
…しかし……天城さん。
それは時系列が合わないんじゃないかな?
諜報網の構築は数日なんかでできるもんじゃない。
鏑木大尉が築いていた諜報網を作るとすれば…数年は優に超える。
ロルトシートがビス叔母さんとの対立する事になったのはごく最近でしょう?
「ロルトシートは当初、別の思惑から鏑木大尉を利用していたのでしょう。SL班と結びつく事で、自身の関与を秘匿でき、且つロイヤル政府を脅迫することができる。…事実、この5年間天然ゴムの値段はロルトシート家の会社に優位を与えてきましたわ。」
『右手に金貨を、左手に銃を』とは上手く言ったものですね。
天城さん…いえ、重桜情報局からすれば、鏑木大尉の暴走は看過できなかった。
だから何らかの手を打つ必要があったんですね。
「………申し訳ありません…SL班と鏑木大尉は警戒心の塊のような集団です。私達が潜り込むには、貴方を裏切ったかのように…それも見せつけるようにやる必要がありました」
ええ、分かっています。
しかしまぁ、事前にご連絡してくれれば
「冷戦中の東煌での作戦はお見事でしたわ。私も多くを学ばせていただきましたが…特に感銘を受けたのは、その機密保持についてです。『知る必要の原則』。」
分かりました、分かりました。
たしかに、その点については私がやりましたから。
私は勿論許そう…だが
「「私達が許すかな?」」
「坊やを傷つけるなんて許せない!」
「ミニ?メンタル大丈夫?心配しなくてもル・イ・ス・マ・ッ・マ♡が朝までラッキールーしてあげるからね?ルールールールールー」
例の重桜料理店でささやかな祝勝の宴に誘われたはいいが、今回の件で特に得る物のなかったピッピとルイスにアルコールを飲ませて何事もないわけがなく。
ヴァイツェン・ビールをガブ飲みするピッピは人格が鉄血の別のKANSENになっちゃったし、ジャッ●・ダニエルを直飲みしてるルイスは完全にバグってる。
ダンケとベルはアイリス外人部隊の前でバーレスクみたいな事して大量のチップ投げられてるし、赤城と高雄と愛宕はHCRIの兄妹と次の商談が拗れて『極道のママ』状態。
なんなんだ、このカオスは。
「坊や?坊や坊や坊や?坊や?…坊や?」
ピッピ、飲み過ぎだよ言語崩壊してんじゃん。
「坊や坊や坊や坊や!坊や…坊や、坊や坊や坊や。………坊や♡」
そのまま私を谷間に挟むピッピママ。
そして、何の脈絡もなく服を脱ぎ始めやがる。
「ルー!?ルールールールールー。ルゥゥゥ…ラン☆ラン☆ルー♪」
対抗するかのように服を脱ぎ始めやがる言語崩壊ルイスママ。
え?何?止めないのかって?
止まると思う?
「こほん、とにかく、今回はご協力ありがとうございます。お陰で重桜は救われました。長門様からもお礼の言葉を預かっていますわ。」
ほほう。
「…『耐え難きを耐え』」
ちょ、待ってください天城さん。
今回ちゃんと勝ったよね、我々?
SL班の連中がまさかのトラップ仕掛けてたりしてないよね?
「?…ええ。」
それならいいんだけど…天城さん、その手紙後ほどご拝読させていただいてもいい?
聞いてるとナイーブになりそうな予感がしないでもないでもないでもでもないからさ。
「そうおっしゃるのでしたら、そう致しましょう。…今回は本当にお疲れ様でした。明日の飛行機は手配しましたわ。今夜はどうぞお楽しみください♪」
……………………………………………………
同時刻
ロイヤル
セントルイスファミリア鎮守府
「2日後には来るのね?よくやったわ、テオ。」
「ありがたいお言葉ですが、しかし、2日後に来るのはただの先遣隊です。逐次増強する形になるでしょう。"即応"という言葉をいつまでもアテには出来ませんからね。」
「敵は充分に準備してくるでしょう。たしかに、即応対応だけでは入念な準備をしてきた敵に対して優位に立てるハズもない…」
「流石に私でもその辺は考えてますよ、ご安心を。しかし…今回は出費が嵩みますね。」
「相手はあのロルトシート。出費が嵩むのは承知の上よ?変に予算を惜しんで後で後悔するよりかは、ちゃんとした額を用意すべきでしょう。それに、油田が操業すれば今回の出費なんて端金に思えてくるでしょうし。」
ビスマルクとテオドールは鎮守府のメインストリートを歩きながら、そんな会話をしている。
東南アジアは夜だが、地球の反対側では午後過ぎといったところで、2人は昼食後のこの時間特有の眠気を感じながら歩いているのだ。
眠気を我慢できない赤ん坊になってしまったラインハルトは眠っていて、そのお昼寝にはグローセが付き添っている。
テオドールに沿岸警備隊襲撃事件の調査を命じてから、ビスマルクの考えている事柄は一
項目多くなった。
いや、一項目だけでは済まないかもしれない。
彼女は鎮守府への襲撃を考慮すると同時に、別の事も考慮せざるを得なかったのだ。
セントルイスファミリア少将が東南アジアに行っている間の管理を任されたラインハルトは、ロイヤル国防省からの許可を得たとはいえ、歓迎されていたわけではない。
彼は外国の軍人なのだから当然の事で、その態度は他の鎮守府の指揮官も同様だった。
周辺海域の情報も随分と出し渋られ、大抵は冷淡な態度の内に受話器を置かれるのが常なのだ。
ラインハルトは精神的に疲れているように見えたし、それも彼女の心配事でもある。
心配事は他にもある。
海賊(彼女は彼らの仕業だとほぼ断定している)が最初の沿岸警備隊を襲ったのは、彼女の甥が東南アジアに経った次の日だった。
つまり連中は…鎮守府の管理がラインハルトの手に渡った時点で行動を起こしたのである。
海賊の行動に、どこまでの人間が関与しているのか。
想像すらしたくはない。
だが、ロルトシートを取り巻く人間関係を考えると否応なく最悪の状況に置かれている事が分かってくる。
現首相・マクドネルから、海賊の長であるヘスティングス兄妹まで。
ロルトシートが手を回していたとしても何らおかしくはない。
"まんまとしてやられたわね"
と、ビスマルクは思う。
先程連絡を取った妹からは…ビールか何かを飲んでいたのか呂律がまわっていなかったが…東南アジアのゴタゴタにロルトシートが絡んでいる可能性を聞き出せた。
もし、現実にそうであるとすれば…つまり、東南アジアでの問題をロルトシートが仕掛けたとすれば、奴らは意図して甥を鎮守府から離れさせ、ビスマルクとラインハルトを孤立する状況に誘い込み、そして襲撃を考えていると判断せざるを得ないのである。
襲撃は明日かもしれない。
或いは今日の夜かも。
そう考えるビスマルクの頭上を、一機の戦闘機が通過する。
慣習というものは一度付くと中々体から離れないもので、彼女と隣にいるテオドールも、2人揃って戦闘機に敬礼した。
そういえば…外洋で任務中のグラーフ・ツェッペリンの艦隊がもうそろそろ帰ってくるはずだ。
外洋での任務となれば、帰還途中に脅威がいないか基地まで偵察機を飛ばしていたとしても何ら不思議はない。
彼女も、その戦闘機だと思った。
「グラーフが帰ってくるのね。」
「…ええ、ですが….あのパイロットは要指導ですね。安全規則違反だ。」
ビスマルクは戦闘機の後ろ姿に違和感を覚える。
アレはスピットファイアではないだろうか?
グラーフ・ツェッペリンの艦載機ならMe109ではなかっただろうかとは思ったが、何せビスマルク自身は航空機には疎いし、グラーフは彼女の甥の指揮下にあるので甥が載せたのかもしれない。
だが、スピットファイアが何かを地面に落とし、そしてそれが地面への落着と同時に爆発すると、ビスマルクは午後の眠気を吹っ飛ばされた。
『敵襲!!敵襲!!これは訓練ではない!!』
鉄血語の放送が流れる中、シュタールヘルムの警備兵達が…饅頭と呼ばれるヒヨコや通常の人員を含めて…メインストリートへごった返した。
ある者は高射砲へ、ある者はトーチカへ、ある者はレーダーへ。
その混乱の中、ビスマルクは武器庫へと向かっている。
人混みを掻き分けて先導するテオドールが、不意に彼女に尋ねた。
「安全な場所へ行くべきでは!?艦隊に指示を出さないと!!或いはラインハルトさんの元へ!!」
「いいえ、まずは武器!敵の攻撃がこの空襲だけで終わるとは思えない!!艦隊への指揮はヒッパーにまかせてある!!それに、連中の目的はきっとラインハルトと私だわ!!」
ハリケーン戦闘機が2機低空飛行してきて、ごった返すメインストリートに機銃掃射を浴びせる。
何人かがその犠牲になり、呻き声と断末魔がビスマルクの耳をつんざく。
敵には後で頗る高い代償を払わせてやる。
だが、今は。
メインストリートにようやく最初のFlak 38が展開され、戦闘機に対空砲火を放ち始めた頃、ビスマルクとラインハルトは武器庫のある建物へと到着した。
地下にある武器庫へ行くためにエレベーターに乗り、それが地下に到着すると足早に進む。
進んだ先には1人のメイドがいて、ビスマルクは彼女に声をかけた。
「シリアス?"ソムリエ"はいるかしら?」
「ええ。いつでもいます。」
自身も戦闘準備をしながら、シリアスは更に奥の部屋に手を向ける。
ビスマルクはシリアスに礼を言い、奥の部屋への扉を開けた。
そこにもまたメイドがいたが、それこそビスマルクが探していた相手だった。
「シェフィールド、
「ようこそ、お待ちしていました。」
シェフィールドは様々な銃火器が掛かる壁の前で、ビスマルクを出迎える。
「鉄血産がお好みなのは存じておりますが、サディア産のオススメがございます。M1934自動拳銃。9mm弾仕様に改造済み、拡張弾倉とレーザーサイトが使用可能です。メインディッシュはいかが致しましょう。」
「何か…デカくて、ゴツいのを。」
「デカくて、ゴツい…」
しばらく目を閉じて考えたシェフィールドは、思いついたように壁に掛かる銃の一廷を取り出す。
「M1907自動小銃。セミオートとフルオートの両方が使えます。.351弾を使用、光学サイトと銃剣をお取り付け致します。」
「もう一つ。接近戦用のモノが欲しい」
「では、これがいいでしょう。オート5散弾銃。セミオート射撃が可能です。しかし、装填は手動ですのでお気をつけ下さい。」
「最後に…デザートを。」
「デザート…」
再び考え込むシェフィールド。
やがて彼女は手元にあった箱を開き、一本のナイフを取り出した。
「鉄血産タクティカルナイフ。職人の手によって極限まで研ぎ澄まされた一級品です。」
「ありがとう、シェフィ。どうか気をつけて。」
「そちらこそお気をつけください。奴らの狙いは貴女でしょうから。」
シェフィールドはそう言って、自身も手に持つトミーガンに50発ドラムマガジンを装填した。