『もし、平和を望むなら、マッマと備えよ』
つまりお前は何もしないんか〜い。
ロイヤル
セントルイスファミリア鎮守府
東側の海岸
着上陸する側からすれば絶好のポイントだと思うであろう東側の砂浜は当然のことながら評定済で、海賊側のS隊は激しい砲火と機銃掃射に晒されることとなった。
なだらかな海岸線に遮蔽物と呼べるようなモノはなく、彼らは殆ど無防備だ。
81ミリ迫撃砲や77ミリ野砲の他、各種機関銃に彼らの多くが倒されていたが、しかし、例外もいた。
元フォースター鎮守府守備隊の曹長はアイリス沿岸への上陸作戦に参加した経験があり、こういった状況でどう行動すべきかを身をもって学んでいたのだった。
彼の分隊はまだどうにか死傷者を出さずにいた。
81ミリ迫撃砲の砲弾痕に這いつくばり、機銃弾の嵐から身を守っている。
だが、それもいつまで持つかは分かったものではない。
迫撃砲の砲弾痕がそこにあるということは、それが評定されているということ。
いつ迫撃砲や野砲の砲弾が降ってきてもおかしくはないのだ。
曹長は焦りを感じていたものの、しかし安易に動くわけにもいかなかった。
彼らの前方300mには強固なコンクリート製のトーチカがあり、銃眼からはM2重機関銃の銃身が覗いている。
正直、ここまで接近出来たこと自体奇跡だと言えたが、しかし、彼らはその上このトーチカを破壊せねばならないのだ。
「よぉし!テメェら、ケツ上げろ!漢見せんぞ!」
彼らの右方100mほどの位置で、5、6人の海賊がトーチカへの接近を試みる。
曹長の分隊は精一杯の援護射撃を見舞い、海賊はトーチカへと近づいていく。
だが、現実とは非常なもので、強固なトーチカは援護射撃を受け付けず、重機関銃の射手は容赦なく海賊に50口径弾を見舞っていった。
本来対戦車用に作られた強力な弾薬は5、6人のソフトスキン・ターゲットをまるで野菜でも切るかのようにバラバラにする。
「くそ、やはりダメか。」
「曹長!曹長!KANSEN達が位置についたそうです。支援砲撃を頼めます。」
「!…そうか、有難い!座標を送るんだ!」
座標をKANSENの艦隊…つまり、カーリュー、キュラソー、フェニックス、アリゾナ、ペンシルバニア、ユニコーン…に送った後、あまり時間を置かずに各種砲弾が沿岸沿いの陣地へと降り注いだ。
戦艦の巨大な砲弾はコンクリート製のトーチカに直撃、その頑強な構築物を破壊する。
曹長以下の戦闘員達は300mという至近距離で繰り広げられる猛烈な砲撃には彼ら自身も身を屈めなければならなかったが、おかげで正面の重大な脅威はなくなった。
「よし、砲撃が止んだな。全員異常はないか!?」
「異常ありません!」
「ではこれより前進して鎮守府内に侵入する!突撃用」
「突撃ィィィイイイ!!」
先程とは別の海賊の一個分隊が早くも破壊された敵陣地へと走り出す。
だが、曹長はその時、通常では有り得ない音を聞き、そして通常ではあり得ない現象を目の当たりにした。
…なんと、戦艦の砲弾が直撃したハズの正面トーチカは依然として機能していて、M2重機関銃はまたもその威力を発揮したのである。
「信じられない!なんという硬さなんだ!座標を再送しろ!」
「はい!………曹長!ダメです!KANSENは位置を変更中です。」
「くそったれ!仕方がない、肉薄攻撃を行う!お前達は援護しろ!」
「しかし、曹長!」
「やるなら今しかない!それに、砲撃のおかげで側方攻撃の心配はなくなった!…準備はいいか、援護射撃を俺に当てるなよ!!」
……………
鎮守府北側のなだらかな丘
ビスマルク総合商社・ロイヤル支店は前もって鎮守府の北側にある丘の土地を買収していた。
その丘には鎮守府防衛用の陸上陣地が設けられ、そしてそれは高度に要塞化が為されていた。
鉄血最大の企業はこの陣地にクラップ製の重砲やレーダーを持ち込んでいたが、それらは勿論最新鋭の設備だった。
鎮守府沿岸守備隊の対砲レーダー操作員は、大して苦労もせずに、沿岸陣地に援護砲撃を行った艦隊の位置と予想進路を割り出した。
そして、伝令が砲兵の陣地にそれを持ち込んだ時には、目標が170ミリ重砲の射程圏外にある事が明らかになったのである。
ただ、幸運な事に、その時丁度2人のKANSENが士官用の車両に乗って到着した。
砲兵陣地の指揮官は、彼女達を迎えた途端に状況を説明する。
「ああ!やはり呼んでおいてよかった!丁度貴女方が必要だったんです!」
「…つまり…重砲の射程外ということですね。」
「その通りです、ケーニヒスベルクさん。ですから、カールスルーエさんと2人で
「分かった!行こう、ケーニヒスベルク!」
…………………………………
鎮守府内
来賓用宿泊施設
「沿岸の陣地は手酷くやられたようです、会長。」
「…あの砲弾の威力…間違いなくKANSENの物だわ。守備隊はそちらにかかりきりになるでしょう。急いでラインハルトを回収しないと。」
武器を手に入れた後、防弾スーツに着替えて髪を短く纏めたビスマルクは、テオドールと共にそれぞれ自動小銃を構えながらゆっくりとラインハルトの部屋へと向かっていた。
彼女はこの襲撃を受けた瞬間から、その目的が彼女自身とラインハルトである事を見抜いていたが、そのアプローチが今激戦が繰り広げられている海岸線からであるとは微塵も思ってはいない。
アレはド派手な陽動作戦であり、沿岸陣地を突破した先にも予備陣地がある事を考慮すれば、ビスマルクの命を狙うには無謀が過ぎるのだ。
よって、ビスマルクは既に別働隊の暗殺者達が鎮守府内の…それも宿泊施設に到達していると判断している。
東側とは違い、打って変わったかのような断崖絶壁の西側にはそれでも一応の警備を置ていたが…しかし、今はその警備とは連絡が取れずにいた。
あの絶壁を登ってきた連中が居たとすればかなりの手練れだろう。
その時、ビスマルクは何かの気配を感じてさっと振り返った。
銃剣付きのM1907が素早く目標に指向され、研ぎ澄まされた剣と彼女の眼が威圧感を放つ。
それを向けられた相手は、数ではビスマルクに勝っていたにも関わらず、手に持つハイパワー拳銃ごと両手を挙げて敵意がない事を示した。
「う、撃たないでください、会長!」
「………貴方達は確かグローセの…」
「ええ、グローセさんのボディガードです。今、彼女の下へ向かっているところでして」
「既に接敵したようね。」
「…連中、相当なやり手です。こちらは4人やられました。」
グローセはボディガードとして、元鉄血公国秘密警察の連中を雇っていたハズだ。
彼らも公職を追放されたものの、拳銃の扱いに関しては親衛隊と遜色はない。
その彼らが「やり手」というのだから、間違いなく敵の暗殺部隊だろう。
「連中は始末したの?」
「いいえ、逃げられました。我々は一応、グローセさんの安否確認に。担当のボディガードが3人ついていて、まだ連絡は取れていますが…いつ途絶える事やら。」
「なら先を急いだ方が良さそうね。」
6名のボディガードと合流したビスマルクは、ラインハルトのVIPルームのある4階へと向かう。
今や彼女達は一個分隊弱の戦力を有してはいるが、ボディガード達の武装は拳銃のみなので纏まって行動する事が前提だった。
だが、2階に到達した時、ビスマルクはふと考えを変えたようだった。
突然足を止めて、振り返りながら先程のボディガードに尋ねる。
「連中はどこへ向かったの?…武装は?」
「短時間の事で、どこに向かったのかまでは…。ですが目的からして3階に向かっているかと。武装はサイレンサー付きのステンとガバメントでした。」
「なるほど…順当ね。この施設は2階から4階に向かう階段が2つある。あなたが連中の行先を知らないのなら、2通りを探るべきね。私は向こうの階段を掃討する。あなた達はこの階段を。」
「正気ですか、会長!ボディガードの話通りなら連中恐らく十数人はいる。纏まって行動しているとすれば…」
「テオ、私を誰だと思っているのかしら?多数相手に戦うのなんて慣れてるわ。それより、ボディガード達の火力の方が心配よ。」
ビスマルクはそう言いつつ、ボディガードの1人にオート5散弾銃を投げ渡す。
「頼りにしてるわよ、テオ。」
「承知しました。…全員聞いたな?我々はこっちだ、行くぞ。」
ビスマルクはテオドール達と別れると、別の階段へと疾走していく。
ボディガード達の様子からして、彼らと敵が交戦したのはそんなに前の事ではない。
敵もボディガードと戦った事で真の企図が露見した事は分かっているハズだし、尚の事先を急ぐだろう。
だから彼女も急いでいた。
『連中がラインハルトの部屋に到着する前に』彼女は連中を阻止せねばならない。
急いだ甲斐あって、やがて前方から多数の男達の声が聞こえてくる。
ビスマルクは鉄血財界の大物であり、その語学力は群を抜く物があった。
彼女の耳は前方で交わされる男達の言葉をしっかりを捉え、そして、脳はその言葉を理解した。
「畜生!ショーンとグレゴがやられた!」
「ビクターもだ!連中も手練れだぞ!」
「声を出すな。対象まであと少しなんだぞ。」
聞き違いのない、完璧なロイヤル英語。
しばらく後方で様子を伺ったビスマルクには、この連中がたしかにズブの素人だとは思えなかった。
3階に到達せんとしている彼らの動きと隊形を見て、間違いなく特殊部隊の類いの連中だと判断せざるを得ない。
少なくとも、海賊の連中には見えなかった。
だがビスマルクは躊躇しなかった。
彼女は特殊部隊と思わしき連中のど真ん中へと平然と突っ込んでいく。
「コッ、コンタク」
ズガンッ!
「ぐわっ!」
「ダニーがやられた!応射!応射!!」
連中、やはり場数も踏んでいる。
気配を消し去ったはずなのに、かなりの距離で接近に気づかれたビスマルクはそう思う。
奴らは3階の廊下に退避し、ビスマルクの方向へ向けて早くも応射を繰り出している。
しかし、それでも彼女は敵の猛烈な射撃を掻い潜りながら接近を止めることがない。
そのうちに敵の弾の内の一つが、3階廊下に設置されていた巨大なレコードプレーヤーに当たった。
そしてそのレコードプレーヤーには、ラインハルトお気に入りの音楽であるEDMが記録されたレコードが掛けられていて、巨大なスピーカーが大音量のEDMを奏で始める。
EDMをBGMに、3階に上がりきったビスマルクはスライディングをしながら自動小銃を連射する。
敵の数は恐らく8名、そのうちの3人に狙いをつけたが…2発は目標を捉え、1発は外れた。
最も外れたのではなく、目標が身を隠したのだが。
続く敵の応射から隠れるため、ビスマルクは廊下のソファに身を隠す。
ソファにはすぐに複数の穴が穿たれ、中身の羽毛が上質ななめし皮から飛び出していく。
ビスマルクは冷や汗を感じたが、しかし怯んではいられない。
敵の注意を逸らすために、彼女は突拍子もない行動にでた。
なんと、ソファの影から自動小銃を槍投げのように放り投げたのである。
ユニオン製ライフルの先端に取り付けられた鋭い銃剣が敵の内の1人を捉え、その喉元を直撃する。
他の敵はその壮絶な光景に気を取られ、一瞬射撃を緩めてしまう。
その隙にビスマルクは、敵の懐へと潜り込む。
まず手近にいた1人が足をはらわれて転倒した。
立姿で射撃していたその男はステンガンの引金を引き絞ったまま倒れ込んだが、ビスマルクがステンガンを片手で掴んで制御し、他の敵へと向けていく。
倒された敵のステンガンは、他の敵2名を倒し、転倒者自体はビスマルクのベレッタM1934で止めを刺される。
残る敵2名の内、1人がショットガンの援護射撃を受けながら近接してくる。
ビスマルクは先程止めを刺した男を持ち上げて12ゲージのバックショット弾から身を守りつつ近接してきた敵を狙い撃つ。
近接を試みた敵は倒れたが、味方が死ぬなりショットガンの男はスラムファイアでの射撃に切り替えてきた。
流石のビスマルクも、連続するバックショット弾の衝撃には敵わず倒れ込む。
ショットガン野郎は恐らく洗練された戦闘技術こそ持っていないものの、その巨体と顎髭は重大な脅威であることを示していた。
スラムファイアで転倒したビスマルクだが、仰向けになった彼女はすかさずベレッタで反撃する。
だが、ベレッタは1発だけ9mm弾を放ってスライドを後退させた。
その弾はショットガン野郎をよろけさせたものの、仕留めるには不十分な威力だったらしい。
ブチキレた男は雄叫びをあげながらビスマルクに向けて突進したが、ビスマルクは華麗に突進を避け、男はビスマルクを通り越してズタボロのソファに突っ込んだ。
よろけながら立ち上がる男の様子を見やったビスマルクは、ベレッタをホルスターに入れて男の首に向けて強烈な回し蹴りを喰らわせる。
この距離なら格闘戦のほうが優位と判断したからだ。
だが男はビクともせず、逆にビスマルクの足首を掴んで背負い投げのように投げ捨てた。
硬い廊下に直接打ちのめされたビスマルクは苦痛の表情を浮かべ、男が彼女に馬乗りになって、その苦痛の表情に強烈な右ストレートを喰らわせた。
「よくもっ!!よくも俺たちのスラムを!!」
男は拳を高々と挙げ、またも思い切り振り下ろす。
その拳が再びビスマルクの整った上品な顔を捉え、鼻腔に傷をつけた。
「このままぶっ殺してやる!自業自得だ!!」
三度拳を振り上げた男は、怒りに任せて再び拳を振り下ろしたが、今度はビスマルクが顔を背けた。
結果男は自身の筋力をそのまま硬い廊下にぶつけてしまい、苦痛の雄叫びと共に顔を歪める。
ビスマルクがその隙を突いて、男を上から退かして、今度は彼女が逆に馬乗りになった。
…流石、戦艦。メスゴrおっとコレ以上は言わないでおこう。
ビスマルクは馬乗りになると同時にベレッタを素早くリロードし、男の額に銃口を向ける。
「"自業自得"よ」
そしてそのまま、容赦なく2、3回引き金を引いた。
よく見れば男は赤毛だったようだが、銃弾で砕かれた頭蓋から溢れ出る血のせいでそれも定かではなかった。
ビスマルクは殴られた部位を2、3度袖で拭ってヨロヨロと立ち上がる。
どうやらかなりの深傷を負ってしまったらしい。
だが、彼女には休む暇が与えられなかった。
別のの階段の方から、STG44自動小銃の銃声が聴こえてきて、彼女の耳をつんざいた。