バブールレーン   作:ペニーボイス

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今そこにあるママ

 

 

 

 

 

 

 もし、従兄弟に艦隊運用上の失点があるとすれば、鎮守府を防備するための艦隊を用意していなかったた事だろう。

 しかし艦隊運用に関しては私にももちろん失点があり、そのうちの一つを挙げるとすれば…それは鎮守府防備を担当する第1艦隊『ハプスブルク』の正規編成に4大マッマを組み込んでいた事だ。

 従兄弟にはビス叔母さんの鉄血艦隊の皆様がいるから大丈夫だろうとタカを括ってしまっていた。

 だから襲撃があった時、我らが精鋭第1艦隊はほぼ有名無実なモノと化していた。

 いや、そりゃあもう、この艦隊の核となるべき4大マッマは私に着いて来ていたのだから当然の結果である。

 奇襲攻撃の際、私の鎮守府にいた第1艦隊の正規メンバーはイラストリアスのみであり、他のメンバー…ピッピ、ダンケ、ルイス、ベル、それにプリンツェフは遠い異国にいた。

 そしてイラストリアスは制空権の確保に手一杯だった。

 

 

 いずれかのマッマが残っていれば、まだ違う運用ができたかもしれない。

 そもそも別の前衛艦はいなかったのか?

 臨時でもいいから、予備のKANSENを投入すれば別の運用は…本来の運用は可能ではなかったのか?

 この疑問に対する答えは単純で、従兄弟のラインハルトは攻撃重視型の士官だったのだ。

 つまり、奇襲攻撃を予期した結果、出来るだけ多くのKANSENを巡航させて先手を取ろうとしたのだ。

 だが、この方針は最悪のタイミングで誤算を招くこととなってしまった。

 

 

 覆水盆に返らず。

 だが、従兄弟はどうやらすんでのところで危機を回避できたらしい。

 私は重い重い気分でビス叔母さんに電話したが、彼女がいつも通りの冷静沈着さを保っていた事には感謝しきれても仕切れない。

 今度こそ罵声と怒声を浴びせられるのを覚悟していたから、彼女の単節かつ要領をよく捉えた返答は実にありがたかった。

 

 

 

『沿岸部の敵は一掃され、敵のKANSEN達は深傷を追って敗走中。あなたのおかげよ、ロブ君。まさか…KGVまでもがリスクを犯して援護してくれるとは思っても見なかったわ。』

 

 お礼を言うのはこちらの方です、叔母さん。

 

『いいえ、私の方よ。彼ら北連語交じりでなんて言ってたと思う?"ボランティア"よ?あんな訓練された"ボランティア"見た事がないわ。MI5もSFSを寄越してくれたし、SBSも来た。沿岸部はもう安全よ…とはいえ、まだ油断なんて出来ない。』

 

 敵のKANSEN部隊を捕捉するべきですね。

 巡航させていた我々の艦隊もそろそろ集結するハズです。

 

『"あなたの"艦隊ならもう敵艦隊を追ってくれている。まだ捕捉したとまではいかないけれど、時間の問題ね。とにかく、こちらの問題は私に任せておいて。』

 

 すいません叔母さん。

 私もこちらで解決せねばならない事がありまして…それまでお願いできますか?

 

『…ありがとう、ロブ君。本当の本当にありがとう。私はしくじった…しくじったばかりかロブ君に何の助けもできていない。なのに、あなたは…』

 

 しくじっているのは私の方です。

 ビス叔母さんが相手にしているのはロルトシート、そしてそのロルトシートの狙いは第三次世界大戦です。

 お互い及ばないところがあったとしても、連中の目的は阻止せねばなりません。

 お気を確かに。

 

『…そうね。とにかく、ありがとう、ロブ君。あなたのおかげで私達はロイヤル国内に集中できる。ヒスパニアの件は任せたわ…最初に言っておくけど、結果がどうなろうと、私はあなたを責めるつもりはない。』

 

 ………

 

『ラインハルトの負傷も含めて、あなたに落ち度はないの。全ては私とロルトシートに帰結する。その辺だけは、よく理解しておいて?』

 

 ……はい、ビス叔母さん。

 どうかご武運を。

 

『あなたもね。』

 

 

 

 

 

 

 

 ビス叔母さんやさちぃよぉ〜。

 やさちぃよぉやさちぃよぉ。

 

 さて、それはそれとして。

 ビス叔母さんにロイヤル方面の問題を任せた以上、こちらもこちらでやることをやらねばなるまい。

 

 

 ヒスパニアの元帥は…少なくとも今のところは恐らくビス叔母さんと手を切る気ではないハズだ。

 もし、元帥がロルトシートを新たなパートナーに迎えてビス叔母さんを切り捨てたすれば、躊躇なくデフォルトに踏み切っていた事だろう。

 独裁者というのは、自身の権力を保持する為にどんな手も使うハズ。

 なら、元帥が未だにデフォルトに踏み切っていないのは…きっと元帥がまだ迷っているからだ。

 ロルトシート家は本当に信用に値するのか、或いはビス叔母さん及び鉄血財界の報復から守られるのか。

 

 MI5時代に元帥のファイルを読んだことがある。

 まだアズールレーン側とレッドアクシズ側がやり合っていた頃、この元帥は北アフリカで挙兵して当時のヒスパニア共産主義政府を打倒し、その後は中立を貫いた。

 以降、アズールレーンとレッドアクシズの両方から援助を引き出し、冷戦中も同様の態度を取っている。

 中々の古狸っぷりだし、これを可能にしたのは彼自身の疑い深い性格にもよる所も大きいだろう。

 そんな彼の事だから、ロルトシートの事も当然疑っているに違いない。

 

 

 元帥を()()()()()()()

 

 

 私はそう考えた。

 ヒスパニアは元帥の支配下にあるが、必ずしも反対勢力がいないわけではない。

 独裁国家ではよくある事だが、民主主義を求める…所謂"自由の戦士"はどこにでもいる。

 当然ヒスパニアにもいるし、私は彼らに接触するつもりだった。

 

 

 つもりだったんだよ、本当はね。

 

 

 でもね、私の素晴らしいニューマッマのザラがね、

 

 

「ピッコリーノ、服が濡れたままじゃない!風邪をひいたらどうするつもりなの?ほら、ママと一緒にお買い物しましょ」

 

 

 とか言って私をサディア首都市内の服屋に連れ込みやがったんだよ!!!

 まあ、たしかに海難救助された時にちょっとばかし濡れたけどさあ。

 そんなエマージェンシーでもねえじゃん?

 ほっときゃ乾きそうじゃん?

 なんで?

 なんで今なの?ねえ?

 

 

「さて、ピッコリーノ♪服は袖を通さないとわからないでしょ?ママがお手伝いしてあげるから、お着替えしましょうね〜♪」

 

 

 何点かの赤子用衣類を手にしたザラママが、とびきりの笑顔で私を更衣室に運び込む。

 私を更衣室の中の台座に座らせると、ルンルン気分で着替えさせ始めた。

 

 …ひょっとすると、感づいている方もいるかもしれない。

 この服屋の名前は『Z●RA』である。

 どっちかっていうとヒスパニアのブランドなのだが…。

 

 しかしザラママはお構いなし。

 相変わらず嬉々とした表情で私の濡れた服を脱がせ、軽やかな手つきで新しい服を試着させていく。

 

 

「キィィィィィイイイッ!!ご主人様のお着替えはこのベルファストの仕事でしたのにィッ!!この、泥棒猫ッ!!」

 

 

 ベルファストがメイド●見たみたいな感じになってるけど知らないフリをしよう。

 ピッピがMG42を持って150連メタルリンクをジャラジャラさせてるし、ダンケが「アイリスならそんなコーデじゃ許さない」とか言ってるし、ルイスはルイスで「服なんかネットで買えばいいじゃない」とかファストファッション大量消費の象徴みたいな事言ってるるけど私は何も知らない。

 もう、知りたくもない。

 

 

「うん…これが一番似合ってるわね…」

 

 

 幾つか服を着せ替えさせた後、ザラママは真剣な眼差しを私に向けたまま、満足げに頷いた。

 

 

「…ピッコリーノ?あなたはどう思うかしら?ザラがプロデュースする最高の冬コーデよ♪」

 

 

 冬コーデもクソもあるかよ。

 私はザラママに鏡と向き合わされたわけであるが、そこに写っていたのはスーツを着込んだ赤ん坊である。

 ボ●・ベイビーですね、はい。

 まんまボ●・ベイビーです。

 どこがコーデなんですか?

 これのどこが冬コーデなんですか?

 コーデ的な要素全くないよね?

 ただのフォーマルスーツだよね、これ?

 

 

「さて。ピッコリーノの服装も整った事だし、会合の場所に向かいましょうか。」

 

 はい?会合?

 

「ピッコリーノ、私はあなたのママになったのよ?つまり、可愛い息子の考えも読めるようになったってコト。幼なじみなら尚更ね。」

 

 え…マ?

 

「そう、そのまさか。ポーラとトレントに頼んで、"ツテ"に話をつけてもらったわ。…まさか、ザラが考えもなしにあなたの服を選んでいたと思ってるの?」

 

 Oh,my manma!

 なんて素晴らしい!

 

「ザラの素晴らしさ、少しは伝わったかしら?」

 

 めっちゃ最高です、ザラマンマ。

 

「ヒスパニアの不満分子を動かすのにうってつけの人間がいる。だから、あなたには相応しい服装をしてもらわないとね。それに、丁度濡れてたし。」

 

 で、その人間ってのは?

 

「………本当は、ピッコリーノには合わせたくないんだけど…サディアン・マフィアのボスよ。」

 

 …マ、マフィアのボス!?(ガクブル)

 

「そう、彼の名は………

 

 

 

『アル・デンテ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いかん、腹が減ってきた。

 なんだその旨そうな名前は。

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