バブールレーン   作:ペニーボイス

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バブリック・エネミー

 

 

 

 

 

 アル・デンテ

 

 

 彼は水の都ヴェネチアで生まれた。

 父親は地元の漁師、母親はシチリア人で、彼女は夫というよりもヴェネチアの美しさに惚れ込んだようだった。

 ただ、ヴェネチアに惚れたといっても夫に何の魅力もなかった訳ではなく、彼の無口で誠実な性格もしっかりと彼女の心を捉えていた。

 両親は敬虔なカトリック教徒で、ステレオタイプなサディア人によく見られるように陽気で、一人息子のアルは母親の作るとても美味しい料理を食べて、何不自由なく育っていった。

 

 …なに?なんだって?

 漁師の息子が何不自由ないわけがない?

 なんて失礼な事をおっしゃる!

 

 まあ、その実、デンテ家には何不自由なく一人息子を育てられる理由があった。

 アルの父親ピエトロ・デンテの妻はシチリア・マフィア幹部の3番目の娘だった。

 妻の父親は組織の中で名を挙げてはいたものの、自らの娘達に自身と同じ世界での人生を歩ませようとは微塵も思っていなかったのだ。

 だから、3番目の娘が漁師と結婚すると言い出した時も寧ろ歓迎していたし、金銭的な支援もした。

 夫はそれを心苦しく思っていて、それが普段波風の立つことのないデンテの家に小さなあらs…高●船だと!?そんな小説は知らん!!

 

 

 アルが10歳の誕生日を迎えた年、サディアでは『ファシズム』と呼ばれる政治思想を実践しようとする政党が政権を握った。

 今でこそファシズムといえば暗いイメージがまとわりつく。

 ホロコースト、思想弾圧、第二次世界大戦。

 だが、本来のファシズムとは、決して排他的性格を持つものではない。

 その語源である『 束 』(ファッシ)が示す通り、ファシズムとは本来包括的な政治思想なのだ。

 その束の中にはユダヤ人も、ロマも、身体的・精神的障害者も、共産主義者も、資本主義者も、労働者も資本家も含まれる。

 ホロコーストに代表される排他的要因のほとんどは、ガスマスクを装着し易いように髭の両端を切り詰めた人物が加えていった。

 実際、ファシズムの生みの親であるMr.スキンヘッドはMr.髭からのホロコースト協力要請を断っていたのだ。

 

 

 だが、しかし、物事には何であれ例外がある。

 ファシズムは…少なくともサディアのファシズムは包括的思想だったかもしれないが、マフィアはその"束"の中に入っていなかった。

 ファシズム政権下のサディアで、マフィアは政府から忌み嫌われ、苛烈なまでの掃討が行われていったのだ。

 政府の治安維持活動への熱意は大衆の支持を集めたが、その熱意は時として度を過ぎてしまった。

 

 

 アルの父親、ピエトロ・デンテは真面目な漁師だった。

 だが、妻がシチリア人でマフィアの娘だというだけの理由で、その関係者だと疑われてしまった。

 アルが12歳の時、サディア国家警察は手早く彼とその妻を連行してしまい、アルは1人ぼっちになってしまう。

 

 アルは施設に送られたが、この施設は酷いものだった。

 すでに"わんぱく"だった彼は脱走し、母親のツテを求めて遠くシチリアにまで足を伸ばす。

 そこで、彼は運良く"おじいちゃん"の部下に拾われ、マフィアの庇護下に置かれたのだった。

 

 

 マフィアの世界に、アルは熱中した。

 熱中するどころか、年を重ねるごとに頭角を現していった。

 困惑する祖父をよそに、彼は当局を何度も出し抜き、仕事をこなし、配下を統括して、他の幹部達からも信頼されていったのだ。

 

 そしていつしか彼は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は今、品の良いサディア料理店でビステッカを食べながら、目の前にいるイタリアンダイナマイトな女性と、その女性の谷間に収まっている赤ん坊を見ている。

 もう…なんというか変態というよりゴミを見るような目つきで見られてるし、その理由は大体想像がつく。

 そして、彼が口を開いた時、私は自身の予想が正しかった事を知った。

 

 

「…セントルイスファミリアって名前なら、恐らくシチリアでも知らねえ人間はいねえ。だが、そのセントルイスファミリアがスケ()の谷間に収まってるってのはどういう了見だ?」

 

 ま、誠に申し訳ない…

 

「この子を責めないでもらえるかしら?それに、こうなってしまった以上は庇護が必要でしょう?あなたがシチリアを訪れた時のようにね。」

 

 ザ、ザラママ?

 マフィアのドンの前でなんてこと

 

「ガハハハハッ!ちげえねえ!…少将殿、変な気遣いなんざ必要ねえ。こちらも気遣いをする気はねえしな。さて、用件を聞こうか。」

 

「ヒスパニアの」

 

「嬢ちゃん、肝っ玉が座ってるのは認めるが、こいつにはアンタが口を出すべきじゃねえ。プロとプロの話し合いなら、そのボウズに任せときな。」

 

 ありがとう、ザラママ。

 さて…と、Mr.デンテ。

 

「デンテでいい。」

 

 では、デンテ。

 あなたは非常に…幅広い人脈をお持ちだ。

 

「まあ、顔は広い方だからな。」

 

 ヒスパニアにもツテをお持ちだとか。

 

「………」

 

 我々はヒスパニアのある組織を雇いたい。

 報酬を支払い、あるテロ攻撃を実行してもらいたいのです。

 

『ビスク 祖国と自由』(E T A)は傭兵組織じゃねえ。奴らは愛国者。ただカネを払えば良いってもんじゃねえんだ。」

 

 では、フランシス元帥絡みならどうでしょう?

 

「………」

 

 元帥が、デフォルトの宣言をしようとしているという情報が入っています。

 貴方ならお分かりでしょう、デンテ。

 これがどういう事か。

 

「ETAの連中からすれば大した違いはないんじゃないか?フランシスが借金を踏み倒せば、"市井の人民"が重税から解放されるとすら考えるかもしれない。」

 

 はははっ…ああ、失礼。

 いくら彼らでもそこまで楽観的にはなれないでしょう。

 フランシスが鉄血の借金を踏み倒すとして、しかし、ヒスパニアには外貨が必要です。

 借りる相手が変わるだけだ。

 

「…分かった、認めてやろう、セントルイスファミリア。ETAは首を縦に振るだろうな。だが、アンタが忘れるべきじゃねえコトが一つある。」

 

 もちろんですよ。

 あなた方には利点がある。

 

「ほう…まあ、アレだろ?"地中海に自由を取り戻す"ってヤツだ。どうせアンタの事だから、こちらの足元はしっかりと見てるだろうからな!」

 

 ………

 

「舐めちゃいけねえぜ、ボウズ。いくらウチのアガリの殆どが密貿易によるモンだとしても、それだけでテメエにタダで協力してやる義理はねえんだよ!!」

 

 

 アル・デンテが立ち上がり、ザラママも対抗するように立ち上がる。

 デンテの背後に控える構成員達はM1934自動拳銃やM38短機関銃を構えたし、私及びザラママの背後に控えるピッピとベルもP38自動拳銃とトンプソン短機関銃を取り出した。

 まさに一瞬即発の状況だが、私としてはもう少しでいいから落ち着いて欲しい。

 

 

「勘違いしちゃいけねえぜ、ボウズ。」

 

 勘違い?

 いいえ、デンテ。

 私の提案はそんなものではありません。

 

「………」

 

 ETAのテロ攻撃により、我々はヒスパニアをコントロール下に入れる事ができるようになる。

 フランシス元帥はビスマルクの傀儡になり、あなた方はヒスパニアの地下世界をも手中に収める事が可能になるでしょうな。

 

「ハッ!何を言い出すかと思えば。いいか、ボウズ。あの元帥はファシストだ。俺はファシストってヤツが一番信用ならねえ!」

 

 お気持ちは察しますが、冷静になってみてください。

 元帥はただのファシストではありません。

 より"打算的な"ファシストです。

 

「違いが分からねえ」

 

 彼はファシストとして鉄血やサディアの支援を受けておきながら、先の大戦では中立を保った。

 冷戦ではホルタ会談側につきながら、共産主義者とも手を組んでいる。

 要するに、あの男の頭にあるのは自身の保身だけなんです。

 

 

 

 いつか、ヘレナが北方連合のマッドサイエンティストに連れ去られた時、ヒスパニアを経由していた事がある。

 いくら旧共産主義国家とはいえ、政府に全て覆い隠してそんな事ができるハズはない。

 要するに、政府も旧共産派の行動を黙殺していたと考える事ができるし、寧ろ元帥が一枚噛んでいてもおかしくはないだろう。

 

 元帥はまず保身と利益を求めている。

 その次に国家の安寧と安定を求めてもいるだろうが、優先順位は自信の方が高いに違いない。

 そして、元帥はそれを臆面することなくやってのけてきているのだ。

 

 

 サディアン・マフィアの大ボスは少し考え込んだ様子で再び席についた。

 背後の部下達に武器をしまうように指示し、2、3秒目を瞑る。

 そして次に目を開いた時には、彼の決断が下されていた。

 

 

 

「…わかった、ボウズ…いや、少将殿。アンタを信じよう。但し、マフィアとの約束を反故にすればどうなるかは分かるよな?」

 

 もちろんです。

 

「なら結構!ETAとの連絡を取り次いでやろう。…良い商談ができた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 サディア料理店を出た後、私はザラママの谷間から矢継ぎ早に指示を出さなければならなかったし、判断をしなければならなかった。

 自身の策謀の中心が固まった今、様々な方向へ交渉と調整を行わなければならない。

 

 

「Chou!アイリス政府はあなたを全面支持しているわ!協力も承諾した!『大越のお礼だから気にしないで』だって。」

 

 鎮守府支援といい、アイリス寛大過ぎるだろ。

 いや、マジで有難いからお礼を伝えてつかぁさい!

 

「ミニ!マクラララ長官から電話よ!」

 

 え?マ?長官から直々に!?

 まあ…繋いでくだせえ。

 

『ロバート君、大変な事になったな。』

 

 はい、長官。

 一歩間違えば第三次世界大戦です。

 

『君の方で手を打ってくれているという情報を確認している。協力したいところだが、世論ではロルトシートが幅を効かせていてな。こちらは動けそうもない』

 

 承知の上です、長官。

 

『ただし、()()()()()()()C()I()U()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ブフォッ!

 

 思わず笑ってしまった。

 

『ふふふ、そうだ。"あの連中"だ。連中、どうやら我々のチャーター機を使って鉄血に行ってしまったよ。』

 

 ありがとうございます、長官。

 

『いいかい、ロバート君。私は君に何の協力もしていない。すれば私の政治生命どころじゃなくなる。』

 

 もちろんです、長官。

 

『君の健闘を祈る。』

 

「坊や!鉄血情報部から連絡!」

 

 ありがとう、ルイス…どうしたの、ピッピ?

 

「"ターゲット"はやはり鉄血にいる。それもよりにもよってベルリンに。ベルリンで債務管理局の説明会だなんて、舐められたものね!」

 

 連中、きっと私の手札がビス叔母さんの部隊だけだと思ってる。

 そう思わせておこう。

 アヴローラとの連絡は?

 

「間に合いそうよ。それと、ベニヤも世界大戦は望んでいないみたい。」

 

 だろうね。

 

 

 よし、よしよし。

 手札が揃いつつあるな。

 あとはサディアの皇帝にご相談するだけだ。

 

 そう思った時、ルイスママと同じくらい青々とした母親っぽくて仕方のないKANSENが携帯電話を持ってきた。

 

 

「ザラ?あなたの息子さんにお電話よ?」

 

「ありがとう、トレント。ほらピッコリーノ。」

 

 どうも、ザラ。

 …ご連絡いただき

 

『ぼくはきみのあんをしじする!こくぼーだいじんにつなぐから、しょうさいはかれにはなしてくれ!』

 

 

 マジ出来過ぎ君だろ、この皇帝。

 皇帝に麗しいお言葉を使いながら説明する手間が省けたので、私は迅速に国防大臣との会話に入る事ができた。

 あの皇帝、本当に7歳かよ…

 

 

『電話を変わった、国防大臣だ。』

 

 国防大臣、セントルイスファミリアです。

 貴方にお願いせねばならない事があります。

 

『皇帝陛下からは貴官の指示に従うように仰せつかっている。何なりと言ってくれ。』

 

 では…

 ヒスパニアとの戦争を準備してください。

 

 

 

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