バブールレーン   作:ペニーボイス

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「ただのアカチャンホ●ポだろうが」


----------ジャン・パール(以下略


キングスバブ

 

 

 

 

 

私は当艦隊の指揮官として着任してから、初めて外出する事になった。

 

まあ、外の街並みを想像するだけでも結構楽しくもあり、鎮守府営門に近づくに連れて期待も高鳴る疲れからか不幸にも黒塗りの高級車に乗せられてしまう。

後輩を庇い全ての責任を負った指揮官に対し、車の主・艦隊構成員ティルピッツから示された外出の条件とは。

 

後輩って誰やねん。

 

 

 

 

 

「外出するに当たって、ルールを決めましょう。」

 

ピッピママが唐突にそう切り出して、皆が一斉にうなづいた。

 

運転席に座るベルファスト、助手席にはセントルイス。

私は後部座席中央で、左右をティルピッピとダンケルクにはさまれている。

私の右側にいるピッピの言葉を聞くために、皆真剣な眼差しを向けていた。

 

なんなんだ、ルールって。

30過ぎのおっさんを囲んで、一体何のルールを決めようと言うんだお前らは。

 

 

「その1。坊やを決して1人にしない。」

 

「「「1人にしない」」」

 

「その2。坊やを勝手に出歩かせない。」

 

「「「勝手に出歩かせない」」」

 

「その3。坊やを不審者から遠ざける」

 

「「「不審者から遠ざける」」」

 

「その4。」

 

 

ちょっと待ってもらっていいですか?

その『我が子の安全運動五カ条』みたいな唱和は何?

言ったよね、私はもう30過ぎのおっさんですよって。

何で今更そんな過保護な扱いを受けなきゃいかんのですか、そんな事されたら一人でやましい事をアレコレできないじゃないですか。

 

「やましい…こと?坊や、どういう意味?」

 

ピッピママの眼光があまりに鋭かったので、今の発言は取り消す。

それはともかく、一々そんな事してたら皆好きな事ができなくなるんじゃないの?

おっさん一人に構ってるよりも、好きな事した方が良いんじゃないの?

 

「何を言ってるのMon chou。可愛いあなたを見守ることほど楽しい事なんてないわ。」

 

「その通りです、ご主人様。それに最近は物騒な事件が多いのも事実です。」

 

「指揮官くんの安全の為なら、何だってするわよ。」

 

 

ダンケルク、ベルファスト、セントルイスから口々にそう言われて、私は諦める事にした。

 

もうどうしようもない。

この娘達がモンスターペアレンツと化してしまった以上は諦める他なかろう。

児童相談所に駆け込むぞコラ。

 

 

「ルールは決まりね。皆で坊やを守りましょう。さて、問題は…」

 

過保護集団隊長のピッピが、難しい顔をして次の議題を持ち出す。

 

一体何なんだ?

私をこれから24時間あまり過保護な体制に置いただけじゃ飽き足らんのか?

それよりも大切な議題がある的な顔をするんじゃねえ。

 

ほかの面子も、揃いも揃って身を前に乗り出していた。

雰囲気的にはまるでスタートピストルを待つ陸上選手に見えなくもない。

 

おい、一体何を待ち構えてんだお前らは。

なぜ皆んなして俺とそれぞれの距離を測る?

なぜ皆んなして手首を回してる?

 

何かとんでもない競技が始まる予感がして、それは残念ながら的中した。

 

 

「坊やは…誰の膝の上に座るかハイ取ったァァァアアア!!!坊やは私の膝の上で決まりィィィィ!!!」

 

「認めないわティルピッツ!!!今すぐにMon chouを離しなさい!!!」

 

「ご主人様は私の膝上でドライブ風景を見たいに決まっています!!!」

 

「いいえ!指揮官くんは私のナイススタイルを味わいたいはず!!!」

 

 

やめろぉぉぉおおおお引っ張るなあああああ痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃいいいい!!

 

ピッピママが全力をもってして私を抱え込んで来るもんだから、プレス機械にでも入れられたのかってくらい圧迫される。

ヤバい、マジでハンバーグになりかねん!!

 

それに加えてダンケママ、ベルママ、ルイスママが引っ張るわ引っ張るわで超痛え。

 

お前ら本当に何なんだ!?

私の事を可愛い息子って言ってみたり、ぬいぐるみみたく引っ張り合いしてみたり!!

もうマジで勘弁してくれえええ!!!

 

 

 

 

 

 

あの下品なテディベア、通称TE●状態から解放されたのは、結局、独仏英米間で平和条約が締結されて1時間おきに私の座る位置が変わるという協定が結ばれた後だった。

 

まだ営門を出る前だが、既に疲れた。

もうゴルフ行く気にはなれん。

 

やがて黒塗りのメルセデスは営門に差し掛かり、シュタールヘルムを被ったヒヨコによる栄誉礼を受ける。

長い長いGew98小銃を、ヒヨコのくせによくもと思えるほどに完璧に保持してなされる敬礼に、私は感服せずにはいられない。

 

ありがとう、ありがとう。

こんなピッピの膝で安らいでるようなおっさん相手に敬礼してくれてありがとう。

 

 

 

 

さて、無事に営門を通過して私とマッマ達は街へ繰り出した。

 

ベルファストによってかなり丁寧に運転されるメルセデスの後部座席で、ピッピママに抱えられながら、私は外の様子を伺う。

 

なんというか、思ってたのと違う。

 

 

1940年代のノスタルジックな街並みかと思ったら、前の世界と殆ど違いは見られない。

 

マクド●ルドはちゃんとあるし、その向かいではサン●ース名誉大佐がライバルを睨みつけている。

 

家電量販店、ブティック、カフェ、コンビニエンスストアや薬局、パチンコ屋まであり、なんだか肩透かしを食らったような感触さえしてきた。

 

 

「そこを右よ、ベルファスト。」

 

私の直上でピッピママがベルに指示した。

メルセデスは、まるで教習所で渡される教範のような理想的な滑らかさで右折をこなすと、搭乗者に不快感を一切与えないポンピング・ブレーキを行いつつ止まる。

 

なんだ、ここは?

 

狭くて暗い路地裏で、メルセデスは停車している。

ピッピママがドアを開けて、私を抱え上げながら車から降ろした。

ほかのマッマ達は車から降りずに待っているようだ。

 

 

「行くわよ、坊や。まずはショッピング。」

 

いや、何をショッピングされるおつもりなんですか?

マリファナとか密造銃とかショッピングしそうな雰囲気の場所なんですがねえ。

大丈夫なの?

外出ルールその3『不審者から遠ざける』に開幕早々抵触してるような気がしてならないんですが、気のせいでしょうかピッピママ。

 

私の心配をよそに、ピッピママは私の手を握ってカツカツと歩を進み出す。

チビデブな私は身長差のあるピッピママの歩幅に合わせるのも精一杯の始末。

度々小走りになるが、ピッピママはカツカツと足早に歩いていく。

 

よほど楽しみな何かをショッピングするのか、それとも私の気のせいなのかはわからない。

ただ、段々と速度が速くなっているような気がした。

 

 

「ほら、あなたから入って。」

 

ピッピに促されて、私は路地裏の怪しげな店の重厚な扉を開く。

これが裏世界への入り口ではない事を内心祈りながら、私は店の中へと進む。

 

喜ばしい事に、杞憂だった。

 

品の良い金髪女性が、私とピッピを出迎えてくれた。

 

 

『あっ、ティルピッツ!例の物は出来上がっているわ。』

 

『本当!?早速見せてもらえるかしら?』

 

 

ドイツ語など習ったことはないはずだが、何故か金髪女性とピッピのドイツ語が理解できるあたり、また海馬に勝手にあれこれ書き込まれているのだろう。

 

 

金髪女性は小さな木箱を取り出した。

 

箱を開くと、地味だが、かなりの繊細さと精密さ、そして頑強さを感じる腕時計が出てきた。

 

 

ピッピママ、これは?

 

「ふふ。あなたへのプレゼントよ、坊や。気に入ってくれると嬉しいのだけれど。」

 

ありがとう、ピッピ!!

こんな品の良い時計を貰えるとは思わなかった。

そうだ、そうだよ!こういう時計が欲しかったんだ!!

 

たしかに、ブランド物ではないがが、マイスターの製品らしい高級感と洗練されたデザインはブランド物よりも高い希少価値を持っているように思える。

 

疑ってすまなかった、ピッピ!

君は最高だ!

 

 

『注文通り、GPS追跡機能と自己位置発信装置も着いているわ。これで、どこで何をしてても、その坊やの位置は把握できる。』

 

『本当にありがとう、よくこんな短期間で仕上げてくれたわ。それはそうと、あまりそういう話はしないで。注文したのは確かに私だけど、坊やには聞かれたくないの。まあ、坊やは鉄血語はできないから、あまり心配もいらないけど。念のため、ね?』

 

 

前言撤回。

キングス●ンかコラ。

 

ドイツ語できるかできないかは放っといて、その問題自体に向き合おうよ。

ストーキング通り越して地球規模で追跡しに来たよ。

アフガニスタンの洞窟にでもいないとピッピママから隠れられない状況に追い込んで来たよ。

 

 

『分かったわ。あと、これも注文された品ね。』

 

 

金髪女性が、今度はシルバースライドのPPKを取り出した。

 

いや、やっぱりキングス●ンじゃん。

今ここで「マナーが紳士を作る」って言われても全く違和感ねえよ。

追跡装置付きの時計と見るからに特別仕様の拳銃ってそうそうお目にかかれねえよ。

 

 

「はい坊や、これも身につけて。プレゼントよ?」

 

受け取るしかないよね、見るからに高そうだしプレゼントなんだし。

で、これの機能って何?

 

「あなたが今持ってるPPKと同じよ。見た目が違うだけ。」

 

『そんなわけないでしょ?注文通り照準補正装置と非常事態感知警報装置も組み込んであるわ。もし、その子の身に危険が迫ってPPKを手にした時には即座に警報が届く。』

 

『分かってる、言わないで。』

 

『ああ、ごめんなさい。その子が鉄血語分からないからってつい。』

 

 

いや、丸分かりなんですが。

着いてる機能の1つ1つが過保護過ぎてもはや怖い。

つーか、どっからそんな先進技術というよりかはSF寄りの技術取り入れてんのよ。

もっと有用な使い方があるんじゃないのかな?

 

 

『時計と銃は確かに受け取ったわ。スーツとタキシードは?』

 

『…表に行きましょう。』

 

 

ピッピと共に金髪女性に着いていくと、表はは紳士服店だということが分かった。

ショーウィンドウには上品なスーツを纏ったマネキンと、先ほどと同じような時計や紳士傘が並び、店内も品の良いスーツが所狭しと並ぶ。

うん、キングス●ンだね。

 

 

『特殊仕様よ。見てて?』

 

金髪女性はピッピが発注していたスーツの上衣をマネキンに着せると、サプレッサ付きのナガン拳銃を取り出して全弾撃ち込んだ。

たぶん、世界広しと言えどもこんな刺激的なショッピング体験はそうそうないと思う。

 

スーツは貫通力の高い7.62mmナガン弾を見事受け止めて、その弾頭をコイン状の鉛に変えて床に落とした。

 

すっげえ。防弾スーツじゃん。

 

 

『どう、ティルピッツ?12.7mm弾にも耐えられるわ。』

 

『重くないの?』

 

『材質は特殊合金。サルベージしたセイレーン艦から採取した金属を繊維状に変換して使用しているの。だから軽くて丈夫。』

 

 

丈夫どころじゃねえよ。

12.7mm弾って元は対戦車用弾薬だからな。

1918年当時の戦車ならブチ抜けんだからな。

それを防弾スーツで防げるって何なのセイレーン艦の原材料は!?

 

 

『色々ありがとう、またお願いするわ。』

 

『こちらこそ。また来てちょうだい。』

 

 

金髪女性に見送られ、私とピッピは今度は店の表の入り口から外に出た。

左手にはPPKやら防弾スーツ、防弾タキシードの入った紙袋を持ち、右手は来た時と同じようにピッピママに握られている。

 

TPO考えてよ、ピッピママ。

紳士服店からおっさんが長身白人巨乳美女と手繋いで出てくるってどういうシチュエーションなのよ。

冷めきった視線諸に浴びてるんだけど。

 

 

 

まあ、それはそうと、あの金髪女性は古い知り合いか何か?

凄い親密そうだったけど。

 

 

「ああ、姉さんよ。」

 

 

えっ!?

 

 

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