バブールレーン   作:ペニーボイス

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若きマッマ達

 

 

 

 

 

『こちらロイヤル海軍所属:戦艦ウォースパイト。貴艦隊が行わんとしているのは戦争行為である。直ちに停止ないし撤退されたし。繰り返す…』

 

 ウォースパイトはサディア語の原稿を用いて、拡声器と通信の両方をもってサディア海軍の艦隊を止めんとしている。

 彼女を先頭とする世界最強の艦隊は砲列をサディア艦隊に向けていたし、サディア海軍の砲列もこちらを向いていた。

 しかしお互いのどちらも譲ることなく進み続け、かなりの時間が経つ。

 このままではロイヤルとサディアの戦闘が始まってしまうし、そうなれば泥沼式に各国の介入が相次いで第三次世界大戦へと至ってしまうだろう。

 

 

「…陛下、サディア海軍は止まりません。」

 

「………」

 

「進言を行なっても良いでしょうか?」

 

「…答えはNoよ。」

 

「陛下、お願いです。せめてお聞きください」

 

「ウォースパイト、あなたも弱腰になったわね…まあ、無理もないわ。あなたはきっとこう言いたい。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』」

 

「!?」

 

「残念だけど、それはできない。電報では、ヒスパニアへの軍事行動は複数あると言ってたわね?ここにマルセイユのアイリス海軍がいないという事は、きっと陸軍部隊の越境が行われているということ。」

 

「陛下!それでは」

 

「そう。残念ながら私達に選択肢はないの。マクドネル首相の狙いが何にせよ、ヒスパニアへの攻撃を止めるという命令が出た以上はサディア海軍との武力衝突を覚悟しなければならない。」

 

「……クッ…」

 

()()()()なさい、ウォースパイト。あなたがそんな状態では他の"下僕"に示しがつかないわ!」

 

「申し訳ありません、陛下。しかし…」

 

「まだ猶予がないわけじゃないわ。でも、いずれ衝突するのは時間の問題…いざ戦いという時に迷っていては、勝てるものも勝てないでしょう?」

 

「…………」

 

「ウォースパイト!迷ってはダメ!!躊躇なんて持ってのほかよ!!さあ、続きなさい、ウォースパイト!!女王の艦隊に恥をかかせないで!!」

 

「!………陛下…!…この愚かな"下僕"をお許しください!!」

 

 

 クイーン・エリザベスのおかげで、ウォースパイトはようやく悩みに蹴りをつける事ができた。

 眼前に迫るサディア海軍の存在は、彼女達に不可避の戦闘を強いんとしている。

 もう迷ってはいられない。

 ウォースパイトは艤装を稼働させ、もう幾ばくか後には交戦する事になるであろう敵へ砲口を向けた。

 

 

「ふん、やっと…いつものあなたが戻って来たわね。」

 

「サディア海軍尚も前進中!」

 

 

 ウォースパイトの"復活"を見たクイーン・エリザベスが満足げな表情を浮かべる間にも、彼女の艦隊の構成員であるレナウンが報告を挙げる。

 

 

「連中の猶予はあと僅か。各員は攻撃の用意をなさい!…戦闘開始点まで、5、4、3、2…」

 

「!!…陛下!本国より緊急通信です!!」

 

「?……」

 

 

 ロイヤル艦隊がサディア艦隊への砲撃を始めようとしたその刹那、レナウンが声を張り上げる。

 クイーン・エリザベスは先制攻撃のチャンスを失い、幾分不機嫌になったが、レナウンから暗号無線を回された後には機嫌を治していた。

 

 

「喜びなさい、ウォースパイト。"()()()()()()()()()()()()()"よ。」

 

「…?どういう意味でしょう?」

 

「本国より命令。ジブラルタル海峡に展開中のロイヤル艦隊は至急本国へ帰投せよ!」

 

 

 クイーン・エリザベスが命令の内容を配下に伝えた時、彼女は艦隊の中から歓声が挙がるのを聞いた。

 レナウンもウォースパイトも安心した表情を浮かべている。

 ロイヤル艦隊はヒスパニアの軍港へ進んでいくサディア艦隊を背に、早くも離脱を始めていた。

 

 

「………世界大戦は回避できた、か。」

 

「良かったわね、ウォースパイト。」

 

「へ、陛下!申し訳ありません!」

 

「何も謝ることはないわ。私だって、無意味に部下を失うような事はしたくないもの。」

 

「ですが…陛下にとっては最上の結果ではないようかと…」

 

 

 先程、クイーン・エリザベスは『あなたにとっては最高の結果』という言葉を使った。

 ウォースパイトはこの結果に多少安心しつつも、クイーン・エリザベスひいてはロイヤルにとっては決してベストではなかったかもしれないと気づいたのだ。

 

 

「ええ、そうね。女王の艦隊は恥をかいた。面白くはないわ。」

 

「………」

 

「でも、そんな事よりこれから先が心配よ」

 

「やはり、欧州秩序に対するロイヤルの影響力は」

 

「そんな事は政治家にでも任せておきなさい。私達はKANSENであって、人間ではないの。似せて作られてはいるかも知れないけど、彼らの政治にまで口を出してはならない。」

 

「では、先程のご発言は…」

 

「はぁ……ウォースパイト、私はこの艦隊の旗艦なのよ?世界大戦が回避されて、"下僕"達は気が緩んでる。こういう時ほど、事故は起きるモノ。」

 

「………!!」

 

「この結果が"私にとっても最高の結果"となるのは…そうね、艦隊が無事に入港してから、でしょうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロイヤル

 

 ロルトシート邸

 

 

 

 

 

 フレデリック・フォン・ロルトシートはロイヤル海軍上層部を通して、ヒスパニア沿岸でのロイヤル・サディア両海軍の状況を事細かに把握していた。

 両海軍はロルトシートの目論み通り衝突する事はなく、結局はロイヤルが進路を明け渡した。

 だが、フレデリックがその事態に激昂する事はない。

 何故ならロイヤル艦隊に道を譲るよう要請したのは、他ならぬ彼だったからだ。

 

 

「………クソ。」

 

 

 

 彼は溜息混じりに悪態をつく。

 普段そんな事をするような人間ではない。

 だが、今日自身の計画が潰えたのを目の当たりにしてしまった彼としては、そんな態度を取ってしまっても無理はなかった。

 

 

 

 彼は今、自身の邸宅でテレビ会談を行なっていた。

 画面の向こうにはペン●ハウスかプレ●ボーイにでも乗ってそうな巨乳美女がいる。

 だが、ロルトシートが関心を持っていたのは際どい下着を寸分の恥さえ持たずに着ている肝の座った彼女ではなく、彼女がその豊満な胸に挟んでいる赤ん坊だった。

 

 

「警備費用をケチり過ぎた。それが今回の敗因だな。」

 

 ええ、そうでしょうね、Mr.ロルトシート。貴方らしくもない。

 

「エーミールは昔から無駄にケチな男だった。私の方から連隊規模のボディガードでもつけておくべきだったな。」

 

 覆水盆に返らずとは言いますが、とんでもないものを"溢して"しまいましたね。

 

 

 フレデリックはとんでもない初歩段階で綻びを生じさせてしまった自らの甘さを呪いながら目頭を押さえる。

 

 

「…私の負けだ、()()()()()()()()()()()()()…そう驚いた顔をしないでくれ。君は"そちら側"と呼ぶに相応しくない。」

 

 それは…とてもありがたい事です。正直意外でしたが。貴方ほどの人間なら…失礼ながらエーミール氏を諦めるかも知れないと心配していたので。

 

「ハハハッ!私は決して冷血人間ではないよ。…まあ、それ以上に。エーミールは大陸側の窓口だった。そんな人間を見捨てたとなれば、今まで味方だった連中からも見放される。」

 

 要所はしっかりと押さえていらっしゃっているとは思ってはいましたが…その点では助かりました。

 

「…君も君で、こうなった以上はエーミールを解放するんだろう。アイツは死ぬよりも辛く思うかも知れないが。我々はアイツのせいで大陸側欧州を失った。ヒスパニア債務管理局の説明会まで開いておいて、それをすっぽかしたどころか主催者まで拐われたんだからな。君の顔の広さには恐れ入った。」

 

 正直、KGVとCIUがいなければ終わりでした。彼らには感謝してもしきれません。弟さんは間違いなく無事にお返しします。

 

「君を信じよう………。さて、少将。君とは一度会っておきたい。昨日の敵は今日の友というわけだ。商談がある。」

 

「商談!?ふざけるのもいい加減にして!!そうやってミニを騙し討ちする気なんでしょう!!その後私達にひどい事する気なんだわ…同人誌みたいに!同人誌みたいに!!!

 

 

 あ、あのね、ルイスママ。

 この和解ムード全開の中でそんなトチ狂ったような考えに至らないで頂けますか?

 確かに騙し討ちが心配なのは分からなくもないけど、同人誌みたくなる事はないと思うよ?

 フレデリックさんがそんな酷い人に見える?

 見える!そうかそうかルイス!

 心配してくれるんだねありがとう!

 …とりあえず黙っててもらえるかい?

 

 

「信頼できなくとも無理はない。だが、ロルトシートの名にかけて騙し討ちをするような事はしない。これは保証する。」

 

 分かりました…それでは今からでも向かいま

 

「…悪いが、そこの貴婦人達は残して一人で来てくれ。彼女達にはしたくない話なんだ。」

 

「ほらやっぱり!酷いコトする気よ!同人誌みたいに!同人誌みたいに!!

 

 落ち着いてルイスママ。

 …失礼ですが、Mr.ロルトシート。

 私も色々とありまして、彼女達と離れるわけにはいかないんです。

 一人で行動すると…出血多量で死に至ります。

 

「………」

 

 ………

 

「………」

 

 ………

 

「…ぅぅぅうううん、分かった。で、あれば…誰か1人選んでくれ…」

 

「はい!はいはいはい!!私がミニと一緒に行くわ!!」

 

「ちょっと!ルイス!!いい加減にしなさい!それは坊やが決めるべき」

 

「決める?何を言ってるのティルピッツ?決めるとかそういうの以前に、今のミニ・ルーはラッキー・ルーの一部分なのよ?選択肢なんてあるわけないじゃない。」

 

 支離滅裂な発言・思考。

 

「…君は確かセントルイスだね?……うんうん、そうだ、それがいい。…少将、どうか彼女と共に来てくれ。では、会うのを楽しみにしている。」

 

 

 

 テレビ通話が一方的に切られ、私はルイスママと2人きりでロルトシートの長と会う事が決まってしまった。

 小躍りするルイスママと、即座に戦闘態勢を整える他のマッマ達。

 このまま武力衝突に至るのは心配の極みなのだが、しかし、ロルトシートに騙し討ちされるという心配は、不思議と沸かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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