ウォーロード
『我は死なり。全ての破壊者なり。』
-----J・ロバート・オッペンハイマー
(アメリカ人物理学者、『原爆の父』)
「ゲボォッ!!オエッ!!…カハッ、ゲ、ゲボォォオ!!」
「しっかりして!ペン姉さん!!」
「あと少し!あと少しで予備ドッグに着く!踏ん張れ!」
「くっ!しつこいですね、アイリス海軍!!」
「カーリュー!左舷より敵影!!」
重傷を負ったペンシルバニアを護りながらも、カーリュー達はよく持ち堪えていた。
だが、北海での演習から掃討戦に移行してきたアイリス海軍は既に装備が揃っており、彼女達を追い込んでいる。
なんといっても演習の始まる直前に追撃命令が下った為、アイリス海軍は弾薬も燃料も十分だったのだ。
今、カーリュー達の左舷方向からはアイリス海軍所属のTBFが2機接近しつつあり、その"腹部"に抱えたMk13魚雷を眼前の艦隊へと放たんとしている。
だが、TBFが狙いをつけたその刹那…背後から2機のスピットファイア戦闘機が現れて、鈍重な攻撃機を蜂の巣にした。
結果的に魚雷が放たれる事はなく、カーリュー達は助けられる。
「ユニコーン!ありがとうございます!…ユニコーン?」
スピットファイア戦闘機の母艦たるユニコーンは、カーリューが普段知っているユニコーンではなかった。
虚な目をして、何かに取り憑かれたかのように、飛行甲板からスピットファイア戦闘機を矢継ぎ早に出撃させている。
「ユニコーン……お兄ちゃんを…守ってあげたい……」
普段の彼女からは考え難い発言だが、しかし、その彼女の目に光はない。
カーリューはどこか不気味さと不吉さを覚えながらも、今はオーバーフロー気味なユニコーンの戦闘力を頼らざるを得なかった。
TBFは4機撃墜されたものの、旧ヴィシア軍のFW190戦闘機やBF110攻撃機、アイリス海軍のF4F戦闘機、更なるTBF攻撃機が迫っている。
その奥にはおぼろげながらアイリス海軍艦艇とKANSENの艦影が見えた。
もうしばらくはユニコーンに頑張って貰わなければ。
「皆さま!本当にあと少しです!お気を確かに!!」
…………………………………………
ロイヤル
ロルトシート邸
ラッキーアメリカママ・セントルイスの谷間でぐっすり眠っている間に、私はサディアからロイヤルへの移動を果たしていた。
その間にもクイーン・エリザベスの艦隊はロイヤルへ帰還し、ビス叔母さんは海岸線を掃討、アイリス艦隊は海賊共を捕捉、サディアン・マフィアはヒスパニアに進出し、そしてロルトシートは大陸側欧州向けの…全ての窓口を閉じている。
刻々と変化していた状況はハイパーインテリルイスママによって良く纏めて"伝えられ"、おかげで私は理解と解釈にあまり迷うことなく記憶することができた。
ありがとうルイスママン。
ありがとうありがとう。
「どういたしまして♡ねえ、ミニ・ルー?ラッキールーの伝達能力が他のママ達を凌駕しているということは…よく理解できたでしょう?」
うん…そだね……
そりゃあ本当によく纏められてて私自身助かっているにはいる。
だけど、もういい加減双丘越しのテレパシーという伝達方法は…なんというか……辟易するものがあった。
せめて口頭で頼むよルイスママ。
「双丘越しのテレパシーは、貴方のママである事の証拠でもあるのよ?使うのを躊躇わなければならない理由なんてないわ。」
だめだこりゃ。
ルイスママに頭の中身まで筒抜けだ。
「ええ勿論よ、ミニ。なんと言っても私たちは一体化しているの。…大丈夫。悩みがあったらいつでもルイスママにテレパシーして?」
……どうしよう。
何も言いたくない。
「テレパシーしなくても、させるから♪」
何も考えたくない。
ルイスママのサイコ具合の披露宴が終わる頃、ロイヤル・ロルトシート邸への旅路も終わろうかとしていた。
バリバリキャリアウーマンチックなスーツを着るルイスママが、私を谷間に挟んだまま邸内へと連れて行ってくれる。
門の前には当たり前のように衛兵がいたし、ルイスママはそこで武装解除され、愛用のガバメントを預かられた…が、ここだけの話彼女のバックアップガンが私の直下10cmにあるのであまり意味がない。
胸の谷間とは何なのだろうか?
こんな便利ポケットみたいな扱いされていいモンなの?
そもそも、38口径リボルバーと予備弾薬及び赤ん坊が入る谷間って何なのよ?
いくらなんでもデカ過ぎないかい、いや「ラッキー・ルー♪」じゃねえんだよ。
ルイスママはその後フレデリック・フォン・ロルトシートのいる書斎へと通される。
私も私で、今まで色々と苦戦してきた相手に会うという事で緊張していた。
ママの谷間に挟まっているという滑稽さを、少しでも相殺できるが如く姿勢と襟を正す。
でもルイスママが谷間をギュッとやりやがったので早速無意味になってしまった。
「ミニ、緊張しないで?あなたはいつも通りにしていれば十分魅力的なのよ?」
この態勢でも?
「…………」
ギュムゥゥゥ
ふげえええええ分かった分かった分かりました!!
ルイスママの有無を言わさぬ過保護によって、私は自身の自由意志を完膚なきまでに否定される。
次いでまるで私が彼女の所有物であることを誰であれ容易に理解できるようにルイスママのフレグランスな匂いを刷り込まれた。
その…気が遠くなるほど大きな双丘を使って………
やがて我々はロルトシート現当主の書斎の前へと至り、ここまでドン引きしながらも我々を案内してくれた執事と思わしき人物がその扉を開く。
中には…当然の事ながらフレデリック・フォン・ロルトシートその人がいた。
だが意外な人物も、またその中にいた。
「久しぶりね、"
シワがれた声と、シワがれた肌。
老いを感じさせる頭髪には白髪が交じり、この女性が職務のせいで自分自身にあまり時間を割けなかった事を示している。
彼女は私の昔の上司…MI5のN長官だ。
長……官?
「ええ。意外だったかしら?」
長官が何故ロルトシート家に…
「感動の再会は傍に置いて、まずは挨拶といこうじゃないか。私がフレデリック、現ロルトシート家の当主だ。」
………あ、はい、すいません。
初めまして、私はセントルイスファミリアです。
彼女はセントルイス。
どうかご無礼をお許しください。
「…まぁ、君の反応が理解できないわけじゃないさ。意外どころの話じゃないだろ?」
「マッコール、あなたはきっとこう思っていた。ヴィスカー社の株を握るロルトシートが軍需産業の先細りを恐れて第三次世界大戦を始めようとしている、と。」
………
「図星だな?…悪くはない考えだが、少し我々を見くびり過ぎだ。そんなハイリスクな賭けに出る理由が見当たるかね?」
「Mr.ロルトシートの言う通り、彼…いいえ、我々の目的はそんなモノではない。」
「目的はもっと別の方面にあったんだ…セントルイス君、悪いが席を外してくれないかね?」
金属バットで頭を殴られた事はないが、私は恐らく、バットで頭を殴られるよりもガツンとした衝撃を受けていた。
裏切られたと思ったわけではない。
…だがしかし、もしかすると、『
穏やかな様子のN長官とロルトシート当主を見て、そんな考えが脳裏を過ぎったのだ。
ルイスママもナニカを感じ取ったらしかった。
「………きっと、この子一人じゃ耐えられそうにないわ。それに、一人きりにしたら大変な事になってしまう…私はこの子から離れない。」
「………分かった、ならば約束してくれ。取り乱さずにいることを。」
「ええ」
「なら……この説明は私の方からすべきでしょうね。」
N長官はゆっくりと立ち上がり、話し始めた。
彼女がロルトシート邸にいる理由………つまり、MI5がロルトシートと組み、ビス叔母さんを攻撃していた理由を………。
……………………………………………………
ちょうど、後にセントルイスファミリアを名乗る事になる男がこの世界線へやってきた時、欧州のど真ん中では史上最大の買収が行われていた。
伝統ある有名軍事メーカーのクラップ社が、KANSENであるビスマルクによって買収されたのだ。
クラップ社は通常兵器だけでなく、KANSENの艤装または弾薬をも製造していて、この買収はその管理権がKANSEN自身の手に移った事を意味している。
この出来事は何人かの人物に危機感を与えたが、最初に驚異を感じたのは…他ならぬロルトシートの当主だったのだ。
「ニュースを見たか、フレデリック!ビスマルクがクラップを押さえた!このままじゃ欧州の軍需産業にまでビスマルクの資本が」
「静かにしろエイミール!…すまない、我が弟よ。だが、もう少しよく考えるんだ。ビスマルクがクラップを押さえた事実はお前が思っているよりも厄介な問題をもたらすことに気づいてくれ。」
「……フレデリック?た、確かに鉄血資本が軍需産業に集中投資を始めればヴィスカーの優位さ」
「そんな事じゃない。これはもう…鉄血・ロイヤルの問題だけではないんだ。…仕方ない、MI5に連絡をしてくれ。」
エイミールからすれば、こんな兄の姿を見るのは初めてだった。
兄は打ちひしがれたようになっていたし、MI5長官への電話のさえも今までにないくらい追い詰められた様子で行っていた。
そしてMI5の長官がロルトシート邸へ訪れた時、エイミールは初めてその理由を知る事になる。
「長官、一大事です。」
「ええ、分かります。まさか本当にこんな事が起こるとは…」
「我々は優位を失う事になるでしょう………
「ビスマルクがクラップを手に入れたという事は、KANSEN自身が自前の武器弾薬を調達できるようになったと言う事。彼女達が人類に反旗を翻す時、止められるものはもう何も…」
「KANSENの素材であるメンタルキューブは…元はといえばセイレーンからもたらされた存在です。」
「そんな存在が自己を持ち、挙げ句の果てに必要資材の自己調達まで始めれば何が起こるかわからない。」
「少なくとも、我々はそう考えています。ただ、幸い、彼女達が"自立"を志すために必要なモノは後一つ残っている…燃料です。最近ビスマルク傘下の鉄血資本が油田開発技術への融資に動いています。」
「!!…もしかして、北方連合の」
「我々はそう睨んでいます、長官。」
「ですが、あの油田は北方連合の技術力では開発できませんし…鉄血と北連の関係からして、ビスマルクが手出しできるとは…」
「ええ、今はそうかもしれません。ですが長官。状況が現在のまま推移するとは思えません。情勢によっては…ビスマルクの食指が届くかもしれませんよ?」
「何としても阻止しましょう!長期的に動き、ビスマルクを封じ込めます!」
……………………………………………………
「そ、そんな!考え過ぎよ!私達が人類を攻撃するなんて!」
私からも言わせてください。
彼女達はそんな悪魔のような存在ではない!
「………ミニ・ルー…」
現に彼女達はセイレーンから我々人類を守ってきたんです!
そういった発言自体、彼女達にあまりに礼を失している!
「ええ、マッコール。今はそうかもしれない。或いは"今までは"。でも、どうしてこれから何年先も同じ状況だと思えるのかしら?」
「KANSENの軍事力は我々人類のそれを大きく引き離している。…いずれ、戦争は終わる。人類国家同士の戦争も、セイレーンとの戦争も。」
「残念ながら、私達人類はKANSENの目の前で数々の失態を重ねてきた。数年先は何事もなくても、世代を経ればいつか私達を見限る日が来るかもしれない!そんな時に、彼女達の手元に武器を持たせておけばどうなるか!」
だんだんと、分からなくなってきた。
長官とロルトシート当主がイカれているのか、それとも彼らの言う通りなのか。
だが、少なくともこんな事を…。
彼らがマッマ達自体を恐れているなんて事を、ママと相談するわけにも…
「少し、この子に考えさせる時間をくれないかしら?」
テレパシェ……………
「ええ、いいでしょう、セントルイス、マッコール。でも、これだけは言っておくわ。私達があなたに目論みを明かしたのは、私達の一連の作戦が失敗したから。……もう、正直に言いましょう。私達はあなたも含めてビスマルクの一派を抹殺するつもりだった。」
!!??
「海賊に大量破壊兵器の情報を流したのは私。"ジェンキンス"は
ルイスママ!今すぐビス叔母さんに
「安心なさい、作戦は放棄された。私達はもうお手上げよ。それでも、あなたを呼んだのは…きっと、あなたなら
ルイスママと私は別室に通された。
私は凄まじく混乱していたし、到底考えるなんて事もできそうにない。
長官の話は…あまりにも壮大すぎて別次元のモノに思えた。
ガバガバェ…すいませぬ