いつか…まだMI5に入る前に、変な夢を見た事がある。
バイ●ハザードとかウォー●ング・デッドとか、或いは…古典的に言えばゾン●みたいな世界観に突っ込まれた夢を。
側にダンケママがいた。
彼女は必死に私を守ってくれて、2人で必死に安全な場所を探していた。
そこへ電話が来る。
私の兄からの着信だった。
『特効薬を研究中だが、アンデッ●共が迫っている。助けて欲しい』
よくよく考えれば私に兄なんていやしない。
しかし所詮は夢の中。
私はその言葉を信じてラボに向かおうとする。
そこでダンケは私を止めに来る。
『今行けば命はない。それでも行くなら、私を撃ち殺してからにして。』
私は悩んだ末に、ダンケを撃った。
アンデッ●にならないように、額めがけて。
私は自分を守ってくれるダンケよりも、自身の家族を…"本来の"家族を選んだわけだ。
そのあと研究所に辿り着いたが、兄は既にアンデッ●になっていたし、特効薬なんてありはしなかった。
目が覚めると、本当にそれが夢で起きた事か疑わしいほど夢の内容を覚えていて…私は罪悪感に苛まれた。
この人生で本当に久しぶりに、夢のせいで泣いた。
重い重い罪悪感と、途方もない悲しみを感じたのだ。
そして重い重い罪悪感と途方もない悲しみを背負ったまま、近くで寝ていたダンケマンマの豊満な母性に飛び込んだ。
「ごふっ!?………Mon chou?どうしたの?…泣いてるの?」
うん、ごめん、ダンケママ。
「?………何か怖い夢でも見たのね?」
隠していてもどうしようもないから、私はダンケにありのままを話す。
幸いな事に彼女以外のマンマは起きていなかったし、私のダンケマンマは…他のマンマも皆そうであるが…寝ている女性の谷間に飛び込むという変質者紛いの行為をも受け止めてくれるような優々甘々マンマだった。
「………そう。大丈夫よ、Mon chou。きっと、夢の中の私もあなたの選択を理解していると思うわ。」
でも、ダンケママ…
結局、私は何も得る事なく…ただダンケを…
「ええ、結果的にはそうかもしれない。だけど、chouがお兄さんを信じたのはそこに希望があったから。…未来の事なんて誰にも分からないわよ。」
ダンケ…
「夢の中の私に足りないところがあるとすれば…そうね、なぜ最後までchouを守ろうとしなかったのか。……これだけは言わせてちょうだい。私達KANSENは人々を守る為に存在しているの。人々を守る為なら…命すら投げ出すわ。」
結局のところ、私はルイスママと一緒に、他のママ達のいる…私の鎮守府へと帰る事にした。
だが、話をしたかったのはママたちの内の誰でもなく、私のかけがえのない親戚にして家族でもあるビスマルク叔母さんだ。
だから我が鎮守府へと帰った時、ピッピママの下へと向かって"もらう"。
ビス叔母さんと話すには、彼女といてもらった方が良い。
しかしその前にママ達全員にMI5とロルトシートの真の目的を話さねばなるまい。
『人類に対する潜在的な脅威の排除』
正直気は進まない。
KANSEN達はこれまでセイレーンの脅威から、必死に人類を守ってきたのだ。
それなのにロルトシート家は彼女達を疑い、コソコソと卑劣な攻撃を仕掛けてまでいる。
ルイスママに、この事を相談した。
彼女はさも自然な事のように私の口内へレーズンやアーモンドを突っ込んでいきながらも、自身の考えを教えてくれる。
「ねえ、ミニ?仮に黙っていたとして、いつまで他のママ達に隠し通せると思うの?」
………そう、長くはもたないかな
「いいえ、ミニ。
………
「なら、いっそのことミニから聞いておいた方が気持ちも落ち着くと思うわ。………ミニ?そんな顔しないで?大丈夫、彼女達はそれくらいじゃ揺るがない。前にも言ったでしょ?私達を頼って。」
………うん。ありがとう、ルイスママ。
おかげで踏ん切りがついたよ。
「お礼なんていらない。私の可愛い息子だもの。………ほら、ミニ・ルー?レーズン♪」
ルイスママ、ちょっとお腹がいっぱい
「レーズン」
いや、あの
「レーズン」
ルイ
「レーズン」
ル
「レーズン」
レーズンとアーモンドによるバグラチオン作戦はつつがなく終わり、私は昼飯の時間だと言うのに一切の食べ物を受け付けられそうになくなった。
ゲップをどうにか堪えながら、私は母親達にロルトシートの目論みを伝える。
もちろん、皆一応に声を張り上げた。
「私たちはそんな事をしない」
「意味がわからない」
「信じられないわね、Mon chou」
ああ、最後のはもちろんダンケママ。
なんというか…想像通り彼女達は困惑してしまってはいる。
しかし…私の勘でしかないが…なんとなく、彼女達もそんな事態を頭の隅の方で考えていたようにも思えた。
いいや考えていたはずだ。
戦争はいずれ終わる。
そう遠くないうちに。
なら、彼女達はその後何をするべきだろうか?
カノウセイは、既に幾つか示されている。
誰かが彼女達を奴隷のように扱う。
冷戦では国家の"駒"として扱われ、強引な手段で量産を試みられる。
ある集団に丸め込まれて犯罪に加担させられ、間違った正義感に身を任せられる。
どれも、KANSEN達にとって良い結末とは思えない。
彼女達の困惑具合も当然のものだろう。
だが今は火急の用件がある。
ビス叔母さんと話さねばならない。
私としては『セントルイス級分離シーケンス』を発動して欲しすぎるほど発動して欲しかったのだが、しかしルイスママは許さない。
例によって私をギュムっと抱き抱えたまま、微動だにしようとしないのだ。
あのね、ルイスママ?
これからビス叔母さんと話すのに、ピッピには是非ご協力いただきたく…
「いや!ミニは私のミニ・ルーなの!離れない!絶対に離れないからっ!」
「ルイス!?いくら親権があなたにあったとしてももうそろそろ坊やを渡してくれても良いんじゃないかしら!?…私、坊やのあやし不足で幻覚や幻聴が…」
私は薬物か何かなのか。
「……仕方ないわね…はい、どうぞ。」
「ああ!坊や!坊や坊や坊や!坊や?坊や坊や坊や!」
はいはいはい、ありがとうピッピ。
ありがとうだから少しばかり腕を緩めようね〜。
君達ひょっとして私を圧死させようとしてるのかい?
私を圧死させる競技会とかあるのかい?
アレか?
イン●タか?
バズるのか?バズるのか私の圧死が?
私の圧死がイン●タ映えでもするのかな?
ちょっとやめて欲しいかな〜。
「さて!坊やの準備も良いことだし、姉さんと話に行きましょう!」
ビス叔母さんは自身の執務室…とは言っても、元は私が予備の部屋としてほったらかしにしていた会議室…でラインハルトを抱き抱えたまま、物思いに耽っていたようだった。
入室した私とピッピには目もくれず、ずっと窓の外を見ている。
まるで私が来るのを知っていたかのような…
恥ずかしながら、そんなビス叔母さんの様子を見て、やっと私も気付く。
"きっと、彼女は最初から分かっていた"
ロルトシートの目的も、連中にMI5が協力していたことも、そして自身が人類から『恐れられている』ことも。
恐らく、今回の件のほぼ全てを見通していた。
そして見通した上で、今回の闘争を繰り広げていたにちがいない。
…どうやら私の予想は、果たして正しいものだった。
「………全てを聞いたのね、ロブ君。」
…はい、叔母さん
「そう………」
叔母さん、ロルトシートとMI5の憂いは決して正確とはッ
「ラインハルトから"結末"を聞いたことがある」
ビス叔母さんは私の話を遮って、胸元に挟まって寝ているラインハルトの頭を優しく撫でながらも、まだ外の方を向いている。
「ラインハルト…それに、ロブ君。あなたの世界では…鉄血は戦争に負ける。私達はそれまでに"死んで"いるか、生き残っても標的艦にされたりする。」
………
「でも勝った側…アズールレーンのKANSEN達も決して…必ずしも幸せになったわけじゃない。ユニオンと北方連合の冷戦は、あなたの世界でも起こったことでしょう?」
ええ、そうです。
「…戦争が終われば"兵隊"は用済みよ。真っ先に捨てられる。ねえ、ロブ君?あなたも見てきたはず。」
嫌と言うほど見てきました。
「だから、私も怖くなってきた。ひょっとしてセイレーンとの戦いが終われば、私達は人類から見捨てられるんじゃないかって。」
或いは私のいた世界線のように…
「永遠に戦い続けるか。…ロブ君、本当はこんなこと言いたくないんだけど、
だから、叔母さんは"保険"を欲した。
「その通り。クラップを買収し、油田を確保できれば最低限の物資は管理下における。」
叔母さんの狙いはロルトシートとの競合やプーシロフの支援なんかじゃなかった。
本当の狙いは…KANSENを人類と"対等な"存在とすること。
「…残念だけど、KANSENを単なる兵器として見ている人間もあまりに多い。私は保険が欲しいの。彼らが私達を裏切らないようにするための保険が。」
「姉さん、何故相談してくれなかったの?妹である私に、何か話しておいてくれても良かったじゃない!」
「ごめんなさい、ティルピッツ。あなたを巻き込みたくはなかったの。"コレ"をやれば、きっと私は人類から、悪魔のような扱いをされる。」
「そんな…」
「本当に残念だけど、そうなの。……ねえ、ロブ君。あなたならきっと私を止めようとすると思っていた。…私も…本当はこんな事をしたくはないけど………」
ビス叔母さんは長い沈黙の後、素早い動きで振り返る。
両手にはMP34短機関銃が握られていて、銃口はしっかりとこちらへと向いていた。
気づけば旧ラインハルト鎮守府のKANSEN達が私達を取り囲み、MP34をこちらへ向けて構えている。
「姉さん!?」
ビス叔母さん!?
「ごめんなさい、ティル、ロブ君。だけど、私はここで止まるわけにはいかない。あなたが邪魔だてをすると言うのなら…残念だけど、あなたには倒れてもらうしかないわ。」