気づくと私はMPに付き添われ、法廷に向けて歩みを進めている。
弁護側に座っているのはビス叔母さん。
でも彼女は手元のラインハルトをあやすのに夢中で、裁判に集中しているとは言い難い。
反対の検察側には、見慣れた連中が座っている。
ウィンスロップ、レクタスキー、それにウィルソン中将。
彼らは私に咎めるような目を向けて押し黙り、私に同情の余地すら与える気はないという意思表示を繰り返していた。
正面の裁判官席を見ると、私の形勢がどれだけ不利なのか改めて見せつけられる。
私の正面にいるのはフォースター。
あの偽善者。
そして、その傍らにはカーリューが。
裁判官は芝居がかった動作で判決文を読み上げる。
"被告人は何万人もの無辜な市民を殺害した上、反省の態度も見受けられない"
私の悪辣さと非道さをただただ非難しているだけに見えるような文面を読み上げ、有罪判決を下す。
彼が判決を下すと、傍聴席からピッピとベルが飛び出てきた。
"こんな裁判間違っている""姉さん!何故弁護しなかったの!?"
MPが割って入り、射殺されるピッピとベル。
私は激昂するが、別のMPに取り押さえられ、地面に顔面を叩きつけられた。
取り押さえられた私の視界に映るのは、いつかのゲス中将。
"安心したまえ、君のセントルイスとザラは私が預かる…責任をもってな"
"いや!いやよ!助けて!ミニ・ルー!"
"ピッコリーノ!!"
やがて、MPが乱暴に激昂する私を立たせて、180°向きを変えさせ、刑務所へ送るために歩かせ始める。
その正面にはダンケがいる。
裁判所の入り口で、首を吊り、変わり果てた姿になったダンケが……………
…………………………………
「そう……怖い夢ね…」
ルイスは私の悪夢を聞き終わると、そっと目を閉じて、もはや半泣きの私を、その大きな大きな母性に迎え入れる。
母親が往々にしてそうやるように、抱き抱えた頭の後頭部を優しく優しく撫でながら。
「でも、やっぱり夢は夢…」
ルイスママぁ、私は怖いんだ!
どいつもこいつもママ達の事を恐れてる!
今までママに守られてきた癖して!
その恩を踏みにじり、ママ達を排除する事しか考えてない!
「ミニ・ルー…」
あの夢だって、きっとただの夢じゃない!
ある種の予言なんだ!
このまま手を拱いてたら、あのクソ共はきっとママ達の始末にかかる!
やられる前にやらないと!!
ルイスママは泣きながら怒鳴り散らす私を、相変わらず抱き抱え、今度は背中をさすってくれる。
そのおかげで、私はどうにか落ち着きを取り戻す。
息を整え、その度に流れ込んでくる香りに安心感を得て、心に安息がもたらされていた。
「少し…何か食べましょう」
「ままぁ!あいすくりーむをもってきたよ!…あれ?しきかんくん、ないてるの?」
「ありがとう、ルイスちゃん。ミニの事はママに任せて?」
「………うん!わかったぁ!」
気づけば、私とルイスママの周りに、ルイスちゃんやらリトルヘレナちゃんやらヘレナちゃんやらホノルルがいる。
ん?
待って?
あなた方私とルイスママの精神世界にどうやって介入してきたわけ?
「うふふ♪安心して、ミニ♪彼女たちはル族だから♪」
うん、ごめん、ルイスママ。
全く安心できない。
ル族が何なのか分からないし、そのよく分からない理由で精神世界のリンク機能について説明したみたいな流れにしないでもらっていいですか?
大混乱。
わかります?
私の頭が大混乱。
「さあ、ミニ・ルー。そこに座って。まずはママのお菓子で心を落ち着けましょう?」
ルイスママは私を抱き抱えたまま起き上がり、すぐそばに広げられたピクニック用のビニールシートの上に移動させる。
そのシートの上にはテーブルが置かれていて、既にルイスちゃんとリトルヘレナちゃんがアイスクリームを頬張っていた。
彼女達にはそれぞれホノルルとヘレナちゃんが付き添い、アイスクリームを食べさせている。
PTAか何かのイベントでしょうか?
「はい、あ〜ん♡ミニの分よ♪」
ルイスママがたっぷりの笑顔と共に、乳脂肪分たっぷりのバニラアイスを一口スプーンに乗せて差し出してくれる。
私はルイスのご好意を受け取り、アイスクリームに食いついた。
ヒンヤリとして、甘くて、優しくて。
溢れる涙はまだ止まらぬまま、だが、私はそれをよく味わって食べる。
「美味しい?」
うん、とても美味しい…
「良かった♪」
ルイスママは引き続き、美味しい美味しいラッキーアイスを食べさせてくれる。
その甘くて優しいアイスクリームを食べているうちに、私は段々と落ち着きを取り戻してきた。
ゆっくりと、ゆっくりと。
「ミニ、あなたは本当に優しい子。ママとしてあなたを守らなきゃって思っていたのに、いつの間にかあなたが私達を守ってくれようとしてたのね。」
アイスクリームを食べ終わったあと、ルイスママが再び私にハグをしながらそう言った。
やっぱりルイスママは暖かくて、良い匂いで、優しくて…
こんな"ママ"と一緒にいられる事が、本当に幸せに感じられる。
「ミニも私達と一緒に居たかったのね。…言うまでもないけれど、私達もミニと一緒に居たい。ずうっとずうっと…いつか死が私達とミニを別つまで。」
うん、ママと一緒に居たい。
ずっと、ママにこうしていたい。
「うんうん…とても嬉しいわ、ミニ。でもね…私達が一緒に居たいのはあなたなの、ミニ。」
ルイスが私を抱く力を、グッと強める。
彼女の香りと暖かさが先程よりも強く感じられ、その思いの丈を伝えていた。
「そう、あなたよ。私達が一緒に居たいのは、
で、でも!
時には手段に拘らず、目的のために…
「ううん。まだ分からないの?あなたは
………そうか。
うん、そうだ。
ごめん、ルイスママ。
目標を見失ってたよ…
「うふふ♪分かってくれて嬉しいわ♪」
「はぁ…こう言うのも何だけど、指揮官の
え?どったのホノルルたん?
「………フォースター鎮守府での民間人銃撃事件…命令を下したのは私なの。」
ooops…………マジかよ。
てかホノルルたんコッチの鎮守府来る前に問題があったって聞いてたけど…それってソレのことかい。
「フォースターの上司のゲス中将は、彼の妻であるカーリューを欲していた。…まあ、カーリューの奴が"慈善事業"の資金を不正に上乗せする為に、あのゲスに身体を売ったのが始まりよ。」
んーーーあんまり聞きたくなかったなソレ。
「ゲスはいよいよカーリューを気に入って、フォースターがボロを出すのを手ぐすね引いて待ってたわけ。なのにあの男、そうとも気づかずにゲスの命令を無視しようとした。」
「だからあなたが引金を引かせたのね、ホノルル。あなたは大佐と彼女を守ろうとしたけど、結果は真逆になった。」
「そうよ、ルイス。
…………うん、分かった。
ありがとうホノルル。
「…さて!暗い話はここまでにして、ミニには私のスーパーラッキーゼリーを…」
『おぶっ、ゔええっ、おぶええっ!』
え、何この天の声的なサムシング。
天の声にしては品がなさ過ぎないかい?
てかこれルイスママの声だよね?
「あ〜…残念ねぇ。産気づいちゃったみたい。ここまでのようね。」
あのねルイスママン。
そんな「お別れの時は近い」みたいな感覚で「出生の時は近い」みたいなこと言わないでもらえますか?
てかね、こういう時に限界を伝える時ははもうちょっと浪漫というものをね、持ってもらいたいんです。
よくあるファンタジーモノとかだとさ、こういう…異次元から元の世界に帰らないといけない時間って鐘の音とか女神の囁きとかでお知らせされると思うんだけどさ。
どこの世界に産気づきでお別れの時告げる異次元がありますか?
「安心して、ミニ。ここから出たら、またル・イ・ス・マ・ッ・マ♡がたっぷりあやしてあげるからね?…ホノルルもありがとう。」
「別に!これくらいならやってあげるわよ」
「…それじゃあ、ミニ?戻りましょうね?」
…………………………………
「ダンケルク!ヴェスタルはまだ来ないの!?」
「まだ時間がかかるって!」
「セントルイス、僭越ながらこのベルファストが応援させていただきます!…ひぃ、ひぃ、ふぅ!」
「どうか無事に生まれてきて、ピッコリーノ!」
「ちょっ、アンタ達どきなさい!セントルイスとこの子が死・ぬ・わ・よ?」
下半身にシーツか何かをかけられ、汗をダラダラかきながら踏ん張るルイスママを、他のマッマ達が囲んでいる。
残念ながら、私はそこから出てこない。
あの不思議な精神世界から戻ったとき、私の身体もおっちゃんサイズに戻っていて、尚且つルイスママのいるベッドの隣のベッドに仰向けになっていた。
どうやってここに来たのか思い出せないし思い出したくもない。
ただただ呆然と天井を見つめ、本当に心の底から暖められたけれども決して思い出したくはないという矛盾した感想を抱いている。
抱きながら、隣でルイスママを囲んでバタバタしてるマッマ達の声を聞いている。
「ウッ、ウゥッ!」
「あぁ!坊やの頭が見えたわよ!頑張って、セントルイス!」
「chouもあと一息よ!頑張って!」
「ひぃ!ひぃ!ふぅ!」
「もう少し!もう少しよ!」
私の頭はそこにはないぞ、ピッピママ。
大丈夫かお前ら。
あなた方がルイスママの
何なんだ?
何を待ってるんだお前らは。
深淵か?
ルイスママの
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのか???
しばらくすると、白衣のヴェスタルさんが入ってきて、勝手に騒いでいるマッマ達を家畜か何かを見るような目で見つめる。
「…あぁ!ヴェスタル!セントルイスと坊やが大変なの!」
「………」
「坊やは無事に産まれるの!?ねえ、答えてヴェスタル!?」
「………」
ヴェスタルさんは感情の篭らない、ロアナプラな目をしたまま私の方を指差す。
ママ達は…当の当事者であるルイスママも含めて…キョトンとした顔つきでお互い目を合わせる。
そして私の方を見る…お互いの目を合わせる…私の方を見る…キョトンとした顔つきでお互い目を合わせる。
そうして何回か繰り返した後、ついに私に飛び交ったのだった。