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お願いです、アナタ…どうか答えてください。
仲間に裏切られた時、"ヒト"は一体何を信じるのですか?
アナタの存在と成し遂げてきた事が、卑劣な連中の嘘と偽りで埋め尽くされたとしたら。
私はきっと死にます…それも、とても惨めな死に方をする。
アナタのいない今、私を突き動かしているのは復讐への執念だけ。
か弱き者を救おうとしたアナタを葬り、アナタが命を捧げた存在を消し去った者ども。
決して赦すものですか!
ビスマルク、ラインハルト、セントルイスファミリア…奴らに死を!!
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旧ウィルソン鎮守府の警備担当、マグレイヴン少佐は車を海賊の一味に破壊され、自宅から出るに出れなくなっている。
いや、言い直そう。
実を言うと、少佐のロールス・ロイスに爆弾を仕掛けたのは我らがジェイムズ・ポンド君である。
だが報道では海賊のせいになっているし、当の本人達以外は誰一人疑っちゃいない。
ついで、私の鎮守府では車爆弾による爆破テロが起きた。
これも海賊のせいになっているが、実は鎮守府守備隊による自作自演である。
だが報道では海賊のせいになっているし、当の本人達以外は誰一人疑っちゃいない。
さらに、旧ウィルソン鎮守府にほど近い場所で、武器と覆面を積んだ黒いバンがロイヤル警察に見つかった。
海賊のバンとされているが、実際はダンケママが用意したものである。
だが報道では(ry
ともかく、我々の準備は着々と進み、ここまでの唯一のイレギュラーといえば海賊のカミカゼ・アタックのみ。
あとは"貨物"を無事に鉄血艦隊に引き渡すだけで、この計画は完了する。
その為にも私は、これから出航する貨物船の操舵室にいて、(ピッピ、ルイス、ベル、ダンケのママママしい抱擁を受けながら)統合参謀本部議長と電話をしていた。
『……なるほど、つまり海賊の狙いはそこの資材なんだな?』
少なくとも、私はそう見ています。
ウィルソン中将の暗殺といい、私へのカミカゼ攻撃といい、連中、きっとここの設備の何かを狙っている。
『……この回線は安全かな?』
私が安全ではない回線を使った事が?
『…いや、それなら安心だ。…ウィルソン中将の鎮守府で行われていた研究の内容を…知っているか?』
いいえ(真っ赤なウソ)
『中将の指揮していた研究、それは…はぁ……核兵器開発だ』
核兵器開発!?(棒)
『そうだ。我がロイヤルはユニオンと北連、そして我々より開発を進める鉄血公国の脅威に対抗する為、必然的に核開発の必要性に迫られた。既にユニオンと北連は核兵器を保有している…鉄血公国にまで遅れをとるわけにはいかないんだ。』
………そんな重大な大役とは知らず…お恥ずかしい(棒)
ですがお任せください!(棒)
必ずやこの研究を守ってみせます!(棒)
『そうだな…任せられる奴は君しかいない。くれぐれもよろしく頼む!』
私は統合参謀本部議長との電話を切り上げて、受話器を置いた。
そう、核兵器。
これが私の狙いだった。
確かに安直に感じるかもしれない。
"核兵器?
そんなモノ持ってどうするんだ?
使う機会なんてないだろう?
どうせ持ってるだけで、金食い虫になるだけだ。
これだからミリヲタは…"
第一、統合参謀本部議長の言う通り、鉄血公国の核兵器開発はロイヤルのそれより進んでいるのだ。
しかしながら、私がウィルソン中将を殺害してまで手に入れたかったモノ…それは、鉄血公国、ひいてはビス叔母さんが核兵器を手にする上で必要不可欠なモノだった。
もしかすると、お気づきの方もいるかもしれない。
それは……『重水』だ。
原子炉の減速材としての使用に適する重水は、鉄血公国が核兵器を完成する為に必要不可欠なモノだった。
だが、ロイヤルは鉄血公国の核開発を見越して、鉄血の核兵器開発に必要不可欠な重水を世界で唯一の工場から買い占めた。
鉄血公国は重水の使用を前提とした核開発を行っていたため、彼らの核兵器開発は頓挫していたのだ。
ロイヤル政府が買い占めた重水はサー・イーサン・ウィルソン中将の鎮守府へと運ばれて、そこでロイヤルの核開発に使用されていた。
ユニオンと北連はそれぞれ独自に重水とは異なる減速材を用いた実験・核兵器開発に成功していたが、ロイヤルはユニオンからの技術供給を断られたため、独自に重水炉の研究を行ったのである。
重水と、ウィルソン鎮守府で極秘裏に進められてきた核開発データ。
私はこの2つをビス叔母さんに引き渡すつもりだった。
別に核兵器をアホのように量産する必要はない。
『
鉄血公国は大喜びで核兵器を開発するだろう。
だが、まずは重水の供給者たるビス叔母さんが小型核を開発させる。
重水炉なら核兵器の製造に必要なプルトニウムの生産効率が良く、燃料も価格の安価な天然ウランを使用できる。
ビス叔母さんなら、鉄血公国政府にその程度の要求を付ける事は容易だろうし、鉄血政府もそれしきの出費の為に、喉から手が出るほど欲する重水を入手する機会をみすみす逃すはずはない。
彼女は、核兵器を使用できる存在となり、それはKANSENが人類を脅す為の有力な材料になる筈だ。
人類の制御を受けない核兵器の存在は、きっと実際の威力以上の抑止力となるだろう。
無論、私は売国奴以外の何者でもないし、ビス叔母さんはきっと人類から"悪魔"のように語られるようになる。
それでもビス叔母さんと私は合意した。
人類がKANSENを脅かす可能性のある限り、KANSENも人類を脅かす可能性を示唆しなければならない。
そしてそれは、きっとピッピやルイスやダンケやベル、それにザラ、ポーラ、アヴ、チャパ、プリンツェフといった、私の愛しいマッマ達を守る事にも繋がることだろう。
ならばやらなければならない。
選択肢はないのだ。
「…坊や、本当にやるのね?」
勿論。
「ミニ…引くなら今のうちよ?」
引かない。
「ご主人様…」
「chou…」
………マッマ…
心配してくれてありがとう。
でも、前にも言った通り、今度は私がマッマ達を守りたいんだ。
故に、私はもう引かない。
この作戦が原因で、全世界を敵に回したとしても。
「坊やの言いたいことは分かったわ。Danke sehr、坊や。」
「どこまでも素敵な私のミニ・ルー♪」
「…主人の願いの実現に努めるのは、メイドとしての責務です。」
「大丈夫、私達が最後まで一緒にいてあげるわ」
ありがとう、ありがとう、マッマ達。
では、出航するとしよう。
願わくば、神の御加護があらんことを。
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「セントルイスファミリアは直衛の4名と共に貨物船に乗っている。航路は送った海図の通りだ。もう間も無く出発するだろう。」
『…………』
「言うまでもないが、失敗は許されない。確実に奴を仕留めてくれ。」
『…言われなくとも、承知しております。主人の仇、逃すモノですか』
「………フォースターは良い奴だった。今週はいい奴を失い過ぎたよ」
ガチャッ、ツーツー
一方的に電話を切られ、男はため息混じりに受話器を置く。
彼にとって、頼みの綱はあの"狂犬"しかいない。
願わくばカーリューが、セントルイスファミリアを貨物船ごとドーヴァー海峡に沈めてくれるのを待つしかないのだ。
先程言った言葉は世辞でも何でもない。
フォースターは本当に良い奴だった。
彼も、フォースターも、共に
ただ、彼は今その絆を、自らの目的の為に利用している。
その事が自分でも本当に腹立たしかったし、今すぐにでも自分で自分を打ちのめしたかった。
だが、セントルイスファミリアを止める為にはそうするしかない。
MI5とロルトシートは匙を投げ、首相はまるで役に立たず、海軍もまるで動こうとしない今、彼が打てる最善策は、親友の妻の復讐心を利用する事だったのだ。
セントルイスファミリアの計画に感づいたのは、カーリューとのやり取りの直前に行った電話を通じて、ではない。
ウィルソンが暗殺され、海賊の所業とされるテロ事件が相次いだからだ。
何故彼が真相を知ったのか?
理由は簡単で、彼はカーリューと密接に連絡を取っていたからだ。
前々から、フォースターやカーリューの為に海軍の廃棄予定の武器を横流ししたり、情報を海賊に流してもいた。
決して情に動かされたわけではない。
彼はずっと前からビスマルクの野望に気付いていたからだ。
ビスマルクの野望をロイヤル内部で潰す為に、悪落ちした親友を通じて海賊を利用しようとした。
そして、今も利用している。
「悪く思わないでくれ、セントルイスファミリア。…これも祖国の為なんだ。」
統合参謀本部議長は椅子の背もたれに身を預け、少し俯き気味にそう呟いた。
セントルイスファミリアがやろうとしていることを理解できないわけではない。
ビスマルクの野望の発端も、人類側の愚かさが招いた事態だと言う事も承知している。
だが、それでも彼は止めねばならない。
あらゆる手を尽くして。
彼が守るべき、ロイヤル国民のために。
国民を守る軍人として、人類の愚かさを自覚しつつも、しかし、それでも守らなければならないのだ。
セントルイスファミリアはKANSENの側に立ってしまった。
故に、彼はかの男を排除しなければならないのだ。