バブールレーン   作:ペニーボイス

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永遠のテロ

 

 

 

 

 

 出港してからは、まるで問題もなかった。

 航海は極めて順調、放っておけばそのままハンブルクにでも着きそうである。

  なんせ我が第6艦隊"マンハッタン"(ホノルル、ヘレナ、フォルバン、ノーカロさん、ワシントン、メリーランド)と第3艦隊"オタカル"(シカゴ、シュロップシャー、カラビニエーレ、エンプラさん、グラツェン)が警護しているのだ。 

  第3艦隊所属のイラストリアスが、今日は珍しく病欠しているが、しかし艦隊はほぼ万全の状態である。

 だが油断は禁物。

 特に、ここに至るまでの経緯を見れば、安定している時こそ危ないのだとわかる。

 

 私は貨物船の操舵室から、周囲の状況確認を試みた。

 ……"試みた"という言葉が説明する通り、それにすら失敗したのであるが。

 

 

 まず、私は進路に向かって右側の大海原を確認しようとした。

 

 ぽよん♪

 

「まあピッコリーノ♪焦るのは分かるけど…もっと時と場合を考えるべきではなくて♪」

 

 

 右側からはサディア最高峰の高密度クッションの反発力と柑橘系の香しさをいただいたので、そちらは諦め、次に左側を向く。

 

 

 ぽよん♪

 

「ベリッシモ♪ベリッシモ♪…私達の可愛いベリッシモ♪そんなに待ち切れないなら、ポーラとザラの2人であやしてあげるわね♪」

 

 

 左側からもサディア以下略な高反発性とラベンダー系の香しさをいただいた。

 これではどこも確認できないので、諦めて正面に視線を戻す。

 

 

 ぽよん♪

 

「うふふふ♪私のミニ・ラッキー・ルー♪今日は積極的なのね♪…それにしても、2人とも?少しは自重しないと、ユニオンから弁護団呼んじゃうわよ?

 

「ひっ!」

 

「くそっ!」

 

 

 くそっ!って言いたいのはこっちだわ。

 あのさ、ルイスママン。

 人ん家の弁護団ポイポイ投げつける癖どうにかならない?

 ミッ●ーでしょ?

 ミッ●ーの事でしょ?

 次いでにミ●ーちゃんとか●ーフィーとか呼ぶ気なんでしょ?

 やめてもらえます?

 

 

 

 

 出港して以来こんな感じなので、私自身は全く持って警戒だとか指揮だとか、まるでこなせていない。

 ポーラはさも何事もなかったかのようにママってくるし、ザラはそれに便乗、ルイスは法的優位性を存分に振り回すのだから仕方ないじゃないの。

 この場で珍しいくらい冷静極まりないのはピッピ、ダンケ、ベルくらいで、いつの間にか乗船していたアヴとチャパ、それにプリンツェフも真面目に仕事をしてくれるからありがたい。

 おかげで私が状況把握や指揮をしなくとも全てが順調に進んでいく。

 進んではいくけども、お前らいい加減にローテーションで私をあやすのをやめろ。

 私にも仕事をさせろ。

「何も心配はいらないのよ、ミニ?」じゃねえんだよ。

 そういう問題じゃないの。

 何でもかんでもやりたいわけじゃないけど、何でもかんでも知ってはおきたいのよ。

 せめて状況把握はさせて?

 

(もうっ。しょうがないわね、ミニ・ルー。先遣のホノルル達に確認させたけど、航路はクリアよ。愛宕や高雄も何も発見していない…今のところはね。とりあえず、今はあやされてても大丈夫♪)

 

 はい。

 指摘事項2点、1点目、不必要にテレパシー使うな。

 2点目、何もないからってあやすな。

 あやし過ぎだお前ら。

 ちったぁあやす以外の事したら?

 

 

 とは言うものの、右側左側及び正面を確認する遥か前から、私はベルマッマのバッカデケエ双丘に後頭部埋めて絶賛リクライニング中なのである。

 何故そうなったかというと、割愛する。

 皆様なら分かってくれますよね?

 分かってください。

 分かれ。

 

 

 

 さて、そんなこんなで私達の乗る貨物船は…監視とあやしを9人ものマッマ達でローテーションしながらも…目的の海域へと近づいていた。

 もうそろそろ鉄血の艦隊も見えてくる頃かなぁ。

 

 ここまで色々とあり、ある時は悲観し、ある時はパニクり、ある時は疑心暗鬼のあまり暴走したりしたものの、ママ達のおかげでどうにかマストな結果を残せそうである。

 本当の本当にありがとう、マッマ達。

 これでマッマ達は無事にいられるし、私もずうっとマッマ達と一緒にいられる。

 ありがたや、まじありがたや、ありがたや。

 ありがたありがた、ママンありがた。

 

 

 クソみたいな川柳を思い浮かべた時、私をリクライニングしていたハズのベルマッマが突如立ち上がる。

 何か悪い予感でもしたのか、顔は真っ青で、あまりにも急激に立ち上がったため、私は前方のルイスママンのバッカデケエ双丘に思いっきり顔面ダイブすることになった。

 

 

「ちょっ!?ベル!?危ないじゃない!!一体どうしたっていう…」

 

「………来ます!!」

 

 へっ?

 

「彼女が…カーリューが来ます!

 

 いやね、ベルマッマ。

 ベルマッマ優秀なのは分かるけど、幾らなんでもそりゃあ

 

「坊や!右舷より超高速の敵艦が接近!」

 

「了解、ホノルル達に迎撃させて!」

 

 

 ルイスママがついに私から指揮権さえも奪い取りやがった

 だが、実際に砲撃音が船の外から聞こえてくるとなると、そんな事にも構っていられない。

 だから私は、状況確認がより容易なように、ルイスママンのバカデケエ以下略に、どうにか頭を乗り上げる。

 確かに…まだ遥か遠方で本体は豆粒のようにしか見えないが…一本の派手な白い航跡と、そこへ撃ち込まれる無数の砲弾が見えた。

 無数の砲弾を放っているのはホノルル達で、やがてホノルルの焦り切った声が無線で伝えられる。

 

 

『ルイス!カーリューよ!…命中弾を多数与えてるハズだけど、なりふり構わず突っ込んでくる!勢いは落ちないわ!貨物船の待避を!』

 

「分かったわ、ホノルル。敵はカーリューだけとは限らないから十分に注意して!」

 

『姉さん!カーリューとは別の方向に別の艦影を確認!…あれは』

 

 

 ヘレナちゃんの焦りを含んだ声が、ホノルルに続いて無線で聞こえた時、特徴的な滑空音を耳にした。

 滑空音は次第に大きくなっていき、遂には貨物船の舷側に着弾する。

 幸いな事に直撃弾はなかったものの、複数の砲弾は貨物船を大きく揺らして、私とマッマ達に衝撃を与えた。

 

 

「ミニ、大丈夫!?」

 

「くっ!私の坊やを襲うなんて…目にもの見せてやるわ!!」

 

「落ち着いて、ティルピッツ!この貨物船の周囲には"マンハッタン"と"オタカル"が配備されているわ!chouに辿り着けるわけないじゃない!」

 

「だとしても、確かに遠距離砲撃は厄介です!ご主人様、ビスマルクに打電します!」

 

 ああ、そうしてくれ!

 砲弾の威力からして、恐らく敵は戦艦も連れている!

 スナイピングされれば危ないぞ!

 

 

 やはり、異常事態がないわけがなかったのだ。

 私はベルマッマに頼んで、ビス叔母さんへの連絡をつけてもらう。

 叔母さんのことだ、すぐに救援を送ってくれることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄血公国

 ベルリン

 

 

 

 

 

「ブロを助けないと!」

 

「………」

 

「何とか言ってよ、ビスマッマ!!」

 

 

 セントルイスファミリアの叔母、ビスマルクは彼女の甥からの緊急メッセージにしっかりと目を通していた。

 だが、彼女は動こうとしない。

 胸に息子をしっかりと抱き抱えたまま、その頭を撫でてばかりだ。

 ラインハルトは訳が分からなかった。

 従兄弟の運んでくる重水が手に入れば、鉄血公国は世界で3番目の核保有国になる。

 それどころか、ビスマルクが長年欲していた"人類への抑止力"をも手中に収めることができるのだ。

 

 それでも、ビスマルクが呆けたように、ラインハルトの頭を撫で回すばかりだった。

 

 

「ビスマッマ!?ビスマッマ!?」

 

「………ごめんなさい、ラインハルト」

 

「…ビスマッマ?」

 

「"啓示"が……"啓示"が下ったの。()()()()()()()()()()()()()()()。諦めるしかないわ。」

 

「どうしたんだよ、ビスマッマ…ママらしくもない」

 

「………ねえ、ラインハルト?」

 

「?」

 

「もし世界が変わっても…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 

 正直、ラインハルトにとっては何が何やらだった。

 だが、ビスマルクの母性に満ちた…しかし悲観と諦めを存分に含んだ顔を見て、何となく察することはできる。

 きっと、本当にビスマルクにはどうにもならない事なのだろう。

 

 だから、ラインハルトは自身のできるベストを尽くす事にした。

 

 

「………うん、もちろんだよ、ビスマッマ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロイヤル北部

 海賊拠点

 

 

 

 

 

 ユニコーンはカーリューから面と向かって言われたことがショックで、まだ港から動く気にはなれないでいる。

 

 

『足手纏いです!!』

 

 

 今まで慕っていた、あんなに優しい存在が、まるで今まで本当は疎んじていたかのような表情と怒気を含んだ声でそう言ったのだから、彼女の心境はしょうがないものだろう。

 そんな彼女の様子を見たユスティアは、もう同じ手を使う事を諦めざるを得なかった。

 

 

「ユニコーンちゃん、落ち込むことはありません。」

 

「でも、カーリューお姉ちゃん、ユニコーンのことを……役立たずだって…」

 

「いえ!そんな事はありません!…カーリューさんは…その…きっと色々と取り乱しているだけです。」

 

「………」

 

「ともかく、今ユニコーンちゃんにできる最善のことは…指示された地点に行くことではないでしょうか?」

 

「………分かった…」

 

 

 ユニコーンは力なく項垂れながらも、ようやく艤装を身につけて港を出て行った。

 ユスティアはその様子を見て、ようやく一安心できる。

 

 

 カーリューはきっと理性を失ったわけではなかったのだろう。

 自殺同然の特攻任務。

 ユニコーンまで巻き込みたくはなかったのだ。

 だが、普通に説得しても、ユニコーンはきっと着いてくる。

 だから、あえてキツい言葉で、思ってもない言葉を投げつけたに違いない。

 ユニコーンがカーリュー達の跡を追うのを諦めるように………

 

 

 

 ユスティアにとっては、そんな事はどうでもよかった。

 もうあのメイドも、あのクソガキもどうでもいい。

 前哨からロイヤル警察が迫っているという情報を得てからかなり経つ。

 一刻も早く脱出しなければ。

 

 その障害になりかねないユニコーンが、あと1分でも移動を渋っていたら、彼女は迷わずユニコーンを射殺するつもりだった。

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