バブールレーン   作:ペニーボイス

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またシリアスのつもりです。

あと、グロ表記はありませんが、死人が普通に出ますので苦手な方はご注意並びに回避推奨です。


ボーダーペイン

 

 

 

 

 

 

せっかくのユニオン農務省認定ステーキ肉に、私は自らの血のソースを掛けてしまったわけだが、そのレアステーキに手を付ける暇は勿論なく、気づけばピッピに半ば抱き抱えられる形でエレベーターへ向かっていた。

 

先頭を進むのはトンプソンを高く構えるベルファスト。

ガバメント2丁をまるでエージェント●7みたく掲げるセントルイスが続き、私を抱えるピッピママ、後衛はマシュ・キリ●ライトみたいな防弾盾を持ったダンケルクだ。

 

大きな防弾盾には既に4発分の弾痕がある。

私が左手に着いた自分の血を見つめている間に、狙撃手は次弾を撃ち続けていたのだ。

もしダンケルクの盾がなければ、眉間に2発貰った上に右目を失い、頬に大きな穴が開いていた事だろう。

 

 

私とマッマ達による警護チームは無事にエレベーターに到着し、一息をつく。

 

ダメだ、頭がクラクラするし、耳鳴りも。

視野も少し暗いような気がして、周りの音も若干聞き取りづらい。

 

 

都合よく包帯なぞあるわけがなく、私の左側頭部に当てられているのはピッピの下着だった。

いや、せめてハンカチにせえやと言いたかったがそんな余裕もない。

 

ただ、ピッピが恥をかなぐり捨てて当ててくれたその下着も既に重くなっている。

理由は明白、血が止まってないのだ。

 

 

 

「坊やの出血が止まらない!ルイス!髪バンドを!」

 

ピッピがセントルイスから髪バンドを調達して、下着をハンカチに替えてからキツく縛った。

頭が締め付けられるが贅沢は言えない。

ただ、恐らくはそのハンカチさえ既に赤いシミを浮き上がらせている事だろう。

 

 

「Mon chou!しっかりして!出血は…良くなっているけど、止まり切ってはない!ベルファスト、警察と消防に連絡は!?」

 

「無論です!しかし交通渋滞で到着に時間がかかると!」

 

「銃声と発射速度からして、スナイパーの銃は7mmモーゼルのモンドラゴンだと思うわ。警察じゃ太刀打ち出来ないし、私達の鎮守府に戻った方がいいわね。」

 

 

ピッピは得られた情報から既につぎの行動まで判断していた。

もう、本当にこの娘達が居てくれて良かった。

1人でゴルフなんか行ってたら、今頃は確実に天に召されてるよ。

 

 

 

エレベーターは駐車場のある地下一階に到達、ベルファストが前衛をしつつダンケルクとピッピが私をメルセデスの後部座席に押し込む。

 

私が載ったことを確認すると、ベルファストは車のエンジンをかける前にバッテリーだけ入れてハンドルに付いているボタンをいくつか押した。

 

『周辺10m以内に爆発物の危険なし』

 

スピーカーから音声が聞こえて初めて、ベルファストはキーを回転させる。

力強い鉄血製エンジンが唸り、車は発車体制に入った。

 

 

「よお、お姉ちゃん達!俺らと一緒にデートでもしねえかぁ〜?」

 

右前方からチャラ男2人組が近づいて来るのが見えた。

メルセデスのサイドウィンドウはスモークガラスだったから、こちらの状況が良く分からないのかもしれない。

 

だが、セントルイスは唐突に狙いをつけて2人組を撃ち殺す。

 

何しとんねん!?

 

 

セントルイスが暴挙に出た理由はすぐに分かった。

2人組の内1人が45口径弾を食らったと同時に、隠し持っていたサブマシンガンを連射しつつ倒れたのだ。

 

運良く弾丸は明後日の方向へ向かったが、セントルイスの判断がなければサブマシンガンの餌食になっていたかもしれない。

 

よく分かったね、セントルイス。

 

 

「アイツらは"お姉ちゃん達"と言ってた。こちらの状況がわからずに近づいて来ただけなら、アイツらから見えてたのは私だけのハズ。運だけじゃないのよ?」

 

「さすが、セントルイス。それはともかく、ご主人様はどうか安静にしていてください。

その傷では命に関わりかねません。」

 

 

ベルファストに忠告されて、私は黙ることにしたが、直後にダンケルクが持つ携帯電話が着信音の『レクイエム』を流し始める。

 

ベルディの代表的なオペラを着信音にしているのは私で、もうしばらく黙ることは出来なさそうだ。

 

 

「発信者不明…ティルピッツ 、逆探知を。」

 

ダンケルクが私に携帯電話を渡す間に、ピッピがタバコ箱サイズの黒い装置を取り出した。

逆探知装置ってそんなコンパクトにまとまるもんなの?

つーかなんで持ち歩いてんの?

 

 

何はともあれ、ダンケルクがピッピに逆探知を要請し、電話を直接私に渡すのは、発信者が攻撃を仕掛けて来た本人だと予測して来たからだろう。

できる限り会話を引き延ばすのが私の役割というわけだ。

 

 

携帯電話を受け取って、走り出すメルセデスの後部座席からテロリストとコミュニケーションを取ろうと試みる事にする。

 

発信者の声は聞き覚えのあるものだった。

 

 

 

 

「やるじゃないか、マッコールさん。駐車場の手下が随分お世話になったようですね。」

 

奴だ!!

これは奴の声だ!!

 

赤城と高雄をこき使い、私の艦隊への誤射事件の原因を作った張本人。

 

あの"アホタレ"だ!!

 

 

やあ、クソッタレ。

ここまでクズな野郎だとは思ってなかったが………自分が何をしてるのか分かってるのかな?

 

「意外でした?でも僕はちゃんと言ったじゃないですか。近いうちにご挨拶に伺います、と。」

 

実際はもう少し荒っぽい言葉だったがね。

 

「そうでしたっけ、あははは。それはそうと、情けない人ですね。周りのKANSENがいなきゃ、あなた確実に…大変なことになっていた。」

 

何が言いたい?

 

「あなたのような人間は、海軍に求められていないんです。参謀本部は優しいから目を瞑ってくれている。でもそんな事ばかりじゃ、世の中が良くなりませんよね?だから僕が直接働きかける事にしたんです。」

 

働きかけるだと?

これが君のアプローチか?

食事中の相手を狙い撃ち、駐車場でサブマシンガンを持った男達に襲わせる、このやり方が君の世直しという訳か?

ふざけるのも大概にしろ!!

 

「狙い撃ち?サブマシンガン?何の事ですかあ〜?僕はある人にあなたを"説得してください"と頼んで、部下2人には"接待"するように命じただけなんですよお。あー、頼んだ相手が悪かったかもしれないなあ。気に触ったのなら謝罪します。」

 

テメエッ

 

「あぁ、それと、僕の行きつけのクラブの従業員にも接待を頼みました。サプライズが得意なんですよ。今度こそ満足してもらえると思います。…逆探知完了まではあと10秒ですね。それじゃ良い一日を。」

 

 

 

電話は切れた。

ピッピの方に目を向けると、静かに首を振っていた。

 

「録音はバッチリよ、Mon chou。でもこれでMPが動くかは微妙よ。残念だけど、相手は犯行を匂わせるだけで実行は宣言していない。捜査しても形式だけの捜査で止まる可能性も高いわ。」

 

「あのクソ野郎、舐め腐りやがって!!海軍の指揮官不足を利用して私の坊やを攻撃するなんて許される事じゃない!!私がこの手でミンチにして」

 

 

やめてピッピママ。

海軍の規則だと、KANSENによる指揮官の殺害・意図的な傷害は重罪に当たる。

あのアホタレを殺したところで、ピッピは良くて銃殺、悪くて解体されるだろう。

あんなクソ野郎の為に、ピッピがそんな憂き目に遭うのは割に合わない。

 

手は後で考えよう。

今はクラブの従業員によるサプライズを切り抜けて鎮守府に帰ることが先決だ。

 

 

 

 

走るメルセデスは、既に幹線道路へと出ていた。

セントルイスの言うには、鎮守府への近道に出るにはこの幹線道路をあと10kmばかし進むしかないようだ。

 

何か嫌な予感が、さっきから頭の中でチラついて仕方がない。

幹線道路は開けていて、車の台数も多かった。

それに、徐々に車の流れも詰まって来てる気がする。

 

 

予感的中。

どうやら前方で事故でもあったらしく、我々のメルセデスはやがて渋滞に巻き込まれた。

 

 

おおっと、良くない状況だぞ。

 

まるでヨハン・ヨ●ンソンのBGMが流れて来そうじゃないか。

あの、どうしようもなく不安煽ってくるスタイルの重厚な音楽が今にも聞こえて来そうだよ。

 

 

「クソッ!あと少しなのに!」

 

「落ち着いて、ベル。焦っても仕方ないわ。」

 

「Mon chou、大丈夫?苦しくない?」

 

「ああ、坊や、私の坊や、よしよし、可哀想に。」

 

ベルファストが極めて珍しく悪態をつき、セントルイスが諌め、ダンケルクが心配してくれ、ピッピママが豊満なお胸で私を包んでいてくれる間にも、私は車2台分左後ろにいる赤いセダンから目が離せなかった。

 

"従業員"の方々には申し訳ないが、こんなのサプライズでも何でもない。

 

私はこの映画をつい最近見たばかりだ。

 

 

ピッピが私の視線に感づいた。

 

「アハトゥンク!5時の方向!」

 

 

ピッピママは後部座席を少し引き倒し、そこからSTG44を取り出して構える。

ダンケルクも同じように突撃銃を取り出し、セントルイスはM1カービン、ベルファストはトンプソンを携える。

 

 

「坊や、銃を出しておいて。」

 

 

あの女性捜査官のように戸惑うような事はなかった。

間違いない、襲撃されると確信が持てたからだ。

私は今日買ってもらったばかりのPPKをホルスターから引き抜くと、スライドを引いて32口径ACPを装弾してから安全装置まで解除した。

 

PPKはダブルアクション機構の為、引金が重く、誤って引いてしまう可能性は低い。

 

 

「何か見えたら、すぐに報告して」

 

「銃!銃が見える!銃を確認!」

 

「了解、銃を確認!」

 

「5時の方向、銃よ!」

 

 

ピッピママの要請にダンケルクが答え、ダンケルクの情報は速やかに共有される。

 

気づけば上空には古めかしいドラッヘ・ヘリコプターまで舞っていた。

 

いつの間に上空援護まで呼んだのよ、完璧にシカ●オじゃん。

 

 

「制圧しましょう。」

 

「「「そうしましょう」」」

 

いつの間にかチェストリグまで装備したマッマ達が次々に車を降りて赤いセダンへ向かう。

 

そして赤いセダンからは刺青だらけのスキンヘッドが降りて来た。

何のクラブの従業員なのよ、一体。

 

 

「穏便に行きましょう、穏便に。」

 

ピッピママが話し掛けていたが、スキンヘッドは無視を決め込む。

そして、手を腰の後ろに回した瞬間、マッマ達は容赦のない射撃を食らわせた。

 

 

凄まじい光景だが、見惚れてはいられない。

 

私自身にも脅威は迫っているはずだ。

PPKを構えて、後ろを振り返る。

黒づくめのSWAT隊員みたいな戦闘員が、今まさに手に持つPPsHサブマシンガンの安全装置を解除しているところだった。

 

私は躊躇なく2発撃ち込んだ。

 

ビスマルクお姉さんのPPK凄すぎる。

何たって、PPKが勝手に動くんだよ。

照準補正装置ってレーザーサイト的なサムシングかと思ったら、銃自体が目標を追尾してくれてた。

 

おかげで不器用極まりない私でも、無事に身を守る事ができた。

ふぅ、マジでサンクス、ティルピッツ 。

 

 

「坊や!?坊や!?」

 

こっちでの銃声を聞きつけたのか、ピッピが大急ぎで戻ってくる。

突然の銃撃戦に逃げ惑う一般人達を押しのけて、こちらへ走って来た。

 

「怪我は?」

 

頭以外はない。

 

「良かった…ダンケ!ベル!ルイス!車に戻って!先を急ぐわよ!」

 

 

 

メルセデスは持ち主のいなくなった他の車を何台も強引に押し退けながら発進した。

 

揺れる後部座席で、私はピッピに抱えられて一種の安心感を得ていた。

 

もう、本当にダメだ。

思考が本当にまわらない。

 

 

やがて、鎮守府の正門が見えた時、限界を迎えた。

 

厳戒態勢の正門に並ぶMG-42やPAK40、積み上げられた土嚢の奥で銃を構えるヒヨコさん達、フル艤装のエンプラさんやイラストリアスやプリンツ・オイゲンを中心とするKANSEN達。

 

 

 

それらを見た瞬間、安心感による疲れからか不幸にも黒塗りの高級車で眠ってしまう。

後輩をかばいすべての責任を負った三●に対し、車の主・暴力団員谷●から示された示談の条件とは?

 

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