バブールレーン   作:ペニーボイス

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時計仕掛けの五歳児

 

 

 

 

チュンチュン、というスズメの鳴き声が聞こえて、私は意識を取り戻した。

ただ、起き上がる気にはまだなれない。

さえずるスズメの鳴き声を聞きながらも、まだ暖かいベッドの中にいたい気分だった。

 

パタパタとスズメの飛ぶ音が聞こえる。

 

飛び去ったか。

スズメも次の目的地があるのだろう。

自らの翼で、自らの意思で、自らの力で飛び去り、やがては安寧の地を見つけ、巣を作り、雛を育てるのだろう。

さあ、旅立ってこい。

新しい世界はきっと君達を歓迎してくれる。

 

 

 

チュンチュンチュンチュン

チュンチュンチュンチュン

 

いや、増えとるやないか〜い。

旅立ったんじゃなくて辿り着いたんか〜い。

 

チュンチュンチュンチュン

チュンチュンチュンチュン

チュンチュンチュンチュン

 

あー!!うるせえなぁ!!まったく!!

また増えたのかよ、いい加減にしろよ、ここはお前ら専用のアパートメントじゃねえんだよ!!

 

 

ある時、毛沢東は米を食べてしまうスズメにブチキレて中国国内のスズメを一掃するように命じたらしい。

結果、害虫のパラダイスと化した田んぼからは米が取れなくなってしまった。

 

あのチュンチュン野郎どもにも生態系上の重要な役割があるんだろうが、朝っぱらから人の部屋の窓際で鳴いて欲しくはない。

目覚ましがスズメの三重奏ってどういうことやねん。

さっきのロマン溢れる感傷を返せや。

 

 

何はともあれ起きる事にした。

 

目を開けて、周囲の様子を…伺えませんでした。

 

これは無理です。

包囲されてます。

 

まず、ピッピとダンケルクの上で寝てました。

文字通り、上に乗っかって寝てました。

 

重かったろ。ぜってえ重かったろ。

まあ、重っかったろうね。

私結構重いからね。

 

それに加えて掛け布団ならぬ掛けファストと掛けルイスしてんだからぜってえ重かったろ。

 

 

一体何なんだ、この状況は。

『朝チュン』って言う慣用句なら聞いたことあるけどさ。

 

それって彼女とかといい雰囲気になって、夜中酔い潰れたか何かした彼女を家まで送って、その後少々催してアンアンやってたらスズメの鳴き声で朝起きた時下着の彼女と全裸の俺的な感じの何かなんじゃないの?

 

今まで人生で彼女なんざ居た事もねえようなおっさんがスウェットのパジャマ着て、デパートで安売りしてるような見るからにオカンっぽいパジャマ着た自称マッマ達と寝てスズメの三重奏に起こされるような事ではないよね?

 

 

つーかね、今のところ、昨日昼飯食べるかって時に7mmモーゼル弾に側頭部抉られて命からがら逃げ出して無事鎮守府着いた一安心バタンキューな記憶しかないわけよ。

 

間違ってもこのマッマ達と催してアンアンする雰囲気なった記憶なんてないわけよ。

 

分かります?結構エマージェンシーだったんですよ?エマージェンシー乗り越えてその先にある光景がこれっておかしくないですか?

 

 

 

「…!坊や…!」

 

おっと、ピッピが目を覚ましたゾォ。

なんかもう、目を潤ませてるの可愛いなぁ。

やあ!ピッピ!昨日は守ってくれてありがとぶへぁっ!!

 

ピッピが凄まじい力で私を抱きしめにかかる。

その破壊力抜群の双丘に頭を挟まれて、いつものように呼吸困難に陥った。

 

 

「目を覚ましたのね!あぁ、良かった…本当に……」

 

 

ピッピマッマ、喜んでくれるのは嬉しいんだけど少しばかり力を緩めてください。

せっかく目を覚ましたのに、呼吸困難でまた寝ちゃうかも。永遠に。

 

 

「朝から何?うるさいわねティルピッ………Mon chou!!!」

 

やあダンケルク。ピッピの谷間から朝のご挨拶してすまない。

 

「指揮官くんが!」

 

「目を覚まされたのですか!?」

 

セントルイス、ベルファスト、おはよう。

 

 

皆してなんなんだその反応は。

私が起きるのがそんなに珍しいのかい?

ピッピママに至ってはガチ泣きしてるんだけど、何かあったの?

ひょっとして数日間眠ってた、とか?

ははは、映画じゃあるまいしまさかそんな訳は

 

 

 

 

 

 

ありました。

とりあえず、ピッピママ達に医務室へ連れて行かれた。

 

医務室にはヴェスタルさんと、何故か当鎮守府の衛生兵キャラが定着してしまったプリンツ・オイゲンがいた。

 

主治医(?)のヴェスタルさんの言うには、私は3日ほど昏睡してたらしい。

 

 

「昏睡の原因は…出血かもしれません。とにかく、出血が予想以上に酷くて早急な輸血が必要でした。」

 

そんなに酷かったのか。

感覚的には、イタリアン・マフィアに家族同然のギャングファミリーを皆殺しにされて復讐に燃える元特殊部隊員のアフリカ系アメリカ人みたく側頭部に剃り込み型のハゲが出来る程度だと思ってたんだが。

 

 

「応急処置が功を奏したんです。もし、それがなければ私も手の打ちようがありませんでした。特に、完全とまでは行かなくとも、止血処置を行っていたおかげで、指揮官は一命を取り留めたと言ってもいいでしょう。」

 

本当に本当にありがとう、マッマ達。

危うく、本当に天に召されるところだったんだね。

 

「指揮官が彼女達に感謝すべきは、止血処置だけではありませんよ。輸血にしてもそうです。」

 

え?

 

「指揮官の血液型は●型ですが、備蓄が少なくて足りなくなるところでした。幸いにも、彼女達は●型でしたので、間にあわせることができたんです。」

 

 

………なんだろう。

 

勿論、ありがとうなんだけども。

ちょっと後ろ振り向いてマッマ達の方を向くとマジでマッマにしか見えなくなってくる。

 

ピッピもダンケもベルもルイスも、「これで私と指揮官は血の繋がった親子!」みたいなやり遂げた感満載の表情してた。

 

ついに血の繋がった親子(物理)になっちゃったよ。

もう後戻り出来ないよ。

てか、輸血って血ぃ採った後そのまま使えんだっけ?

 

また啓示が降りてきた気がして、それ以上は深く考えない事にした。

頭ぶち抜かれそうになって、怪我を負ったにもかかわらず生きている。

その事に、まずは感謝しないとね。

 

それで、ヴェスタルさん。

いつぐらいから…その、なんというか、いてもいなくても同じなんだろうけど…指揮官執務室に戻れる?

 

 

「しばらくは安静にしてください。毎日プリンツ・オイゲンが容体を確認しに行きますので。」

 

「指揮官、働き過ぎは良くないわ。死・ぬ・わ・よ?」

 

 

そんな「それともワ・タ・シ?」感覚で過労死の可能性を指摘されても困った気分になるのだが、まあ勿論彼女達の言う通りにはしよう。

 

そうだね、傷口がまた開いたりしたら目も当てられない。

 

ヴェスタルさんとプリンツ・オイゲンにもお礼を言って、私は私室に戻る事にした。

 

医務室を出た瞬間から、ピッピとダンケが両脇から極々ナチュラルに手を繋いでくる。

 

 

「Mon chou、今日は何が食べたい?ハンバーグ?カレー?」

 

「帰りに売店で玩具でも買おうか。坊やの大好きな1/350スケールの『戦艦ティルピッツ』が置いてるかもしれない。」

 

「指揮官くん、何か買ってきてほしいものがあったらいつでも言ってね?」

 

「海軍参謀長からはご主人様に傷病休暇を与えるように仰せつかりました。安心してごゆっくりお休みください。」

 

 

完全にオール●ェイズ/鎮守府の夕陽っぽいんだけど、そんな事より、この銃撃の件は海軍参謀長も知ってるって事?

 

 

「ええ、ご報告致しました。」

 

「……Mon chou。凄く残念だけど…」

 

「こんなの間違ってるわよ!」

 

 

ベルファスト、報告しといてくれてありがとう。

ただ、ダンケルクとセントルイスの反応からしてあまり良い状況ではないのだろう。

 

 

「坊やが昏睡してる間に、海軍参謀長が来たわ。彼の言うには…」

 

 

 

 

----------

(以下ティルピッツ視点。)

 

 

 

 

 

「分かってくれ、私だって問題を認識しているし、解決に向けて努力を怠るつもりもない。」

 

私の愛しい愛しい愛しい愛しい坊やが、卑劣極まりないテロリストの凶弾に襲われた後、

この事件は勿論海軍参謀長に報告をした。

 

海軍参謀長は、鎮守府に来て直接話を聞きたいと言ってくれた。

私の愛しい坊やが不幸に襲われた経緯を詳しく知り……どうやら参謀長も幾ばくかは掴んでいるらしく……あちらの情報と照らし合わせたいそうだ。

 

 

参謀長はサングラスを外し、正装でやって来た。

 

この前、奇妙なまでに明るい音楽を流しながらゴチャゴチャとまくし立てていた人物と同人物とは思えない。

 

とても礼儀正しく、服装も極端なまでに端正で、正に上級海軍軍人と言ったところか。

まぁ、私の坊やには到底敵わないが。

 

その上級海軍軍人は私達の説明を聞くなり、前途の言葉を吐き出した。

 

一瞬、保身に走るためにこの件をもみ消す気なのかと思ったが、どうやら違うようだと、彼の顔を見て思う。

表情は誤魔化せても、目は誤魔化せない。

必死にこちらの理解を得ようとしているのだ。

 

 

「以前から問題になってはいた。そいつの名前は『サー・ローレンス・ウィンスロップ子爵』。勘のいい君達なら、もう分かったろう。」

 

 

まったくなんて事!!!

ウィンスロップ家と言えば鉄血でも有名なほどの名門貴族!!

その一門があんな卑劣なマネをするなんて!!

 

 

「統合参謀本部議長も頭を抱えている。ウィンスロップ家は代々海軍で要職を占めて来た家系で、MP内部にもシンパが多い。まあ、当のウィンスロップ家もローレンスの性格の悪さには手を焼いているようだが、決定的な証拠が出るまで下手に手が出せん。」

 

 

腐れ貴族め!!

 

やっぱりここは私が、この手であのクソ野郎をミンチに…

 

「落ち着け、落ち着いてくれ。君の怒りはよく分かるが、そんな事をすれば君は処分される。一番悲しむのは誰だと思う?」

 

 

私は、ベッドの上でいつ目を覚ますかさえわからないでいる坊やの寝顔を見た。

 

ごめんなさい、坊や。

わたしには…あなたを置いていなくなる事なんてできない。

 

ついこの間まで、こんな感情は忘れていた。

 

私は長い間フィヨルドに1人で篭り、人との関わりというものを絶っていた。

寒さに慣れ、孤独に親しんだつもりだった。

でも、坊やが私に人との交流の楽しさと、そばに人がいてくれる事の温もりを思い出させてくれた。

そんな坊やを1人にするなんて、わたしにはできない。

 

 

じゃあ、どうすれば?

坊やを1人にはできない、でも坊やをこんな風にした男を放って置くことも許せない!

 

「少し時間をくれ。統合参謀本部議長がウィンスロップ家と掛け合ってるところなんだ。

先ほども言ったが、ウィンスロップ家もローレンスには手を焼いていて、キツい灸を据えたいと考えている。奴のせいで家名が汚されてると感じているからな。」

 

ならとっとと自分の手で始末をつければいいのに。

 

「そうもいかんのだ。ローレンスは小賢しい奴で、証拠を残さない。君たちから提供された音声も犯行をほのめかしただけで実行の宣言までは至ってなかったろう?普通ならアレでも始末をつけれるが、ウィンスロップの人間ならそうはいかんのだ。スナイパーも、高速道路のチンピラも"外部の専門家"だった。ローレンスとは何も繋がらない。」

 

本当に小賢しいのね。

 

「ああ、だから統合参謀本部議長とウィンスロップ家は"正規の口実"を作ろうとしている。例えば、『演習で無名の鎮守府相手に無様そのものの敗北を喫した』とかな」

 

!?

 

「あまりに酷い結果なら、統合参謀本部議長は降格を命じることができる。これなら証拠ももみ消しようがない。ウィンスロップ家にとっちゃ降格なんてとんだ恥さらしだから、ローレンスを突き放せるってわけだ。」

 

 

なるほど…演習の時期は?

 

「そこまでは決まっちゃいないし、演習になるかもまだわからん。ただ、これだけは覚えておいてくれ。ローレンスはクソ野郎だが、まったくの無能って訳じゃない。徹底的に潰すなら、徹底的に上手くやれ。難しいぞ。」

 

 

難しい?

だから何?

絶好の機会じゃない。

あのクソ野郎のプライドをへし折って、下水道にでも流してやるわ。

 

 

「その息だ。後日、統合参謀本部議長もここに来るだろう。…ああいうクソ野郎は反吐が出るほど嫌いだ。君達の成功を祈ってる。」

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

マジで?

 

つまり、貴族のボンボン相手にあんな電話しちゃってた訳か。

来るなら来るがいい、とか。

私を誰だと思っている、とか。

 

やっべえ〜、小便チビりそう〜。

僕ちん基本ヘタレだからね。

口先だけのクソ雑魚野郎だからね。

 

あ〜も〜いっその事赤城と高雄返しときゃ良かったかなぁ〜。

 

 

「ご主人様!!!」

 

は、はい、なんでしょうかベルファストさん。

 

「ご主人様の判断は間違ってはいないと思います!」

 

「そうよ、指揮官くん!悪いのはあなたじゃなくてあのクソ野郎!自信を持って、胸を張って!」

 

「Mon chouが後悔すべき事なんて1つもないわよ!」

 

ありがとう、ありがとう、マッマ達。

 

「それに、坊や。あなたには私達がついてる。それだけで、怖がる事なんてどこにもないでしょう?」

 

 

そ、そうだね、ピッピ!

こっちには多量の物資とマッマ達がいるんだ!

何とかなるっ!

 

たぶん、きっと、おそらくは…

 

 

 

そうこうしているうちに、私室に到着。

 

あれ、なんか色々変わってね?

玄関というか、建物からしてアップグレードささってねえかこれ。

 

「あぁ、指揮官くんがずっと部屋にいても退屈しないように明石に改修をお願いしてたの。」

 

おお、そうなのかセントルイス。

 

 

それにしてもあまりに仕事が早すぎるよ明石くん。

タラ漁船の予約で張り切りが過ぎたのかな。

外出前に予約済ませといて良かった。

約束反故にしちゃうとこだったから。

 

ところで、どんな改修したのかな〜。

ちょっと覗いてみよっと。

 

 

リビングまで進んで、目の前にあったのはテレビ。

3×10の横隊で並べてある大量のテレビ。

あと、ヘッドギア付きの椅子。

 

 

 

ピッピ、"怖がる事"がここにあるんだけど?

 

 

 




すいません、ちょっと設定とかガバってます。
あと、リアル思考で行くとあり得ない描写もあるかと思いますが、どうか大目に見てください。
お願いしますなんでもしますから(なんでもするとは言ってない)
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