バブールレーン   作:ペニーボイス

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「むしろ親子の絆だろうが」

-----------ジャン・以下略


Ⅲ章 幼児戦記 〜化物の皮を被った幼児〜
バンド・オブ・マーザーズ


 

 

目の前のセントルイスとベルファストが申し訳なさそうにこう言った。

 

「指揮官くんには近い内に伝えようと思ってたの。」

 

「母乳が出るようになったんです。それも昨日。」

 

 

文章だけ読むと、なんだ!?この野郎マジでトチ狂ったのか気持ち悪りぃ!!!と思う事だろう。

 

だが、実際には…そんな公営良俗を乱すような事ではない。

 

 

私の目の前、10m先に牛がいる。

これは比喩でも直喩でもない。

 

牛が、いる。

 

母乳というのは牛さんの。

牛をよく見れば、ホルスタイン種だという事が直ぐに分かる。

ただ、もうそろそろ老廃牛となる日も近いのだろう。

随分とくたびれて見えた。

 

はぁぁぁ(溜息)。

 

君達、その牛さんどこから持ってきたのよ。

 

「指揮官、この牛を拾って来たのは私なの。」

 

 

小さなセントルイス…じゃなくてヘレナが私の方を向いてそう言った。

 

「レパルスさんが鎮守府で暴れた日、爆音のせいで近くの農場から牛が逃げ出したらしいの。」

 

「大抵の牛は元の農場へ戻ったらしいけど、この牛だけ戻ろうとはしなかったそうよ。指揮官くんに迷惑かけると嫌だから、返そうとしたんだけど、ヘレナが聞かなくて。」

 

「ご主人様、この牛のタグをご覧ください。もうじき老廃牛として処分されてしまいます。」

 

見ただけでも何となくわかるけどね。

 

「そんなの可愛そう!だから、姉さんとお金を出し合って農場の人からこの牛さんを買ったの。」

 

「最初の頃は立ち上がる元気も出なくて、心配したのだけれど、世話をしていく内に回復していったの。」

 

「そして先日、母乳を出すまでに回復致しました。」

 

ああ、だからミルクティーだったし、バニラアイスだったのね。

 

「ご主人様には新鮮な内に召し上がって欲しくて。」

 

「指揮官くんがアイスを美味しいって言ってくれた時、"あぁ、この子のお世話をした甲斐があったなぁ"って凄く暖かい気持ちになったわ。」

 

「私も、ご主人様がミルクティーをいつも通りに召し上がって下さったのを見て、あの子もここまで…ぐずっうえっ…元気にッ…」

 

 

なんか、ゴメン。

君達に比べたらあまりにも不純過ぎるわ。

良からぬ事をあれこれ想像してた自分が全力で恥ずかしい。

 

「指揮官っ!お願いっ!このまま牛さんを飼わせて!エサ代は何とかするし、ぐすっ、毎日ちゃんとお世話ずるがらッ!おねがいじまずッ!」

 

「じぎがんぐんッ、ヘレナとやぐぞぐじだのッ、私もお世話手伝ゔっでッ。ひぐっ、うぐっ、最後までやらぜでッ」

 

「ご主人様ぁ!ごのベルブァズドッ、一生のお願いにござびまずっ!」

 

 

もう分かったから!分かったから!

泣くな、泣くんじゃない、こっちまで泣きそうになるだろうがっ!

ちゃんと買ったんだし、盗んだわけじゃないんだし、別に飼ってても何も言わんから!

むしろエサ代は捻出してあげるからッ!!

 

ただね、これから統合参謀本部議長がこの鎮守府に来るから、ドックの隅っこからあっちの陸軍駐屯地の裏地に移してあげて?

歩くのしんどそうだったらトラック回してあげるから、ね?

 

 

それにしても参ったな。

ペット飼いたいとか要求されるにしても、犬猫とかそういう順当なステップすっ飛ばしていきなり牛から始めんだもんな。

もうちょっとさあ、ハムスターとかから始めて欲しかったなぁ。

いきなり牛飼うとか言われて理解追いつく?

 

 

泣き止んだヘレナが牛を移動させ始めた。

随分ヘレナに懐いているようで、牛さんの方もすんなりと従っている。

あの牛を助けても、とか、毎年何千頭の老廃牛が、とか野暮なことは言わないようにした。

目の前の可愛そうな何かを助けてあげたい、という純粋な少女の気持ちだ。

もう見てるだけでこっちの心まで浄化されてく。

 

 

「指揮官くん大好き!」

 

不意にセントルイスから抱きつかれた。

身長差ゆえにピッピママに勝るとも劣らない双丘が私の頭を包み込む。

はい、呼吸困難です。

 

「セントルイス、ご主人様もまだ包帯を巻いてるのですから、そう強く締め付けるのはやめなさい。しかしながらご主人様、このベルファスト、とても感謝しております。次はチーズかバターをご用意致します。どうか楽しみにお待ちください。」

 

 

あ!そうだ、ミルクティーとバニラアイスの謎は解けたんだけど、あのハンバーグのカリカリしたやつとソーセージは………お〜いベルぅ?ルイスぅ?

早くない?ねえ、ちょっと早くない?

「〜♪」みたいな感じでおっさん置いてくの早くない?

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ハンバーグとソーセージの謎は解けないままだったが、それを理由として統合参謀本部議長の出迎えに遅れるわけにはいかない。

 

昼にはピッピママとダンケルクを両脇に従えた状態で、鎮守府の正門に立っていた。

ベルとルイスはギリギリまで鎮守府内を点検してもらうことになっている。

 

 

「緊張してるの、坊や?」

 

ピッピが横からそう聞いてくるあたり、私の顔は強張っているのだろう。

 

「大丈夫よ、Mon chou。あなたの恩師でしょう?私だって保護者面談は初めてだけど、そんなに緊張はしないわ。」

 

あのね、ダンケルク。

恩師つったって担任の先生じゃないんだからね。

士官学校の主任教官ではあったんだけどさ、そんなホンワカしたもんじゃないからね。

 

もっと問題なのは士官学校の思い出は色々覚えてるのに、肝心の主任教官の顔だけ覚えていないこと。

オイ海馬、仕事しろ。

 

 

 

やがて、ジープが見えてきた。

戦争映画とかでよく見る、ウィリスMB。

アレかな?取り巻きの将校団のうちの1人が「これから統合参謀本部議長来ますけど、対応の方万全ですか?」とか確認しに来たのかな?

 

 

 

違いました。

ジープ運転してんの統合参謀本部議長やん!

いや何してんねん!?あんた全軍の総司令官的ポジションやぞ!?なんで単車で来んねん!?護衛は!?護衛どこいった!?

 

段々とジープが近づくにつれて、助手席にフッドさんが乗ってるのが確認できたが、それ以外の護衛は何もなし。

不用心にも程があるぅ!

 

 

 

「久しぶりだな、元気してたか?」

 

統合参謀本部議長はジープを正門に停めるなり、私の方を見てそう言った。

ん?この役所●司ボイスどっかで聞いたことあんぞ。

 

 

…ウィ●ターズ中尉やん。

バンド・オブ・●ラザーズのウィ●ターズ中尉やん。

どうしたのよ、何でE中隊の指揮放り投げてこんなとこにいんのよ。

 

とは思ったものの、とりあえずは

 

お久しぶりです、総督。士官学校では随分とお世話になりました。それではご案内致します。

 

とスラスラ言えたからまあいいのかな。

 

正門を開けさせて、昨日到着したばかりのⅣ号戦車を先頭に車列を組ませた。

鎮守府内は安全って分かりきってはいるけど、やっぱり権威的なモノと威圧的なモノって必要じゃん?

 

「必要ない!とっとと通せ!」

 

すごいピンポイントで否定入りました。

 

 

「護衛も車列も必要ない!まったく変わらないな、マッコール。お前には少々合理性が欠けている。いいか、私は全国の軍事施設を移動する機会も多い。一々そんな扱い受けてたら何もせずに一年が終わっちまう。」

 

いや、それはそうなんでしょうけど護衛つけなさ過ぎるのもマズいっしょ。

とは思ったものの、特に何かできるわけでもないので、ウィ●ターズ総督の言う通り戦車隊は解散させた。

すまんね、後でビール送るね。

 

 

もう、なんつーか、THE・頭のキレる指揮官だよね。

一応片付けてたけど、結局視察も何もせずに指揮官執務室へ直行。

どうやら総督の秘書官であるフッドさんが、机の上に書類を並べ始めた。

 

 

「よし、説明しよう。」

 

到着してから僅か10分でコレである。

統合参謀本部議長から直々にご説明いただくには通常もうかなりの時間が必要なはずなのだが。

 

「ウィンスロップ家は"乗った"。演習は10日後。以上だ。」

 

は、はい。

それだけを伝えるためにわざわざ?

 

「ああ、まあ教え子の内の一人が頭ぶち抜かれそうになったんだ。心配もするさ。」

 

マジですか、マジでそのために…ヤバい、本格的に泣きそう。

どんだけ良い人やねん。

 

 

「この鎮守府はどうだ?何か…問題を抱えている事はないか?」

 

強いて言うなれば、員数外のKANSENがいます。

 

「員数外?てっきり保護してるものだと思っていたが。」

 

ええ、ですが彼女達の希望に基づき、軽度の偵察任務を与えております。

 

「そうか。相変わらずだな。お前の同期にはKANSENを駒のように扱う奴も大勢いた。………お前の戦術の試験結果はいつも悪かったな。だがあれはお前が保険に保険を取るやり方に拘っていたからだ。科目としては攻撃性の不足として見なされるが、持続的な戦力維持という側面は確かに理解できるものがあった。………話を戻すが、実はローレンスも俺の教え子の一人だ。奴の強みは決断力の速さ。とにかく速度を重視する。お前とは正反対だな。」

 

 

ウィ●ターズ総督が何を言いたいのかは分かった。

私と正反対、即ちリスクの高い賭けに出やすいという欠点を持っている。

総督はそれ以上、ローレンスの事を語らなかった。

別に腹立たしいとは思わない。

 

総督のモットーは公正明大だったと思う。

勝負事となると、まずフェアかどうか徹底的に考えていた。

その信念を少しばかり捻じ曲げて私にローレンスの特徴を教えてくれたのだ。

それだけでも十二分な価値がある。

 

 

 

 

ウィ●ターズ総督は来た時と同じように颯爽と帰っていった。

 

決戦は10日後。

出来ることには限りがあるが、まずはやらなければ話にならない。

 

さて、執務室に戻って艦隊の…とか思ってたら目の前に大きな双丘が迫っていた。

 

「とりあえず、お昼寝の時間よMon chou」

 

いや、ダンケルクさっきの話聞いてた?あと10日しかないんだから

 

 

「はいはい、おやすみちまちょうねぇ」

 

 

は〜い〜、おやすみするでちゅ!

 

 

 

いかん、ダメかもしらん。

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