バブールレーン   作:ペニーボイス

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前前前夜

 

 

 

 

 

「決戦は週明けの月曜日、場所はサー・アーサー・ウィンスロップ記念海軍演習場、編成は前衛3、後衛3の同数。」

 

ピッピママが手元の文章を読み上げる。

それは今日の夕方になって届いた、演習参加命令の一文だった。

 

 

………結局、やんのね?

 

「そのようね。任せて、坊や。あんな奴の艦隊なんかギッタンギッタンにしてやるわ」

 

ピッピママがこんな擬音を混ぜるなんて珍しいが、それよりも問題なのは…

 

 

不利じゃね!?

こっちめっちゃ不利じゃね!?

サー・アーサーって誰なの!?

明らかに向こうの関係者じゃん!?

明らかにアウェイ感半端ない場所で戦わせようとしてんじゃん!?

 

 

「サー・アーサーと言えば、前海軍幕僚長ですね…同時にローレンスの父親でもあります。」

 

「どうやったら、あんな紳士からあんなゲス野郎が出てくるのかしら。不思議よね、Mon chou」

 

 

そういう話じゃなくてね、たぶん、親父さんの名前冠してるぐらいなんだからほぼローレンスの領域で確定ってことじゃん?

地の利はもちろん、公開演習なんだから、来る観客もたぶんあっち寄りじゃん?

何だってこんな沼の中で演習しなきゃならんねん!!

 

 

「落ち着いて指揮官くん、ほらお姉さんの谷間で安らい…」

 

「こらルイス!あなた、Mon chouあやす時間半減してるハズでしょ!」

 

「チィィィイッ!!!」

 

 

 

もう一々ツッコミ入れてる場合じゃない。

 

 

あぁ〜もぉ〜何で金曜日の夕方なんかに届くかなぁ〜。

 

今から情報集めて不安を消し去るまで色々やるには土日ぶっ通しでやるしかねえやん。

 

そりゃあやりますよ?

何たってピッピママやらダンケママやらベルママやらルイスママを何も分からないままアウェイ感満載のキリングフィールドへ行かせるわけにゃいかんからねぇ?

 

あーもー!こんちくしょー!

 

やってやる!やってやる!やあああてやるぞー!いーやなあーいつをボーコボコにー!!

 

 

「こほん、指揮官。そんな事しなくても情報ならありますよ?」

 

 

バニースーツに加えて、ご丁寧にウサミミまで付けたノースカロライナが私にそう言う。

 

あぁそうか!こういう時こそCIUの力を借りなきゃね!

 

そうと決まれば相手の常套手段、編成、戦術に対する対抗パターンまでまとめとかないと!

いやあ、ノーカロさんとCIUのおかげでだいぶ仕事が楽になる!

 

「実を言うと坊や。私達で既に対抗パターンまでまとめてあるわ。」

 

へ?

 

「ご主人様は月曜日に備えてごゆっくりお休みください」

 

いやいやいや、そういうわけにはいかんよ。

せめて対抗パターンぐらいには目を通しておかないぶへあっ!?

 

「ああもう!Mon chou!!リラックス、リラックス!!私達には休みをくれるのに、あなただけ休まないなんて許さないわ!!そんなに堅くならなくても、移動時間は3時間もあるのよ?その間に教えてあげるから、今はリラックスして!」

 

 

ダンケママが巨大な双丘で私の頭を包み込みながら、リラックスを促してくる。

 

ごめんよ、ダンケ、リラックスできない。

 

せめて抱え込む腕を少しばかし緩めて?

 

窒息する、死ぬ。

 

 

「ええっとね、指揮官くん。その…」

 

ルイスが「これもう言っちゃていい?」的な感じでモジモジしながらこちらへやってきた。

 

うん、言っちゃっていいから。

 

「今日の夜、あなたのためのパーティを企画してるわ。実はもう準備まで終わって、今は私達を待ってる状態なの。」

 

 

ん〜、でも、パーリーやっとる場合じゃないと思うんだけぶへあっ!?

 

「Mon chou〜!リ・ラ・ッ・ク・ス!!そんなのじゃ考えが凝り固まって、演習でも良い思考ができないわよ!」

 

 

一理ある、のかなぁ。

 

よし。

もう決めた!

マッマ達がせっかく準備してくれたんだし!

ダンケママもああ言ってくれてる事だし!

パーリーに行こう!!!

 

 

「そうこなくっちゃ、Mon chou!」

 

「なら坊や、着替えないとね。」

 

 

ピッピママは既にドレスに着替えていて、私のタキシードを持ってきてくれた。

早すぎない?

 

ちょっと目を離しただけなのに、ベルもルイスもセクシィなドレスを着ていた。

欧米では露出の多い服装が正式な服装になるらしい。

悪くない文化だね、うん。

 

マッマ達全員のフルアシストで着替えるのは気恥ずかしい面も随分あったが、おかげでかなり早く着替える事が出来た。

 

 

「さあ、坊やの準備もできた事だし。レッツ・パーリィィィイ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

パーティ会場は、普段何にも使われていない大型のホールだった。

クロスの掛かったテーブルが並び、その上は数々の料理で彩られている。

 

会場にはアルコールを提供するバーもあり、ヴァイオレット・エヴァー●ーデン……じゃなかった、エンタープライズがバーテンを務めていた。

 

既にあるKANSENが、奥に控えるエンタープライズの手前にあるバーテーブルの上で酔い潰れている。

 

 

「なぜだぁ〜なぜ駆逐艦達はわたしを避けるんだぁ〜〜〜」

 

何も見なかったことにしよう。

 

 

「あっ!ごしゅじんさま!ごきげんよー!」

 

足元からふと声がして、少々驚きつつも声の方向を見る。

 

ベルちゃんを始め、ピッピちゃんダンケちゃんルイスちゃんが私に向かって上品な挨拶をしていた。

スカートを少し摘んでお辞儀をする、まさに淑女たるご挨拶に、私も帽子を脱いで挨拶を返さずにはいられない。

 

こんばんは、お嬢様方。

 

「あら、指揮官様!良い夜ですね。」

 

小さな淑女達の隣に、大きな痴女がいた。

 

もう、なんつーか、さあ。

『輝きの舞踏会』にアレンジを加えたと思えるそのドレスは、セクシィと言うよりは純然たる妖艶さを感じざるを得ない物に仕上がっている。

 

あのね、スカートの裾がね、裾が裾って言えんのかそれは。

ガーターベルト剥き出しどころかガーターベルト前面に押し出して来てるんですがそれは。

ミニスカにガーターベルトかよ。

スカート少し摘むだけで下着まで丸見えじゃねえかよ。

 

 

「演習ではイラストリアスの働きにご期待ください♪それでは、また」

 

イラストリアスはそう言って悠然と立ち去った。

ミニマッマ達がまるでアヒルのようにそれに続いていく。

歩き方が悠然として優雅なのは、イラストリアスの教育の賜物だろう。

ただ、イラストリアス本人の方をもう少しどうにかして欲しくはあるが………

 

 

「あれから調子はどう?傷口は開いたりしてないかしら?」

 

突然後ろから声をかけられて、振り返るとプリンツオイゲンが、いたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

おかげで異常ないよ。

 

「それは良かったわ。…ところで、あんたと話したいって2人を連れてきたから。ごゆっくり。」

 

プリンツオイゲンが立ち去った後、彼女の背後にシュロップシャーとシカゴがいたということが分かった。

 

2人とも古参で、初期の私を支えてくれた功臣だ。

 

「最近、指揮官とは話せてませんから」

 

「もしかして、お姉さんの事忘れちゃったんじゃないかって心配したのよ?」

 

 

何故か、目頭が熱くなる。

 

この2人は鎮守府でもマッマ達に勝るとも劣らない功績があるはずなのに、今まであまり話しもしていなかったことを思い出した。

 

最初の頃だけ頼っておいて、戦力が揃えばお払い箱。

これじゃあのローレンスと変わらないじゃないか。

 

 

「あらららら。指揮官が悲しむ事なんて何もないじゃないですか!この鎮守府に、私達よりも強力なKANSENが沢山来て、指揮官が私達を頼らなくても良くなったって事です。」

 

「もしかして、お姉さん達をお払い箱みたいに扱っちゃったとでも思ってる?そんな事ないわ。あなたがお姉さんとケッコンしたの、セントルイスよりも後だったのは覚えてる?あなたとお姉さんの親密度が高いからって、あなた無理してダイヤを掻き集めてくれたじゃない。」

 

 

2人がそう言ってくれて、私の気持ちは少し楽になる。

主力艦隊から外れた後でさえ、色々影ながらに支えてくれる彼女達に救われる所も大きい。

 

そうだそうだ、そういえば。

 

演習艦隊編成の時の事、聞いたよ。

プリンツオイゲンの背中を押してくれたそうだね、本当にありがとう。

 

「大したことじゃありませんよ、指揮官とやり方なら私達ほど知ってるKANSENの方が少ないでしょうし。まあ、指揮官は昔から心配性ですから。」

 

「ちょっと火を噴いただけで大慌てでお姉さん達を引っ込めるんだもの。あれじゃ海域も進まないわよ。」

 

「そうそう、あの頃の指揮官も今とは違う可愛さがありましたねぇ〜。あ、私達を選考にに入れてくれてたみたいですね。それだけでも嬉しいです。」

 

「また、いつか必要になったら声をかけてくれるだけで良いわ。なんたって、私達の大切な孫ですもの。」

 

 

うん、2人共本当にありがとう。

 

なんというか、いつでも頼れる古参のサポーターの存在は非常に大きい。

いつでも頼って、と言われるだけでも大きな安堵感を得ることができるのだ。

 

「それじゃ、また」と立ち去るシュロップシャーとシカゴの背中を見ながら、そんな事を考えていた。

 

……………ん?シカゴ…あいつ私の事を「孫」って言ってなかったか?

 

 

 

 

 

「えぇ〜、ご静粛にお願いします。」

 

 

突如として、ベルの声がマイクを通じて響き渡る。

 

「本日のパーティを開催するにあたり、ご主人様からご挨拶をいただきたいと思います。」

 

ん?ベル?アポなしは困るよ何も考えてないしそもそもこれって私の挨拶とかいるパティーンのサムシングなのねえ?

 

 

「まあまあ、そう仰らないでください。簡単な言葉で良いので。」

 

ベルの分身達に手を引かれ、私はお立ち台へ。

 

うひゃー、昔からこういう人前で話すのは苦手なんだよなぁ。

 

既に片手にグラスを持ったKANSEN達が、こちらを見据えていた。

 

ああ、もう、こうなったらやるしかねえ!!

 

 

私は息を整えてマイクへ向かう。

頭の中は、真っ白だった。

 

 

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