バブールレーン   作:ペニーボイス

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「ジョージ6世とは程遠い。本当の意味で、な。」

--------------ジャン・パール(ヴィシア・アイリス戦艦)


Ⅳ章 マッマと大人になった僕
甘えん坊のスピーチ


 

 

 

 

誰もそんな期待はしていないとは思うが、私には威厳などという物は無い。

 

どこまでも情けない程に、威厳が無い。

 

そりゃあ当たり前でしょアンタ今まで四方をベッピンさんに囲まれてダァダァバブバブやってたヤローが威厳なんて備えてるわけがないでしょうよ、と思われたそこの貴方こそ正しい人なのだ。

 

私に威厳なぞあるわけがない。

 

 

だが、私はお立ち台の上でパーティ開催の挨拶を頼まれた。

 

仮にも指揮官である以上は、とどうしても身構えるようになってしまった。

そうなると、普段はそんなもんどっかにやっているクセに、なけなしの威厳を取り繕うと頑張ってしまう。

具体的に言うと、肩をいからせて、胸を張り、何かしらそれらしい雰囲気のある言葉を頭の中から探し出す。

 

「本日は晴天の中この祝賀会を」だの「諸君らの日々の奮闘には多くの国民の」だの「我が国を取り巻く情勢は年々悪化の一途を辿っており」だの。

 

ただ、どうにも文章まで組み立てられそうにない。

 

ついさっきのダンケルクの言葉がフラッシュバックする。

 

 

『Mon chou〜!リ・ラ・ッ・ク・ス!!そんなのじゃ考えが凝り固まって、演習でも良い思考ができないわよ!』

 

 

ああ、そうだ、変に凝り固まる必要はない。

彼女達なら、きっとどんな言葉でも受け止めてくれるだろう。

失笑を誘うかもしれないが…それはそれで仕方なしとしよう、今更足掻いても、もうどうにもならん。

 

 

私はマイクの前で大きく息を吸い、深呼吸をする。

そして今持っている彼女達への気持ちを可能な限り言葉にする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

"目の前の男を見てほしい。

普段は中佐などという階級をつけているが、こうして軍服を脱いでいれば、ただの中年男でしかない。

背が低くて、でっぷりと肥えていて、それでもってまるで威厳というものがまるで無い。

 

間違っても娘を攫った独裁政権に単身で挑んだり、中東へトラウ●マン大佐を助けに行くことなんてできはしない。

 

私個人には何の戦闘力もないし、セイレーンの艦隊から見れば塵のようなものだろう。

 

あなた達は、常に私を支えてくれる。

それはもう、築50年の木造建築の大黒柱のように、力強く支えてくれている。

 

あなた達無しに私に何が出来るかと言えば、何もできはしない。

あなた達が普段、私を支えてくれていなければ、私はただのおっさんでしかないんだ。

 

だから言わせて欲しい。

本当に…本当にありがとう。

感謝してもしたりない程、あなた達には本当に感謝している。

 

動揺して、車の中で愚かな行為に走ってしまった時にも。

情けなくも病に倒れてしまった時にも。

そして、何より、ある男が私を殺そうとした時にも。

あなた達の助けがなければ、私には何もできはしなかった。

 

本当にありがとう。

 

来週の月曜日、私はある男と演習を実施する。

その男は、全ての功績が自身の実力によるものだと、とんでもない勘違いをしているようだ。

 

我々の手で教育してやる為には、あなた達に再び協力を求めねばならない。

どうか今一度、助けて欲しい。

そして成功した暁には、また皆んなで集い、あるいは楽しもう。

 

その前に、と言ってはなんだけど、景気づけにこのパーティを企画してくれたマッマ達には重ねてお礼を言いたい。

 

皆、本当にありがとう。"

 

 

 

 

 

 

 

陳腐なスピーチだったが、KANSEN達が拍手を持って締めくくってくれた。

 

ふぅ、ホッとしたぜ。

 

場所が場所で、相手が相手なら眉間に皺を寄せられていたような内容だったかもしれないが、KANSEN達にはキチンと意図が伝わったようで少し嬉しかった。

 

 

「良いスピーチだったわよ、坊や。」

 

お立ち台から降りて、緊張でカラッカラになっていた口を水で潤ませていた私に、ピッピがそう言いながら近づいてくる。

 

見ればすこし頬が赤く染まっていた。

あれ、ちょっと呑んじゃってる?

 

 

「んふっ。少し2人きりになりたいわ。」

 

どうやら拒否権なるものは最初から用意されていないらしい。

 

私はピッピに手を引かれ、ホールの外にあるベランダに連れて行かれる。

 

何者かがご丁寧にベンチを引っ張り出していたらしく、私はおそらくは酔いが回りかけているピッピと共に座った。

 

 

「寒いでしょう?ほら、もっと寄って?」

 

ピッピが私を引き寄せ、私の頭は"彼女の豊かなアルプス"にハードタッチする姿勢となる。

 

アルコールで上気しているせいか、いつもより暖かい。

ほっとくと間もなく下半身まであったかくなりそうだ。

 

 

「坊やは私達にお礼を言ってた。でも…実のところ…お礼を言いたいのは私の方よ」

 

え?

フィヨルドから連れ出したから?

 

「ふふっ…そうじゃない。その…こんなこと言うのも恥ずかしいのだけど……あなたは生きがいを与えてくれた。」

 

………ふぇ?

 

「あなたとケッコンもしたけれど、何を求めていたのかは私自身にも分からなかった。指揮官だから?…違う。惚れたから?…それも少し違う。じゃあ、一体何だろうって、ずっと考えてた。」

 

 

"惚れた"というのを否定された瞬間、少し凹んだ。

 

 

「あなたが車の中で拳銃を自分に向けていた時、その答えが分かったの。"あなたを守りたい!"。本当に、心の底からそう思った。」

 

 

う…うん、そうか。

普通は逆だと思うんだけどね。

私が言うのもなんだけど、普通は私の方が「君の笑顔を守りたい」云々言うべきなんだろうけどね。

 

 

「やがて、あなたをあやすようになって…この子の為にも生きなきゃって思うようになったわ。」

 

 

完璧に母性暴発の母親ですありがとうございました。

 

 

「今ではあなたこそが私の生きがい。私の上で寝て、起きて、お仕事をして、あやされて、子守唄を聞いて寝る。そんな毎日を守ってあげたい。…私に任せて、坊や。私を何にでも使って。………今度の演習、あんな事言わなくても分かってるでしょ?」

 

あんな事?

 

「そう。わざわざ言わなくても、ちゃんと協力するし、勝利を必ず掴み取ってくるわ。」

 

…そっか…ありがとう。

でも、ピッピママも無理しないでね。

マッマがお怪我しちゃうと、ぼくちんも悲しいでちゅ………いかんな、まだ22時には程遠いのに早くもビースト(赤ん坊)モードに入りかけてる。

気をしっかり保ていっ!!

 

 

「あらぁ〜Mon chou〜こんなところにいたのおおお〜〜〜?ほらあ〜あまぁいあまぁいカチチュオレンヂ作ってきてあげまちたから、飲むんでちゅよぉ〜?」

 

 

ベロンベロンに酔っ払ったと思しきダンケルクに見つかった。

 

哺乳瓶の中にカシスオレンジと思わしきムラサキ色の液体を詰め込むと言う暴挙に出た彼女は、私を見つけるなりピッピとは反対側に座る。

 

そして半ば無理矢理私をピッピから引き剥がし、今度は"神の祝福を受けしフレンチアルプス"に私を引きづりこんで哺乳瓶を咥えさせる。

 

 

「うふふふふふっ、Mon chou〜〜、かわい〜かわい〜♪」

 

「あははははははっ!ダンケルク何してるのよぉ!指揮官くんもまるで赤ちゃんみたい!可愛いわね!あははははははっ!」

 

後を追うようにルイスがバーボン片手にやってきて、私とダンケを見て笑い転げている。

 

や、やべぇ。

なんか知らんが、ベランダが魔境になりつつある。

酒飲むと人が変わるって言葉があるけど、あまりに変わり過ぎていて言葉も出ない。

 

 

 

ちょうど良いところにベルファストがやってきた。

おおっ!この無秩序に舞い降りた天使よ!

 

見た目シラフの彼女には、きっとこの混沌を鎮める力があるはずだ。

 

 

「んん〜、私の坊やぁ、坊やぁ。」

 

「カチチュおいちいでちゅかぁ?」

 

「あははははははっ!あははははははっ!」

 

べ、ベル?この人達をちょっと落ち着かせてあげて?

シラフの君にならできるはずだからさ!

いや、たぶん君にしかできない事だからさ!

 

「しましたか、ご主人様、どうか?」

 

グー●ル翻訳みたいになってしまったベルファストの、右手にスコッチの瓶を見つけた瞬間に、私は平生さを保っていられなかった。

 

はぁ。

ここまできたら、もうビースト(赤ん坊)になるのが良かろう。

ダンケママに飲まされたカシスオレンジで、元々酒に弱い私も限界だ。

なんたって、パーリーなんだ、ハメを外すに限る!!

 

 

ぼくちんマッマがだいちゅきでちゅ!!!

 

「あぁ!坊や!私もよ!!私もだいちゅき!!」

 

「Mon chouuuuuuuuuuu!!!」

 

「あはははははははははゲホホホホホ」

 

「好きです、大、ご主人様、私も、の事が!」

 

 

 

あれかな、このSSには、ホラーのタグをつけるべきかな?

 

 

 

 

 

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