バブールレーン   作:ペニーボイス

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「もうⅤが発売されてんのに、まだ1やってるの指揮官さん?」


----------某ユニオン軽空母


肯定の戦い

 

 

 

 

 

アホタレのクソ野郎とは、この日の昼前に対面する事になった。

 

何というか、仮にも指揮官同士の対面ならそれなりの調整や整えられた場があって然るべきだとは思ったが、実際には演習会場に到着してすぐにバッタリ会ってしまったのだ。

 

 

 

最初は目を疑った。

 

それは私の着ているのとは対照的な海軍式制服についてではなく、磨きのかかった上っ面の礼儀正しさについてでもない。

 

 

電話口で態度を豹変させ、場末のチンピラのような脅し文句を並べ立てていた人間が。

フリーランスの殺し屋に私の頭をブチ抜くように依頼した人間が。

高雄や赤城をコキ使い、まるで奴隷のように扱っている人間が。

 

まさか年端もいかないような少年だったとは想像もつかなかったのだ。

 

 

「ローレンス・ウィンスロップ少佐です。お初にお目にかかります、ロブ・マッコール中佐殿。」

 

 

呆気に取られる私に、純白の手袋をはめた右手が差し出される。

私はうっかり、挨拶を返して握手をするところだった。

 

 

ああ、どうも、ご丁寧に。今日はどうぞよろしく…

 

「Mon chou!!」

 

 

ダンケルクが側にいてくれてよかった。

 

「よく見て!手袋に針がっ!」

 

「チェェッ。あーあー、せっかく上手く行きそうだったのにぃ。………なんだよ…こ、こっち見んなよ」

 

 

どんだけクソ野郎なんだ、こいつは。

本当に貴族の出なのかすら怪しいぞ。

 

それはそうとダンケルクが怖い。

私はともかく、クソ野郎がガチビビりしてる。

 

なんというか、例えるならバララ●カ。

ほら、あの、日本編でヤクザの家でブチ切れてた時のバララ●カ。

あるいはルーマニア人の双子の片割れを噴水の手前で待ち受けた時のバララ●カ。

今にも「あー、ダメだダメだこんな奴らとは共闘できん」とか「跪け」とか言い出しそうなんだけどさ。

 

 

「よく聞きなさい、小僧。Mon chouはとても優しいの。今、あなたをバラさないのは、きっとMon chouがそれを望んでいないから。でも、もしこれ以上ナメたマネをされたら…私、きっと自分を抑えられない。」

 

 

怖ええええええええええええええ。

 

とても普段ブリオッシュ生地をコネコネしながら「あらMon chou!今日は何のお菓子にする?シューパイ?マカロン?それとも、エ・ク・レ・ア?」とか言ってる人と同一人物には見えねえよ。

 

お菓子作る人がしちゃいけない顔だよ。

暴力と無秩序のフランス暗黒街丸出しだよ。

ゲシュタポが裸足で逃げる類のアレだよ。

 

 

「指揮官?恐れることはありませんよ。あなたにはこのアヴローラが着いています。」

 

 

ガチガチと音が聞こえるほど震え切っていたアホタレの後ろから、スーツを着たKANSENが現れる。

 

 

いやさあ、アヴローラさあ、お前さあ。

丸出しじゃん。

アカのスパイ感丸出しじゃん。

 

隠す気ないでしょ?

ねえ、君、隠す気ないんでしょ?

いかにも「あ、私共産圏のスパイです〜よろしくお願いします〜」みたいな服装してくんじゃねえよ。

いつも通り純白の衣装着て「指揮官は何本飲めますかXAXAXA(ロシアの笑い声表記)」とか言ってた方がいいでしょうよ。

 

スーツにグラサン、胸元に赤い星と鎌と槌のバッチ付けてりゃ完璧にスパイだろうがっ!

 

 

「Mon chou…もしかして、このKANSENが北方連合のスパイ」

 

言わんくても分かれやっ!!

どっからどう見てもスパイだろうがっ!!

ジェームス・●ンドが見たら寧ろ敵の工作疑うレベルのスパイ丸出しだわっ!!

 

アヴローラも「何故わかったの!?」みたいな顔してんじゃねえ!!!

つーか欺瞞工作とかそういう話とかでも何でもないんかいっ!!

もうちょっとマジメにやれいや!!!!

 

 

「そ、そうだね、アヴローラ。僕には君達が着いている。こんな真似しなくともきっと勝てるさ。」

 

 

おうおう随分と自信たっぷりじゃねえか。

マッマ舐めんじゃねえぞさっき見た通りの新春過保護全開春の保護保護スーパーバザーが砲弾とソナー伴ってやってくる今なら楽しいCIUが付いてくるハッピィィィイ●ット!だぜクソ野郎め。

 

とはいえ、ああまで自信たっぷりに来られると不安になるなぁ。

その自信はどこから?鼻から?喉から?

根拠のない自信に取り憑かれてそうな感じあったけど…いやいやいや、仮にも少佐なんだぞ相手は。

高級将校である以上はそんな事ないだろう。

 

ないだろう。

うん、ないだろうね。

ないよね?

 

もう、なんというかね、隣に控えるアヴローラが「え?なんでそこまで見栄張るの?ハードル上げないでもらえますでしょうか?」的な表情してるのが逆に可哀想になってくる。

パワハラ上司に振り回される部下そのもの。

昔の自分を思い出す。

あいつぜってえ許さねえ。

 

 

「安心して、アヴローラ。僕には備えがある。KANSEN達には5時間もの休養を与えたし、それまでは訓練に訓練を重ねてきたんだ。怠惰な中佐殿には出来ないだろうけどね」

 

 

アヴローラの顔がどんどん青くなっていく。

あれだけ言ったのにこいつ全然聞いてねえ的な表情したいのが10m離れたところからでも伝わってくるクラス。

イカれポンチの担当官って、大変だねぇ。

同情するよ、アヴローラ。

 

 

「それじゃ、せいぜい無様な体裁を取り繕う準備は整えておいてくださいよ。」

 

 

お前がな。

私の心配事はもはや別の方面へ向かっていた。

有能なピッピなら、疲労困憊している上に大した腹案もないアホタレの艦隊を潰すことなぞ造作もない事だろう。

 

問題はその後。

おそらくは奴の艦隊を縛り付けている、仮初めの理由の一つであろう"名誉"が崩壊した時、呪縛を解かれた奴のKANSEN達がどういう行動を取るのか。

 

想像もしたくない。

 

 

悠然と歩き去るアホタレと、若干のフラつきが見えるアヴローラの背中を見ながら、私は今演習が終結した時になるべく早く撤収できるようにしなければならないと考えていた。

 

きっと大ごとになる。

 

 

「Mon chou、まもなく演習開始まで1時間になるわ。その前に、ティルピッツ達とブリーフィングを。」

 

うん、分かった、ダンケママ。

それとね、ブリーフィングの後でいいから、ここから早期に出発できる算段を整えておいて。

理由は後で分かるだろうから。

 

「ええ、了解よ。それじゃ、行きましょう?」

 

 

 

 

 

「間に合って良かったですよぉ。」

 

ブリーフィングの最中に唐突に乱入してきたノーカロさんが、ため息混じりにそう言って、私はアホタレの自信の根源が何であるか半ば確信することができた。

 

そして、次の言葉でそれは動かぬ確信となった。

 

 

「CIU本部はロイヤルの無線通信暗号を、既に北方連合が解読している可能性が濃厚であるとの見解を示しました。」

 

 

んなこったろうと思ったよ。

おおかた、あのクソ野郎は北方連合と組む手土産に暗号解読書でも渡したに違いない。

我が艦隊の暗号化された電文・通信も筒向けに出来ると信じているのだ。

ほぼ間違いなく傍受と通信妨害を受ける。

 

ノーカロさん、バニーはやめていいからお願いがあるんだけどさ。

 

「はい、なんでしょう!なんでも言ってくださいっ!」

 

 

ノーカロさんの目が生き生きしだす。

よっぽど嫌だったのね、その服装。

 

 

ユニオン式の無線機と暗号装置を人数分揃えてもらえるかい?

 

「もう持ってきてますよ、CIUをなめないでください。」

 

大変結構!!

バニースーツやめてよしっ!!!

 

「ヤッホオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「坊や、今使用しているロイヤル式無線機は取り外す?」

 

いや、申し訳ないけど、そのまま持ってて欲しいんだ。

 

「………ああ、なるほど。坊やも中々のワルね。」

 

 

艦隊編成員達には私の意図が十分に伝わったようだ。

別にワルってわけでもないじゃん?

むしろワルはあっちじゃん?

なら遠慮する理由なんてない。

徹底的にやっちまおう。

 

 

私は改めて、演習を目前にしたKANSEN達に向き合った。

昨日はよく眠れたかい、体調の優れないものは見栄なぞ張らずにすぐに言ってくれ、それじゃあ健闘を祈る、だのとありきたりの事を言い、最後に声をより大きくして彼女達に頼んだ。

 

"万が一負けても、私がボロクソ言われるだけだ。これは演習だし、向こうは遅かれ早かれ自壊する。間違っても自分を犠牲にしようとして、怪我なぞ負わないように。"と。

 

 

最後の最後に全員のそれぞれと長いハグをして、会場まで見送った。

ピッピがブラを脱いで渡そうとしてたから止めた。

イラストリアスが下を脱ごうもしてたから、それも止めた。

マジでやめて、このタイミングで。

 

 

さあ、いよいよ演習が始まる。

私はダンケママから双眼鏡とドーナツを受け取り、会場を眺めた。

彼女達なら大丈夫。

きっと無事に戻ってきてくれる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------

 

その日のピッピの日記

 

『今日、サー・ローレンス・ウィンスロップと呼ばれる指揮官を見た。その指揮官は艦隊をまるでオーケストラのように指揮して、艦隊を私の射程内へ迅速に移動させた。

 

………敵艦隊はすっかり炎に包まれて、この世の地獄のような有様だった。

何もできずに砲火に襲われた敵艦が不憫に思えたほどだ。』

 

 

デデンデンデデンデン、デーデーデーデー

 

 

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